豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

ルース・ジェベト

DLチューリッヒ、5000mの死闘


遅くなってしまいましたが、24日(日本時間25日未明)に行われたDL第13戦・チューリッヒ大会の結果、 ファイナルを制してツアー・チャンピオンに輝いた選手16人を列挙しておきます。

男子100m チジンドゥ・ウジャ(GBR)
男子400m アイザック・マクワラ(BOT)
男子1500m ティモシー・チェルイヨト(KEN)
男子5000m モハメド・ファラー(GBR)
男子400mH カイロン・マクマスター(IVB)
男子走高跳 ムタズ・エッサ・バルシム(QAT)
男子棒高跳 サム・ケンドリクス(USA)
男子走幅跳 ルヴォ・マニョンガ(RSA)
男子やり投 ヤクブ・ヴァドレイヒ(CZE)

女子200m ショーナ・ミラー‐ウィボ(BAH)
女子800m キャスター・セメンヤ(RSA)
女子3000mSC ルース・ジェベト(BRN)
女子100mH サリー・ピアソン(AUS)
女子400mH ズザナ・ヘイノヴァ(CZE)
女子三段跳 オルガ・リパコワ(KAZ)
女子砲丸投 ゴン・リージャオ(CHN)
女子やり投 バルボラ・シュポタコヴァ(CZE)

今季のDLは12戦までのポイント上位者によるファイナル一発勝負ということで、世界選手権などの決勝と同じような緊迫感で各種目が争われました。
特に、事前に「注目種目」として挙げた女子3000mSC、男子5000mでは、期待に違わぬ好レースが展開され、世界記録保持者のジェベト、おそらくトラック最終レースとなるモー・ファラーが、それぞれ世界選手権の雪辱を果たしました。

◇女子3000mSC
①ルース・ジェベト(BRN) 8’55”29(WL)
②ベアトリス・チェプコエチ(KEN) 8’59”84(PB)
③ノラ・ジェルト・タヌイ(KEN) 9’05”31(PB)
④エマ・コバーン(USA) 9’14”81
⑤ハイヴィン・キエン(KEN) 9’14”93
⑧セリフィン・チェスポル(KEN) 9’17”56

今季は昨年のような圧倒的な走力差で後続をぶっちぎるレースがなかなかできずにいたジェベトが、最終戦でようやく本来のロングスパートを爆発させました。中盤ですでにペースメーカーを追い抜くと、追走できたのはロンドンでお騒がせのチェプコエチただ一人。そのチェプコエチもラスト1周で徐々に水を空けられて、ジェベトの独り舞台になりました。タイムは自身の世界記録に次ぐセカンド・ベスト。今のところ、このタイムで走られては誰もジェベトには敵いません。
チェプコエチは未だ無冠ながら、この日のレースで「ちゃんと走れば」ハードリングの上手さといい、安定した走力といい、来季の本命に挙げてもよさそうな資質を見せています。タイムは、史上4人目となる8分台突入の立派なものでした。
「5強」の間に割って入ってきたタヌイも、来季要注意です。この種目をますます面白くしてくれる存在になるでしょうか?
ロンドン優勝のコバーンは、調整レースとして出場した前回バーミンガム大会の3000mでも上位のスピードに付いて行けない状態で、明らかに調子は下降気味。この日も優勝争いに絡む位置には付くことができず、それでも持ち前の粘りで4位にまで押し上げてきたのはさすがでした。

◇男子5000m
①モハメド・ファラー(GBR) 13’06”05
②ムクタル・エドリス(ETH) 13’06”09
③ヨミフ・ケジェルチャ(ETH) 13’06”19
④セレモン・バレガ(ETH) 13’07”35
⑤モハンメド・アーメド(CAN) 13’10”26
-ポール・チェリモ(USA) DQ
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ロンドン世界選手権の上位6人が、再び大激闘。ただこの日のファラーは、「包囲網」を避けるかのように終盤は前、前でレースを進め、極力プレッシャーのない位置をキープし続けたことが、勝因になったようです。
それでもPMが外れてペースダウンした末のラスト1周は誰が勝つか予断を許さない高速の大混戦。第3コーナーでケジェルチャが逃げるファラーを捕まえにかかる、ファラーが抜かせない、という局面の時、さらに外側を伺ったエドリスとケジェルチャが接触。力づくでケジェルチャの頭を抑えたファラーにはかなりのダメージが残ったと見えただけに、この僚友どうしの接触は結果的に痛恨となりました。
ファラーか、エドリスか、というその狭い間をスルスルと上がってきたチェリモが掻き分けるようにして、さらに大外を巻き返したケジェルチャも重なって、4人がもつれ合うようにゴール。まさに、死闘でしたね。
ファラーとダイビング・フィニッシュの形となったエドリスの差は僅かに100分の3秒。エドリスと同タイムでいったん2位と表示されたチェリモは、後に両手でファラーとエドリスの腕を文字どおり「掻き分けた」インターフェアを取られて失格となりました。

