豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

MGC

“世紀の一戦”MGCを振り返る


MGC02

日本国内のマラソン・シーンがここまで世間の注目を集めたのは、いったいいつ以来だったでしょうかね?まさに国民的行事となった『MGS』、素晴らしいイベントでありプロジェクトでした。
何より、男女の有力選手が全員、一堂に会するというのは史上初めてのことです。
男子だけで言えば、たとえば1979年および83年の福岡国際マラソンのように、オリンピック代表候補が全員集合して、結果的に“一発選考”で代表が決まったケースがありました。ただし、当時は国内ビッグレースの三者鼎立という状況にはなっていなかったので、福岡を事実上の代表決定レースとすることは陸連の胸先一つで可能だったのです。今は、そうではありません。その“大人の事情”に雁字搦めになった状況に風穴を開けた陸連の努力と工夫に、拍手を送りたいと思います。

先にスタートした男子は、まさかそこまではという疑念をあっさりと覆す設楽悠太のロケットスタート。「本当に中山竹通を再現するのか?」という展開にワクワクしました。私は9時10分以降はほとんど女子だけを視ていたので、中間の展開はよく分かっていませんが(まだビデオ検証をしてないのです)、次に戦況を見た時にはすでに35㎞過ぎ…疲れ切った表情の設楽に、後続の集団が間近に迫ってきているところでした。
ちょっと思ったんですが、設楽一人ではなくて、設楽と大迫傑が申し合わせるようにして並んで飛び出していたとしたら(それも付いていくには躊躇われるほどのペースで)、どうなっていたでしょうかね?やはり無理でも付いていかざるを得ないからと、服部勇馬以下の有力選手は、縦長の形状で何とか食らいつく集団を形成しますね。先頭の二人は「俺たちにいつまでも付いて来られる筈がない」とばかりにスピードを緩めない、結果的に前の方は後半暑さに全員撃沈して、最初から諦め半分にマイペースを決め込んだ後方の大穴ランナーが(例えては悪いですが、女子の野上恵子選手のように)上位を攫う、というようなことが起きたかもしれません。

それはそうと、中村匠吾(富士通)の優勝、まことに見事でした。終盤にきつい登り坂があるあのコースは、箱根の2区戸塚中継所前を思い起こさせますね。あるいは、中村と大迫の鍔競り合いは、2014年の1区の激闘を思い出させました。この時の東洋大は服部が2区で、1区は田口雅也。区間賞は日体大の山中秀仁で、中村は僅差の2位、田口が3位。大迫は中村に競り潰される形で区間賞争いから脱落し、5位でした。
箱根路を沸かせたスター選手たちがこうした激戦を再現してくれたことに、感慨を覚えます。大迫にとっては、走ったことのない2区の終盤や中村との競り合いの記憶など、気持ちの上でちょっとした不利が重なったかもしれません。
私は、中村が駒大3年生だったその年度、東京・味の素スタジアムで行われた日本選手権の10000mを現地観戦した際に、宇賀地強や深津卓也、窪田忍といった先輩・OBに交じって奮闘する彼の走りに強い印象を受け、「今年の箱根で注目は中村だ!」と周囲に語っていたのを思い出します。彼の3,4年時には、駒大は『箱根』優勝候補筆頭とも言うべき陣容を誇っていたのですが、それが叶わず、卒業後もどちらかというと停滞しているように見受けられました。

つまりその、ずっと気にかかっていた選手の一人ではあったんです。
予想大外しの言い訳です。しかしながら、印をつけた5人中4人が掠りもせずに、3位・14位・23位・25位・27位(ビリ)という体たらくでは、言い訳にもなりゃしませんな。



女子の前田穂南、という本命印は、実はかなり前から決めていました。
結果的には、2位に付けた差が3分47秒、つまりは圧倒的な力の差をもって優勝したわけです。レース展開的にどうのではなく、自力でレースを作ってのその結果ですから、現状で少なくとも夏場のレースでは実力が図抜けていることは明らかで、陸上ファンとしてそこを見抜けないでどうする、というところです。当たったから言うんですけどね。
当ブログで開陳する予想記事には、多分にヒイキ目が混じってくることは間違いありません。私にとって、松田・鈴木・福士というNHKの推す「3強」よりも、前田や安藤に対するヒイキ目が大きかった、その末の予想であったことは確かです。もしも前田彩里が万全の体調で出てきていたら、これもヒイキしてたことでしょう。
予想なんて、そんなもんです。勝負を左右する各個のコンディションや精神状態なんて、私ら外野席には全く伝わってきませんしね。

