豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

風速

桐生10秒04、TJ山本とPV荻田が標準到達~織田記念


『第51回織田幹雄記念』…TV中継をご覧になった方も多いでしょうが、桐生祥秀(東洋大3)の9秒台突入はまたもお預けとなりました。
ちょうど男子100m決勝が整列した頃合いには、ホーム両サイドの吹き流しが揃って真っすぐゴール方向を向いていたのに、僅か数分が経過したレース中は予選と同じ-0.3m。桐生の走りは予選と打って変わってゴールまで滑らかでしたから、風さえ味方なら、という感じでしたね。
「そんなちょっとの風くらいで…」と言うなかれ。0.3mでもプラスとマイナスとじゃ大違いだと思いますよ。競技が違えば、たとえばスキージャンプの場合なんか、大騒ぎレベルの違いです。
それにしても、国内レースで当たり前のように10秒0台を出してくる桐生や山縣は、本当に力をつけたものです。4年前より、また昨年より、確実に成長しています。
桐生はこの後『静岡国際』で200mに出場した後、『GG川崎』は回避して『関東インカレ』に臨むものと思われます。
追記…次戦
は5月13日のDL上海大会だそうです。とうぜんスー・ビンチャン(CHN)も出てくるでしょう。

その他の種目では、TVにまーったく映らなかった男子三段跳で、山本凌雅(順大4…この人だけ桐生とすれ違いざまに何事か会話してるところがチラッと映りました)が16m91の好記録で優勝。4回目に跳んだこの記録は+4.1mの追風参考でしたが、1回目に公認(+1.8m)で16m87のPBを跳んで、ロンドン標準記録(16m80)を突破しました。オリンピック組の山下航平(県北陸協)は15m台で6位、長谷川大悟(横浜陸協)は14m台の最下位と、低調に終わりました。

同じく男子棒高跳でも好コンディションのもとで、リオ代表の荻田大樹(ミズノ)が5m70の標準記録にピタリ到達して優勝。すでにアメリカで5m71、5m70を跳んでいる山本聖途(トヨタ自動車)は70を2度ミスして75に上げましたが失敗。5m60で2位でした。注目の大学ルーキー・江島雅紀(日大1)は5m20を3ペケで記録なし、澤野大地(富士通)はDNSでした。

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感想(2件)


グランプリおよびユニバーシアード選考対象レースの男女5000mについては、全着順を掲載しておきます。日本人選手の標準突破はありませんでしたけど、今季の仕上がり具合が伺える結果だったようです。
高校2年生の小笠原朱里、PBには2秒ばかり及ばなかったとはいえ、ホンモノですねえ。学生陣では関谷夏希、実業団若手では小井戸涼が頭角を顕してきました。
男子では、鎧坂が久々の好走。神戸でGP1500mを制した実業団2年目の松枝も、なかなかの成長ぶりで今後が期待されます。

◇女子5000m(GP・ユニバ)
①15'11"48GR ローズメリー・ワンジル(スターツ)
②15'12"13 シュル・ブロ(TOTO)
③15'27"68 木村 友香(ユニバーサル)
④15'30"92 グレース・キマンズィ(スターツ)
⑤15'31"46 小笠原 朱里(山梨学院高2)
⑥15'33"16 マリアム・ワイディラ(九電工)
⑦15'33"61 小井戸 涼(日立)
⑧15'40"26 鷲見 梓沙(ユニバーサル)
⑨15'40"42 関谷 夏希(大東文化大2)
⑩15'43"18 中村 萌乃(ユニバーサル)
⑪15'46"12 高見沢 里歩(松山大2)
⑫15'50"63 加世田 梨花(名城大1)
⑬15'52"70 田中 希実(西脇工高3)
⑭15'52"72 宮田 佳菜代(ユタカ技研)
⑮15'54"25 井上 藍(ノーリツ)
⑯15'55"39 スーサン・ワイリム(デンソー)
⑰15'57"42 佐藤 成葉(立命館大2)
⑱16'04"28 棟久 由貴(東京農業大2)
⑲16'06"98 野添 佑莉(三井住友海上)
⑳16'07"79 堀 優花(パナソニック)
㉑16'15"03 筒井 咲帆(ヤマダ電機)
㉒16'16"73 森林 未来(諫早高3)
㉓16'19"17 新井 沙紀枝(肥後銀行)
㉔16'19"45 青木 和(名城大3)
㉕16'22"41 上田 未奈(城西大3)
㉖16'29"23 菊池 理沙(日立)
㉗16'36"33 岡本 春美(三井住友海上)
㉘16'43"13 石澤 ゆかり(エディオン)
㉙16'43"37 藤原 あかね(松山大3)
㉚16'51"28 青山 瑠衣(ユニバーサル)
㉛17'12"29 花田 咲絵 (順天堂大1)
㉜17'53"39 緒方 美咲 (松山大3)