ラスト1周であの位置ならば、ファラーの勝利はもはや既定事実となるような展開。それがあれほどの混戦となったのは、ファラーの力の衰えというよりも、こと5000mに関する限りはライバルたちの追い上げがそこまで来ていた、ということのように思えます。世界選手権でのエドリスの勝利は、まったく実力勝ちだったと言えるでしょう。ファラーにすれば、絶好のタイミングでラスト・レースを見事に締めくくった、ということになると思います。

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その他の種目では、ロンドンに続く頂上決戦が期待された女子三段跳でちょっとした波乱。
「2強」のカテリン・イバルグエン(COL)とユリマール・ロハス(VEN)が揃って14m中盤の低調な記録に喘ぐ隙を衝いて、2012年オリンピックと同年のDL以来のビッグタイトルとなるリパコワが漁夫の利を攫ってしまいました。
またケニ・ハリソン不在の女子100mHはロンドンに続いてサリー・ピアソンが勝ち、400mHでは全米以降パッとしないダリラ・ムハマド(USA)を抑えてズザナ・ヘイノヴァが優勝。ベテラン女子勢が気を吐いた大会となりました。
波乱といえば、男子やり投のドイツ90mコンビをまとめて破ったのがヤクブ・ヴァドレイヒ。とはいえ昨年も最終戦で大逆転優勝を飾っていますから、狙っていたV2でしょう。
女子200mでは大本命のエレイン・トンプソン(JAM)、世界選手権連覇のダフネ・スキッパーズ(NED)、絶好調マリー‐ジョゼ・タルー(CIV)を制してショーナ・ミラー‐ウィボが21秒88の好タイムで快勝。DLでは珍しい「2種目制覇」に王手をかけました。

残りの16種目は、9月1日(日本時間2日未明)に行われるブリュッセル大会でファイナル・ゲームが行われます。三段跳クリスチャン・テイラーや5000mアルマズ・アヤナの世界記録挑戦、女子1500mや走幅跳での世界選手権リマッチ、チューリッヒでも非DL種目で接戦を演じた女子棒高跳の頂上決戦などに期待しています。

ロンドン世界選手権観戦記 ⑨ ~結局これがベストレースか?


大会期間中には当ブログにもたくさんのご訪問をいただき、ありがとうございました。
長文記事を投稿するに際しての宿命といいますか、「見るだけで精一杯」の状況が終盤に押し寄せまして、書く方が間に合わなくなってしまうということになりました。ほとんど触れずに終わってしまう種目も多々ある中で、これだけは書き残しておきたい、というものが一つ残っていましたので、今さらながらではありますが追記しておきたいと思います。(実はほとんど書き終わっていたんですが、細部を推敲しているうちに日が過ぎてしまっていたのです)

終盤8日目の最もエキサイティングだったレースが、女子3000mSC決勝です。
「展望」の⑤で書いたように、この種目は今季世界記録保持者のルース・ジェベト(BRN)とケニア勢3人による熾烈でハイレベルな大混戦、そこにアメリカの実力者エマ・コバーンが割って入るか、という展開が予想されていました。

