豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

那須川瑞穂

連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#5 ~2002年/第22回全日本実業団女子駅伝


まさかの前回からの連作です。同じ大会、1年違いの映像テープが続けて発掘されるとは予期していなかったので、前回少しネタバレなことを書いちゃいましたけど、まあもともとネタバレしてる過去の大会の記事ですから。
岐阜折り返しコース時代の42.195㎞。参加は27チーム。
旭化成、ダイハツ、京セラといった古豪チームが本戦に復帰し、前回初出場で旋風を起こしたグローバリーは連続出場ならず。前回1区区間賞・橋本康子の日本生命と藤川亜希のラララはチームが消滅。またこの頃に盛んにあった金融機関の合併などにより、前回2位の東海銀行はUFJ銀行に、9位の富士銀行はみずほ銀行に名称変更しています。
スタジオ実況・解説は前回と同じ椎野・増田コンビ。ゲストにこの時点でセミリタイア状態にあった川上優子選手(沖電気)。
2002女子駅伝01

◇三井住友海上の3連覇なるか?
言うまでもなく優勝候補の筆頭は、2000年代2戦2勝の三井住友海上。今回も土佐礼子は不在ながら、渋井陽子・坂下奈穂美の両エース健在に加えて、大物ルーキーの橋本歩、大山美樹がスターターとアンカーを固め、チーム事情は前回以上と期待されます。
前回は2枚看板が不発に終わった資生堂は、大卒2年目の加納由理を3区に抜擢してエスタ・ワンジロを1区に投入。豊富な選手層で今度こそはと、悲願の初優勝を狙います。
前回2位のUFJ銀行は、相変わらず2組の双子が主力。この年には大南姉妹の妹・敬美がロッテルダムマラソン優勝(2時間23分43秒)、姉の博美はアジア大会銅メダルと、ともにマラソンで大きく躍進していますが、反面駅伝の距離ではどうかというところ。
前回3位の天満屋。エース松岡理恵と両輪を組むのは、入社4年目の坂本直子。この1か月後には大阪で衝撃のマラソンデビューを果たす逸材が、5区を走ります。
幾多の強豪マラソンランナーを輩出した名門ダイハツは、しばらく競技を離れていた大越一恵が復帰して5区、3区には快速・山中美和子(現監督)が登場します。山中はこの年の『全国女子駅伝』で1区の区間賞を獲得し、翌2003年には同じ区間で、2020年まで破られなかった18分44秒(6.0㎞)の大記録を樹立する、鮮烈な印象を残した名選手です。

◇1区(6.6㎞。以下コース、区間割は前回同様)
超スローペースで始まったレースは、三井の橋本、京セラの阿蘇品照美といった若い選手が堪まりかねて前に立ち、中間にかけて次第にビルドアップする展開。阿蘇品はこの後、日本のトップランカーへと成長する有望株ながら、まだこの時点では実績が足りず、先頭集団の中ではエスタ・ワンジロの力が飛び抜けている感じです。もう一人の有力ランナー、UFJの王春梅は中盤で早くも脱落し、前回2位のチームが早々に苦境に立たされました。デンソーの永山育美も早々に圏外。
そして、4㎞を過ぎたところで橋本の左脚に異変。文字どおりブレーキをかけたような状態になって、大本命の三井もいきなりピンチです。
次第に先頭集団が絞られる中、前の方でじっくりと機を伺っていたエスタが、ゴール前200メートル強でデオデオの選手(名前が思い出せません)が放ったスパートにカウンター・アタック。最後は旭化成の上田美恵との僅差のトップ争いを制して区間賞獲得です。本来なら圧倒的な実力にモノを言わせて大差リードを築きたかった局面ですが、やはり本調子には今一歩だったのでしょう。
3位には後半果敢に先頭を引いた阿蘇品が2秒差に粘り、デオデオが3秒差、那須川瑞穂の積水化学が5秒差、そして前回失速した尾崎好美(第一生命)が6秒差の6位に食い込む大混戦。三井住友海上の橋本は31秒差で16位という、波乱の幕開けとなりました。
2002女子駅伝02
2002女子駅伝03
(上)岐阜コース時代の定番、岐阜城の空撮。長良川に架かるのは金華橋。
(下)1区後半の先頭集団。中央は阿蘇品照美。

◇2区(3.3㎞)
中盤を過ぎ先頭は資生堂、旭化成、京セラの3チーム。京セラの2区は、あの杉森(現・佐藤)美保です。前年の世界選手権ではマイルリレーの代表になっていたランナーですから、いくら何でも駅伝は厳しいのでは?
後方から第一生命、九電工、積水化学という「黒/イエロー軍団」が猛追して6人の集団になり、そこから第一生命・森春菜が抜け出してトップリレー。大エース羽鳥智子の快走に夢を託します。
3秒差の2位に九電工、4秒差で旭化成、7秒差で積水、資生堂と続いて、さすがに杉森は終盤ヨレヨレ。
三井は大平美樹が区間賞の奮闘を見せて、22秒差の8位と挽回しました。1区24位と出遅れたUFJ銀行は川島真喜子が1つしかランクアップできず、大苦戦です。

