まさかの前回からの連作です。同じ大会、1年違いの映像テープが続けて発掘されるとは予期していなかったので、前回少しネタバレなことを書いちゃいましたけど、まあもともとネタバレしてる過去の大会の記事ですから。
岐阜折り返しコース時代の42.195㎞。参加は27チーム。
旭化成、ダイハツ、京セラといった古豪チームが本戦に復帰し、前回初出場で旋風を起こしたグローバリーは連続出場ならず。前回1区区間賞・橋本康子の日本生命と藤川亜希のラララはチームが消滅。またこの頃に盛んにあった金融機関の合併などにより、前回2位の東海銀行はUFJ銀行に、9位の富士銀行はみずほ銀行に名称変更しています。
スタジオ実況・解説は前回と同じ椎野・増田コンビ。ゲストにこの時点でセミリタイア状態にあった川上優子選手(沖電気)。
2002女子駅伝01

◇三井住友海上の3連覇なるか?
言うまでもなく優勝候補の筆頭は、2000年代2戦2勝の三井住友海上。今回も土佐礼子は不在ながら、渋井陽子・坂下奈穂美の両エース健在に加えて、大物ルーキーの橋本歩、大山美樹がスターターとアンカーを固め、チーム事情は前回以上と期待されます。
前回は2枚看板が不発に終わった資生堂は、大卒2年目の加納由理を3区に抜擢してエスタ・ワンジロを1区に投入。豊富な選手層で今度こそはと、悲願の初優勝を狙います。
前回2位のUFJ銀行は、相変わらず2組の双子が主力。この年には大南姉妹の妹・敬美がロッテルダムマラソン優勝(2時間23分43秒)、姉の博美はアジア大会銅メダルと、ともにマラソンで大きく躍進していますが、反面駅伝の距離ではどうかというところ。
前回3位の天満屋。エース松岡理恵と両輪を組むのは、入社4年目の坂本直子。この1か月後には大阪で衝撃のマラソンデビューを果たす逸材が、5区を走ります。
幾多の強豪マラソンランナーを輩出した名門ダイハツは、しばらく競技を離れていた大越一恵が復帰して5区、3区には快速・山中美和子(現監督)が登場します。山中はこの年の『全国女子駅伝』で1区の区間賞を獲得し、翌2003年には同じ区間で、2020年まで破られなかった18分44秒(6.0㎞)の大記録を樹立する、鮮烈な印象を残した名選手です。

◇1区(6.6㎞。以下コース、区間割は前回同様)
超スローペースで始まったレースは、三井の橋本、京セラの阿蘇品照美といった若い選手が堪まりかねて前に立ち、中間にかけて次第にビルドアップする展開。阿蘇品はこの後、日本のトップランカーへと成長する有望株ながら、まだこの時点では実績が足りず、先頭集団の中ではエスタ・ワンジロの力が飛び抜けている感じです。もう一人の有力ランナー、UFJの王春梅は中盤で早くも脱落し、前回2位のチームが早々に苦境に立たされました。デンソーの永山育美も早々に圏外。
そして、4㎞を過ぎたところで橋本の左脚に異変。文字どおりブレーキをかけたような状態になって、大本命の三井もいきなりピンチです。
次第に先頭集団が絞られる中、前の方でじっくりと機を伺っていたエスタが、ゴール前200メートル強でデオデオの選手(名前が思い出せません)が放ったスパートにカウンター・アタック。最後は旭化成の上田美恵との僅差のトップ争いを制して区間賞獲得です。本来なら圧倒的な実力にモノを言わせて大差リードを築きたかった局面ですが、やはり本調子には今一歩だったのでしょう。
3位には後半果敢に先頭を引いた阿蘇品が2秒差に粘り、デオデオが3秒差、那須川瑞穂の積水化学が5秒差、そして前回失速した尾崎好美(第一生命)が6秒差の6位に食い込む大混戦。三井住友海上の橋本は31秒差で16位という、波乱の幕開けとなりました。
2002女子駅伝02
2002女子駅伝03
(上)岐阜コース時代の定番、岐阜城の空撮。長良川に架かるのは金華橋。
(下)1区後半の先頭集団。中央は阿蘇品照美。