まずは、ケニア勢の一角ベアトリス・チェプコエチの“独演会”でレースは序盤から大混乱。
第3コーナーからフィールド内に切れ込む水濠障害の1回目、余裕たっぷりに先頭を走っていたチェプコエチは何を勘違いしたか、内側に切れ込まずに通常のトラックを走り、水濠の外側を通り過ぎてしまいました。慌ててコースに戻り水濠を跳び越えた時には、集団の最後尾から30メートルほども遅れてしまっています。
TV実況では、水濠がトラックの外側にあるものと勘違いしたかのようなことを叫んでいましたが、そんな“特殊な”形状のスタジアムは日本にくらいしかありません。明らかに、水濠の存在を忘れて通常のトラックのカーブに沿って進んでしまったものです。ぼーっとしていたのか、逆に金哲彦さんの言うように走りに集中し過ぎて曲がるところを見失ってしまったものか…?
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まだペースが遅かったことにも助けられて、チェプコエチは半周で早々に集団に追いつくと、先頭に近い位置を目指して猛然とスピードを上げたのですが、今度は第2コーナー過ぎの障害で足を引っ掻け転倒。数人を巻き込んだだけでなく、後方の騒ぎを察知した先頭集団がペースを上げたために、14選手の位置取りは3周目にしてバラバラになってしまいました。
この間、チェプコエチは単純なタイムロスだけでも10数秒、それでも走力にものを言わせて先頭集団に追いつくと、ラスト1周では再びトップに立つなどしてレースを大いに盛り上げます。結果的には最後の優勝争いからは脱落してしまいますが、走りの安定感やケニアらしからぬ端正なハードリングはジェベトを含む「ケニア4強」の中でも一番好調と見えていただけに、自ら大波乱の立役者となってしまった感があります。

ケニア3人、バーレーン・アメリカ各2人で形成された先頭集団は、まずウィンフレッド・ヤヴィ(BRN)が脱落。残り1周で先頭に立ったチェプコエチのペースに堪りかねて、注目の18歳・チェスポルが後退。第3コーナー手前の障害で世界記録保持者・ジェベトが、最後の水濠手前ではチェプコエチが落ちていき、と障害を迎えるたびに速くなるスピードに優勝候補が次々と音を上げていきます。
残ったのは、ハイヴィン・キエン、コバーン、コートニー・フレリクス(USA)の3人。最後の水濠のテクニック差で一気にトップに立ったコバーンがそのまま押し切り、予想だにしなかったアメリカ勢のワンツー決着となりました。
※ハイヴィン・キエン・ジェプケモイは放送では「ジェプケモイ」と紹介されていましたが、DLなどでは「キエン」で定着しているのでこちらを採用。とはいえケニア人もまた、呼称がややこしいです。ビブスに表記されている名前からして大会ごとに異なるのは、本人もしくはチームがそのように登録しているわけで、何を考えているんでしょう?男子のビダン・カロキ・ムチリなども然り
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「展望」で、コバーンの勝機はケニア勢4人による消耗戦になった場合だけ、と予想しましたが、序盤の失策で熱くなったチェプコエチの独り相撲が、どうやらそうした展開を作り出してしまったようです。とはいえ、これまでケニア勢のハイペースに付いていけず、追走集団で我慢するレースを続けていたコバーンが、ここへ来て9分02秒58(大会新)の大幅自己ベストで走った上に、ただ一人冷静にレースを進めていたキエンをねじ伏せたわけですから、今回は文句なしの実力勝ちと言えるでしょう。
まして、全米2位のフレリクスはPBを20秒も縮める快走、これには「アメリカ中長距離勢躍進の不思議」を感じないわけにはいきません。

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リオ五輪では男女中長距離種目のほとんどで決勝進出を果たし、1500m金のマシュー・セントロウィッツをはじめクレイトン・マーフィー、ポール・チェリモ、エヴァン・ジャガー、ゲーレン・ラップ、ジェニー・シンプソン、コバーンと数多くのメダリストを輩出したアメリカは、今大会でもケニア・エチオピア・ウガンダのアフリカ3強と遜色のない長距離王国ぶりを示しました。ケニア出身のチェリモはともかく、多くが白人選手による活躍です。
アメリカ中長距離チームの特徴は、アフリカ勢のようにペースの乱高下を演出したり最後の直線に猛烈なダッシュ力を武器にするというのとは一線を画し、激しいレースの流れを集団の前方でじっと我慢しつつ食い下がった上で、なおゴール前の最終局面に脚を残しているというしたたかさにあります。
長距離ニッポンが奔放なアフリカ勢の長距離戦術に対抗するにはこういうレースをしなければならない、しかしそれを実現するには今に倍する走力の養成が必要…それを実現しつつあるのが、現在のアメリカ長距離軍団だと言えるでしょう。
なぜ、そういうことができるようになったのか、アメリカ長距離界のおそらくは構造や育成法に起因するこれらの躍進の理由には、とても興味があります。

