『第93回箱根駅伝』往路は、大方の予想どおり青山学院大が優勝。しかしながらその内容は圧勝ではなく、
2位早稲田との差は僅か33秒、16位の山梨学院大までが復路時差スタートに収まるという稀にみるダンゴ状態での折り返しとなりました。

◆王者の総帥の胸の内は?
今年の青学はすでに出雲と全日本を制し、相変わらず分厚い選手層を誇る割には、原晋監督のコメントがいつになく強気一辺倒ではないところが、少し気に掛かっていました。それは、少々苦戦を強いられた局面でも戦況を何とか立て直してくれるゲームチェンジャー(さっそく流行語を使ってみます)が少ないことへの不安、と見て取れました。

大エースの一色恭志は2区起用が既定の事実で、これは他校のエースと渡り合う役割ですからゲームチェンジャーとはなりにくい。前回の場合は山の専門家である神野大地がいて、加えて久保田和真、小椋裕介という複数のエースを自在に配置することができました。いずれも、他校に対して1区間で数十秒から2~3分のアドバンテージを計算できる存在です。
今回の場合は、山下りの専門家として実績を積んだ小野田勇次と、ゲームチェンジャーとして期待するのは下田裕太と田村和希。いずれも前回十分な働きをしている選手ですから、神野ら3人が抜けた穴を補充する、という意味にはならないわけです。
むろん、他の選手たちの成長分や、一昨年、昨年と関東インカレ2部ハーフを制した池田生成などの存在もありますが、 「切り札の不足」が原監督の悩みのタネになっていたのでは、と推察する次第です。
ま、他校からすれば、贅沢過ぎるほどの悩みではありますけどね。

ただ、今日の結果を見れば、原監督の危惧は半分現実になった、と言えなくもありません。
5区・貞永隆佑の山登り適性が未知数だったことを考えれば、4区までに2位以下にどれだけ差を付けられるか…5区の結果がどうなろうとも(仮に逆転を許したとしても)、青学にとってはそこが重要だったはずです。 第4中継所での早稲田との1分29秒差というのは、原監督にとって満足できる数字ではなかったのではないでしょうか?それとも、箱根路初見や故障明けで不安定要素のある戦力を敢えて往路に並べた結果がこれであれば、十分OKと考えているでしょうか?
全5区間とも、区間タイムが早稲田と1分以内の差で推移した結果が僅か33秒のリード。王者青学にとっては、何となくスカッとしない結果だったように思えます。

そうは言うても、青学は往路に際して下田、田村、あるいは安藤悠哉主将、茂木亮太、鈴木塁人といった控えカードを1枚も使っていません。入れ替えは最大4名ですから、余っちゃってる状態なのです。いくら駅伝の予想は難しいとは言っても、これで青学の首位陥落があるとすれば、何らかのアクシデントが必要になるでしょう。
私は今大会のナンバーワン選手は田村和希だと思っているのですが、唯一の不安は暑さに弱いことなので、まず7区での起用が確実。6区・小野田、8区・鈴木、9区・下田、10区・安藤or茂木、というところでしょうかね?あるいは8区・下田で9区はそのまま池田?あとは個々の選手の調子次第でしょう。

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◆逆転諦めないWとマルサ
早稲田とすれば、三冠を達成した2010年、東洋との31秒差を6区で逆転したスリリングな優勝劇の再現がチラつくでしょうが、青学の6区・小野田は区間新記録も狙える下り屋ぶりをすでに証明している選手ですから、ここでの逆転は難しそう。ただ、下りに関してはその優勝時の高野寛基や一昨年区間賞の三浦雅裕など、実績とノウハウがないわけではないので、いかに耐え忍んで食い下がるか、で戦況は変わってきます。
復路に多く駒を残した青学に対し、早稲田は主力の4年生トリオを往路に使い、残るカードは昨年9区区間賞の井戸浩貴と世羅高校からのルーキー新迫志希、3年エースの光延誠といったあたりがどこまで調子を上げているか?…彼らの中から「ゲームチェンジャー」が出てこないことには、青学との差は拡がるばかりとなります。

伝統の「マルサ」こと順天堂大が、久々に総合優勝に色気が出るほどの好位置で往路を終えました。
実は私は中学生時代から、順大のファン。陸上界の"ドン”澤木啓祐氏が世界と渡り合うトップランナーだった頃から、小山隆治、宮下(木内)敏夫、上田誠仁、仲村明、本川一美、三代直樹、今井正人…と、歴代多くのスター・ランナーたちの雄姿を目に焼き付けてきたものです。7年前に半世紀以上続いた本戦連続出場が途絶える無念を味わって以来、なかなか上位を伺うほどの駒が揃わない状況にやきもきしていましたが、オリンピアン塩尻和也と栃木渡の2枚看板に5区・山田攻の好走がうまく嚙み合っての3位です。
かつては「逆転の順大」の名を馳せた後半勝負型の伝統で、長門監督は「復路にも駒はある」と上位への自信を覗かせています。楽しみ楽しみ。
総合優勝を狙えるとすれば、ここまでの3校、ということで間違いないでしょう。

◆シード争いは激烈
圧倒的な戦力を誇る青学への唯一の対抗策として、往路に主力を投入し尽くした感の強い上位候補校が多く、特に往路4位の東洋、5位駒澤などは、厳しい戦いを強いられそう。予想以上の健闘を見せた神奈川大、創価大、上武大、近年シードの常連となりつつある中央学院大あたりも、3位くらいまでの可能性は十分に残していそうです。

青学の対抗格にも挙げられていた山梨学院大、東海大は、頼みとするランナーがことごとく不発に終わってシード権すら危うい大ピンチ。
いっぽうで予選会をギリギリの10位で通過した日大が、1区・2区のダブルエースが大コケしたにも関わらずシード圏内で往路を終えたのは少々意外でした。もしも石川颯真、パトリック・ワンブイが実力を発揮してさえいれば?…かえって後続の選手の意識が堅くなって、結果同じような順位になっていたような気もします(ここ数年、いつもの日大のように)。このあたり、駅伝というレースの不思議なところですが。
シード争いは、東洋・駒澤すらも巻き込んでの大混戦となりそうな、僅差での復路スタートとなります。山梨
東海のほかに日体大、帝京大、拓殖大といった実力校も、タイム的には十分狙えるところにいます。

それにしても、今年の5区を見ていると、「神」と呼ばれたほどのクライマーたちの走りがいかに凄かったか、よく分かりますね。
2005年以前とは第4中継点の場所が微妙に変わり、函嶺洞門のバイパスによる40mほどの距離延長はあるものの、区間賞の大塚祥平(駒沢大)ですらその2005年に今井が記録した69分12秒という記録から約3分半。見るからに走りが違います。
それでも、この5区だけで大きな順位・タイム差変動がたくさんあったのは例年と変わらず、今後も「山登り」は各チームの大きな課題となって、箱根駅伝の象徴となり続けていくことでしょう。