◇2区(3.3㎞)
中盤を過ぎ先頭は資生堂、旭化成、京セラの3チーム。京セラの2区は、あの杉森(現・佐藤)美保です。前年の世界選手権ではマイルリレーの代表になっていたランナーですから、いくら何でも駅伝は厳しいのでは?
後方から第一生命、九電工、積水化学という「黒/イエロー軍団」が猛追して6人の集団になり、そこから第一生命・森春菜が抜け出してトップリレー。大エース羽鳥智子の快走に夢を託します。
3秒差の2位に九電工、4秒差で旭化成、7秒差で積水、資生堂と続いて、さすがに杉森は終盤ヨレヨレ。
三井は大平美樹が区間賞の奮闘を見せて、22秒差の8位と挽回しました。1区24位と出遅れたUFJ銀行は川島真喜子が1つしかランクアップできず、大苦戦です。

◇3区(10.0㎞)
往路のエース区間3区では、この年も華やかな顔ぶれがダイナミックに戦局を動かします。
中継点での上位5チームが形成した先頭集団に、ジェーン・ワンジュグ(松下通信)が一気に追いつき追い越してトップに立つと、さらに後方からは福士加代子(ワコール)、山中美和子(ダイハツ)、渋井陽子(三井)、小鳥田貴子(デオデオ)といった猛者連が差を詰めてくる激しい展開。いったん抜け出したワンジュグも取り込まれて2.5㎞あたりでは10人の大集団になります。
区間中間点では先頭が福士、ワンジュグ、山中、羽鳥の4人となりました。
トレードマークだったチョンマゲを卒業して、ショートヘアをアッシュブラウンに染めた福士は、計時ポイント(5㎞)を前年より11秒遅い15分20秒で通過。20位以下から遮二無二追いかけた前回とは違って、しっかりとペースを刻んでいます。これはどうやら好調そのもの。沿道の応援に満面の笑顔で応え、時折Vサインまで出して見せる余裕の走りです。
やがてワンジュグが、続いて山中も福士のペースについていけなくなり、福士の独走劇が始まる予感が漲りますが、実力者・羽鳥だけが背後にピタリとつけたまま離れずマッチレースに。第3中継所前の熾烈なデッドヒートとなるか…?

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ところが、残り700mを切ったところでアクシデント発生!前後関係にあった両選手の脚が交錯して、福士がばったりと前のめりに転倒、羽鳥も大きく進路を逸れました。起き上がった福士の走りは別人のように左脚を引きずるものとなっており、打撲や擦過傷だけに留まらないダメージを負ったようです。その表情からすっかり笑みが消え去りました。
結果的に、第一生命が2区からの首位を守り切り、福士は山中に追い抜かれて3番手でリレー。それでも32分08秒で区間賞を獲得したのはさすがでしたが、負傷は左膝靭帯断裂という深刻なもので、長期休養を余儀なくされることになります。
三井住友海上は、頼みの総大将・渋井がまったく福士のペースに付いていけず、ようやくワンジュグと並走するところまで粘って37秒差の5位としたものの、ここでついた第一生命との差が致命傷になりました。加納が走った資生堂は、さらに遅れて7位と順位を下げています。ひとつ上の6位はデオデオ、8位以下は積水、九電、天満屋、旭化成と続いて、ここまでが1分17秒差です。
2002女子駅伝05
意外にサバサバした表情でインタビューに答える福士。あれほどの重傷を負っていたとは…。
もちろん羽鳥は恐縮しきり。