◇3区(10.0㎞)
往路のエース区間3区では、この年も華やかな顔ぶれがダイナミックに戦局を動かします。
中継点での上位5チームが形成した先頭集団に、ジェーン・ワンジュグ(松下通信)が一気に追いつき追い越してトップに立つと、さらに後方からは福士加代子(ワコール)、山中美和子(ダイハツ)、渋井陽子(三井)、小鳥田貴子(デオデオ)といった猛者連が差を詰めてくる激しい展開。いったん抜け出したワンジュグも取り込まれて2.5㎞あたりでは10人の大集団になります。
区間中間点では先頭が福士、ワンジュグ、山中、羽鳥の4人となりました。
トレードマークだったチョンマゲを卒業して、ショートヘアをアッシュブラウンに染めた福士は、計時ポイント(5㎞)を前年より11秒遅い15分20秒で通過。20位以下から遮二無二追いかけた前回とは違って、しっかりとペースを刻んでいます。これはどうやら好調そのもの。沿道の応援に満面の笑顔で応え、時折Vサインまで出して見せる余裕の走りです。
やがてワンジュグが、続いて山中も福士のペースについていけなくなり、福士の独走劇が始まる予感が漲りますが、実力者・羽鳥だけが背後にピタリとつけたまま離れずマッチレースに。第3中継所前の熾烈なデッドヒートとなるか…?

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ところが、残り700mを切ったところでアクシデント発生!前後関係にあった両選手の脚が交錯して、福士がばったりと前のめりに転倒、羽鳥も大きく進路を逸れました。起き上がった福士の走りは別人のように左脚を引きずるものとなっており、打撲や擦過傷だけに留まらないダメージを負ったようです。その表情からすっかり笑みが消え去りました。
結果的に、第一生命が2区からの首位を守り切り、福士は山中に追い抜かれて3番手でリレー。それでも32分08秒で区間賞を獲得したのはさすがでしたが、負傷は左膝靭帯断裂という深刻なもので、長期休養を余儀なくされることになります。
三井住友海上は、頼みの総大将・渋井がまったく福士のペースに付いていけず、ようやくワンジュグと並走するところまで粘って37秒差の5位としたものの、ここでついた第一生命との差が致命傷になりました。加納が走った資生堂は、さらに遅れて7位と順位を下げています。ひとつ上の6位はデオデオ、8位以下は積水、九電、天満屋、旭化成と続いて、ここまでが1分17秒差です。
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意外にサバサバした表情でインタビューに答える福士。あれほどの重傷を負っていたとは…。
もちろん羽鳥は恐縮しきり。


◇4区(4.1㎞)
第一生命の4区は萩原梨咲。△の形に口を開きながら粘り強い走りで首位をキープします。
後方では三井の山本波瑠子が区間賞の走りで2位に浮上してきますが、肝心の第一生命とは1秒しか縮まらず。3位にデオデオが躍進し、資生堂の尾崎朱美は4位へと順位を上げながらも首位からは47秒差と、むしろ引き離される展開となりました。

◇5区(11.6㎞)
復路のエース区間では、1分差程度の逆転劇は容易に起こり得ます。あの高橋尚子ですら、必勝と思われた40秒差を川上優子にひっくり返された苦い経験があります。
第一生命は磯貝恵子。実績から言うと、三井のいぶし銀・坂下奈穂美との36秒差スタートは甚だ心許ないリードに思われたのですが、これがまた粘ります。その差はいったん20秒を切るところまで詰め寄られながら、抜けそうで抜けない距離感を懸命に保った結果、坂下の方が音を上げる形となり、最終的には6秒詰められるだけという殊勲賞ものの走りとなりました。
終盤失速した坂下は、ダイハツ大越一恵にも交わされて3位に転落。タイム的には区間賞を獲った前回より34秒も速かったのですが、渋井に次ぐ「大砲不発」の印象を免れませんでした。
この区間の区間賞は、3人抜きの9位でリレーしたあさひ銀行・田中めぐみ。36分13秒は、第16回大会の川上、千葉真子に次ぐ区間歴代3位です。(その後福士が同タイムを記録するも、歴代3位変わらず)
ラララが廃部となった藤川亜希は、走り慣れたこの区間を旭化成のメンバーとして走り、資生堂・弘山と並ぶ区間6位タイの成績。大南博美が区間3位の力走で、UFJは12位まで押し上げてきました。

◇6区(6.595㎞)
大会前はほとんど下馬評に上ることのなかった第一生命には、会社創立100周年という大きなモチベーションがありました。それゆえ、ここまで一人として区間賞がいないながらも、各選手が自分の力を存分に発揮するノーミスの継走で、ミスを重ねた三井住友海上以下の優勝候補をリードしてきたのです。
アンカーは、安藤美由紀。前回は5区を担当しましたが、スプリントの切れ味はトラック勝負向きということで、この年から2010年までほとんどアンカーを務め続けたスペシャリスト。また後には、強豪チームの仲間入りを果たした第一生命のキャプテンとして、毎回存在感を放った美女ランナーです。
三井の大卒新人・大山がダイハツを交わして2位を奪回したものの、それまで。区間タイムは独走態勢をキープした安藤より1秒遅く、ゴール間際の勝負にまで持ち込むことができませんでした。
3位ダイハツ、4位資生堂、5位は終盤の2区間(坂本直子、北山由美子)で上昇した天満屋。続いて旭化成。最後に川島亜希子が区間賞と奮起したUFJ銀行が7位となり、1区・2区の絶望的な状況から入賞にだけは漕ぎつけました。8位の松下通信は、翌年からパナソニックモバイルとチーム名が変わり、さらに2005年からは現在のパナソニック(エンジェルズ)となります。第4中継所で3位、第5で5位と上位を伺っていたデオデオは、この区間で12位にまで急降下しました。
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美し過ぎるアンカー・安藤美由紀。ワイプ画面は5区の磯貝恵子。

