豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

岩出玲亜

とりあえず、長期サボリからの復帰伺い


たいへんたいへん、ご無沙汰をいたしました。
陸上ブログから脱線して「ピョンチャン五輪のミカタ」なんぞという記事を力いっぱい書いてから約1カ月。そのピョンチャン五輪もとうに終わってパラのほうが始まってるというこの時期。恥ずかしながら、帰ってまいりました。

いやね、オリンピックにラブラブな人間としては、期間中の集中っぷりは無論のこと、終わってからも録画機のハードディスクお腹いっぱいに溜め込んだ映像を見るのに忙しくって、書く時間が全然なかったんすよ…といった言い訳はさておき。ね、ね、私が自信をもってお薦めした競技・種目、どれもこれも面白かったでしょう?…といった回顧談もさておき。
気が付くと、男子マラソンはすでに今シーズンの主要レースがすべて終了、女子の方も本日の『名古屋ウィメンズ』1レースを残すばかり、という状況になってしまいました。
季節はすっかり、でもないですが、もう春と言っていいでしょうね。

もちろん、オリンピックTV観戦で多忙な中でも、『東京マラソン』も『日本選手権クロスカントリー』も、『全日本実業団ハーフマラソン』も、先週の『びわ湖毎日マラソン』も、ちゃんと見てましたよ。
設楽悠太選手(Honda)による15年ぶりのマラソン日本記録更新、MGC出場資格者続出、といった大きなトピックもあり、いくら忙しいからって、ここに何がしかの記事を書かないという手はなかったですよね。それをしなかった、というかできなかったのには、ただ時間がなかったということだけでなく、何かもう一つ、気分が乗らなかった、という理由があります。

マラソン界は日本新記録誕生に浮かれていますけど、一つ大切なことを忘れてやしませんか?
記録が誕生した『東京マラソン』では、2010年の藤原正和(Honda=当時)以外に、日本人優勝者は出ていません。同じく、『福岡国際マラソン』では2004年、『びわ湖毎日マラソン』に至っては2002年を最後に、日本人選手は優勝していないのです。国内3大マラソン、破竹の25連敗継続中!
今シーズンも、日本選手が地元開催の国際ビッグレースを勝つ姿を見ることはできませんでした。
2020年オリンピックへ向けて、男子マラソンが少しずつ活況を呈し始めていることは確かですが、記録やMGC到達人数を話題にするより先に、この事実に選手・関係者はもっと真剣に向き合うべきではないか、という感想が強く残ってしまったのです。
その意味で、記録のみならずトップまで41秒差と迫り2位に順位を押し上げた設楽悠の走りにはいちおうの評価はできると思う一方、気象コンディションが悪かったとは言われていますが、優勝タイムで7分台が出ているのにそこから3分も離されてギリギリ1人しかMGC資格記録を破れなかった『びわ湖』の結果には、正直言って失望しました。

男子マラソン、まだまだです。これからです。


さて、女子のほうはというと、MGC到達者はまだ前田穂南(天満屋)、松田瑞生(ダイハツ)、安藤友香(スズキ浜松AC)の3人しか出ていない現状。男子のことをとやかく言ってられません。
これには、今のところ到達者量産が見込めたレースが『大阪国際』1つしか消化されていないという事情があり、今日の『名古屋』で男子の『東京』並みにバタバタと出てくることが期待されています。

一番の注目は、3年ぶりの出場となる前田彩里(ダイハツ)。北京世界選手権後の故障さえなければ、おそらく女子マラソン界のエースとして君臨していたであろう実力者です。100%の状態に戻っているのかどうかにかかってくるでしょうが、今季の駅伝での走りなどを見る限り、私はかなり期待しています。
2年前にリオ代表を紙一重の差で逃した小原怜(天満屋)も、昨年はこのレースを目前にしての故障でしばらく苦しみました。こちらも、回復状態は上々と見ています。
昨年のロンドン世界選手権で日本選手最高位となった清田真央(スズキ浜松AC)は、3年連続の名古屋登場。前2回の好走(4位・3位)を上回り、成長の証を示すことができるか?
この3名がもしMGC到達となると、各チーム2人目の資格者誕生ということになりますね。

