豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

400mリレー

ロンドン世界選手権観戦記 ⑧ ~チームJAPANのこれから


38

10日間の2017IAAF世界選手権が終って、私のブログもすっかり静かになりました。終盤、無駄に長すぎるTV放映時間(おそらく男子400mリレーのVTRが10回は流れたでしょうね)と仕事と飲み会が錯綜した結果、更新が滞ってしまいましてすみません。
日本にとっては、400mRの銅メダル、男子50km競歩の銀・銅メダル、さらにはDay7の男子200m7位入賞と、終盤にいいところが集中した結果となったわけですけれども、全般的にはメダル3個はよしとして、入賞5名、ほか決勝進出者なし(一発決勝種目除く)という成果は、目標達成には程遠いものだったと思われます。
今回の世界選手権は、事前に何度か触れましたように、世界の陸上界がオリンピック翌年ということもあってか、やや停滞気味な中で行われました。ダイヤモンドリーグなどを見ていても、トップレベルの競争が、実は意外に日本記録などと近いレベルのところで行われている、ということがままあったのです。
典型的だったのが男子の100m、200mで、あのボルトをはじめとする別世界にいたスプリンターたちが、日本選手が手を伸ばせば届くような距離にいた、というところがありました。
ただ、世界の停滞に輪をかけて、日本選手の多くが実力を発揮できませんでした。100mのサニブラウンと400mHの安部孝駿は「ああっ!」の瞬間がなければあるいは、という惜しさはありましたが、その他はほぼ壊滅状態。地区インカレ・レベルの記録に終始した男子400m、4×400mRをはじめ、箸にも棒にも掛からない結果が多過ぎたようです。「なぜそうなったのか」を、単に「実力不足」の一言で片づけずに研究することは、とても重要な課題です。
逆に、そうした研究が積み重ねられ、チームで総力を挙げる結果が実を結んだ種目が、400mリレーと競歩だった、ということが言えるかもしれません。

典型的な個人スポーツである陸上競技に、チームとしての戦いを取り込んでいくことは、リレーに限らず今後の大きなテーマとなっていくことでしょう。
同じ個人スポーツの競泳では、早くからそうした意識が浸透し、「トビウオJAPAN」というチーム名称も定着しています。
種目は違えど同じプールで競技をし、一人がさまざまな種目を掛け持ちすることも多い競泳は、陸上に比べて仲間意識・共有意識が容易に形成される、ということはあるでしょう。ですが、個人競技と言っても一人だけの力で強くなることには限界がある、コーチや仲間や裏方の人々とのコミュニケーションが、個人の成長を大いにサポートするということに早くから着目してきたのが日本の競泳界です。選手選考にまつわる悶着を一掃するなど周辺の環境を整備し、チーム意識を高めることでこんにちの「世界と戦う」日本競泳陣を作り上げてきたことは、ひところ競泳が陸上競技と同じく1個のメダル獲得に四苦八苦するような日本スポーツ界の“お荷物”であったことを思い返せば、その努力と成果は明らかなのです。
激しい競争を経て同じチームになったからには、先輩が後輩の面倒を見たり、後輩がサポートに奔走し力いっぱいの応援に声を涸らしたり、叱咤激励し合うことの効果は計り知れないと思います。そうしたチーム精神は、チームJAPANの大先達である古橋廣之進氏のニックネームから採った「トビウオ」のチーム名と、国際大会ではおなじみとなった士気鼓舞のパフォーマンス「ワンパ」に象徴されています。

陸上競技も競泳と同じように、ということはなかなか難しいかもしれません。短距離、中長距離、ハードル、跳躍、投擲、混成、競歩といった種目ブロックの隔たりがあり、またたった一人で海外遠征に出向くこともままある陸上で、どうやって仲間意識を醸成していけというのか?…まあ、方法はいくらでもあります。基本的な考え方としては、チームJAPANがあくまでも一つの「陸上部」である意識を共有すること、そして一人では強くなれない、みんなであいつを強くしようという意識を共有すること、それでスタートすればよいのです。もちろんそれは、チームの指導者たる立場の人々が率先して持たなければならない意識です。
同時に、種目ブロックごとのチーム体制にも、いっそうの工夫と努力が傾けられなければなりません。

競歩ブロックにチーム意識が強くてマラソンにはそれが欠けている…それは明らかに、実業団という日本の長距離・ロードレース界を支配する構造に起因している弊害です。もちろん、企業のバックアップに支えられた実業団は、個々の競技環境や実力養成に大いに貢献しているのも事実です。実業団どうしの競争と協力、そこのところを大人の話し合いをじっくり重ねてうまくやってもらえたら、頓挫した「日本マラソン・ナショナルチーム」の構想も再び日の目を見ることができるのではないでしょうか。
そしてまた、競泳の平井伯昌氏のような指導力と統率力、政治力を兼ね備えたリーダーシップを、瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーに、そんな長ったらしい肩書はやめて「瀬古ヘッドコーチ」として発揮してもらいたいものだと思います。

世界陸上 2017 限定モデル アシックス(asics) 日本代表オーセンティックTシャツ A17B00 (M)

チームJAPANといえば、リオ五輪に続いて今回も、400mリレーをメダルに導いた短距離ブロックのチーム戦略が大きくクローズアップされています。
今回、400mリレー・チームは選手6人。コーチ陣は短距離・リレー担当オリンピック強化コーチの苅部俊二氏に、土江寛裕・小島茂之の両コーチ。

ご存知のように、陸上競技のリレーでは最大6人を1チームとしてエントリーし、そのうちの4人を予選・決勝のメンバーとして出場させることができます。したがって、予選から決勝に向けて、2人までを入れ替えることが可能となります。
従来、戦力に余裕のない日本チームは、予選からその時点でベストと考えられるオーダーで戦うことが当たり前となっていました。現在でも、同じです。
ところが今回、個々の走力においては現状ナンバーワンと目されるまでに成長したサニブラウン・ハキームが200m決勝でハムストリングスに軽い故障を発生し、当初計画されていた1走での起用を見送られることになりました。代役として起用されたのが、今大会の100mでスタートダッシュの鋭さを世界に印象付けた多田修平です。
予選を6番目のタイムで無事通過した後、今度は従前から脚部に不安を抱えていたケンブリッジ飛鳥に代わって、今回個人種目では標準記録に到達できなかった藤光謙司が投入されることになりました。
期せずして、日本チームは6枚のカードをすべて使う総動員体制でリレーの決勝に臨むことになったわけです。

400mリレーリレーのメンバーは、単純に100mの走力の優れた者が選ばれる、というわけではありません。私があえて「4×100mリレー」ではなく「400mリレー」と表記し続けているのは、「400mリレーは4人が100mずつ走る競走ではない」というかねてからの考えによるものなのです。
(このあたりの論証は、1年前に投稿した以下の記事をご参照ください)
http://www.hohdaisense-athletics.com/archives/6261252.html

多田はスタートの鋭さは世界でも一流であることを示したとはいえ、その分100mないし110mの距離における終盤のスピードには不安があり、それは彼が200mではほとんど試合経験のない100mに特化したスプリンターだということにも表れています。多田が当初から本番メンバー入りの構想に入っていなかったのは、当然と言えば当然だと私には思えましたが、走力の調子は上々と見られます。
また藤光は、6人の中で唯一100mのベストが10秒23と見劣りがするものの、引退した朝原宣治の後任として2009年にアンカーに抜擢されて以来、2015年のワールドリレーズ銅メダル・メンバーでは2走を務めるなど、代表経験は豊富で最も信頼されるバトンワークの持ち主です。
バトンワークの習得に不安の残るサニブラウン、調子の上がらないケンブリッジ、2人に代えて総合的に遜色のない2人のサブを投入できたというのが、日本のチーム力の現れ、その1でした。