大会史上初めて女性監督(山下佐知子)が率いるチームの優勝となった第一生命は、岐阜コースではこれが唯一の戴冠。会場が宮城県に移った2011年に2度目の優勝を飾っていますが、両方を体験したのはともに1区で出場の尾崎好美のみ。その尾崎をはじめ、田中智美、上原美幸とオリンピアンを輩出した名門チームとして、今なお上位争いの常連チームでいるのはご承知のとおりです。
自らの不振でV3の夢に致命的なダメージを受けた渋井が、後輩(年齢は上)の大山に支えられながら号泣する姿が、印象的でした。この翌年から、再び三井住友海上の快進撃が始まります。

連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#4 ~2001年/第21回全日本実業団女子駅伝


今回のお宝映像は、今までよりちょっと新し目の2001年12月収録モノ。私の「VHS時代」は2003年までですから、ほぼ末期作品ですね。
今も昔も私が一番好きな大会の一つ、それが『全日本実業団対抗女子駅伝』であります。ま、どんなにブログをサボってる時でも実業団各チームの新年度戦力特集だけは欠かさないのをご覧いただければ、さもありなん、ですかな。この大会の映像は、たぶんある時期からは欠かさず録画していると思いますので、追々他の年のものもご紹介することになるでしょう。
2001女子駅伝04

◇21世紀最初の女王は?
…などと、TBSの好きそうなフレーズでお恥ずかしい限りですが、こんにち『クィーンズ駅伝』とかって勝手な命名をされて行われている大会、2010年までは岐阜県の長良川競技場を発着点とする往復コースで行われていました。(さらに初期は、コースも距離も異なりました)
距離は今と同じフルマラソン・ディスタンス、6区間になっています。ただ現在の宮城コースは3区が最長区間でエース級が集中するのに比較して、当時は5区の方が長く、ここにいかに信頼できるランナーを投入できるかが勝負の鍵となっていました。また3区と5区は大部分が同じコースの行き帰り、かつほぼ直線の単調なレイアウトだったため、走る選手にとってはむしろタフなコースと言えたのかもしれません。

20世紀の20回を振り返ると、当初は単独でチームを組める実業団がないため、地区対抗戦のような形で実業団女子駅伝の歴史が始まりました。第8回あたりから本格的な企業対抗の様相となり、この大会を目標にチーム編成をする企業も増えてきました。
初期の強豪チームと言えば、山下佐知子や荒木久美を擁した京セラ、宮原美佐子、朝比奈三代子らの旭化成、深尾真美らの三田工業など。1989(平成元)年からはワコールの黄金時代が続き、4連覇を含む5度の優勝、これに対抗したのが小出義雄監督率いるリクルート。90年代後半は川上優子を擁する沖電気宮崎(この大会から沖電気。その後OKI~廃部)が台頭し、4年間で3度の優勝を飾ります。合間の98年には、大南・川島という2組の双子姉妹の活躍で東海銀行が初優勝。そして前回、20世紀最後の大会では、土佐礼子・渋井陽子の二枚看板を揃えた三井生命が初優勝を飾っています。

当時は10月から11月に東日本、淡路島(中部、北陸、関西および中国・四国)、九州で地域大会が開催され、これを予選会として各地区に割り当てられた上位出場枠に入ったチームが、12月第2週の本戦に出場を認められていました。1980年代の好況の波に乗った企業は次々と女子チームを誕生させ、90年代は有森裕子らマラソン選手の世界的活躍が後押しをする形となって、最盛期には40チーム以上が本戦出場を目指す状況となっていきました。

今大会の優勝候補は、2連覇を目指す三井住友海上(この年から合併により社名変更)。エドモントン世界選手権に土佐(銀メダル)、渋井(4位)と2人の代表を輩出して最有力視はされているものの、その片翼・土佐が欠場となった他、実はぎりぎりの6人体制という苦しい状況にありました。
対抗は大エース弘山晴美に加えて日立から移籍のエスタ・ワンジロを迎え、戦力充実の資生堂。
ワコール黄金時代を築き上げた藤田信之監督が立ち上げたグローバリーは、「ハーフの女王」野口みずきを核に淡路島駅伝を初出場で制覇。本戦でも台風の目となることが期待されます。
9月にマラソンの世界新記録を樹立したばかりの高橋尚子は出場ならず、リクルートからチーム体制を引き継いで5年目となる積水化学は苦戦が予想されます。
第一放送車実況は、どこに述語があるのかよく分からない椎野茂アナ。解説はいつもの増田さん。

◇1区(長良川競技場~加納新本町 6.6㎞)
正午、各地区予選会勝ち上がった29チームが一斉にスタート。区間の中ほどに控える金華橋をアクセントとするコースです。
序盤積極的に前を引っ張る構えを見せたのが、21歳の坂本直子(天満屋)、20歳の尾崎好美(第一生命)といった若手勢。後にオリンピック代表となる両者とも、実力・知名度ともにまだまだの時代です。
やがてこの顔ぶれの中では一枚上手の実績を誇る橋本康子(日本生命)が集団を引っ張り始め、縦長となった集団から次々と選手がこぼれていく展開。最後は橋本、川島真喜子(東海銀行)、西村(グローバリー)、小林(デンソー)の争いとなって、川島のラストスパートを冷静に捌いた橋本が、貫禄の区間賞です。3位デンソー、4位グローバリー。
本命の三井は12秒差の5位に付け、その直後に資生堂。積水は苦しい11位発進。6人の先頭集団に残る健闘を見せた尾崎好は、終盤失速して13位に後退し、坂本の天満屋は15位です。
2001女子駅伝01
1区終盤、スパートした川島真を橋本がロックオン。