また、こと3000mSCに関して言えば、コバーンにしろ男子のジャガーにしろ、そのハードリングの技術には見るべきものがあります。
日本選手の場合、ハードルを無理してノータッチで跳び越すよりは、むしろいったん足を掛けたほうがスピードを殺さずにいいと思われるケースが目立つのですが、アメリカ勢のハードリングは見た目にも美しく、その上に着実に相手よりもタイムを稼ぐ、優れたものに見受けられます。
水濠障害では、ノータッチで跳び越すケニア勢のハードリングを「すごい!」と讃嘆する向きがあります。私は、そんな跳び方で水濠の深みに着水するよりも、ワンタッチで浅場に降りる方が絶対にいいと思っています。どの障害でも、一つ越すたびにアフリカ勢との差を詰め、あるいは拡げていくアメリカ選手を見習うべきだと思うのです。

一方のケニアにとっては、「国技」とも言える男女の3000mSCで、今大会は「王国崩壊」の危機に瀕する結果となりました。
幸い男子では、現在の絶対王者コンセスラス・キプルトが懸念された脚の故障の影響もなく快勝しましたが、彼がもし3週間前のDLモナコの状態ならば、ケニア男子は「メダルなし」の惨敗に終わっているところでした。1991年東京大会以来、自国出身のサイフ・サイド・シャヒーン(QAT)以外に譲ったことのない王座は、今やキプルト1人が支えている状態です。
女子は意外なことに2013年モスクワ大会のミルカ・チェモス・チェイワが初優勝で15年北京大会のキエンに続き、今大会でようやく国技としての威容を発揮できるかというところでしたが、この種目における想像を上回るレベルアップの前に目論見が崩れた感があります。

昨シーズンはジェベトとキエンによる単調なレースが続いた女子3000mSCは、今季に入ってチェスポルの台頭、チェプコエチの成長で俄然、面白さが倍増してきたところへ、アメリカ勢の強烈な殴り込みです。
24日に行われるDL最終戦チューリッヒ大会では、ポイントのないフレリクスを除いた「5強」による年間ツアー・チャンピオン争いが期待されます。(現状コバーンはポイント9位で、この種目の最終戦出場者が8名なのか12名なのか不明なため、出否は微妙なところですが)
これは必見です!

ロンドン世界選手権展望 ⑤ ~注目の新鋭・奮起するベテラン


少々更新をサボっているうちに、開幕2日前となってしまいました。
まだ展望の及んでいない種目も結構残っていますが、それらは誰が勝ってもおかしくない混戦模様の種目とお考えいただくとして、今回は優勝争いに絡むかどうかは別として、世界の陸上界で今後注目に値する新星―日本で言うなら「ゴールデンアスリート」 にスポットを当ててみようと思います。

◆一番手は17歳のPV超新星
今季、最も話題を集めているニューカマーは、男子棒高跳のアーマンド(モンドー)・デュプランティス(SWE)でしょう。
15歳だった一昨年のU-17世界選手権(当時の呼称は「世界ユース選手権」)を5m30で制し、昨年はPBを5m51に伸ばして、それだけでも「天才ヴォールター」と呼ばれるにふさわしい躍進ぶりのところ、今季は室内で5m82、4月には屋外で5m90のU-20世界新をクリアして、シニアの一角を脅かす存在にまで頭角を顕してきました。何せこの記録は今季世界ランク3位。“帝王”ルノー・ラヴィレニも、五輪王者ティアゴ・ブラズも、世界王者ショーン・バーバーも、今季は届いていない高さなのです。

アメリカ人の父親が元棒高跳選手、スウェーデン人の母親が元七種競技選手という、いわゆるサラブレッドで、アメリカで生まれ育ちながらもスウェーデン代表として虎視眈々とワールド・チャンピオンのタイトルに照準を合わせています。
5月は5m71、6月は5m73、7月に入って5m70と、記録的にはやや停滞気味とはいえ、先々週にイタリアで行われたU-20ヨーロッパ選手権を5m65の大会新で圧勝してジュニアでは敵なしの存在。
1999年11月10日生まれの17歳。まだ来年のU-20世界選手権に出場する資格も有している超新星は、驚くべきことに身長170㎝(4月現在)という小柄な天才少年です。父親のグレッグ氏も、身長168㎝で5m80を跳んだと言いますから、技術力の継承ぶりが伺えます。
優勝候補筆頭のサム・ケンドリクス(USA)にとっても侮れない、堂々たるライバルと言ってよさそう。ちょっと気は早いですが、3年後の東京オリンピックで大本命となるかもしれないデュプランティスに、結果はともかく注目してみましょう。