その2は、予選通過したとはいえ日本記録からは大きく遅れる38秒21というタイムをいかに修正してメダル圏内まで押し上げるか、というチーム戦略に発揮されました。(結果的には予選のタイムでも同じ着順に入れたのですが、あくまでも結果論です)
リオでも、実は2走から3走、3走から4走のバトンパスは詰まり気味、つまり受け手のスタートが若干遅れ気味でテイクオーバーゾーンの半ばでバトンを受ける形になっていたのが、同じメンバーによる今回も課題として残っていました。1走の多田も、初代表だけに予選のままでよいのか疑問が残ります。このタイミングはスタートマークを変えることで調整するわけですが、一歩間違えると今度はバトンが届かないというミスのリスクが高まります。話し合いの結果、3走までは予選より半足長マークを遠ざけ、4走の藤光は練習時よりも1足長伸ばしたのだそうです。これを躊躇なくやってのけたのが、年間何十日もの合宿を重ね、経験と情報を集積した成果であったことは間違いありません。

実業団や大学といった本来の属性を超えて、チームJAPANとして普段から行動することによって培ってきた日本ヨンケイ・チームの強さが、改めて浮き彫りになった今回の世界選手権でした。
ちなみに、私は当日前々から約束があった宴席に出ていまして、ライブで見られないリレーの結果にソワソワと気を揉んでいたんですけど、そこは陸上観戦半世紀のキャリアにモノを言わせ、
「イギリスが優勝するであろう」
と大胆な予言をカマしていました。
今回のイギリス・チームはチジンドゥ・ウジャをはじめとして戦力は充実、特に200m4位のネザニール・ミッチェル‐ブレイクとサニブラウンより速いタイムながら準決勝敗退したダニエル・タルボットを投入してきたことで、リオ五輪以降、地元開催の今回に向けてヨンケイの本格的強化と研究に取り組んでいることが伺えたからです。(ヨンケイにロングスプリンターを投入するのは、日本の“隠し玉”的な高等戦略なのです)
100mの金・銀を擁するアメリカは例によってバトンワークの成否は五分五分、ボルト・ブレイクがもはや「超人」ではなくなったジャマイカは、日本にとっても与しやすい相手に思えました。いちばんの強敵はイギリスだろう、と思ったわけです。

今や超人不在となった短距離界、「チームのチカラ」は、ますます日本が頂点に駆け上がる可能性を大きくしていくことになるでしょう。その一方でイギリスのように、他の国々もこうしたことに少しずつ目覚めてくるに決まっています。
来年5月の「ワールドリレーズ」では、ますます面白いヨンケイが見られることを楽しみにしています。蛇足ながら、日本ヨンケイの「韋駄天スプリンターズ」という愛称は、さすがにTBSでも一言も使いませんでしたが、もう少しどうにかならないものですかね?

日本リレーチームはなぜ37秒60で走れたのか…リオ五輪陸上競技TV観戦記・番外編



実はこのテーマについては、<連載>(⑭で休載中?)の『100m競走を語ろう』の番外編として、そのうち持論をご紹介してみたいな、と思っていたことです。
今回の日本チームの快挙に際して、あくまでも陸上競技を外側から見続けた者の見解として、ここに整理してみたいと思います。(実際にリレーを何度も経験されているような方から見て私の認識不足などに気が付かれましたら、ぜひご指摘いただければ幸いです)


(1)リレーの速さはバトンの速さ
さまざまなスポーツ競技にリレー種目があり、陸上競技だけでも「4×100mリレー」「4×400mリレー」のオリンピック種目のほかに、「4×200m」「4×800m」「4×1500m」「メドレーリレー(スウェーデンリレー)」、さらに日本独自の種目である「駅伝」などがあります。
「リレー」と呼ばれなくても、たとえば体操やスキージャンプなどの団体戦は、個人の得点を累積しながら次の競技者につないでいくという点で、競走競技のリレーに近い趣があります。
この中で、4×100mは非常に異質な種目と言えます。それは、他のリレー種目が概ね、基本的には個人のパフォーマンスの集積がそのまま結果となって顕れる(4×400mや競泳のリレーは、引き継ぎによって稼ぎ出される僅かな時間がそれなりに重要ではありますが)のに対して、ヨンケイだけは個人の走力に対するプラスアルファの比重が極めて大きい、ということです。
特に重要なのは、言うまでもなく「バトン」の存在です。駅伝のタスキは言ってみれば「引き継ぎの証」以上のものではない一方、バトンはリレーの速さを決定する、それ自体が勝負を左右する小道具なのです。


今回の決勝進出チームの個々の走力について、「100mのPB」という尺度で洗い出してみると、面白いというか、想像どおりの結果が出ます。各国のメンバー4人の合計タイムをランキング化すると、以下のとおり。
 ①ジャマイカ 38秒89
 ②アメリカ 39秒12(+0.23)
 ③トリニダードトバゴ 39秒72(+0.83)
 ④イギリス 40秒10(+1.21)
 ⑤カナダ 40秒30(+1.41)
 ⑥中国 40秒37(+1.48)
 ⑦日本 40秒38(+1.49)
 ⑧ブラジル 40秒76(+1.87) ※カッコ内は首位ジャマイカとの差異
もちろん、PBですからたとえばジャマイカやアメリカの大御所連中のそれは数年前の全盛期に出されたものであり、若いチームである日本や中国のメンバーのものは、比較的フレッシュな、現状をそのまま表しているデータという違いはあります。(ならばSBで比較すべきでしょうが、全員のSBが調べ尽せないので)
とはいえ、各国の走力をだいたい把握する上では、大きな齟齬はない指標とは言えるでしょう。

次に、このタイムを実際のリレー走破タイムと比較してみます。
 ①ジャマイカ 37秒27(-1.62)
 ②日本 37秒60(-2.78)
 ③カナダ 37秒64(-2.66)
 ④中国 37秒90(-2.47)
 ⑤イギリス 37秒98(-2.12)
 ⑥ブラジル 38秒41(-2.35)
 -アメリカ 37秒62(-1.50)
 -トリニダードトバゴ (不明)
カッコ内は、上記の「4人の100mPBの合計」との差異。これを、リレー行為によって短縮される時間という意味で、仮に「リレー・マージン」と呼ばせていただきます。
我らが日本チームは、個々の走力の集積では8チーム中7番目(日本と同じく9秒台もファイナリストもいないブラジルはヨンケイ決勝の常連国ですが、今回はよくぞ勝ち残った、というところでしょうか)、リレー・マージンは堂々の1位。ビリのアメリカとは実に1.28秒もの差があり、これが走力の差1.26秒をひっくり返す要因となりました。

この、リレー・マージンが発生する理由は、一つはもちろん、第1走者以外はスタンディングからのフライング・スタート(『100mを語ろう』の中で詳しく説明していますが、日本で言う「フライング・スタート=不正スタート」というのは和製英語で、本来は「助走をつけてのスタート」という意味です)になるため、とうぜんスタートダッシュに伴う加速時間を省略できることです。
それだけではありません。
リレーの速さというのは、つまるところ「バトンが移動する速さ」のことです。走者が単独でバトンを持って走る時にはその走者自身の速さ=バトンの速さですが、これを受け渡しする際に、いかにスピードを落とさないで行うかによって、テイクオーヴァーゾーン内でのバトンの移動スピードはかなり違ってきます。
この、「テイクオーヴァーゾーン内のバトンのスピード」を落とさないよう磨き上げてきたのが日本チームの技術と鍛錬であり、絶対的な走力の差をカヴァーする「チームとしての力」を生み出しました。
400mリレーの実力は、4人の100m走者の走力の集積だけではありません。そこに加えられるプラスアルファが、非常に大きなものだということがお解りいただけるでしょうか?
これが、「400mリレーを4×100mリレーと呼ぶことを好まない」という、私なりの理由その1です。

(2)「4×100m」ではない、もう一つのワケ
今回、日本チームの2走を務めた飯塚選手の絶妙のバトンワークと直線で他国に競り負けないスピードが、大いに賞賛されました。本来200mランナーであり、100mのPBが10秒22(2013年)に過ぎない彼が重要な役割を果たし得たのは、なぜでしょうか?