◇2区(~岐阜県庁 3.3km)
僅差の首位争いから抜け出したのは、177㎝の藤原夕規子(グローバリー)と152㎝の里村桂(デンソー)という凸凹コンビ。全行程をびっしりと競り合ったまま第2中継所へ飛び込み、最後で僅かに里村が差し切りました。日本生命は後退して東海銀行が3位。後方の集団では三井がしぶとく上位をキープ、資生堂(尾崎朱美=好美の姉)も負けじと食い下がり、さらに後方から追い上げた那須川瑞穂が僅差の6位に積水を押し上げました。
22歳の美人ランナー那須川は区間賞を獲得。その後も駅伝では切れ味鋭いスピードを武器に再三区間賞を獲得することになる彼女が、長きにわたる選手生活で初めて手にした勲章でした。


◇3区(~大垣市林町 10.0km)

デンソー・永山育美とグローバリー・野口みずきが並んでスタート。息つく間もなく、川島亜希子(東海銀行)、渋井陽子(三井住友海上)、エスタ・ワンジロ・マイナ(資生堂)、吉田香織(積水化学)、田中めぐみ(あさひ銀行)、松岡理恵(天満屋)、羽鳥智子(第一生命)…と、まさに百花繚乱、各チームの命運を託されたエース・ランナーが次々に飛び立って行きます。
この時点での下位チームでは、21位で福士加代子(ワコール)、22位で川上優子(沖電気)、25位で高橋千恵美(日本ケミコン)、27位で岡本治子(ノーリツ)らがスタート。こちらのグループには、豪快なゴボウ抜きの期待がかかります。
この大会出場者の中で、福士と吉田はいまだ第一線の現役。大したもんですねえ。

2001女子駅伝02
渋井と野口、豪華な同世代対決。この時は渋井が勝つも、6年後の東京国際女子マラソン
では野口がリベンジ達成。


すでに「ハーフの女王」の異名をとり、3か月後のマラソン・デビューを控えていた野口は、実力者の永山をすぐに振り切ると、今度は7秒後方から突進してきた渋井と肩を並べるデッドヒートを繰り広げます。同学年ながら一足先にマラソン世界デビューを果たしていた渋井が、中間点を過ぎてスパート。やはりこの距離のスピードでは一日の長があり、徐々に野口との差が広がります。
結局盤石の走りで2連覇の軌道に乗った渋井がトップでリレー。野口もずるずると後退することなく傷を最小限に留め、13秒差の2位でこれに続きます。
後方で猛追を見せたのは、女子駅伝の“風物詩”となりつつあった福士加代子のチョンマゲ姿。中間点の5㎞を渋井より9秒速い15分09秒で通過すると、あっという間に3位グループに取りつきました。
最後はラストスパートに定評のある田中が首位から30秒差で3位通過を死守し、東海銀行、ワコール、天満屋、資生堂と第3中継所に雪崩れ込みます。この辺りは、さすがにエース揃いの3区というところ。福士は16人抜きの激走で渋井に25秒差をつける31分36秒の区間賞。区間記録保持者のワンジロはやや精彩を欠いて順位を2つ落とし、資生堂は苦しくなりました。
2001女子駅伝03
区間賞の福士とトップ通過の渋井が並んでインタビュー。渋井は終始浮かない表情。

◇4区(~大垣市総合体育館 4.1km)
マラソンランナーの市河麻由美を短距離区間に充てなければならないところに、三井の苦しい台所事情が伺えました。
追走するグローバリー永井彩子、さらには天満屋の山崎智恵子がともに差を詰め、上位3チームは再び団子状態に接近してきますが、何とか市河が首位を守り切りました。上位チームは多少の順位変動はありながらも、約30秒の間に7チームがひしめく展開に変わりはありません。あさひ銀行が3位から7位に後退。資生堂は嶋原清子の力走で何とか食らいつき、5区・弘山に全てを委ねます。

◇5区(~陽南中学校 11.6km)
先頭・三井住友海上の5区は坂下奈穂美。
とかく「土佐・渋井の2枚看板」と言われる同チームにあって、実は最も監督の信頼厚く、それに応える走りを常に見せてきた駅伝マイスター。事実上、三井大躍進の大黒柱は坂下、というのも過言ではありません。美人の上に佇まいが何とも言えず格好よく、私が大好きな選手の一人でした。
ワコール所属時代にも優勝メンバーとなっており、2チームに跨って優勝に貢献したというのは大会史上初の快挙。後年唯一人、これに並んだのが豊田自動織機とユニバーサルエンターテインメントの新谷仁美。その新谷は、今年積水化学の一員となって前人未到「3チームで優勝メンバー」に挑むチャンスがあります。
なお10位以下のチームでも、北島良子(富士銀行)、安藤美由紀(第一生命)、藤川亜希(ラララ)、小鳥田貴子(デオデオ)、小﨑まり(ノーリツ)と、人気選手が数多く出走していた「華の5区」です。

その坂下が期待どおり、区間賞の走りでグローバリー田村育子以下を突き放し、遂に三井は独走態勢を確立します。
田村は翌年1500mで日本選手権3連覇、1500とマイルの日本記録を樹立する中距離の第一人者ですから、この最長区間は少し荷が重すぎたに違いありませんが、それにしては踏みとどまります。一旦並ばれた天満屋・山本奈美枝も競り落として、2位の座を譲りませんでした。
期待された資生堂の弘山晴美は、3区・ワンジロに続いて不発気味。ワコールを抜いただけで上位進出ならず、優勝はほぼ絶望的。
5区に大砲を置けることが戦略的にいかに重要かを、如実に物語る結果とはなりました。
2001女子駅伝05
第5中継所でチームの優勝に歓喜する、左から4区・市河、5区・坂下、介添の土佐。