初マラソンで10代最高記録を出した岩出玲亜(ドーム)は、そろそろ勲章が欲しいところ。ただ、移籍後は『さいたま国際』で凡走、『大阪国際』を故障回避と、今一つ順調さに欠けているように見受けられます。
もう一人、注目を集めているのが初マラソンとなる関根花観(JP日本郵政G.)です。
当ブログではしばしば話題にしている「2012年・豊川高校黄金メンバー」のうちの2人には、新世代の旗手となるようなブレイクを期待しています。

孫英傑のシルエット



2000年代の初頭、マラソン強国の一角にあった中国に、孫英傑(スン・インチェ)という強い選手がいました。
活躍期間は短かったのですが、両腕をダラリと下げ、まるで「気をつけ!」をしているかのようにほとんど腕振りをしない独特のフォームで、強烈な印象を残したランナーです。
2002年プサンのアジア大会では、当時日の出の勢いにあった福士加代子選手をまったく寄せ付けずに長距離2冠を達成します。この時の福士選手のパフォーマンスが5000m=14分55秒19(セカンドベスト)、10000m=30分51秒81(PB・日本歴代2位)というハイレベルなものだったことからも、いかに孫選手の走力が凄まじかったかが伺えます。さらに驚いたことに、アジア大会の翌週には北京国際マラソンに出場して、2時間21分21秒の好タイムで初優勝を飾っているのです。
翌年のパリ世界選手権・5000mで銅メダルを獲得した孫は、その年の北京国際マラソンで2時間19分39秒、これは高橋尚子選手が持っていたアジア・レコードを破る快記録で、2005年に野口みずき選手に更新されるまで記録の上ではアジア最強の女子マラソン・ランナーとして、日本にとって脅威の存在となりました。
2004年のアテネ・オリンピックにはトラックで出場し、同僚の邢慧娜(シン・フイナ)が大番狂わせの金メダルを獲得する一方で6位に終わっています。
7830
http://www.lifeweek.com.cn/2005/1117/13647.shtml より

2005年10月、北京国際マラソンで4連覇を達成した孫は、なんと翌日行われた中国全国運動会の10000mにも出場。ここで、思いもかけない厄災に遭遇します。
レースでアテネ金の邢に次ぐ2着、タイムも31分03秒09とマラソン(2時間21分01秒)の翌日とは思えないタフネスぶりを発揮した孫選手はしかし、ドーピング検査で筋肉増強剤に陽性反応を示して、失格・出場停止処分を受けることになったのです。
後の調べで、チームメイトの某選手が10000mレース当日に孫選手のドリンクに禁止薬物を混入したためと判明したものの、ドーピング管理はあくまでも“自己責任”ということで、孫選手の処分が取り消されることはありませんでした。むろん、北京国際マラソンの時点では検査に引っ掛かることもなく、成績はそのまま残されています。
2008年の北京オリンピックを大きな目標にしていた孫選手は、この2年間の出場停止で競技への意欲を失い、フェードアウトするようにして国際舞台から姿を消していってしまいました。中国マラソン界ではその後継者として、周春秀(2006年アジア大会優勝)、白雪(2009年世界選手権優勝)といった好ランナーが輩出されましたが、現在では日本以上に深刻な低迷状態を迎えています。

あの、孫英傑ほどに極端ではないとはいえ、同じように両腕をダラリと下げる走法の2人の女子ランナー…同じスズキ浜松ACの清田真央と安藤友香が、今日の『名古屋ウィメンズマラソン』の注目選手です。
オリンピック代表を賭けたデッドヒートで名勝負の一つとなった昨年のレースから1年。みごと代表の座を射止めた田中智美(第一生命G.)と1秒差に泣いた小原怜(天満屋)の姿はありませんが、その後に続いた清田、岩出玲亜(ノーリツ)、桑原彩(積水化学)、竹地志帆(ヤマダ電機)、加藤麻美(パナソニック)らがこぞって出場。初マラソン組として、清水美穂(ホクレン)、石井寿美(ヤマダ電機)などとともに、屈指のスピードランナー安藤の名が目を惹きます。成長株の宇都宮亜依(宮崎銀行)や、19位に終わった大阪に続いてチャレンジする新井沙紀枝(大阪学院大)などの若手もいて、なかなか楽しみなメンバーが揃いました。
国内ロードレース・シーズンを締めくくるビッグ・レース、大いに満喫したいものですね。



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