春は出会いとともに別れの季節…陸上界では、トラック&フィールドの場合はシーズン終了が晩秋になるため少し事情は異なりますが、冬のロードレース・シーズンを一区切りとする長距離ブロックでは、先週国内の主要レースが終了し、再来週には各チームの新戦力が公式に始動する、というのがこの時期ですね。
私がエコヒイキする女子の長距離界でも、去る人・来る人の話題がちらほらと聞こえてくる、寂しさ半分・期待感半分の微妙な時期。特に「引退」の情報はよほどの大物ランナーでない限りはなかなか表だって報道されるようなこともないので、ふとした記事やコメントからそれと知れると、何とも言えない寂しさを感じてしまいます。
情報的には少し古くなってしまいますが、今季、女子長距離選手の「引退」で最も衝撃があったのは、那須川瑞穂選手(ユニバーサルエンターテインメント)と森唯我選手(ヤマダ電機)。
那須川選手は昨年11月の『さいたま国際マラソン』で日本人1位とはなりましたが記録は2時間33分台と低調で、「世界と戦えるためのトレーニングができなくなった」ことを理由に同月中にチームを退部、年内をもって退社したとのことです。
見るからに人柄の良さが伺える明るい笑顔の美人ランナーとして、世間一般の知名度はともかく陸上長距離ファンの間では絶大な人気を誇っていた那須川選手。女子ではそろそろ“レジェンド”なんて呼ばれ始めている渋井陽子選手(三井住友海上)の1学年下で、その渋井選手と同様、いつまでも元気な姿を見せてくれていそうな気がしていただけに、この「気が付いたら引退していた」という状況は、何とも残念でした。
佛教大時代から「カリスマ・キャプテン」の異名をとった森唯我選手も、今年1月に同じく佛教大出身の森知奈美選手とともに、引退が発表されました。むろん、一般のメディアで話題となることはなく、チームのHPに告知が出ただけです。
ヤマダ電機をいったん退職して母校のコーチに就きながら、思い断ちがたく2012年に現役復帰。2013年、14年と連続して『全日本実業団女子駅伝』の1区で鮮烈なラストスパートを決め、区間賞を獲得しました。後輩たちに「背中を見せ続ける」ことで佛教大やヤマダ電機を強豪チームにまで引き上げた、女子には珍しいタイプの名リーダーだったと言えるでしょう。
そういえば、那須川選手も『実業団駅伝』ではしばしば1区を務め、岐阜で行われた最後の大会で区間賞を獲ったのではなかったでしょうか?
森選手と同期で大学時代は宿命のライバル関係にあった立命館のキャプテン、小島一恵選手(豊田自動織機)も、1月の『大阪ハーフマラソン』がラスト・ランとなりました。
こちらの方は、実業団入りしてからは故障続きで駅伝の出場もルーキー・イヤーのみ。7年間の実業団生活は苦悩ばかりの日々だったかと察します。最後にハーフを元気に走り切ることができたのは、何よりでした。
森選手や小島選手の場合は、チームのHPに控え目ながらも告知が掲載されたのですが、どうも傾向としては、何のお報せもなくプロフィールページから姿を消してしまう、ということが多いみたいです。私みたいに選手個々と同様にチームの戦いとして『実業団駅伝』などを注視している人間にとっては、何ともやり切れない気持ちがします。
たとえばダイハツの岡小百合選手や樋口智美選手。地味めな存在でしたが伝統チームの中堅で活躍、特に岡選手は長い故障がようやく癒えてこれから、というところだったように見えていましたが…。
『実業団駅伝』で思いもかけぬ「失格」劇を演じてしまった豊田自動織機の島田美穂選手、『予選会』でユタカ技研躍進の一翼を担った高野智声選手は、ともに期待の高卒ルーキー。いったい、何があったんでしょうか?