◇6区(~長良川競技場ゴール 6.595km)
2位に59秒の大差をつけて第5中継所に飛び込んだ三井は、アンカーに入社2年目ながらその後長く中心選手として活躍する大平美樹を配して、盤石。興味はむしろ混戦の2位・3位争いとなります。
初出場・初優勝に僅かな望みを繋いだグローバリーは、アンカーの斉藤智恵子が力及ばず陥落。大南博美から大南敬美へ、最強ツインズ・リレーの東海銀行が、38秒差まで詰め寄って第2位。前半に主力選手を並べながらむしろ後半4区、6区の奮闘が目立った(山崎、北山ともに区間賞)天満屋が3位、4位資生堂、5位グローバリーまで、その差は1分04秒に過ぎませんでした。
以下、サニックス、スズキ、あさひ銀行、富士銀行、デンソーと、10位までの順位が続きます。
スズキ(現在はクラブチーム「スズキ浜松AC」として実業団非加盟)は大会の冠スポンサーでもあり、前々回3位、前回2位と躍進が続いてこの大会に期待するところ大きかったと思われますが、エースの松岡範子を故障で欠いたダメージは大きく、上位争いには一度も絡めませんでした。
翌年初優勝を飾る第一生命は12位、期待された積水化学は17位、ワコールは19位と惨敗です。

2000年から2009年までの10年間で実に7度の優勝を飾り、「駅伝女王」の名を欲しいままにする三井住友海上が、翌年小休止を挟むことになるとはいえ、その地盤をしっかりと固めた第21回大会でした。

もうすぐ春ですね♪~実業団女子の新勢力図やいかに?



春は出会いとともに別れの季節…陸上界では、トラック&フィールドの場合はシーズン終了が晩秋になるため少し事情は異なりますが、冬のロードレース・シーズンを一区切りとする長距離ブロックでは、先週国内の主要レースが終了し、再来週には各チームの新戦力が公式に始動する、というのがこの時期ですね。
私がエコヒイキする女子の長距離界でも、去る人・来る人の話題がちらほらと聞こえてくる、寂しさ半分・期待感半分の微妙な時期。特に「引退」の情報はよほどの大物ランナーでない限りはなかなか表だって報道されるようなこともないので、ふとした記事やコメントからそれと知れると、何とも言えない寂しさを感じてしまいます。

情報的には少し古くなってしまいますが、今季、女子長距離選手の「引退」で最も衝撃があったのは、那須川瑞穂選手(ユニバーサルエンターテインメント)と森唯我選手(ヤマダ電機)。

那須川選手は昨年11月の『さいたま国際マラソン』で日本人1位とはなりましたが記録は2時間33分台と低調で、「世界と戦えるためのトレーニングができなくなった」ことを理由に同月中にチームを退部、年内をもって退社したとのことです。
見るからに人柄の良さが伺える明るい笑顔の美人ランナーとして、世間一般の知名度はともかく陸上長距離ファンの間では絶大な人気を誇っていた那須川選手。女子ではそろそろ“レジェンド”なんて呼ばれ始めている渋井陽子選手(三井住友海上)の1学年下で、その渋井選手と同様、いつまでも元気な姿を見せてくれていそうな気がしていただけに、この「気が付いたら引退していた」という状況は、何とも残念でした。

佛教大時代から「カリスマ・キャプテン」の異名をとった森唯我選手も、今年1月に同じく佛教大出身の森知奈美選手とともに、引退が発表されました。むろん、一般のメディアで話題となることはなく、チームのHPに告知が出ただけです。
ヤマダ電機をいったん退職して母校のコーチに就きながら、思い断ちがたく2012年に現役復帰。2013年、14年と連続して『全日本実業団女子駅伝』の1区で鮮烈なラストスパートを決め、区間賞を獲得しました。後輩たちに「背中を見せ続ける」ことで佛教大やヤマダ電機を強豪チームにまで引き上げた、女子には珍しいタイプの名リーダーだったと言えるでしょう。
そういえば、那須川選手も『実業団駅伝』ではしばしば1区を務め、岐阜で行われた最後の大会で区間賞を獲ったのではなかったでしょうか?

森選手と同期で大学時代は宿命のライバル関係にあった立命館のキャプテン、小島一恵選手(豊田自動織機)も、1月の『大阪ハーフマラソン』がラスト・ランとなりました。
こちらの方は、実業団入りしてからは故障続きで駅伝の出場もルーキー・イヤーのみ。7年間の実業団生活は苦悩ばかりの日々だったかと察します。最後にハーフを元気に走り切ることができたのは、何よりでした。 

森選手や小島選手の場合は、チームのHPに控え目ながらも告知が掲載されたのですが、どうも傾向としては、何のお報せもなくプロフィールページから姿を消してしまう、ということが多いみたいです。私みたいに選手個々と同様にチームの戦いとして『実業団駅伝』などを注視している人間にとっては、何ともやり切れない気持ちがします。
たとえばダイハツの岡小百合選手や樋口智美選手。地味めな存在でしたが伝統チームの中堅で活躍、特に岡選手は長い故障がようやく癒えてこれから、というところだったように見えていましたが…。
『実業団駅伝』で思いもかけぬ「失格」劇を演じてしまった豊田自動織機の島田美穂選手、『予選会』でユタカ技研躍進の一翼を担った高野智声選手は、ともに期待の高卒ルーキー。いったい、何があったんでしょうか?
若くして選手生活を断念するような故障に見舞われたのか、島田選手はよもや失格騒動が原因で、ってことはないでしょうけど…あるいは環境を変えての再出発ということもあるかもしれませんが、このあたりの情報不足がプロ野球やサッカーなどと違って、もどかしいところですね。
まだチームHPには残っていますが、清水裕子選手(積水化学)や松見早希子選手(第一生命G.)のように、レース実況の中で「ラストラン」が伝えられている選手もいます。お疲れさまでした。