もう一人、心密かに(でもないか)ヒイキしてた小原怜選手。
4年前が1秒差、今度が4秒差。カワイソ過ぎる。
ファイナルチャレンジのターゲットタイムを見る時、男子の2時間5分49秒はなかなかに高い壁ですが、女子の2時間22分22秒はそうでもありません。現実に、これを上回るPBを持っているのが安藤と福士。松田にしても、PBを1秒でも更新すればOKなのです。
むろん、3つのレース(さいたま・大阪・名古屋)のどれかで出さなければならないとなると、本人の体調、当日の気象条件、レース展開とすべてのお膳立てが整うかどうかは神のみぞ知るところ。狙って出せるものではないでしょうが、それでも今回敗れた7人、出られなかった5人、計12人(むろん小原本人が加われば13人)の誰かがどこかのレースで出す可能性は、少なからずあります。

いやですね。毎年楽しみにしてるこれらのレースを、「記録よ、出るな出るな」と念じながら見つめなければならないなんて。
MGCの、唯一つ罪作りな処が、そこになりました。

半年ぶりブログ~世紀の一戦『MSG』を直前大予想


多忙にかこつけて休載状態にしてたら、あっという間に半年が経ってしまいました。
東京五輪前年の今季、日本の陸上界はなかなかに活況を呈しています。記事にしなかったのが今となってはもったいない気がしますけど、諸般の事情により、ということで…。陸上競技を伝えるメディアには相変わらず細かく目を通していますんで、浦島太郎状態ではありません。その点はご心配なく。

さて、いよいよMGC=マラソン・グランド・チャンピオンシップ本番です。
このプロジェクトが世に伝えられた当初は、当ブログでも対案を提示したりするなど、そのプロセスには幾ばくかの疑問も抱いていたのですが、まずまず盛り上がって、何よりも当事者の選手およびその周辺関係者が一様に納得してこの方式を受け容れていることが、最大のメリットだったと思います。
久々のブログは、「ハズレてもともと」のつもりで、このMSG大予想と参りたいと思います。ほんと、直前も超直前で済みません。結果が出てから読んだ人、大笑いしてくださいな…。
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 ※日本陸上競技連盟HPより
【ファイテンオフィシャルストア】公式通販サイト

◇女子
MSGの経緯で一つ残念だったのは、女子の有資格者があまりにも少なかったことでしょう。といって、他に誰が資格者になっていて欲しかったかと言えば、そうそう顔が思い浮かびません。清田真央、田中智美、田中華絵、堀江美里、竹地志帆…といったところでしょうかね。上位争いまではちと難しいが、レースのスケールアップにはなったことでしょう。
それと、新しい人が意外に出てこなかった。資格獲得第1号が前田穂南というフレッシュな名前だっただけに、続々と新規デビュー組の勝ち名乗りに期待したんですが、続いたのは松田瑞生と上原美幸、関根花観(欠場)、一山麻緒くらいで、大森菜月は惜しくも間に合わず。
どうせ復活するんなら、新谷仁美にチャレンジして欲しかったですけどね。