若くして選手生活を断念するような故障に見舞われたのか、島田選手はよもや失格騒動が原因で、ってことはないでしょうけど…あるいは環境を変えての再出発ということもあるかもしれませんが、このあたりの情報不足がプロ野球やサッカーなどと違って、もどかしいところですね。
まだチームHPには残っていますが、清水裕子選手(積水化学)や松見早希子選手(第一生命G.)のように、レース実況の中で「ラストラン」が伝えられている選手もいます。お疲れさまでした。
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さて、去る人がいれば来る人もいる、ということで、各チームの補強状況を分かっている限り見てみますと。
前述のダイハツは、前年の坂井田歩キャプテンに続いて中軸2人が抜けて、現有戦力は僅か7名。その顔ぶれは木﨑良子を筆頭に前田彩里、松田瑞生、吉本ひかり、久馬姉妹とビッグネームがズラリ、ではありますが、松田以外は故障との付き合いが長い選手ばかり。現在のメンバー紹介ページを見る限りは、チーム編成にすら苦労しそうです。
ここに「救世主」のごとく加入するのが、大学長距離界のヒロイン・大森菜月(立命館大)。大森自身もここ2年間は故障との戦いでしたが、何とか名門チームを立て直す力になってほしいものです。また大森の同級生・池本愛と高校生2人(下田平渚、柴田佑希)も加わって、どうやら駅伝メンバーが組めないという事態は免れそうです。
大森世代が無類の強さを誇った立命館では、結局その代で最後まで続けたのは7名だけだったようです。
キャプテン菅野七虹は、豊田自動織機。昨年「失格」がなければ優勝争いを繰り広げていたはずの駅伝チームにとっては、3000m9分15秒の川口桃佳(岡崎学園)、移籍加入の萩原歩美(前ユニクロ)とともに強力な補強となりそうです。また、引退した小島一恵から沼田未知、藪下明音に続く「リッツのキャプテン」の系譜は、良くも悪くもこのチームのカラーを形成していくことになるのかもしれません。(小出門下時代には考えられなかったようなチームカラーです)
京美人の池内綾乃は、デンソー。駅伝3連覇の後に戦力が急降下してしまったこのチームは、今年は予選会からの立て直しとなります。
園田聖子は九電工、廣田麻衣は積水化学。青木奈波は…すいません、不明です。
大学女子のライバルに急成長した松山大学では、キャプテンの中原海鈴が昨年予選会1位のTOTO、『富士山』アンカーの松田杏奈が同3位の京セラと、実業団でも下剋上ねらい?…いっぽう上原明悠美は日本郵政G.、三島美咲はユニバーサルと、強豪チームでレギュラーを目指します。
名城大エースの湯澤ほのかは積水化学、大東大の木村芙有加は日本郵政G.、小枝理奈は第一生命G.、瀬川帆夏はシスメックス。今年に入って精力的にマラソン、ロードレースに挑んでいる新井沙紀枝(大阪学院大)は肥後銀行。
高卒組はどうかと言いますと、昨年の女子中長距離は高1・高2の当たり年で、各種目ランキング上位のかなりの部分を占めており、卒業生はやや押され気味。そんな中で注目度の高かった選手では、加世田梨花(成田高→名城大)、樺沢和佳奈(常盤高→慶應義塾大)、高橋ひな(西脇工業→早稲田大)など、多くは大学進学。
実業団入りの動向で目を惹くのは、第一生命G.の嵯峨山佳菜未(大阪薫英女学院)と向井優香(世羅高)、そしてユニバーサル入りの猿見田裕香(豊川高)。それから忘れちゃいけない大物、モニカ・マーガレット(青森山田高)が三井住友海上。このチームで外国人ランナーは初めてかな?
まだ動向の不明な選手もいて、実業団各チームのホームページの更新精度にもバラつきがあるので年度が変わってからしばらくしないと確定情報は掴めないかもしれませんが、実業団女子長距離各チーム「2017年度戦力」のおおよそのところは、朧げに見えてきました。
昨年アッと驚く日本一の座に駆け上がった日本郵政グループは、新興チームなだけに主力選手が引退するということもなく、去年の戦力はそのままに、いま判っているだけでも4名の新人を加入させ、部員17名という名実ともに最大勢力になります。さすが、金持ってるとこは違いますねぇ。
昨年はじめまで15名の最大チームだったユニバーサルは、後藤奈津子(宮崎銀行)、永尾薫(Team AOYAMA)、那須川と主力が相次いで抜け、補強は三島、猿見田のほか秋山桃子(筑波大)で分厚い選手層はキープ。
豊田自動織機は前述のとおりで、島田が抜けたのは痛いがそれを上回る戦力アップの様相。何と言ってもユニクロから移籍の萩原の復調次第で、どんなチーム編成になるか、楽しみです。
ヤマダ電機は大きな補強はないものの、新リーダーとなる西原加純の勢いが、そのままチームの勢いとなるような気がします。
昨年躍進した京セラは、松田のほか鹿屋体育大から盛山鈴奈と藤田理恵、関西外語大からマラソン経験もある床呂沙紀と即戦力が大量加入して、今年の台風の目になるかもしれません。
いやあ、11月の『全日本実業団女子駅伝』がどうなるか、楽しみですねえ…その前にいろいろあるだろう!、って、まあそのとおりなんですけど。
え、男子はどうなんだって?…あんまり詳しく調べてないんで、まだよく分かりません!