従来から、日本チームは末續慎吾、高平慎二、高瀬慧、藤光謙司といった、200mを専門とするロング・スプリンターを効果的にメンバーに配置してきました。100m10秒00のいまだ破られぬ日本記録を持つ伊東浩司にしても、本来は200mランナーです。このうちの何人かは、4×400mリレーのメンバーとしてもオリンピックや世界選手権、アジア大会などを走った経験を持っています。
日本の場合、大会によっては100mの単独種目にフルエントリーができないこともあり、持ち駒の中からヨンケイを組むとするとどうしても200mに出場するランナーに頼らざるを得ない、という事情があったケースもあります。ただ、今回の場合のように、「あえて100m代表3人の他にはリレー要員を加えず、200m代表3人を活用する」という戦略が意図的に取られていることが多いのだと思います。

しつこいようですが、私は「400mリレーを4×100mリレーと呼びたくない」という考えを持っています。その第二の、さらに大きな理由は、「実際、メンバーは100mきっかりを走っているわけではない」ということです。
ヨンケイの各走者は、バトンワークを完遂するために、1走が最大で約110m、2走と3走が約130m、4走が約120mを全力疾走する必要があります。全員が100mを大きく超える距離を走らなければならないのです。これがどうして、「4×100mリレー」なんでしょうか?バトンが移動する距離は、きっちり400m。だから「400mリレー」でいいじゃないか、というのが私の持論です。
それはともかく、ヨンケイの各走者はまた全員が、何がしかのコーナーを走る必要があります。1走と3走は全てがコーナー走ですし、「直線担当」の2走と4走も、僅かながらコーナーを走ります。これは、単独種目の100m走には必要のない技術を求められる場面です。
200mランナーを有効に活用する、ということの理由は、この「全員が110m以上の、コーナー走をする」ということにおいて、100m専門ランナー以上のパフォーマンスを200のランナーが発揮することが往々にしてあるからです。言うまでもなく、「コーナーでのフライングスタートからの加速走」での200mランナーの強み、という側面も見逃せません。

100mランナーの中には、「100mを走るのがいっぱいいっぱい」というタイプの人がいます。スタートから中盤までは群を抜いて速く、そのままできるだけスピードを落とさないようにして粘り切る、というレース運びを得意とする、いわば純粋なスプリンター・タイプです。
こういうタイプの選手は、はっきり言ってヨンケイには使えません。使えるとすれば、終盤に多少の失速があるとしてもトータルでタイムが速ければそれが許される、アンカーの場面だけでしょう。それ以外の走順では、終盤の失速はすなわちバトン・スピードの失速を次の走者にまで持ち越してしまうことになるため、大きなマイナス材料になってしまうのです。指摘するのは申し訳ないですが、かつてのメダル・メンバーの「エース」朝原宣治選手はこのタイプだったかもしれず、したがって彼は「アンカーのスペシャリスト」でした。
このように、「終盤での失速を最小限にする」ためにも、200mランナーの役割は非常に大きいということになります。

今回の日本チームのメンバーのうち、100m代表の3人は200mでもそれぞれ山縣と桐生が20秒41、ケンブリッジが20秒62というタイムを持っています。ケンブリッジはもともと200を主戦場にしていた選手で、100で開花してからはあまり200を走っていませんが、5月の東日本実業団予選で飯塚と0.03秒差の20秒49(+2.5W)で走っており、現在の実力では20秒3前後を余裕で出してくると思われます。つまり、全員が200mの参加標準記録をも突破できる能力を持っている、ということです。
200も走れる100m代表3人+200m20秒11のスペシャリスト1人…このメンバー構成は、現有の戦力の中では、そして歴代を見渡しても最強の顔ぶれと言えます。これ以上を求めるとなると、高瀬慧が100m10秒09、200m20秒14という昨年春の状態を取り戻した場合、サニブラウン・ハキームのような若手選手がより力をつけた場合に、短距離チームのコーチ連の頭をいっそう悩ますということになりそうです。

「ヨンケイには200ランナーを有効に投入する」という戦略論を持っている国は、今のところ日本以外には見当たらないと思われます。中国などは1走に200m21秒台の選手を起用し、エースのスー・ビンチャンは200mの公式記録が見つからないほどに100mに特化した選手です。この重要な事実に、いつまでも気が付かないでくれているといいんですけどね。




(3)磨き上げられたバトンワーク

RIO040

400mリレーの生命線とも言えるバトンワーク(前走から次走へバトンを受け渡しする技術)は、日本の快挙を実現した最大の要因です。
今回のメンバーと同等、あるいはそれ以上の期待を持たれていたヨンケイ・チームが、2000年のシドニー大会における川畑伸吾(小島茂之)‐伊東浩司‐末續慎吾‐朝原宣治というメンバーでした。4人の100mタイムの合計は、リオ・メンバーを上回る40秒28でしたが、2年前に10秒00、20秒16という当時のアジア記録を出していた伊東の調子が上がらず(それでも100・200ともに準決勝進出)、末續も200を3本、リレーを2本走ったダメージで半怪我人状態となっており、決勝6位(38秒66)に終わります。
この翌年から日本ナショナルチームは、フランス・チームが長年採用してきて一定の成果を挙げていた「アンダーハンド・パス」の習得に取り組むことになります。

アンダーハンド・パス(アップ・スウィープ・パス)の利点は、「バトンの移動スピードを最大限落とさないように受け渡しし得る」というところにあります。
一般的なオーヴァーハンド・パス(プッシュ・パス)の場合、特に受け手が片手を大きく後ろに突き出して待ち構える姿勢のまま数歩を走らなければならないため、本来のランニングフォームとはかけ離れた姿勢になり、せっかく助走で上げたスピードをいったん途切れさせることになってしまいます。
これに対してアンダーハンドは、渡し手も受け手も、本来のランニングフォームを大きく崩すことなく、また受け渡しの瞬間が接近するために概ね1回の動作でしかも確実に受け手の掌にバトンを送り込むことができるため、スピードダウンの度合いが少なく、安全確実な受け渡しをする確率も高いものになります。
デメリットとしては、オーヴァーハンドに比べて遥かに両者が接近してタッチをする必要があること、すなわち伸ばした手の先と先でバトンをやり取りするオーヴァーハンドの方が、腕の一振りでバトンが大きく速く移動するということですが、これは先に挙げた「ランニングフォームの乱れによる失速」というオーヴァーハンドのデメリットと相殺してお釣りがくるほどのものでしょう。「接近して受け渡しするタイミングの難しさ」については、反復練習で解決することができます。
また、この点におけるオーヴァーハンドに対する僅かなデメリットを少なくするため、日本チームが近年、やや腕を高く遠くに伸ばした「改良型」アンダーハンドを採用していることは、今回の報道で広く知られるところとなっています。
もう一つデメリットを挙げるとすれば、バトンを順繰りにアンダーハンドで渡していきますと、走順が進むにつれてバトンの上のほうを持たされることになり、アンカーに渡る頃には持つ場所がなくなってしまいかねない、という点があると思います。これも、密接したバトンパスを反復練習することによって、常にバトンの下の方、下の方を受け手に握らせる繊細なタッチを習得できるようになるようです。