さて、その女子。もともと少ない有資格者から3人がドーハ世界選手権代表に回り、さらに残念なことに、ともに穴馬的存在だった関根花観(JP日本郵政G.)と前田彩里(ダイハツ)が故障欠場。たった10人でのフルマラソンという、かつてアジア大会でも見たことのない少人数のレースとなってしまいました。
ここ数日、放送担当局のNHKではしきりに松田瑞生(ダイハツ)・鈴木亜由子(JP日本郵政G.)・福士加代子(ワコール)の3人を取り上げ、あたかも「3強」の様相であるかのように事前告知を煽っていますけど、いやいやそんなに単純じゃあないですよ。だいたい、その絞り込みにはおそらく、珍しくNHKのコメンテーターに起用された増田明美さんの思惑が絡んでいることでしょうから、全然アテにはできません。
(増田さん本人が以前に言っていることですが、「NHKでは技術や戦術の解説を求められるのでお呼びではなく、日テレでは自分以上にアナウンサーらが細かい選手取材をするので声がかからない」んだそうです)
昨今のトラックを含めた長距離戦線の実績、福士の場合は20年近くに及ぶ業績の数々から、「強い!」というイメージが定着しているのがこの3人と言えます。その一方で、松田は5月の日本選手権10000mで好調を伝えられながら惨敗したトラウマがあり、鈴木にはマラソンランナーとしての経験不足、福士には年齢的な衰えという、それぞれに不安を抱えた3人でもあります。
当然、歴代4位のタイムを持つ安藤友香(ワコール)や、マラソンの経験値では一番と言える岩出玲亜(アンダーアーマー)、リオ選考会では代表まで1秒差と大魚を逃した小原怜(天満屋)など、後に控えるのは遜色のない実力者ばかりです。

いずれにしろ、頭数は少なくても予想をするのは非常に難しい中、私は敢えて!と言いますか、ここへ来ての成長度という意味で最も期待するのが、前田穂南(天満屋)です。
MGC切符を獲得した2017北海道マラソンでの鮮烈な初優勝ぶりはともかく、次戦の大阪国際女子マラソンでは高校の先輩である松田を激しく揺さぶり、結果的に優勝は譲ったものの「ホンモノ!」の感を強くしました。大阪薫英女学院高時代は駅伝エースの松田に対して万年補欠という立場だった彼女が、天満屋ならではの“武富マジック”によって見事な成長を遂げていたのです。
その後の駅伝やトラックレースなどでも安定して好位置をキープしており、完全に天満屋のエースとしての地位を不動のものにしつつあります。1年前のベルリンでは再び松田に及ばず、今年の東京では寒さの故か失速しているので評価はイマイチというところでしょうが、マラソンにおける潜在能力は相当のものがある、と私は睨んでいます。

レース展開は、10人という少人数であること、数日前までの猛暑は免れたとはいえ20度を大きく超える暑さの中の戦いであることを考えれば、誰かが飛び出す展開になることはちょっと考えにくい。先頭を買って出る選手がいるとすれば鈴木だと思いますが、それも自重を決め込むと、2004年のアテネ五輪選考会だった大阪の時のように、極端なスローペースに陥ることだって考えられます。
天満屋の坂本直子が優勝したあのレースは、実にスリリングな名勝負でした。そのレースに、私は同じピンクのユニフォームを重ね合わせて想像してしまうのです。そういえば坂本も、千葉真子に2度苦杯をなめさせられた後の3度目の正直で、見事に千葉を破って代表の座を勝ち得たものでした。
いずれにしろ、展開のカギを握るのは鈴木でしょう。スピードランナーと言ってもラスト勝負になるとスプリントが利かないタイプなので、スローでの集団走が続けば勝機は遠のくばかりでなく、あの時の渋井陽子のように走りを狂わされます。中盤にしろ終盤の登り坂にしろ、彼女が仕掛ける場面が必ず訪れる筈です。鈴木がロングスパートを仕掛けた時、誰がそこに付いているか、あるいは誰も付いていけなくなるか…。
終盤までもつれれば、ラストが強いのは松田と安藤。松田の粘り強さはやはりピカイチですし、駅伝1区のスペシャリストだった安藤は、勝負どころの見極めが実に上手い。あとは、ダークホースで一山麻緒(ワコール)の瞬発力も侮れません。残っていられれば、の話ですけどね。
もう一人、レースをメイクする可能性が高いのは、言うまでもなく福士おばさん。ただ、どうなんでしょう。私はもしかしたら、彼女が安藤や一山のサポート役に回ろうと考えるような心境の変化がレース中に訪れる可能性があるんじゃないか、という気がしています。
心情的には小原を応援したい気持ちもあるんですが、決して順調に来ているという雰囲気ではないので、強くは推せません。岩出、上原にも一発の可能性は十分にあります。野上さん、ゴメンナサイ!