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さて、去る人がいれば来る人もいる、ということで、各チームの補強状況を分かっている限り見てみますと。
前述のダイハツは、前年の坂井田歩キャプテンに続いて中軸2人が抜けて、現有戦力は僅か7名。その顔ぶれは木﨑良子を筆頭に前田彩里、松田瑞生、吉本ひかり、久馬姉妹とビッグネームがズラリ、ではありますが、松田以外は故障との付き合いが長い選手ばかり。現在のメンバー紹介ページを見る限りは、チーム編成にすら苦労しそうです。
ここに「救世主」のごとく加入するのが、大学長距離界のヒロイン・大森菜月(立命館大)。大森自身もここ2年間は故障との戦いでしたが、何とか名門チームを立て直す力になってほしいものです。また大森の同級生・池本愛と高校生2人(下田平渚、柴田佑希)も加わって、どうやら駅伝メンバーが組めないという事態は免れそうです。

大森世代が無類の強さを誇った立命館では、結局その代で最後まで続けたのは7名だけだったようです。
キャプテン菅野七虹は、豊田自動織機。昨年「失格」がなければ優勝争いを繰り広げていたはずの駅伝チームにとっては、3000m9分15秒の川口桃佳(岡崎学園)、移籍加入の萩原歩美(前ユニクロ)とともに強力な補強となりそうです。また、引退した小島一恵から沼田未知、藪下明音に続く「リッツのキャプテン」の系譜は、良くも悪くもこのチームのカラーを形成していくことになるのかもしれません。(小出門下時代には考えられなかったようなチームカラーです)
京美人の池内綾乃は、デンソー。駅伝3連覇の後に戦力が急降下してしまったこのチームは、今年は予選会からの立て直しとなります。
園田聖子は九電工、廣田麻衣は積水化学。青木奈波は…すいません、不明です。

大学女子のライバルに急成長した松山大学では、キャプテンの中原海鈴が昨年予選会1位のTOTO、『富士山』アンカーの松田杏奈が同3位の京セラと、実業団でも下剋上ねらい?…いっぽう上原明悠美は日本郵政G.、三島美咲はユニバーサルと、強豪チームでレギュラーを目指します。
名城大エースの湯澤ほのかは積水化学、大東大の木村芙有加は日本郵政G.、小枝理奈は第一生命G.、瀬川帆夏はシスメックス。今年に入って精力的にマラソン、ロードレースに挑んでいる新井沙紀枝(大阪学院大)は肥後銀行。

高卒組はどうかと言いますと、昨年の女子中長距離は高1・高2の当たり年で、各種目ランキング上位のかなりの部分を占めており、卒業生はやや押され気味。そんな中で注目度の高かった選手では、加世田梨花(成田高→名城大)、樺沢和佳奈(常盤高→慶應義塾大)、高橋ひな(西脇工業→早稲田大)など、多くは大学進学。
実業団入りの動向で目を惹くのは、第一生命G.の嵯峨山佳菜未(大阪薫英女学院)と向井優香(世羅高)、そしてユニバーサル入りの猿見田裕香(豊川高)。それから忘れちゃいけない大物、モニカ・マーガレット(青森山田高)が三井住友海上。このチームで外国人ランナーは初めてかな?

まだ動向の不明な選手もいて、実業団各チームのホームページの更新精度にもバラつきがあるので年度が変わってからしばらくしないと確定情報は掴めないかもしれませんが、実業団女子長距離各チーム「2017年度戦力」のおおよそのところは、朧げに見えてきました。
昨年アッと驚く日本一の座に駆け上がった日本郵政グループは、新興チームなだけに主力選手が引退するということもなく、去年の戦力はそのままに、いま判っているだけでも4名の新人を加入させ、部員17名という名実ともに最大勢力になります。さすが、金持ってるとこは違いますねぇ。
昨年はじめまで15名の最大チームだったユニバーサルは、後藤奈津子(宮崎銀行)、永尾薫(Team AOYAMA)、那須川と主力が相次いで抜け、補強は三島、猿見田のほか秋山桃子(筑波大)で分厚い選手層はキープ。
豊田自動織機は前述のとおりで、島田が抜けたのは痛いがそれを上回る戦力アップの様相。何と言ってもユニクロから移籍の萩原の復調次第で、どんなチーム編成になるか、楽しみです。
ヤマダ電機は大きな補強はないものの、新リーダーとなる西原加純の勢いが、そのままチームの勢いとなるような気がします。
昨年躍進した京セラは、松田のほか鹿屋体育大から盛山鈴奈と藤田理恵、関西外語大からマラソン経験もある床呂沙紀と即戦力が大量加入して、今年の台風の目になるかもしれません。

いやあ、11月の『全日本実業団女子駅伝』がどうなるか、楽しみですねえ…その前にいろいろあるだろう!、って、まあそのとおりなんですけど。
え、男子はどうなんだって?…あんまり詳しく調べてないんで、まだよく分かりません!