繰り返しになりますが、400mリレーの速さとは、バトンが400m移動する速さです。テイクオーヴァーゾーンにおけるバトンの移動スピードは、渡し手と受け手、両者の走るスピードを最大限にした中でバトンパスを行うこと、そしてバトンパスに要する時間を少しでも短く、本来のランニングフォームで走る時間を長くすることが肝要です。そのために、現在のところは日本チームの行っているアンダーハンド・パスは最良の手段だ、というわけです。
ではなぜ、他国のチームはこれを採用していないのか?…理由はいろいろとあると思いますが、いちばん考えられるのは、その習得には長時間にわたるチーム練習が不可欠なことでしょう。特に個人種目で大金を稼ぐプロ集団であるジャマイカやアメリカのチームに、それを求めるのは不可能だと言ってもよいくらいです。ただ、今回オーヴァーハンド・パスでも日本とそう遜色ないリレー・マージンを稼ぎ出しているカナダや中国など、チーム力の養成に時間を割く余地を残している国では、真剣に導入を検討してくるのではないでしょうか。
そういえば、日本の女子チームも、ずいぶん前からアンダーハンドの習得に力を入れているのは間違いないのですが、いまだにオーヴァーハンドから脱却できず、しかもその技術はまことにお粗末です。理由の一つは、福島千里選手のスピードが一段飛び抜けているがゆえの難しさ、というところにあるのかもしれませんが、それだけではないでしょう。どなたかご存知ではないですかね?

そして、バトンワークの技術はパスの形態だけにあるのではありません。
テイクオーヴァーゾーンをはみ出すことなく、最大スピードの中で受け渡しを行うためには、どの走者がどの位置に来た時に走り出せば最適なのか、試合の中でどう修正したり工夫を加えることができるのか、そうしたことを徹底的に究め、体に叩き込んだことも、日本選手たちの豊富なチーム練習量があってこそのものです。
今回の決勝で、1走・山縣からのバトンをゾーンぎりぎりで受け取った2走・飯塚の絶妙なバトンワークが絶賛されましたが、予選での山縣の出来の良さを見て、飯塚のスタートマークを「4分の1足長(約7センチ!)」遠くにしたことの結果だそうです。そうした決断や修正ができるのも、普段のチーム練習あってこそですね。
日本ヨンケイの類まれなチームワークは、ナショナルチーム体制に協力した各大学や実業団、技術の理論的裏付けを支えるために寸暇を惜しんだ科学技術スタッフ、そしてそれらを統率し管理した陸連スタッフらの努力の賜物でもあります。今回初めて代表チームに加わったケンブリッジにしても、それ以前からリレー強化メンバーとしてチーム練習に参加していたことが、付け焼刃でないバトンワークとして活かされてきているのです。




(4)オーダーの妙

ヨンケイのオーダーの決め方として、最もオーソドックスな考え方としてあるのは、
「スタート巧者の1走、エースの2走、コーナー巧者の3走、勝負強さの4走」
というものです。
実際にはチームのエースがこれら4つをすべて兼ね備えていることなどもあったり、チームそれぞれによる事情などから、このとおりにはいきませんが、「誰をどこに?」と考えた時の最もまっとうな指標の一つではあるでしょう。
「スタートのいい選手を1走に」というのは一見合理的な考え方ではありますが、要はクラウチングスタートとフライングスタートを比較して、マイナス要素の少ない選手にスタートを任せよう、ということです。この場合も、2走へのバトンパス時に失速してしまうような「100m限定」の選手ではダメで、「スタートが良くて、なおかつ終盤スピードが落ちない」というなかなか難しい条件を満たしていることが理想です。まさに、山縣にとってはうってつけのパートなのです。

チームのエース選手は中盤の流れを作る2走か、勝負を決めるアンカーか、というのが一般的な配置でしょうが、私が最も重視すべきだと考えているのは、3走です。
3走は2走とともにバトンの「受け」も「渡し」も行うポジションで、100mランナーにとっては専門外のコーナー走を担当し、しかも各チームの選手が急速に接近する区間であるため、隣のランナーとの接触などの事故が起こりやすい場面を切り抜ける冷静な判断力が求められます。できれば、外側の選手を一気に追い抜くほどの走力が欲しいところです。
従来はここにコーナーに慣れた200mランナーを配置するのが常套手段だったところ、近年は「3走にこそエースを」というのが日本陸連スタッフの共通認識になってきていると見受けられます。女子であれば福島選手であり、現在の男子であれば、桐生が最もそのポジションに相応しい存在と言えるでしょう。
2走の飯塚は、100mの持ちタイムこそ見劣りしますが、直線での最大スピードは他国のエースたちと遜色なく、バトンの受けも渡しも見事にこなしてチームリーダーの役割を十分に果たしています。
そして、アンカー、ケンブリッジの勝負強さ。結果的には100mで完全に格上であるブロメルやデグラスの追い上げを受けてはいるのですが、実力拮抗の中国・チャンを置き去りにした終盤の強さは、光るものがあります。
スタッフの構想では、代表経験のないケンブリッジのバトンワークに一抹の不安があったため、3走に100mでも10秒0台を持つ高瀬を置き、アンカーに桐生の爆発力を、という「第2案」があったそうです。高瀬とケンブリッジの現状比較を考えた場合、こちらが最善、ということになったのでしょう。
事実、決勝ではケンブリッジのスタートが僅かに遅れて「詰まった」バトンパスになり、ゾーンの終点まで数メートルを残していたのは唯一のミスだったと思えます。しかしながら、それを補って余りあるケンブリッジの快走でした。

考え抜かれたチーム・オーダーがビシッと決まった時のリレーチームは、盤石の強さを発揮します。塚原直輝‐末續慎吾‐高平慎二‐朝原宣治という、大阪世界選手権から北京五輪にかけての不動の黄金チームが、まさにそれでした。

400mリレーは、まさに究極のチームワークが求められる種目です。「強いスプリンターを並べておけば大丈夫」というアメリカ流の考えを粉砕した日本チームの存在は、この種目をさらに面白く、スリリングなものへと進化させていくきっかけになるかもしれません。そこをいち早く改善することによって、日本チームにとってはボルトやパウエルのいなくなったジャマイカよりもずっと手強い国が現れてくることも、十分予想されます。

最初に挙げた「リレー・マージン」の話ですが、ロンドン大会でアメリカ・チームに破られるまでの世界記録だった東ドイツ女子(1985年)の場合、約3.5秒という高い数値でした。(メンバーの当時のPBが一部判然としないので、正確ではありませんが)
日本チームも、まだまだバトンワークに改善の余地を残しているのかもしれません。
熱い真夏のリレーは、これからも繰り返し、私たちを夢中にさせてくれることでしょう。


 

リオ五輪陸上競技TV観戦記・Day8



昨夜から今朝にかけては、もうお祭り騒ぎ。遂にオリンピック報道の中で、陸上競技が主役になった1日でした。
このブログ始めて、よかったなとつくづく思います。


◇男子50km競歩
荒井広宙選手―レースそのものが、ものすごくスリリングだったし、4時間テレビに釘付けにさせてくれた上に、競歩界初の大偉業。しかも終わってからのスッタモンダがまたスリリング。表彰式での笑顔を見るまで、気の抜けない丸々半日のドラマでした。

実は私、あの接触があった瞬間から、「あ、これはもしかして…?」と、気が気でなかったんです。というのも、前日に女子400mリレーでアメリカ・チームのクレーム~単独再レースという珍事を見せられていますから、なんでもかんでもとりあえずクレーム付けとけの風潮が甚だしい昨今のこととて、これは少なくとも何らかのアクションはあるだろうなと。
で、ゴール後の特にミックスゾーン付近の様子を注視してたんですが、特に何事も見つけられないままに中継は終了。各ネットニュースにも「荒井、銅メダル!」の見出しが踊り、一件落着かと…その後の数時間、あんなことになってたわけです。