ということで、私の大予想は
◎前田穂南
〇松田瑞生
▲安藤友香



◇男子

名門旭化成勢の全滅という意外さはあったものの、現有のビッグネームはほぼほぼ揃ってまずは賑やかな顔ぶれとなりました。
大迫傑(NIKE O.P.)、設楽悠太(Honda)、井上大仁(MHPS)、服部勇馬(トヨタ自動車)が「4強」と言われています。1年前に日本記録を更新した大迫、前記録保持者で安定感抜群の設楽、猛暑のジャカルタ・アジア大会を制した井上、9年ぶりに国内3大大会の優勝者となった服部と、それぞれにそう呼ばれるだけの立派な肩書があり、持ちタイムでもトップ4です。

こちらも、スローな滑り出しが予想されるところですが、30人もいれば、走り易いイージー・ペースに持って行こうという動きが自然に発生することが考えられ、巷間伝えられるように設楽が序盤からレースメイクをするようなことでもなければ、3分5秒/㎞程度の安定したペースになるんではないでしょうか?(スタート直後は下り坂が続くので、数字上は速いタイムになると思いますが)
大迫は早大時代に箱根駅伝1区で2年続けてロケットスタートを決めて後続をぶっちぎっていますが、強豪が揃った4年時にはそれも通用せず、もうその手は使わないでしょう。先頭を引くことのデメリットを無視して設楽が引っ張ってくれると、非常に面白くなるところではありますが、果たしてそこまで、往年の中山竹通みたいな大胆不敵さがありますかね?
「自信満々のコメントを発する時の設楽はコケる」というイメージが、私にはあります。こちらもラスト勝負になれば大迫に一日の長があることを知っていますから、早めの仕掛けがあるのは間違いないとして、どうしても早く仕掛けた方が不利になるのが、このレースの悩ましいところだと思えます。

淡々としたペースで進んだ場合、途轍もなく恐ろしい力を秘めているのが佐藤悠基(日清食品G.)ではないでしょうか。
佐久長聖高校時代には「天才」、東海大時代には「化け物」と呼ばれ、社会人となって日本選手権10000mを4連覇した必殺のスプリントは、大迫が3度挑んで返り討ちにあったほどの威力がありました。その佐藤もいつの間にか33歳、「黄金世代」と呼ばれた竹澤健介や木原真佐人、メクボ・モグスらが大成することなく、佐藤自身もマラソンでは苦戦続き、この世代の代表格は川内優輝ということになっています。稀有な素質の開花を阻んできたものは、大学時代から見えていた痙攣などの脚部不安、いわゆる“ガラスの脚”であったかもしれません。夏場のレースは、彼にとって有利な材料となる要素を孕んでいます。
マラソンランナーとしては平凡な実績しかなく、いつも30㎞を待たずに先頭集団から消えていく佐藤が、ここで遂に本領を発揮するのではないか、という期待に胸が躍ります。ただし、佐藤が好走するような展開になった場合に、やはり今の大迫には勝てないんではないかな、とも思います。

オールドファンの私から見て、最もマラソンランナーらしい選手だなと思えるのが井上。コツコツと走り込んで蓄えたスタミナと精神力には自信を持っていることでしょうし、過去の経緯から設楽を徹底マークする戦術が確固としているのも強みです。
他に、やたらと威勢のいいコメントが聞こえてくるのが神野大地(セルソース)です。終盤の登り坂までもつれ込めばしめたものかもしれませんが、果たしてそこまで我慢できるかどうか。むしろ、中団でじっくり構えた時の今井正人(トヨタ自動車九州)の方が、荒れたレースになった時は不気味さを感じます。

で、私の結論は
◎大迫傑
〇井上大仁
▲佐藤悠基
△設楽悠太
△今井正人

男子の方は、さらに予想困難。個人的には、強いと言われる選手が胸を張って先頭を引っ張るレースが見たいですし、3人出しをするトヨタやMHPS、富士通勢のチーム戦略にも興味津々です。

なにぶんにも久々のブログですんで、予想はご愛敬ということでお察しくださいませ。

MGCシーズン1の総括


国内のマラソン/ロードレース・シーズンが終り、2020東京オリンピックへ向けた「MGC」も立ち上がりのシリーズを消化しました。
低迷が続いたマラソン界へのカンフル剤として期待されたMGCシリーズの効果が間違いなく認められる証左として、男子の日本記録更新を含む歴代10傑入りが3人、過去44人だった“サブ9”突入が新たに6人。高岡寿成の前日本記録樹立が2002年、2004年以降・昨シーズンまでの13年間に10傑入りしたランナーが佐藤敦之・藤原新・今井正人の3人しかいなかったことを思えば、日本男子マラソン界はようやくその重い腰を上げかけた状況、と言ってよいでしょう。