1日に3つも女子ロードレース…なんだかなあ



またまた遅ればせながらの観戦記事で恐縮ですが、13日の日曜日、女子の主要ロードレースがいっぺんに3つも行われました。
このあたり、雨後のタケノコのごとくレースが乱立したおかげもあって、きちんとしたロードマップなしにスケジュールが立っているような印象を免れません。当然のことながら、それぞれのレースの存立意義というものが希薄になってしまいますんで、陸連やら何やらでもう少し上手に舵を切ってもらいたいものだと思います。

◆「さいたま国際」は代表選考会の看板を降ろすべし!
まずは、『さいたま国際マラソン』を槍玉に挙げちゃいます。
前身ともいえる『横浜国際女子マラソン』が終結宣言を出した2年前、私は別のところでこんな記事を書いています。
せっかく、広告代理店の利権に囚われて4大会も指定しなければならなかった代表選考会が1つ減るのだから、そこを代替する必要などないだろう。分散していた有力選手が多少なりとも集中することでもあるし。
女子限定のエリート・レースは、大阪と名古屋の2つだけで十分だ。
そうなんです。「4大会」というのは、オリンピック代表の選考会の場合は前年の世界選手権を、今年の場合で言えば北海道のような「準選考レース」を含めてのことなんですけど、とにかく日本のマラソンが常に物議を醸すのは、代表選考レースが多すぎることによる混乱ゆえです。「横浜」の撤退で、女子はそれが1つ減る絶好のチャンスだったのに、なぜみすみす代替大会の創設を許してしまったのか、理解に苦しみます。
まあそれほど、商売上の「利権」というものがその筋の人々にとってはいかに重要か、ということなんでしょう。「代表選考会」という肩書があるのとないのとでは、大違いですからね。

「横浜→さいたま」の場合、主催者関係に名を連ねていた朝日新聞・テレビ朝日系列はそのまま手を引いたのですが、もともと「横浜」は、さらに前身である『東京国際女子マラソン』と毎年2月に行われていた『横浜国際女子駅伝』が(商売上)統合する形で成立したために、朝日系列と讀賣新聞・日本テレビ系列が共催するというややこしい名義関係でスタートしました。讀賣系は2012年に主催関係から降りたものの、後援名義は残していたために、「さいたま」創設のチャンスにしがみついた、というところでしょうか。

そうこうして始まった昨年の「第1回さいたま国際マラソン」は、案の定、「代表選考会」とは名ばかりのお寒いレースとなりました。
ロンドン女王のチキ・ゲラナ(ETH)を招待したのはいいけれど明らかに顔見世程度の状態で、代わって優勝した同僚のアツェデ・バイサのタイムは2時間25分台。日本人1位はどう見ても代表戦線にはかかってこなさそうな28分台で吉田香織。
「東京」の頃から開催時期の11月中旬は予期せぬ小春日和になってしまう可能性を孕んでおり、記録を狙う大会としては少々難がありましたし、コースも未知数ということで、オリンピック代表選考のかかる昨年は多くの有力選手が敬遠するだろうという予測があって、その通りの大会となってしまったのでした。

コースそのものも、全体に平坦とはいえ立体交差や跨線橋による細かい起伏が随所にあるいかにも大都市近郊型の道路状況は、ランナーにとって心地よいものとは思えませんでした。それは即ち、「好記録には結びつかない」ということになると思います。ワールド・メジャー大会でありながら記録が出にくいとされる、ニューヨークシティ・マラソンと同じような特徴のコースとも言えます。
かつての「東京国際」のコースは終盤に名物の登り坂が控える難コースとされる一方で、それが大きな勝負のポイント、アクセントとなってレースを見ごたえあるものにしていたのとは、ずいぶん趣が異なります。大都市の「名所」を次々と巡る「東京」「横浜」の景観も、ランナーのメンタル面にはプラスに作用していたことでしょうが、そういうものがなく、また田園風景の美しさがあるというわけでもない「さいたま」のコースは、走る者にとっても見る者にとっても甚だ魅力に乏しいと言わざるを得ません。
要するに、「代表」を目指すトップランナーにとって、「さいたまは敬遠」の風潮は今後も続くに違いない、と思わされるのです。
こういう大会を「代表選考会」として存続させることには、大きな疑問を覚えます。

そういうわけで、今回も日本勢トップランナーのエントリーはなく、那須川瑞穂と吉田香織、2人のベテランに期待するしかないという状況では、昨年同様のお寒い結果は目に見えていました。
中継する日テレとしては、実は世界選手権の代表選考レースの中継は2011年に変則で2月に開催した「横浜」以来2回目ということもあって、気合の入りようは十分でした。男子の「東京マラソン」は前身の「東京国際マラソン」以来ずっと、産経新聞・フジテレビ系列と讀賣系の隔年開催で、オリンピック代表選考の年は必ず讀賣系が「当番」となっている一方で、世界選手権代表選考レースを主催・中継したことは一度もなかったのです。
マラソン界の2大美熟女と言ってもよい那須川と吉田の存在は、テレビのビジュアル的にも期待するところ大きかったのでしょうが、序盤から先頭集団の速い(というかごく普通の)ペースに付いていくことができずに興味は半減。日本人トップを確保した那須川のタイムは2時間33分台と、惨憺たる結果に終わりました。
両美熟女は、十分に現状の実力を発揮してレースを終えたと思います。「世界」に挑もうというレベルの選手たちが、一人も「さいたま」を走る気にならなかったと、それだけのことです。
この結果を、陸連は憂うるのではなくて、真摯に自らの課題として受け止めてもらいたいものだと切に思います。