◇男子5000m(GP・ユニバ)
①13'30"79 ポール・タヌイ(九電工)
②13'32"16 鎧坂 哲哉(旭化成)
③13'33"62 松枝 博輝(富士通)
④13'34"80 チャールズ・ディランゴ(JFE)
⑤13'36"20 ジョン・マイナ(富士通)
⑥13'36"52 上野 裕一郎(DeNA)
⑦13'52"44 鬼塚 翔太(東海大2)
⑧13'53"81 市川 孝徳 (日立物流)
⑨13'54"36 小野田 勇次(青山学院大3)
⑩14'00"35 市田 孝(旭化成)
⑪14'06"19 館澤 亨次(東海大2)
⑫14'06"43 戸田 雅稀(日清食品G.)
⑬14'08"83 關 颯人(東海大2)
⑭14'09"47 坂口 裕之(明治大3)
⑮14'11"23 森田 佳祐(筑波大4)
⑯14'18"72 舟津 彰馬(中央大2)
⑰14'28"31 平 和真(カネボウ)
⑱14'36"09 中村 匠吾(富士通)
⑲14'40"97 阪口 竜平(東海大2)
⑳14'44"62 秦 将吾(大塚製薬)
 DNF 服部 弾馬(トーエネック)

 

<連載>100m競走を語ろう ⑬~風を味方に走れ



◆超音波式風速計がなかったので…
2013
年、我が国の陸上短距離シーンに「怪物高校生スプリンター」が現れました。4月29日、多くの選手がシーズン初戦に選ぶ『織田幹雄記念国際陸上』の予選で、10秒01(+0.9)の日本歴代2位、日本記録まで100分の1秒という快記録をマークした桐生祥秀選手(洛南高=当時→東洋大)です。
桐生選手は2年生だった前年の秋に、当時の高校記録(大瀬戸一馬選手がその前年に18年ぶりの新記録として出した10秒23)を破る10秒21で走って高校記録保持者となっており、この織田記念大会でも注目される一人には間違いありませんでしたが、まさか一気に9秒台目前の領域まで差し掛かるとはと、誰もが驚愕する疾走劇でした。
決勝でも追い風参考ながら10秒03というハイレベルな記録で、第一人者の山縣亮太選手(慶大=当時→SEIKO)を僅差ながら破って優勝し、実力がホンモノであることを証明してみせました。

日本の短距離界はこの新星誕生に大喝采し、「いよいよ日本人初の、いや黄色人種初の9秒台突入か?」という期待がにわかに高まりました。一般のニュースなどでも大きく取り上げられたりしたため、以後しばらくは桐生選手・山縣選手が試合に出場するたびに大きな注目が集まりました。特に桐生選手のタイムは僅か17歳のスプリンターが記録したものということで、世界的にも話題となり、この年の夏に行われた世界選手権(モスクワ)の100m予選に桐生選手が登場した際には「センセーショナルな若者!」とわざわざ場内アナウンスで紹介されたほどでした。
(結局、いまだ日本人初の9秒台は実現していませんし、黄色人種初の栄誉も、中国のスー・ビンチャン選手に先を越されてしまいましたが…)

