『びわ湖毎日マラソン』と『名古屋ウィメンズマラソン』の時期を迎えると、 寒い冬も、陸上ファンにとってワクワクドキドキ連続のロードレース・シーズンも、ともに「ああ、終わっちゃうなあ…」という感じになりますね。自らも走っている人などは、そろそろ重装備のウェアを1枚どうしようか、という陽気になってきました。

リオ五輪の“惨敗”を承けた今シーズンの日本マラソン界は、特に目立った急展開はなかったにしろ、「日進月歩」の僅かな1歩はあったかなと、そういう印象のシーズンだったと思います。
男子では、川内優輝・中本健太郎のかつて別府のコースで死闘を演じた両ベテランが存在感を示したのに続いて、 前週の『東京マラソン』では井上大仁(M.H.P.S)や設楽悠太(Honda)といった若手ランナーが希望をつなぐ結果を残しました。まだフルマラソンを走ってはいませんが、駅伝、10マイル、ハーフ、30kmと着実にレースをこなす神野大地(コニカミノルタ)への期待は、大きく膨れ上がりつつあります。加えて、大迫傑(NIKE.O.P.)のマラソン挑戦表明というニュースは、気が早いながら来シーズンに向けてのプラスアルファ要素としてついつい“皮算用”してしまいます。

◆“無名の新鋭”井上大仁の評価
井上大仁の快走は、一般的には「意外な無名選手が…」とか「ハイペースの先頭集団に付かなかった消極的レース」というように捉えられていたところがあるようですが、私はどちらも違うという気がしています。
井上は、2014年の関東インカレ・1部ハーフマラソンの優勝者です。この時の2部優勝が神野大地、2着は同じ青学の一色恭志でした。1部と2部は5分の時差スタートをしますから同じレースを走ったわけではないのですが、気象コンディションは同じと言ってよい中で、優勝タイムは井上が16秒上回っています。
以来私はこの選手にはずっと注目してきましたし、同シーズン『箱根』での3区3位(区間賞は駒澤の中谷)、初マラソンでの2時間12分台という結果にも「まずまず…」の感想を持っていました。
今シーズンは11月の『九州実業団対抗毎日駅伝』3区(13.0km)で今井正人(トヨタ自動車九州)、村山謙太(旭化成)を40秒以上上回る区間賞。本番の『全日本』では市田孝(旭化成)、今井に次ぐ4区(22.0km)3位。
これらを見ても、今まで注目度の高い『箱根』や『ニューイヤー』では目立った活躍がなかったことで地味な印象を持たれてはいたものの、相当な実力者であることが知れようというものです。さかのぼれば、2013年の『全日本大学駅伝』2区では大迫傑(早大)、山中秀仁(日体大)と区間賞を分け合ってもいます。
彼を「無名の新鋭」として扱ってしまうのは、ひとえにマスコミの認識不足であり、大学駅伝を注視し続けてきたはずの日テレの放送席ですらまともに取り合わなかったのは、少々残念なことではありました。
(ところで、前身の『東京国際マラソン』以来ずっと、西暦奇数年にはフジレテビ系列が中継してきたのに、今回初めて日テレが中継したのは、どういう事情だったのでしょうか?日テレが世界選手権代表選考会を中継するのは、去年の『さいたま国際』での女子に続いて、男子でもこれが初めてのことだったと思います)

今回のレースの序盤で、設楽悠太に先んじて先頭のペースに食い下がろうかという動きを見せた時から、私はレース中ずっと、その位置取りを気にしていました。結局井上は5kmまでに追走を諦め、かといってその後日本人主力選手の集まったグループに吸収されたという情報もなく、30km以上にわたってほとんどテレビに映ることのなかった井上がどんなレースをしているのか、想像を巡らすほかはありませんでした。
自分のペースを貫いた結果とはいえ、先頭の「世界記録ペース」にも後方で佐藤悠基がつくる「巡航ペース」にも迎合せず、ほぼ単独走となった厳しいレース展開を耐え抜いての日本人トップ。彼こそは、この日のマラソンで最も勇気あるレースをしたランナーであり、ここ数年では好タイムと言える2時間8分22秒でのフィニッシュという成績は、評価してよいのではないかと思います。

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感想(1件)


◆「レース展開への評価」は無用!
ここのところ、日本人選手が苦戦を続けるマラソンという種目への姿勢について、陸連上層部の見解に妙な“揺らぎ”が目立つことに、とても違和感を覚えています。このことについては『大阪国際女子マラソン』のくだりでも述べたのですが、「世界のペースに付いていかなければダメ」とか、「前後半をフラットに、いやむしろネガティヴ・スプリットで」とか、およそ相反する指針を公然と口にする指導者が、信用ならんという感じなのです。つい、私がむかし所属していた会社で「レギュラーワークの売上を伸ばしつつ、新規事業を立ち上げろ」と常々言っていた上司を思い出してしまいます。「んな無茶な!」ということですよ。
「世界のペースに付いていく」ことが大事なら、ネガティヴ・スプリットを想定した遅めのペースメーカーを設定するのはおかしいし、また人為的に前半を遅くしたペースでネガティヴを実現したとしても、そこに何の意味があるのか、という気がします。
『大阪』で好成績を残した重友梨佐や堀江美里、『東京』で上位を占めた井上や山本浩之(コニカミノルタ)、設楽、それぞれが「自分のレース」に徹底した結果だったというのは明らかです。
設楽の場合は、前半ハーフのペースは3週間前の『香川丸亀国際』で試運転済みの想定レースで、そこから先は未知の領域へのチャレンジ。上手くいったとまではいきませんでしたが、今回はこれでOKです。今後は後半の落ち込みを食い止めるためのトレーニングを積み重ねればいい、という目標は「体感」としてしっかりと掴んだはずです。

42.195kmを走り通しての結果がナンボ、それがマラソンという種目の全てであるといってもいいのです。ペース配分は人それぞれ、結果の受け止め方も人それぞれ、日本のマラソン界が「強い選手」を代表に選ぶことができない現状では、こうした中から将来性や堅実性(あるいは逆に一発の魅力)を勘案して、目先の大会に選手を送り込んでいくしか、ないのではないでしょうか?…異なる大会でのタイム比較や、理想とするレース展開に適ったかどうか、そんなことは二の次で構わないと思うのですが、どうでしょう?

◆『びわ湖』への期待
今日の『びわ湖』には、大学駅伝路線では常に「日なたの道」を歩んできた一色恭志が2度目のマラソンに挑みます。本人から「練習不足」のコメントが出ていますので、あまり期待はせずに見守ってみたいとは思います。一般参加選手のリストには、宮脇千博(トヨタ自動車)や村澤明伸(日清食品G.)、市田宏(旭化成)などの名前もあります。
いっぽう迎え撃つ、昨シーズン日本ランク1位の佐々木悟(旭化成)や松村康平(M.H.P.S.)がどんなレースをするか、三十路を迎えたこの世代の力量を推し量る意味でも、そこが私の注目するところです。
小さいけれど確実な一歩、それを感じられるレースを見たいものです。