冷静にヴィデオを見直してみました。
まず、競歩に限らず陸上のレースで、肩や腕が接触するなんてことは日常茶飯事のことで、いちいち文句を言う筋合いのものではありません。
ところがこのケース、荒井選手を追い抜いたエヴァン・ダンフィー(CAN)が、その勢いの割には実のところ疲労困憊の極みにあって、ちょっとした衝撃にも耐えられないほどに張り詰めた状態で歩いていたところへ、抜かれた荒井が再度左側から抜き返そうとする際に、チョコンと肩と肩が当たったわけです。ダンフィーが一瞬よろけそうになりますが、それほど大きな衝撃ではなく、10歩ほど何事もなかったように進みます。と、そこで僅かなバランスの崩れが響いたのか、それとも抜き返されたことに心が折れたのか、ヨロヨロっと膝が崩れて決定的な遅れを作ってしまったのでした。
問題は、①荒井選手の能動性による接触事故は確かにあったが、②ダンフィーの失速は接触が直接的原因か?というあたりですね。①については疑いようがなく、それによってダンフィーが軽い衝撃を受けたのも確かです。しかし、それはレース中には「よくあること」。そこで②が問われるのですが、①が何がしかのきっかけになったかもしれないとは推測できても、ダンフィーのよろめきは自身の疲れによるもの、という見方ができそうです。
RIO038
 問題のシーン

ここで、現地の陸連スタッフはすぐに日本の放送局からヴィデオを取り寄せて、文書での経過説明を交えて荒井の「無罪」を説明する資料を提出し、いったん競技委員長が下した「失格」の裁定への提訴をIAAF理事会に申し立てたのだそうです。
この政治的アクション、大事ですね。2000年シドニー大会・柔道での篠原信一選手の「世紀の大誤審」の時は、これが決定的に欠落してたんです。あの時の全柔連の対応は、まさに「無能」でした。

とにかく、荒井選手にとってハッピーエンドで本当によかった。
「失格」の一報を聞いた時には、当事者のダンフィー選手に対して
「抜き返されたらもうダメだということは、君自身がよく分かっていたはずだ。そんな形でメダリストになって、満足なのか?あそこまでの君の素晴らしいレースが、台無しにならないか?」
などと心中問いかけたりしておりましたが、聞くところでは当のダンフィー選手にクレームの意思はなく、周囲のスタッフが起こしたアクションだったようです。どこの国でも、メダルってそんなに大事なものなんでしょうかね?(日本側の再クレームは、荒井の名誉がかかっていますから当然です)

レースは、素晴らしいものでした。中盤以降、目まぐるしく変わるトップ争いに追走グループの主導権争い。終盤のまったく予測がつかないデッドヒート。序盤から飛び出した世界記録保持者のヨハン・ディニズ(FRA)が、途中潰れながらもレースを捨てずに8位入賞にこぎつけた姿。メダル争いを繰り広げる選手たちの傍らで、1周・2周とラップされた下位の選手たちが、普通の散歩のようなゆったりしたウォーキングを続けている姿が、レースの過酷さを雄弁に物語っていました。

◇男子400mリレー
もう、震えちゃいましたね。もちろん号泣ですよ。ああ、陸上が好きで良かった!ってね。
一人の9秒台もいない。一人のファイナリストもいない。全員が昨年世界選手権に出ていない。
そんな、目に眩しいサンライズ・レッドのサムライたちが、外国の陸上関係者やファンの間には、どのように映ったのでしょうか?…
「彼らがどうしてあれほど速く走れたのか?」ということは、それら海外の人々やふだんあまり陸上を見ない方々にとってはとても不思議なことに違いありません。
「奴ら、ニンジュツを使ったんじゃないか?」とかね。
このことについては、稿を改めてじっくりと書いてみたいと思います。

1位ジャマイカとの差は、0.32秒。ボルトが一線から身を退き、パウエルも…となった暁には、日本は本当にガチでジャマイカに勝てるかもしれません。事実、ボルト・ブレイク抜きのメンバーには完勝してるんですから。
アメリカも、ガトリン、ゲイ、ロジャーズあたりはそろそろ潮時でしょうが、また誰か出てくることでしょう。ブロメルは脚を痛めたみたいですね。それでもあそこまでケンブリッジを追い込んだのは、さすが恐るべし!
今後はいよいよ日本のリレーでの強さの秘訣を、各国が真剣に研究してきます。日本のように年間を通してチーム練習に時間を割くことや、バトンワークの科学的精査が争うようにして行われるはずです。『ワールドリレーズ』という大会ができた(来年は4月22・23日)ことも、そうした動きに拍車をかけるでしょう。
日本チームに求められるのは、個人の競技力のいっそうの向上、ということになります。
RIO039

ナイキ メンズ フリー RN OC ランニング シューズ NIKE

ナイキ メンズ フリー RN OC ランニング シューズ NIKE

◇その他

女子5000mでは、アルマズ・アヤナがまさかの3着敗退。
ぶっちぎりの独走態勢に持ち込むいつものレース模様にも諦めなかったヴィヴィアン・チェルイヨトとヘレン・オビリのケニア勢は見事な戦いぶりだった一方で、アヤナはさすがに10000mの大記録が想像以上に堪えていたのかもしれません。

女子棒高跳は、私の目論見どおり(そう予想はしませんでしたが願っておりました)ステファニディとモリスの一騎討ち。ただ、どちらも4m90を跳べなかったのが、記録的には物足りなかったです。
どんな時でも4m80前後を外さないステファニディの今季の安定感は、ちょっと驚異的です。昨年のDLでは、同国のキリアポウロウ(予選DNS)が年間タイトルを制していて、今季初めのステファニディは「ギリシャの新人」みたいな扱いだったのに、とうとうここまで来たか、という感じです。

男子ハンマー投。解説の小山裕三さんが嘆息するように、「30年前に戻ってしまった」(実際には1986年はセディフ、リトビノフのソ連2強によって85m前後がポンポン投げられていた時代なんですが、彼らが出場しなかった84年ロサンゼルス大会以来の優勝記録70m台という意味では、そのとおり)記録の低調さは、いったいどうしたことでしょう?
優勝候補筆頭のファイデク(POL)が予選落ちしてしまったこともありますが、この種目自体がダイヤモンドリーグから外されているなど、競技としての低迷には根深い要因がありそうです。室伏広治も、もう少し早く本腰入れて復帰していたら、というか去年休まなければ、いいところまで行ってたかもしれません。

◇Day9展望
あっという間でしたね。トラック&フィールドは最終日です。
ロードとトラックで相次いでメダル獲得の日本陸上、ここはもういっちょう今度はフィールドで、新井涼平におまかせ!という期待のかかるDay9です。
何が起きるか分からないやり投。女子でも、まったく予測不能の結果でしたし、今季の男子はそれなりにハイレヴェルながら、誰が最もリオの夜空を切り裂くかは、誰にも予想できないでしょう。いちおう、ドイツ勢3人の誰か、とだけ私なりの予想をしときましょう。
新井は、予選と同様とにかく1投目から全開で。ぜひとも、6回私たちをワクワクさせてもらいたいです。

その他の各種目については前の投稿で展望してますので、あとは男子5000mですか…ファラーでしょう!
で、最後は“お祭り”の女子・男子4×400mリレーを、日本チームが出ない気楽さで、せいぜい楽しみましょう。
女子は、アリソンの有終の走り(だと思います)に、男子は予選で振るわなかったボツワナの巻き返しに、それぞれ注目しています。

 