◇4区(4.1㎞)
第一生命の4区は萩原梨咲。△の形に口を開きながら粘り強い走りで首位をキープします。
後方では三井の山本波瑠子が区間賞の走りで2位に浮上してきますが、肝心の第一生命とは1秒しか縮まらず。3位にデオデオが躍進し、資生堂の尾崎朱美は4位へと順位を上げながらも首位からは47秒差と、むしろ引き離される展開となりました。

◇5区(11.6㎞)
復路のエース区間では、1分差程度の逆転劇は容易に起こり得ます。あの高橋尚子ですら、必勝と思われた40秒差を川上優子にひっくり返された苦い経験があります。
第一生命は磯貝恵子。実績から言うと、三井のいぶし銀・坂下奈穂美との36秒差スタートは甚だ心許ないリードに思われたのですが、これがまた粘ります。その差はいったん20秒を切るところまで詰め寄られながら、抜けそうで抜けない距離感を懸命に保った結果、坂下の方が音を上げる形となり、最終的には6秒詰められるだけという殊勲賞ものの走りとなりました。
終盤失速した坂下は、ダイハツ大越一恵にも交わされて3位に転落。タイム的には区間賞を獲った前回より34秒も速かったのですが、渋井に次ぐ「大砲不発」の印象を免れませんでした。
この区間の区間賞は、3人抜きの9位でリレーしたあさひ銀行・田中めぐみ。36分13秒は、第16回大会の川上、千葉真子に次ぐ区間歴代3位です。(その後福士が同タイムを記録するも、歴代3位変わらず)
ラララが廃部となった藤川亜希は、走り慣れたこの区間を旭化成のメンバーとして走り、資生堂・弘山と並ぶ区間6位タイの成績。大南博美が区間3位の力走で、UFJは12位まで押し上げてきました。

◇6区(6.595㎞)
大会前はほとんど下馬評に上ることのなかった第一生命には、会社創立100周年という大きなモチベーションがありました。それゆえ、ここまで一人として区間賞がいないながらも、各選手が自分の力を存分に発揮するノーミスの継走で、ミスを重ねた三井住友海上以下の優勝候補をリードしてきたのです。
アンカーは、安藤美由紀。前回は5区を担当しましたが、スプリントの切れ味はトラック勝負向きということで、この年から2010年までほとんどアンカーを務め続けたスペシャリスト。また後には、強豪チームの仲間入りを果たした第一生命のキャプテンとして、毎回存在感を放った美女ランナーです。
三井の大卒新人・大山がダイハツを交わして2位を奪回したものの、それまで。区間タイムは独走態勢をキープした安藤より1秒遅く、ゴール間際の勝負にまで持ち込むことができませんでした。
3位ダイハツ、4位資生堂、5位は終盤の2区間(坂本直子、北山由美子)で上昇した天満屋。続いて旭化成。最後に川島亜希子が区間賞と奮起したUFJ銀行が7位となり、1区・2区の絶望的な状況から入賞にだけは漕ぎつけました。8位の松下通信は、翌年からパナソニックモバイルとチーム名が変わり、さらに2005年からは現在のパナソニック(エンジェルズ)となります。第4中継所で3位、第5で5位と上位を伺っていたデオデオは、この区間で12位にまで急降下しました。
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美し過ぎるアンカー・安藤美由紀。ワイプ画面は5区の磯貝恵子。

大会史上初めて女性監督(山下佐知子)が率いるチームの優勝となった第一生命は、岐阜コースではこれが唯一の戴冠。会場が宮城県に移った2011年に2度目の優勝を飾っていますが、両方を体験したのはともに1区で出場の尾崎好美のみ。その尾崎をはじめ、田中智美、上原美幸とオリンピアンを輩出した名門チームとして、今なお上位争いの常連チームでいるのはご承知のとおりです。
自らの不振でV3の夢に致命的なダメージを受けた渋井が、後輩(年齢は上)の大山に支えられながら号泣する姿が、印象的でした。この翌年から、再び三井住友海上の快進撃が始まります。