◆男子低迷に風穴は開くか?
例年6月下旬開催の日本選手権では、私の大好きな長距離種目を苛立たしく眺めるのがここのところのお決まりとなっています。
「標準記録(願わくば派遣設定記録)を破っての優勝争い」が日本選手権の重要テーマであるにも関わらず、とりあえず順位狙いだけに終始してペースが上がらない、というレースがとりわけ男子では常態化してしまっているからです。
この時期は気温が20度を下ることはまず考えにくく、長距離種目には不向きなことは重々分かりますが、「日本」の先の「世界」やオリンピックは真夏のレースが待ち構えているのであり、「日本選手権で3位以内に入っておいて涼しいホクレンで標準狙い」という姑息な戦略では、いつまで経っても世界に追いつくことは難しいと言わざるを得ません。むろん、それが現在の身の丈に合った唯一選択できる戦略というランナーも多いとは思いますが、十分に「標準」を狙える選手でもそれに合わせてしまう傾向というのは、見ていて何とも歯がゆいものです。
女子では、昨年は「恵みの雨」に助けられたところはあったとはいえ、ハイレベルな上位争いが迫力たっぷりに繰り広げられましたし、数年前の新谷仁美さんのように積極果敢に夏のレースでPBを連発していた選手もいます。外国人ランナーのオープン参加が認められているのも、好記録を出させたいという陸連の思惑あってこそだと思いますので、何とかそれに応えるレースを、と期待します。
◆中距離は戸田に期待
800mは横田真人の引退で孤高の存在となった川元奬(スズキ浜松AC)の独擅場となりそうで、この種目でペースメーカーもなく記録を狙うのは大変なこととは思うのですが、何とか45秒台の期待をしたいと思います。(「標準」は1分45秒90)
1500mでは、駅伝1区でも鋭いスパートを見せていた戸田雅稀(日清食品G.)が、今回は長距離種目との二股を回避してこの種目にフォーカス。昨年同様の調子ならば、一歩抜けたスピードがあると思われますが、今季ここまで名前が出てきていないのが気に掛かります。本調子になければ一転して混戦模様となり、好調の館澤亨次(東海大2)が抜け出すかもしれません。昨年高校生で健闘した遠藤日向(住友電工)にも注目です。
3000mSCは、こちらもオリンピック以降フラットレースを走っていた塩尻和也(順大3)が久々に本職復帰。昨年同様、潰瀧大記(富士通)との一騎討ちになることが予想される中で、両者ともに標準記録(8分32秒00)有効期間の前にそれ以上のタイムで走っていることから、ダブルで代表の座を掴むチャンスです。
◆長距離は大迫軸に戦国の様相
大迫傑(NIKE.O.P.)、村山紘太(旭化成)、設楽悠太(HONDA)のリオ代表3人がいちおう「3強」を形成するイメージがある一方、今季は鎧坂哲哉(旭化成)や上野裕一郎(DeNA)が復調気配。さらに上昇株では5000mで松枝博輝(富士通)、10000mで神野大地(コニカミノルタ)の名前が見逃せません。
加えて、10000mではかつて4連覇の実績を誇る佐藤悠基(日清食品G.)がエントリーしてきました。すでに矛先をマラソンにシフトしているので「標準」にこだわるレースをするとは思えません。とはいえ、現在の絶対エースである大迫に3タテを食らわせた勝負強さは健在でしょうから、ラスト1周にまでもつれ込めば、最も怖い存在となりそうです。
冒頭に述べたように、実力者が積極的な記録狙いのレースを展開すれば結果も読みやすいのですが、標準記録にこだわらないペースになると、どんな伏兵が足元を掬うか分かったものではありません。いちおう5000、10000ともに各選手が大迫の動向を気にしながらのレースとなるのは間違いなく、「標準」未到達の大迫や鎧坂が速い展開に持ち込んでくれるのではないかと思ってはいますが、「前半は上野さん、お願いします」みたいな雰囲気になると、膠着してしまいますね。
なお「標準」は5000mが13分22秒60、10000mが27分45秒00、現在の到達者は10000mの村山紘太ただ一人です。