リオ五輪陸上競技TV観戦記・Day7&展望



どこかでやるんじゃないか、とほとんど寝ないでTV放送を注視していましたが、やっぱりDay7のMorning Sessionはまとまった録画放送もしてくれませんでした。僅かに男子400mリレー予選の2レースを見せてくれたのみ。いまだに男子400mH決勝は、ネット以外では見ていません。
レスリングなんて、日本選手が出てくる場面以外を延々と放送してくれてますよね。それはそれで、レスリングも大好きな私としては嬉しいことなんですけど、どっかで陸上に切り替えてくれてもよさそうなもんなのに…なんでゴルフなんか長時間やってるのよ…ブツブツ。

それにしてもっ!…とここで400mリレー日本チームの快挙について語りたいところですが、その前に。
バドミントン女子ダブルスのタカマツペア、最後に16-19の劣勢から5連続ポイントでの素晴らしい大逆転優勝。
振り返れば今回の日本チーム、対戦競技でのメダルマッチの勝率が非常に高いです。「決勝に勝って金メダル」はこれで柔道3、レスリング4、そしてバドミントンで、通算8勝4敗。「勝って終わる銅メダル」は、奥原希望のバドミントンを含めると12勝3敗。で、日本人は大いに溜飲を下げてるわけですね。
すべての事例に当てはまるかどうかは分かりませんが、少なくともタカマツペアの、あるいは体操・内村航平のあの土壇場における集中力や修正能力、抽斗の豊富さ、あれこそが、世界で戦い続けることによって培ってきた「競技力」というものです。

陸上の日本選手たちに決定的に欠けているものは、これだと思います。たかだか2度や3度のオリンピック・世界選手権の出場経験で、どうにかなるものではない「何か」です。
国内競技会を優先しなければならない諸事情や、もちろん経済的・環境的な課題もあるのだとは察しますが、普段から国際試合で揉まれることを繰り返していかないと、いつまでも「日本選手は実力を発揮できず予選敗退」の光景が繰り返されていくに違いありません。陸連のエライさんたちは、根本を見つめ直して強化に反映させていってもらいたいものです。

◇男子400mリレー予選(2組3着+2)
レース模様はおおむね既報のとおりで、付け加えることは大してありません。
アメリカはマイク・ロジャーズ-クリスチャン・コールマン-タイソン・ゲイ-ジャリオン・ローソンのオーダーで37秒65。決勝ではもちろん、ガトリンとブロメルを入れてくるでしょう。
ジャマイカはジェヴォーン・ミンジー-アサファ・パウエル-ニッケル・アシュミード-ケマー・ベイリーコールで37秒94。こちらはボルトとブレイクが入って、1秒近く戦力アップしそうです。
中国はタン・シンクィアン-シエ・チェンイ-スー・ビンチャン-チャン・ペイメンで37秒82。日本との戦力差を単純比較すると、ともに100m準決勝に進んだ山縣とケンブリッジ、スーとシエは合わせてほぼ互角。3番手の比較では10秒00を持つチャンの調子が上がらず、桐生がやや上。アンカー同時スタートなら、ケンブリッジが競り負けることはないでしょう。スターターのタンという選手の情報がほとんどありませんが、100mのベストは10秒30で200mが強いわけでもなく、もしかしたら決勝では昨年の世界選手権と同じメンバーにしてくるかもしれません。

中国は、14年のアジア大会で突然37秒台に突入して以来、バトンワークの乱れというものがほとんどありません。これは相当にチーム練習を重ねてきていると見るべきでしょう。ただ、気にかかるのは100mの走力アップばかりにこだわって、200mに出場するほどのランナーを養成していない点です。話すと長くなりますので別の機会にと思いますが、過去の日本チームの例を見るまでもなく、ヨンケイではロングスプリンターの役割が非常に大きい比重を占めるのです。そのことにまだ中国が気付いていないとすれば、ここに弱点が見出せます。

逆に日本の4人は(決勝も同じオーダーだと思います)、バトンワークもさることながら、全員が200mを20秒5以内で走れることが大きな強みです。(ケンブリッジのPBは20秒62ですが、もともと200mランナーでもあり、現在の走力は優に20秒3前後と考えられます)その意味でも、今回のチームは「史上最強」と言えるのです。
そして天下無敵のアンダーハンドパス。予選を見る限りはほぼ完璧、ということは小さなミスが大きなマイナス材料になるということですから、やはりそこが、同じくバトンワークの安定している中国との勝負を分けるポイントになってくるはずです。
あとは、イギリス。とうぜん決勝ではメンバーを替えてくるでしょうし、もう少し上手くバトンをつなぐはずです。日本のメダル獲得は、この中国・イギリスの難敵2チームに勝つことが、まず重要です。
ナイキ NIKE メンズ 陸上/ランニング ランニングシューズ ナイキ エア ズーム ペガサス 33 OC 846327999 2975 sports_brand
ナイキ NIKE メンズ 陸上/ランニング ランニングシューズ ナイキ エア ズーム ペガサス 33 OC 846327999 2975 sports_brand

◇女子400mリレー

これもアメリカ・チームのお粗末ぶりは既報しましたが、その後インターフェアへの抗議が通って、昨日の夕方、アメリカ1チームだけでの再レースが認められました。ここで慎重にバトンをつなぎながらも41秒77のトップタイムをマークしたアメリカが決勝進出、暫定8位だった中国が予選通過を取り消されるという、前代未聞の成り行きとなりました。(9レーンの競技場でないことが中国には不運でした)
思えば、落としたバトンを改めてきちんとつなぎ直してフィニッシュまで走り切った(66秒71)のは、クレームを通すうえで非常に重要だったはずで、この時のアメリカチームのとっさの判断力は殊勲賞ものです。
相変わらず不安定極まりないアメリカのバトンワークは、前回ロンドンでは鮮やかすぎるほどに決まって40秒82の世界記録に結びつきましたが、いつ再び破綻するとも知れません。
男子も女子も、不思議と失敗しないジャマイカが、どうしても優勝候補筆頭ということになるでしょう。決勝ではアメリカにトリ・ボウイ、ジャマイカにエレイン・トンプソンという、それぞれの切り札が投入されてくると思われます。
RIO037
 最後は破れかぶれにバトンを投げたアリソン・フェリックス

◇男子400mH決勝
優勝候補の一角だったハビエル・クルソン(PUR)が、明らかなフライングで失格。泣きながらトラックを去った後にリスタートしたレースで、最初から攻めていったカーロン・クレメントが直線入り口では一人大きく抜け出し、またまた出てきました、という感じのケニア勢ボニフィス・トゥムティの猛追を振り切って47秒73で優勝。
クレメントは2005年ヘルシンキ世界選手権に19歳でデビューして以来、07年大阪、09年ベルリンと連覇する絶頂期を経て、最近はすっかり「決勝の常連」程度の地位に甘んじてきました。とうとう北京(銀)、ロンドン(8位)で果たせなかった悲願のオリンピック・チャンピオンの座に就いたわけで、その喜びようは傍目にも微笑ましいものに感じられました。
クレメントの大会直前からの勢いが、今季全体的に低調を極めたこの種目ではひときわ目立っていたように思います。終わってみれば4位までが47秒台を記録し、ようやく世界のヨンパーに活気が戻ってきました。

◇男子200m決勝
ウサイン・ボルトの完勝…ながら、19秒78(-0.5)というタイムには失望というよりは自身への怒りを覚えたらしく、今までにないくらいに渋い、ゴール直後の表情でしたね。2種目3連覇の締めくくりにしては、「画竜点睛を欠く」といった気分になったのでしょう。
それにしても、ミックスゾーンで待ち受ける何十というメディアからのインタヴューに、小一時間かけて一つ一つ丁寧な受け答えをしていく真摯な姿には、毎度感服してしまいます。大迫傑や甲斐好美に、少し説教してやってほしいもんです。