◇「日本新記録」の意味するところ
設楽悠太(Honda)による日本新記録は見事であり、その達成の瞬間の感動は言うに尽くせないものがありました。けれども私は、そこまで瞠目すべき記録だとも、設楽悠が日本最強のマラソン・ランナーだとも思っていません。
何と言っても、その2カ月前に福岡で、非アフリカ系ランナーとして最速となる2時間5分48秒というタイムが、ノルウェーのソンドレ・ノールスタット・モーエンによって叩き出されています。日本男子“躍進”の先陣を切った形の大迫傑(NIKE.O.P.)を1分半も上回り、力の違いを感じさせるレースを見せつけられているのです。日本の男子マラソン界は、まずはこの記録を超え、アフリカ系ランナー群に対するトップ・コンテンダーの地位を奪回しないことには、とても「復活」を謳えるものではないという気がします。

2017-18シーズンにおける設楽悠の強さは、本人が「ここんとこ日本人には負けていない」と言うように、マラソンから駅伝、トラックに至るまで圧巻のパフォーマンスと言えます。
ただ、ひところを振り返ってみれば、学生時代に相拮抗していた大迫や村山兄弟に明確に実力差をつけられたと思われる時期もあったのは確かで、つまるところ猫の目のように変わる男子長距離勢力図で、今のところの暫定1位という存在だ、と思っています。
ことマラソンに関して言うなら、設楽悠が「希望の星」となったというよりも、マラソン界全体の凍り付いた状況が打破された、ということです。その象徴的な存在が、同じく6分台を出しながら苦虫を噛みつぶしたような表情を貫いていた井上大仁(MHPS)でしょう。彼のように、「次は自分が」とモチベーションを高めたランナーは少なくないはずです。1億円云々は別として…。

日本新記録は一つの通過点に過ぎません。実現させたことで“見えない壁”を取り払ったという点に大きな意義があり、2時間06分11秒は、複数の選手が乗り越えていく、目に見える格好の目標になったという印象を強く持ちました。


◇MGCの“光”~みんながマラソンを走り始めた

同じように、「MGC」の企画趣旨には、多くのランナーにとって解りやすく、またある程度長期的な計画で取り組める目標を呈示したところに、最大の効果がありました。
もちろん、2020年8月の本番という動かざる目標が大前提にあるのですが、そこへ行くまでの予選会の1本化に成功したこと、そこまでの目標が基本的にタイムという目に見える形になったことが、非常に評価できる点だと思います。
その結果、「今から始めなければ間に合わない」「今なら間に合う」という気運が高まり、ここしばらく停滞していた若年層からのフルマラソン参入を大いに促進するという次第になりました。

<男子>
 村澤 明伸(日清食品G.:東海大卒・26歳:マラソン経験3回)
 大迫 傑(NIKE.O.P.:早稲田大卒・26歳:2回)
 上門 大祐(大塚製薬:京都産業大卒・24歳:3回)
 竹ノ内 佳樹(NTT西日本:日本大卒・25歳:3回)
 園田 隼(黒崎播磨:上武大卒・28歳:12回)
 設楽 悠太(Honda:東洋大卒・26歳:3回)
 井上 大仁(MHPS:山梨学院大卒・25歳:4回)
 木滑 良(MHPS:瓊浦高卒・27歳:4回)
 宮脇 千博(トヨタ自動車:中京高卒・26歳:4回)
 山本 憲二(マツダ:東洋大卒・28歳:3回)
 佐藤 悠基(日清食品G.:東海大卒・31歳:6回)
 中村 匠吾(富士通:駒澤大卒・25歳:1回)
 川内 優輝(埼玉県庁:学習院大卒・31歳:80回!)