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◆開催意義と日程が問われる2つの女子駅伝
「さいたま」は朝9時10分のスタートでしたが、福島と福井では、同じお昼時に2つの女子駅伝がスタートしました。
『第32回東日本女子駅伝』は、1月に開催される『全国都道府県対抗女子駅伝』の東日本限定版として行われている大会ですが、これも今一つ存在意義の分からないレースです。まあ、文字どおり「全国」のプレ大会として捉えるべきものなんでしょう。各チームの中高生にとっては、それなりに意義深いものがあるかもしれません。
同じく第32回となった『FUKUIスーパーレディス駅伝』は、実業団・大学・市民ランナー・府県選抜のチームが一堂に会するという大会で、それなりに開催意義が明確です。そうは言っても、なにも「東日本」と同じ日にやらなくてもいいのに、と思わないわけにはいきません。

「東日本」は「全国」のプレ大会とはいえ、主力となる実業団・大学のメンバーは玉が揃わず、主に中高生の強化練習試合、といった雰囲気です。ここから「全国」の有力チームを占う、ということまでは難しい。
そんな中で、1区で上原美幸(第一生命)、安藤友香(スズキ浜松AC)、岡本春美(三井住友海上)などの有力ランナーを制して区間賞をさらった和田有菜(長野東高2年)で勢いに乗った長野県が、中高生・大学生だけのメンバーで優勝してしまいました。
驚いたことに長野は「FUKUI」にも選抜チームを送り込んでおり、「全国」へ向けて並々ならぬ強化の意欲を見せているようです。
2016東日本駅伝
1区で岡本(群馬)、安藤(静岡)らを置き去りにした和田有菜(長野・左)と加世田梨花(千葉・成田高3年)

「全国」ではここ数年いつも優勝候補に名の上がる群馬県は、主力のヤマダ電機が「FUKUI」へ行ってしまっていることもあって、12位に終わりました。一人気を吐いたのが、5km超の5区で区間賞を奪った林英麻(高崎健康福祉大高崎高2年)。中学時代から都道府県対抗では大いに注目されていた選手で、常盤高がいるために「全国高校駅伝」で見ることはできませんが、1月の「全国」での活躍が期待されます。
まあこのあたりの活きのいい高校生の走りを見られたことが、収穫と言えるでしょうかね。

いっぽう「FUKUI」は、今年から『全日本実業団女子駅伝』の開催が早まったことが影響してか、例年より実業団チームの出場が少なかったようです。「予選会」と「本戦」の狭間にあって、去年は「予選会」免除のシードチームのいくつかを見られるチャンスだったのですが、今回シードチームはヤマダ電機と九電工の2社のみ。ちなみに昨年は、上位8位までを実業団チームが占めています。
ほぼフルメンバーを揃えたヤマダ電機が、1区の竹地志帆が取りこぼした以外の全区間で区間賞をさらう圧倒的な戦力で、悠々連覇を飾りました。九電工はエースの加藤岬を欠いたとはいえ、「全日本」を制するには今少し力不足の感を否めません。
他の実業団チームはいずれも「全日本」出場を逃したシスメックス、エディオン、鹿児島銀行で、二軍メンバーで3位に入った立命館大以下の大学チームに歯が立たなかった状況では、それも止む無しといったところでしょう。

今大会では実力的に格上だったので優勝は当然の結果ながら、ヤマダ電機の戦力充実ぶりには目を瞠るものがあります。
今年の「全日本」は、3連覇中のデンソーが高島由香の抜けた戦力ダウンでピンチを迎えているところで、豊田自動織機とヤマダ電機の一騎討ち、というのが予想される展開になってきました。ヤマダにとって大きいのは、この時期いつも不調のどん底にいる西原加純がまずまずの走りを見せたこと、石井寿美、筒井咲帆らがエース級の実力を身に着けてきたことでしょう。今回欠場の森唯我キャプテン、デンソーから移籍の石橋麻衣あたりが戻ってくれば、万全の布陣となります。

ヤマダが強過ぎてレースとしては興ざめの部分もありましたが、本来この「FUKUIスーパーレディス駅伝」は、前述のようにカテゴリーに囚われない女子チームが参加してくる大会として、もっと面白いものになっていい大会です。
以前このブログで「マラソンに日本選手権を!」と主張した私ですが、実は駅伝にも、実業団や大学、高校、スズキ浜松ACのようなクラブチームが一堂に会する「日本選手権」って、ないんですよね。日本独自の競技種目である駅伝というスポーツの日本一を決める大会は、ぜひあるべきだと思いますし、それが将来的にオリンピックや世界選手権の種目になるための機運を盛り上げていく、第一歩となるはずです。
そのためには、乱立するマラソンや駅伝ほか各種ロードレースのスケジュールをいったん白紙に戻して、長距離界の強化につながるきちんとしたロードマップを整備する、日本陸連の強いリーダーシップが必要だと思います。その大きな阻害要因となるのが前述した「商売上の利権」であることは間違いないのですが、その必要性を広く公明に世に訴えることで、道は拓けるのではないでしょうか。
今のままでは、「さいたま国際マラソン」も「東日本女子駅伝」も「FUKUIスーパーレディス駅伝」も、その存立意義が疑われます。面白いレースを見せていくにはどうしたらいいか…マラソンと駅伝の日本選手権をどのように実現していくべきか…新生・陸連長距離部会の手腕を見せるのは、今がポイントだという気がします。

 
ギャラリー
  • 『第42回全日本実業団対抗女子駅伝』大胆展望
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