◇その他
ワンデイ・トーナメントで行われた男子砲丸投は、全米で史上23人目の「22mクラブ」に仲間入りしたばかりのライアン・クラウザーが、その時の記録を41センチ上回る22m52をプット、王者ジョー・コヴァックス(USA)を再度破るとともに、オリンピック記録を28年ぶりに書き替えました。

女子400mHは予想どおり、ダリラ・ムハマド(USA)の圧勝。世界女王ヘイノヴァは復調今一歩で、メダルに届きませんでした。

女子800m準決勝では今季無敵のキャスター・セメンヤ(RSA)の強さが際立ち、金メダルは堅そうな気配です。対抗格と目されていたユニス・ジェプコエチ・サム(KEN)、フランシス・ニヨンサバ(BDI)が消えたことで、これを脅かす存在は見つけにくくなりました。中長距離好調のアメリカはこの種目でもケイト・グレースが上位で決勝進出、リンジー・シャープ(GBR)やメリッサ・ビショップ(CAN)などメダル争いは白人女性の戦いとなりそうです。

男子1500m準決勝では、アズベル・キプロプ(KEN)がこちらも盤石の態勢。2番手筆頭の位置にあったエリジャ・マナンゴイ(KEN)がDNSで、ディフェンディング・チャンピオンのタウフィク・マクルフィー(ALG)とロナルド・ケモイ(KEN)、マシュー・セントロヴィッツ(USA)、アヤンレ・スレイマン(DJI)らの包囲網をキプルトがいかに凌ぐか、ロンドン五輪や今年のモナコDLの時のようなポカをやらかさないか、注目です。
Melissa Bishop
 女子800、やっぱりビショップに頑張ってもらいたい!

◇その他Day8展望
同じ日に男女の競歩が行われるというワケ分からないスケジュール。日本陸上チーム最大の期待、男子50km競歩は8時のスタートになります。
昨年世界選手権を独歩で制したマテイ・トト(SVK)の力が抜きんでているように思われます。今年は50kmレースから遠ざかっているらしいですが、本命は動かしがたいところ。
2位だったジャレド・タレント(AUS)は20kmを捨ててここ一本にかけてきており、中国勢も不気味。日本トリオにとって上位の壁はかなり高いようですが、ロシアのいない今回は大チャンス。ぜひとも、3人がほぼ同等の力を有するチームの利を活かして、メダルは運次第としても、全員入賞を果たしてもらいたいところです。

今日の注目種目の一つは、女子棒高跳決勝です。
今季インドアながら唯一5mを跳んでいるジェニファー・サー(USA)に、後輩のサンディ・モリスと今季無類の安定性を誇るDLリーダーのエカテリニ・ステファニディ(GRE)、さらには世界女王ヤリスレイ・シルバ(CUB)が絡んで、優勝争いはなかなか混沌。記録レヴェルも4m90から5mラインが勝負どころと思われ、仮にエレーナ・イシンバエワが出ていても予測しがたいほどの好勝負が見られそうです。
地元期待のファビアナ・ムーレルの予選落ちは残念でしたが、日本選手のいない種目ながら、TVでもぜひきちんと見せてもらいたいですね。

さらに、女子5000mのアルマズ・アヤナ(ETH)には、再び世界新記録を期待してよさそうです!

Sandi Morris
 私はサンディ・モリスを応援!
 https://www.iaaf.org/news/report/sandi-morris-pole-vault-american-record-houst

 

【短期集中連載】オリンピック回想 ⑦~1988年ソウル大会



前回のロス大会回想に際して、書き忘れた重要なことが2つありました。

1つ目は、中国の初参加です。
中国のNOCは国民政府(台湾)が管轄していたこと、1970年代まで主要諸国との国交が成立していなかったことなどで、そのIOC加盟はようやく1979年に果たされ、当時対立関係にあったソヴィエト連邦で開催されたモスクワ大会では、ボイコット組に回っていました。
現在ではアメリカを凌駕する勢いのスポーツ大国となった中国も、当時はまだ「日々是学習」の時期で、陸上競技ではチュ・ジャンホワ(朱建華)の走高跳銅メダルくらいが目立った成績でした。

2つ目は、私的なことながら、家庭用録画機器の普及です。
放映権料の高騰に伴い、オリンピック中継の放送時間が飛躍的に拡大したこともあり、ちょうど社会人になって初めての夏季オリンピックを迎えていた「オリンピック・ウォッチャー」を自認する私にとって、録画機器は以後欠かすことのできない観戦ツールとなります。
ロス大会の当時は、120分(3倍速360分)収録のVHSテープが1本4,000円くらい(安売り店で半額ほど)もしました。とても、片っ端から録画しまくるというわけにもいかず、私は2台のビデオデッキを駆使して録った映像を短く編集して保存する、という作業に没頭しながら、追いかけられるように中継を視ていた記憶があります。特別な編集ソフトなどなくてもハードディスク上でパッパッと編集してデータ化された映像をBDにコピー、という今からすると、想像を絶するような手間のかかる作業(しかも画質は明らかに悪くなる!)でしたね。
おかげでスポーツ番組を録画しては編集・保存するということ自体が、どこか私の趣味のようになってしまい、膨大な量のVHSテープやDVD、BDに囲まれてしまってはいますが、とにかく「リアルタイムでなくてもオリンピックを観戦できるようになった」ということは、ちょうど会社勤めをするようになって時間が自由にならなくなった私にとって、とても都合のいい出来事だったのです。

さてソウル大会ですが、このお国で開催される国際的スポーツ大会には近年のアジア大会やF1グランプリ・レースなどでも見られるように、何がしかの運営上の不手際やゴタゴタがついて回ります。
ボクシングでの疑惑判定問題や座り込み事件などは、なかなかのトピックではありましたが、それにしても初めてのビッグ・イヴェント開催としてはまずまず上手くやったと言えるのではないでしょうか。(鳩の丸焼きには笑いましたが)

陸上競技では、何といっても男子100m「ベン・ジョンソンのドーピング失格」という超ビッグニュース。
対する女子では、フローレンス・グリフィス-ジョイナーの快走という華やかな話題がありました。
ところでこの大会の陸上は、アメリカのテレビ視聴の都合で、午前中に各種目の決勝を行うという前代未聞のプログラムが組まれました。(同じことは、2008年北京大会の競泳でも行われています)
当時はアフタヌーン・セッションを夜に入ってから行うということはありませんでしたから、時差の少ない日本ではどっちみち昼間の時間帯ということであまり影響はなかったかと思いますが、“犠牲”になった選手は大変だったことでしょう。
いま映像を見返してみると、なるほど、午前中ならではの陽光の明るさが目につくような気がします。