<女子>
 前田 穂南(天満屋:薫英女学院高卒・21歳:3回)
 松田 瑞生(ダイハツ:薫英女学院高卒・22歳:1回)
 安藤 友香(スズキ浜松AC:豊川高卒・24歳:3回)
 関根 花観(JP日本郵政G.:豊川高卒・22歳:1回)
 岩出 玲亜(ドーム:豊川高卒・23歳:6回)
 野上 恵子(十八銀行:須磨学園高卒・32歳:5回)
 
これは、現時点での「MGC」参加資格保有者です。
顕著な傾向として、男子では大卒ならば社会人4年目前後となる20代半ば、女子では21~23歳(高卒3~5年目)という、いわゆる「若手」が中軸を担っていることが一目瞭然です。その多くはまた、フルマラソン出場が1回目から3回目という、「新規参入組」でもあります。

これまで日本の長距離界には、特に高校・大学時代から期待を集めたエリート・ランナーにおいて、トラックや駅伝で十分にスピードを養ってから満を持してマラソン進出、というロードマップを描く傾向が強くありました。これは日本人らしく一見理に適った長期戦略である反面、ひとたびマラソン進出の機を失うとその後の時間があまり残されていない、というジレンマに直面するものでした。あるいは、過度のスピード練習によって成長を妨げるような故障に見舞われることも、少なくありませんでした。
ケネニサ・ベケレ(ETH)やモー・ファラー(GBR)のように、トラックで栄華を極めた後にさらなる荒野を目指しての転向というならともかく、もしも最初からマラソンを目標としていたのであれば、高岡寿成や弘山晴美、福士加代子らの歩んだキャリアは、結果的に「失敗」とまでは言わずとも、「惜しむらくは」の但し書きが付きまといます。

MGC資格到達者に限らず、社会人3~5年目くらいの層が中軸を担い始めたということは、平均的には社会人1~3年目、早い者では在学中に、マラソン初体験を迎えていることになります。最近では、下田裕太(青山学院大)や鈴木健吾(神奈川大)などが、明確に2020東京を見据えての早期参戦を果たしています。卒業2年目の神野大地(コニカミノルタ)にしても、あれほど在学時代に勇名を馳せた超エリートとしては、早い段階での参戦と言えるでしょう。
女子のほうでは男子よりも一足早く、20歳そこそこで初マラソンに挑む選手が増えてきています。MGC到達者6人のうち松田と関根が初マラソン、安藤や岩出も、初マラソンでは大きな話題を集める好結果を残したランナーです。
若くしてのフルマラソン挑戦…これは、非常に良い傾向だと思います。

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近年アスリート寿命の“高齢化”ということもあり、どうかするとマラソンの円熟期は30歳過ぎと見られがちで、実際にリオ五輪の代表は3名とも30オーバーだったりしました。高岡寿成の「進出」も30歳を過ぎてからです。
それほどに、マラソンは「経験」が必要な競技と考えられます。42.195㎞のレースを思い描く通りに走り切ること、そのためのトレーニングを積み上げることは短期間で何度も繰り返すことはできず、試行錯誤をするにはあまりにも長い年月が必要になってくるのですから、「30過ぎてようやく一人前」ということになってくるのはある意味、必然かもしれません。(そのあたりの“常識”に一石を投じる存在が川内優輝であり最近の設楽悠太であるわけですが、今回はそこには詳しく触れません)

しかしながら、近代マラソンに不可欠なスピード持続力およびそれを培うトレーニング耐性のピークはどうしても20代に迎えてしまうもので、マラソンの走り方をひととおり覚えかけた頃には体力が低下傾向にある、ということも少なくありません。現代でもなお、個人差はあれ20代後半からせいぜい30歳、というのが一般的なマラソン・ランナーとしての最盛期だろうというのが、私の考えです。30歳を過ぎて成績を伸ばすケースは、体力の低下を補って余りある、経験に裏付けられた総合的な技術やモチベーションの高揚によるものだと思うのです。
だとすれば、マラソンはできるだけ若年のうちから取り組みを開始するに越したことはありません。トラックなどでのスピード養成をおざなりにするということではなく、あくまでもマラソンの距離に軸足を置いたトレーニングと実戦経験は、早く始めるほど良いと思います。
私には専門的なトレーニング手法などのことは説明できませんが、若いうちから故障をしないマラソンの土台作り、無理をしない範囲でのレース経験というのは、どんどんやるべきだと考えます。
何よりも、「マラソン・レースは年に1回か2回が限度」という考え方が、旧弊すぎます。川内選手ほどではなくても、これほど大小のレースが毎週行われている環境を利用して、気軽に実戦経験を積む機会はもっと増やしてよいはずです。その意味で、設楽悠の今後のレース・プランとその成果には大いに注目すべきでしょうし、それに触発される選手や指導者が次々に出てくることを期待します。