当時、世界ジュニア記録(現在は呼称が変わってU-20世界記録)は桐生選手の出したタイムと同じ10秒01でした。しかし、IAAFは桐生の記録を世界ジュニア・タイ記録として認定することはありませんでした。
その理由は、世界記録や地域記録(エリアレコード)として認定する要件の一つである「超音波式風速計による風速計測」が満たされていなかった、というものです。この日の織田記念陸上で使われていたのは、旧式の機械式風速計だったためです。
これは「記録を公認しない」という意味ではなく、「世界(ジュニア)記録としてレコードブックに記載することはできない」ということで、桐生選手の記録はランキングには記載され、またその年に開催された世界選手権の参加標準記録到達については問題なく有効ということ…つまり、桐生選手の記録が「公式記録」であることは間違いないのです。
このように、現在ではIAAFによる世界およびエリア記録の認定には超音波式風速計の使用が必須条件になっていて、この最新機器の普及が2013年春の時点では十分でなかったこと、日本記録の認定など国内記録に関するルールとしてはこうした条件がないことなどから、当日の会場には用意されていなかったのだと思われます。まさか17歳の高校生が10秒01などというタイムで走るとは誰も予想はしていなかったでしょうが、同じレースにはアジア記録更新の可能性を持つ山縣選手なども出場していたのですから、これは日本陸連のうっかりミスだったと言えるでしょう。




◆風速風向計とは?

ここで話題になった「超音波式風速計」とは、どういうものでしょうか?
私は間近で見たことも説明を受けたこともありませんので、またまたおなじみ・セイコータイムシステム株式会社さんのHPなどからおおよそのことをまとめてみることにしましょう。
SEIKO03

 http://www.seiko-sts.co.jp/products/sports/cat02/008.html
 セイコータイムシステム株式会社HPより


原理を整理しますと、こうなります。
風というものは空気の移動ですから、空気を媒介として伝わる音波は風によってその到達速度が変動します。この風速計の先端近くにある突起のようなものの間に超音波を送受信する仕組みがあって、その時間を瞬時に計測することで、ある特定の方向(つまり走路の進行方向)に対する風の方向(順風か逆風かの二元的計測)と風速が換算され、操作盤のモニターに表示される。
…こんなところで合ってるんじゃないでしょうか?

これに対して旧式の機械式風速計というのは、おなじみのくるくると回るプロペラのような装置と矢羽のようなもので実際の風速と風向を計測し、ルールブックに併載されている「換算表」によって進行方向への風速を換算するというものです。つまり、同じ秒速1mの風でも進行方向に対する風向の角度によって異なる風速が換算される、ということです。
超音波式は、そもそも音の伝わる時間を測って風速に置き換えるのですから、風向の角度を気にする必要はない、ということですね。

ちなみに、ルールによると風速計は
「ゴールから50メートル手前、トラックの縁石から2メートル以内の場所に、高さ1.22mで設置する」
ことになっており、
「100m競走の場合はスタートから10秒間、110mH・100mHでは13秒間、200mの場合は先頭走者が直線に差し掛かってから10秒間、走幅跳や三段跳では定点を通過してから5秒間」
計測してその平均値を表示させます。写真の説明で「計測時間は…」云々とあるのは、そのことを言っているのです。
となると、操作方法としては、計測時間をセットして、計測開始のタイミングを間違えずにスイッチを押せば、あとは勝手に機械が正しい風速を弾き出してくれる、ということのようです。

冒頭の「桐生選手の一件」があって以来、陸連は当時まだ国内に何台かしかなかったという超音波式風速計を桐生・山縣などの有力選手が出場する大会には必ず持ち込むようにし、また各地の競技場やこれを所有する自治体などが、争うように最新式の風速計を導入しました。メーカーさんは、時ならぬ「桐生景気」に遭遇したのではないかと拝察します。

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◆風を馬鹿にしちゃいけない

さて、ご存知のように、直走路を片側のみ使う短距離走(100m、200m、110mH 、100mHなど)と走幅跳、三段跳では、2.0m/sを超える追い風が記録されたレースまたは試技での記録は、公認されません。超えてしまった場合の記録は「追風参考記録」となり、競技の順位争いには影響しないものの、公式記録としては残らないのです。

自身で走ってみればよく実感できることですが、陸上に限らず競走競技の記録に、風の影響というのはきわめて重大なものです。
完全な無風状態の場合、ランナーはその時の速度に応じた空気抵抗を受けつつ走ることになります。たとえば私のようなヘナチョコ市民ランナーでも、1㎞あたり5分のペース(12km/h)で走っていれば、正面から3.3m/sの風を受けているのと同じ状態になります。(すいません、ちょっと見栄を張りましたが、最近はランニングをサボっているのでとてもそんなペースじゃ走れません)同じペースでスポーツジムなどのトレッドミル(ランニングマシン)上を走る場合は、この空気抵抗が0になるわけですから、体感の違いは歴然としています。