◆各種目の金メダリストと日本選手の成績
 *CZS=チェコスロバキア URS=ソヴィエト連邦 GDR=東ドイツ
<男子>
   100m カール・ルイス(USA) 9"92(WR) ※栗原浩司:2次予選 笠原隆弘・大沢知宏:1次予選
   200m  ジョー・デローチ(USA) 19"75(OR) ※山内健次:2次予選
   400m スティーヴ・ルイス(USA) 43"87 ※高野進:準決勝(日本新)
   800m ポール・エレング(KEN) 1'43"45
  1500m ピーター・ロノ(KEN) 3'35"96
  5000m ジョン・ヌグギ(KEN) 13'11"70 ※米重修一:予選
 10000m ブラヒム・ブータイブ(MAR) 27'21"44(OR) ※阿久津浩三:14位 米重修一:17位 遠藤司:予選
 110mH ロジャー・キングダム(USA) 12"98(OR)
 400mH アンドレ・フィリップス(USA) 47"19(OR) ※吉田良一:予選
 3000mSC ジュリアス・カリウキ(KEN) 8'05"51(OR)
 4×100mR ソヴィエト連邦 38"19 ※日本:準決勝
 4×400mR アメリカ 2'56"91(=WR) ※日本:準決勝
 マラソン ジェリンド・ボルディン(ITA) 2:10'32" 
中山竹通:4位入賞 瀬古利彦:9位 新宅氷灯至:17位
 20kmW ヨぜフ・プリビリネチ(CZS) 1:19'57"(OR) ※酒井浩文:26位 小坂忠広:46位
 50kmW ウィチャスラフ・イワネンコ(URS) 3:38'29"(OR) ※小坂忠弘:31位
 HJ ゲンナジー・アヴディエンコ(URS) 2m38(OR)
 PV セルゲイ・ブブカ(URS) 5m90(OR)
 LJ カール・ルイス(USA) 8m72 ※柴田博之:予選
 TJリスト・マルコフ(BUL) 17m61(OR) ※山下訓史:12位
 SP ウルフ・チンマーマン(GDR) 22m47(OR)
 DT ユルゲン・シュルト(GDR) 68m82(OR)
 HT セルゲイ・リトヴィノフ(URS) 84m80(OR)
 JT タピオ・コリュス(FIN) 84m28 ※吉田雅美・溝口和洋:予選
 DEC クリスチャン・シェンク(GDR) 8488p.


<女子>

   100m フローレンス・グリフィス-ジョイナー(USA) 10"54w
   200m  フローレンス・グリフィス-ジョイナー(USA) 21"34(WR)
   400m オルガ・ブリズギナ(USA) 48"65(OR)
   800m ジークルン・ヴォダルス(GDR) 1'56"10
 1500m パウラ・イヴァン(ROU) 3'53"96(OR)
 3000m タチアナ・サモレンコ(URS) 8'26"53(OR)
  10000m オルガ・ボンダレンコ(URS) 31'05"21(新種目)※松野明美:予選

 100mH ヨルダンカ・ドンコワ(BUL) 12"38(OR)
 400mH デビー・フリントフ-キング(AUS) 53"17(OR)
 4×100mR アメリカ 41"98
 4×400mR ソヴィエト連邦 3'15"17(WR)
 マラソン ロザ・モタ(POR) 2:25'40" ※浅井えり子:25位 荒木久美:28位 宮原美佐子:29位
  HJ ルイス・リッター(USA) 2m03(OR) ※佐藤恵:11位
  LJ ジャッキー・ジョイナー-カーシー(USA)  7m40(OR)
  SP ナタリヤ・リソフスカヤ(URS) 22m24
  DT マルティナ・ヘルマン(GDR) 72m30(OR)
  JT ペトラ・フェルケ(GDR) 74m68(OR) ※松井江美:予選
  HEP ジャッキー・ジョイナー-カーシー(USA) 7291p.(WR) 

アシックス/ASICS ランニングシューズ  駅伝シューズ マラソンシューズソーティ―マジックRR(GABAオリジナル)YEL×PNK×PNK(R)

価格:15,800円
(2017/1/9 17:36時点)
感想(1件)



◆ジョイナー義姉妹の超人的活躍

全般に女子の記録レヴェルが非常に高く、現在でもなかなか太刀打ちできなさそうな記録が並びます。
一方で男子100m決勝を圧勝しながら筋肉増強剤の使用が発覚したベン・ジョンソン(CAN)の騒動もあり、また当時は東欧諸国の国家ぐるみのドーピング疑惑も囁かれていたことで、グレーの霧に覆われた大会、と言えるかもしれません。ただ、ジョンソンほどのビッグネームを追放したことからも、当時としては万全のチェック体制だったということは確かであり、理屈としてはすべての記録を受け入れるほかありません。

フローレンス・グリフィスがジャッキー・ジョイナー-カーシーの実兄アル・ジョイナーと夫婦になったことで義理の姉妹となった「2人のジョイナー」の記録は、とりわけ凄まじいものでした。

フローレンスは7月の全米選手権で10秒49(±0)という驚くべき世界新記録を出していましたが、その時は風速計に顕れない暴風が吹き荒れており(つまりこのレースの時は平均して強い横風だったと推測される)、記録の正当性を疑問視する声も上がっていました。しかし五輪の本番で、フローレンスはディフェンディング・チャンピオンのエヴェリン・アシュフォード以下をまったく寄せ付けない圧勝劇で10秒54(+3.0)をマークしたことで、その疑念を一蹴してしまいました。(2次予選の10秒62が今も残るオリンピック記録)
続く200mも2位以下を5メートルほど引き離す独擅場で、ここで出した21秒34(+1.3)も、以後30年近く、誰も影をも踏めない高みにそびえ立っています。
今年100mHで世界新記録を出したケンドラ・ハリソンのように、突如覚醒したかのように圧倒的な力を示す事例はないことではありませんから、全米とソウルの2回のみ狂い咲いたかのようなフローレンスのパフォーマンスも、そうした勢いの中で繰り広げられたものなのでしょう。
人間離れした記録とともに、その華やかな風貌や全米で話題をさらった「ワンレガー」と呼ばれる奇抜なファッション・センスをもって、フローレンスは一躍世界のスーパースターとなり、400mリレー(金)、1600mリレー(銀)でも見事な疾走で観衆を魅了しましたが、それ以後世界の表舞台に出ることはありませんでした。


一方のジャッキーも、女子100mよりも先に終了した七種競技で自身の記録を破る世界新記録を出し、2位に400点もの大差をつけ、また従来のオリンピック記録を900点も上回ってみせました。7種目のうち砲丸投とやり投を除く5種目は、今年の日本選手権の優勝記録を上回っています。
走幅跳では世界記録に12センチと迫る7m40を5回目に跳んで、「ジョイナー姉妹の永遠のライヴァル」と言われたハイケ・ドレクスラー(GDR=100m、200mともに3着)を逆転し、ダブルタイトルのウィナーとなりました。


◆鳥人ブブカ、飛翔
男子棒高跳では、世界選手権2連覇中のセルゲイ・ブブカが、同じソ連勢3人による高レヴェルな争いを僅差で制して、オリンピック初優勝を飾りました。
意外なことにブブカのオリンピック優勝はこの1回だけで、世界選手権ではその後97年アテネ大会まで、6連覇という偉業を達成しているだけに、バルセロナでの取りこぼしやロス、アトランタの不参加が惜しまれます。


◆日はなかなか昇らない、が…
29人を代表に送り込んだ日本勢は、僅かにマラソンの入賞1つに留まり、これで4大会(モスクワ除く)連続でのメダルなしという成績に終わりました。
しかし、男子100mに久々にフルエントリーを果たしたのをはじめ短距離陣が活況を呈してきており、従来の大会ではなかった「リレー要員」を含めた代表編成で本格的にリレーを重視する傾向が生まれたのが、この大会です。
400mリレーでは100m代表の2人を外し、青戸慎二・山内・栗原・高野というオーダーで決勝進出まであと一歩のところまで迫りました。ヨンケイ出場は68年メキシコシティ大会以来で、その時が飯島秀雄の他は走幅跳代表の3人という急造チームだったことを思えば、大きな一歩と言えました。
高野進は個人種目のほかに両リレーにも出場し、すべて準決勝進出。合計7レースを走るという短距離チームのリーダーにふさわしい大車輪ぶりで、4年後の悲願の決勝進出へとつながっていきます。

 
ギャラリー
  • 『第42回全日本実業団対抗女子駅伝』大胆展望
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • 『第105回日本陸上競技選手権』観戦記+α その⑤⑥
楽天市場
タグ絞り込み検索
  • ライブドアブログ