「若年からのマラソン挑戦はリスクが大きい」という考え方は、根強くあると思います。
特に女子では、過去に初マラソンなど経験の浅い段階でオリンピック代表にまでなってしまったシンデレラ・ガールが、その後鳴かず飛ばずに終わったケースが何回もあって、ことのほか慎重論が幅を利かせていた時期があったように見受けられます。
早い時期からマラソン経験を、というのは無理をさせろということではありません。その逆です。「MGC」が呈示したロードマップのように、ある程度長期の、しかし明確に期限を設定したスケジュールの中での取り組み方が、大切だと思うのです。

◇MGCの“影”~大会格差がいよいよ明確に
MGCシリーズに組み込まれた国内主要マラソン大会、中でも男女それぞれの「3大マラソン」と位置付けられる大会で、資格到達者の輩出に大きなバラつきが見られました。
私が1年前の記事で懸念を表明したように、11月の『さいたま国際』(女子)は開催3年目にしてメジャー・レースとしては有名無実の存在が確定した感があり、3月の『びわ湖』(男子)は高温というリスクに付きまとわれることが露呈されました。(それにしては、1週後の『名古屋』は例年好コンディションに恵まれていますが)
こうなってきますと、MGC資格を得るうえで明確な目標である「タイム」を狙って出走レースを選択するに際して、第2シーズンとなる2018-19年には、大会ごとに出場選手の偏りが顕著になってくると思われます。
特に、すでに1回走ってそこそこの持ちタイムをゲットした選手は、大会ごとに設定された「順位+タイム」よりもワイルドカード狙いでプランを立てるようになると予測されます。
とすれば、気象条件が安定しコースもフラットな『大阪』『東京』あたりに有力選手が集中してくることになるでしょう。男子の場合は二段構えが可能な『福岡』も人気を集めそうですし、女子では記録の出やすい『東京』を敢えて狙うケースも増えてくると思われます。

さらに、『MGCファイナル』の実施が予定されている来年9月の後、3人目の代表選考の場となる各3大レースでは、9月からのレース間隔を考慮して、『さいたま』や『福岡』に出てくる選手はほぼいないと考えられます。
第1シーズンを見る限り、「代表選考会」から「MGC予選シリーズ」へと一段“格下げ”になった各メジャーレースの影響はあまり感じられませんでしたが、来季、さらにその次と進むにつれて、巨大資本の絡むビッグ・イベントとしての大会に、微妙な影が忍び寄ることになりそうです。
いろいろと好結果を生みだしている「MGCシリーズ」のプランの中で、私が当初から懸念している「選考レース1本化の後始末」、つまりは3大レースの身の振らせ方…これは日本マラソン界にとっての大きな問題点です。
もっと大きな問題点は、来年の世界選手権に出場しようという日本人選手がいるのかどうか、ということ。もしいるとすれば、世界代表にふさわしい実力者でありながら資格基準をクリアできなかった選手ということになるでしょうが、いずれにせよ「MGCファイナル出場」とは全く両立不可能となるわけで、いくら東京オリンピックが大事だといっても本末転倒ではないかという気もします。

「MGC」が2020東京に特化したプランではなく、それ以降の世界選手権を含めた選考方式としてより進化させるアイディアの捻出が、喫緊の課題だと言えるでしょう。


とりあえず、長期サボリからの復帰伺い


たいへんたいへん、ご無沙汰をいたしました。
陸上ブログから脱線して「ピョンチャン五輪のミカタ」なんぞという記事を力いっぱい書いてから約1カ月。そのピョンチャン五輪もとうに終わってパラのほうが始まってるというこの時期。恥ずかしながら、帰ってまいりました。