Mondo Duplantis
(https://www.iaaf.org/news/series/armand-duplantis-sweden-pole-vault)

◆こちらも“良血”V.カニンガム
女子走高跳については、「鉄板中の鉄板、マリア・ラシツケネ」という項目ですでに展望しています。今季無敗のラシツケネの2連覇は固いと思われる中で、2位争いを展開するであろう一人に挙げられているのが、19歳のヴァシュティ・カニンガム(USA)です。
かつてNFLで1990年のMVPを獲得するなど巨漢の名QBとして名を馳せたランドール・カニンガム氏の愛娘であり、186㎝の長身と針金のように細い体形は、まさに生まれながらのハイジャンパーです。

1998年1月18日生まれ。17歳で1m96、18歳の昨年はインドアで1m99を跳ぶとその翌週、世界室内選手権を1m96で女子史上最年少優勝。7月の全米選手権も1m97で2位に食い込みリオ五輪に出場を果たしました。(13位)
今季は全米を屋外PBの1m99で制し、DLでも3位、2位、3位と安定した成績を残しています。すでに述べたように、今回の女子HJはラシツケネの独擅場となる公算大ですが、では誰が2mの大台に到達してそのチャレンジャーに名乗りを挙げるのか、その急先鋒と言えるでしょう。

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(https://www.iaaf.org/news/report/will-claye-1791m-us-championships)

◆3000SCの新女王に“もっと若い”ライバル出現
女子3000mSCは、昨年彗星のごとく現れた19歳(当時)のルース・ジェベト(BRN)が、あれよあれよと言う間にオリンピック・タイトルに続いて8分52秒78の世界新記録を樹立し、この種目の絶対的女王としての地位を確固たるものにしたかに見えました。
ところが今季、この種目はDL開幕戦から大変な様相を呈してきています。

まずドーハ大会では、昨年来ジェベトを唯一追い詰めるライバルとして自身も8分台を目前にしているハイヴィン・キエン(KEN)が、PBに0.11秒と迫る9分00秒12で優勝。ベアトリス・チェプコエチ(KEN)がPBを約10秒短縮する9分01秒57で続き、ジェベトはそこから0.42秒差の3着と敗れました。
続く上海大会ではジェベトが勝ってキエンが2位と昨年同様のワンツーとなったものの、第3戦のユージーン大会は、ジェベトよりも更に年下(1999年3月23日生まれ)のセリフィン・チェスポル(KEN)が、史上3人目となる8分台突入(8分58秒78)を果たして優勝。チェプコエチが9分00秒70の大PBで2位に続き、ジェベトはまたしても3位に敗退しました。
このレースはDLポイント対象外でしかも2日間開催の初日に行われたためTV中継で見ることはできなかったのですが、チェスポルは残り1周半の水濠でバランスを崩し、靴が脱げかけたアクシデントから立て直してこの記録を出したのだそうです。ドーハで4位、上海で3位とケニアのジュニア選手にありがちな勢いを感じさせる存在ではありましたが、まさかキエンがどうしても突破できない9分のカベをあっさり突き抜けるとは、と驚かされたものです。
ジェベト、キエン、チェスポル、チェプコエチによって形成された「4強」は7月のパリ大会にも“結集”しました。今度はチェプコエチが9分01秒69で勝利、2位キエン、3位チェスポルと続き、最終水濠を跳んだところで力尽きたかのように転倒したジェベトは4位に終わっています。

この「4強」、さらにはエマ・コバーン(USA)を加えた「5強」による熾烈な争いは、今大会の目玉の一つになると思われます。ただしコバーンの勝機は、前半で「4強」がせめぎ合いをし過ぎた消耗戦になった場合のみでしょう。
ジェベトが万全の状態であれば、有無を言わせぬ世界新ペースでの独走態勢に持ち込むことで優位に立てるかもしれません。しかしながら、最後まで混戦となった状況では、スプリントが利かない上にハードリングが稚拙な弱点が、目下のところ3人のケニア勢に対していかにも分が悪いようです。中盤でいかに大きく抜け出すか、がカギでしょう。
DL戦線のように、9分00秒前後の争いになった場合は、ケニア勢3人のラスト勝負になるのではないでしょうか。その中で唯一8分台を持っているチェスポルが、18歳にして世界を制することになるかもしれません。