まして100m
10秒で走るスプリンターであれば、平均10m/sの風に相当する空気抵抗を受けることになり、文字通り彼らは「風を切り裂いて疾走する」のですね。

この空気抵抗が、後ろからの風によって和らげられたり、前方からさらに加えられたりするのが、追い風であり向い風で、100m競走の場合にその影響は、風速1m/sにつきプラスマイナス0.050.10秒程度と言われていますが、私の印象ではもう少し大きいのではないかな?という気がします。
むろん、風というものは競走の進行方向に沿って吹くとは限りませんから、風速計(あくまでも進行方向に沿った風力を計測する)には顕れない強い横風によって走りを崩されるなど、風速以上の影響を受ける場合もあるはずです。(嵐のような暴風が吹き荒れていても、進行方向に対しては風速0ということも現実にはあり得ます)

ちなみにハードル競走の場合、走る歩数が決まっているので、追い風に比例してタイムが伸びるということはないようです。強過ぎる追い風は、ハードリングを狂わせてしまいますから。
いっぽうで、200m競走の場合に、ちょうど第4コーナーでの進行方向に沿った斜めからの強めの追い風が吹いていると、風速計に顕れる数字は+2.0以下でもコーナーではより強い追い風を真後ろから受けていることになります。こうした風は「200m風」と呼ばれ、先月の日本選手権で福島千里選手や飯塚翔太選手が好記録を出したレースでは、このような条件に恵まれていたと考えられます。

向い風は100分の1秒を争うスプリンターにとっては地獄だし、強過ぎる追い風もまた、しかり。ゴールの瞬間に表示されたせっかくの好タイムが、次の瞬間追風参考と知った時のガッカリした表情は、あまり見たくないですものね。


ところで風速云々の話からは逸れますが、私は常々、陸上競技においてこの「空気抵抗」という問題があまり取り沙汰されないのはどうしてだろう、と不思議に思っています。

たとえば、競泳ではひと頃、「水の抵抗を軽減する」という特殊素材のスイムウェアが一大ムーヴメントを巻き起こし、実際に“究極の高速水着”が席巻した2009年にはとんでもない頻度で世界新記録・日本新記録が量産され、慌ててFINA(国際水泳連盟)が素材・デザインの規制をかけたほどの事態になりました。
また、陸上競技以上の速度で勝負を競う自転車競技では、この空気抵抗、風圧ということへの対処が、すべてのレースにおいて最重要視される要素になっています。

陸上競技でも、古くは1984年のロサンゼルス・オリンピックあたりで奇抜な「全身スーツスタイル」のウェアが登場し、2000年のシドニー・オリンピックでも地元のヒロイン、キャシー・フリーマンがそうしたコスチュームを着用して話題をまいたことがありましたが、あまり追従する動きはありません。
現在の短距離走者のランニングウェアは、体にフィットした伸縮性の素材が多用されるようになったのは確かですが、いまだに昔ながらのランシャツ・ランパンを風になびかせている人も少なくありません。細かいことを言えば、ウエアと露出した肌の境界ひとつをとっても、微細な空気抵抗の一因にはなっているのではないか、と考えられます。近年流行りの半袖型のウェアを着て首のところを寛げている選手を見ると、「ちゃんと全部閉めればいいのに…」と思います。

また、ロードやオープンレーンの競走では「人の背後について走る」ということが空気力学的に絶対有利なことは明らかなのに、これを戦術として徹底している選手やチームがどれほどあるのか、疑問に感じます。マイルリレーなどで、先行する選手をいち早く抜きにかかって自ら風よけ係になってしまい終盤失速するような選手を見るたび、「・・・・・・・」と思ってしまいます。(当事者にはいろいろとそうする理由もあろうかと思いますが)

もちろん、個々の選手たちは空気抵抗や風との戦いを、それなりに意識して競技しているのだろうとは察しますが、もう少し積極的に、100分の1秒を稼ぐランニングウェアを研究したり、風圧を戦術的に利用することを考えたりすることが論議されてもよいのではないか、とあくまでも外野からの声ではありますが、ここで申し上げておきます。

 
ギャラリー
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