いやね、オリンピックにラブラブな人間としては、期間中の集中っぷりは無論のこと、終わってからも録画機のハードディスクお腹いっぱいに溜め込んだ映像を見るのに忙しくって、書く時間が全然なかったんすよ…といった言い訳はさておき。ね、ね、私が自信をもってお薦めした競技・種目、どれもこれも面白かったでしょう?…といった回顧談もさておき。
気が付くと、男子マラソンはすでに今シーズンの主要レースがすべて終了、女子の方も本日の『名古屋ウィメンズ』1レースを残すばかり、という状況になってしまいました。
季節はすっかり、でもないですが、もう春と言っていいでしょうね。

もちろん、オリンピックTV観戦で多忙な中でも、『東京マラソン』も『日本選手権クロスカントリー』も、『全日本実業団ハーフマラソン』も、先週の『びわ湖毎日マラソン』も、ちゃんと見てましたよ。
設楽悠太選手(Honda)による15年ぶりのマラソン日本記録更新、MGC出場資格者続出、といった大きなトピックもあり、いくら忙しいからって、ここに何がしかの記事を書かないという手はなかったですよね。それをしなかった、というかできなかったのには、ただ時間がなかったということだけでなく、何かもう一つ、気分が乗らなかった、という理由があります。

マラソン界は日本新記録誕生に浮かれていますけど、一つ大切なことを忘れてやしませんか?
記録が誕生した『東京マラソン』では、2010年の藤原正和(Honda=当時)以外に、日本人優勝者は出ていません。同じく、『福岡国際マラソン』では2004年、『びわ湖毎日マラソン』に至っては2002年を最後に、日本人選手は優勝していないのです。国内3大マラソン、破竹の25連敗継続中!
今シーズンも、日本選手が地元開催の国際ビッグレースを勝つ姿を見ることはできませんでした。
2020年オリンピックへ向けて、男子マラソンが少しずつ活況を呈し始めていることは確かですが、記録やMGC到達人数を話題にするより先に、この事実に選手・関係者はもっと真剣に向き合うべきではないか、という感想が強く残ってしまったのです。
その意味で、記録のみならずトップまで41秒差と迫り2位に順位を押し上げた設楽悠の走りにはいちおうの評価はできると思う一方、気象コンディションが悪かったとは言われていますが、優勝タイムで7分台が出ているのにそこから3分も離されてギリギリ1人しかMGC資格記録を破れなかった『びわ湖』の結果には、正直言って失望しました。

男子マラソン、まだまだです。これからです。


さて、女子のほうはというと、MGC到達者はまだ前田穂南(天満屋)、松田瑞生(ダイハツ)、安藤友香(スズキ浜松AC)の3人しか出ていない現状。男子のことをとやかく言ってられません。
これには、今のところ到達者量産が見込めたレースが『大阪国際』1つしか消化されていないという事情があり、今日の『名古屋』で男子の『東京』並みにバタバタと出てくることが期待されています。

一番の注目は、3年ぶりの出場となる前田彩里(ダイハツ)。北京世界選手権後の故障さえなければ、おそらく女子マラソン界のエースとして君臨していたであろう実力者です。100%の状態に戻っているのかどうかにかかってくるでしょうが、今季の駅伝での走りなどを見る限り、私はかなり期待しています。
2年前にリオ代表を紙一重の差で逃した小原怜(天満屋)も、昨年はこのレースを目前にしての故障でしばらく苦しみました。こちらも、回復状態は上々と見ています。
昨年のロンドン世界選手権で日本選手最高位となった清田真央(スズキ浜松AC)は、3年連続の名古屋登場。前2回の好走(4位・3位)を上回り、成長の証を示すことができるか?
この3名がもしMGC到達となると、各チーム2人目の資格者誕生ということになりますね。

初マラソンで10代最高記録を出した岩出玲亜(ドーム)は、そろそろ勲章が欲しいところ。ただ、移籍後は『さいたま国際』で凡走、『大阪国際』を故障回避と、今一つ順調さに欠けているように見受けられます。
もう一人、注目を集めているのが初マラソンとなる関根花観(JP日本郵政G.)です。
当ブログではしばしば話題にしている「2012年・豊川高校黄金メンバー」のうちの2人には、新世代の旗手となるようなブレイクを期待しています。

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