豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

ライアン・クラウザー

ロンドン世界選手権展望 ③ ~たぶん勝つだろうけど…の本命たち


前回は、私独自に「鉄板!」と認定した6人のアスリートについてご紹介しました。
続く今回は、そこまでは推しきれないながら種目の中で傑出した存在であることは間違いない、それでもどこかに不安要素を感じる「大本命」の選手たちです。
まあ、「鉄板!」という中でも本人のコンディションやアクシデントなどでアプセットが起きる可能性は常にありますから、そうした可能性が多少なりとも目に見える、というのが今回の選手たちです。

◆いまだ調子が掴めないK.ハリソン
Kendra Harrison
https://www.iaaf.org/news/report/us-championships-2017-kendra-harrison)

昨年から今季にかけて、陸上界で最も輝くヒロインの存在となっているのが、女子100mHのケンドラ・ハリソン(USA)です。

昨年のDLロンドン大会で彼女が記録した世界記録12秒20は、1980年代に東欧圏の選手たちによって量産された難攻不落のレコードの一つが攻略されたということで、大きな価値がありました。加えて、DL6戦全勝をはじめほとんどのレースで2位以下を数メートル引き離す圧倒的な力の差を見せつけながら、唯一オリンピック全米予選で失敗してリオに行けなかったこと、そのリオで彼女を除くアメリカ3選手がメダルを独占したことで、ドラマのヒロインとしてはこれ以上ない印象を残したシーズンとなりました。

そのハリソン、今季もこれまで無敗を続け、全米もしっかりと優勝して(すでに代表権は昨年のDLツアー優勝で獲得しています)一見盤石のプロセスを踏んでいるように見えるのですが、どうも昨年に比べると内容が物足りなく見えます。昨年のように、大差で圧勝、という勝ち方があまり見られないのです。
記録的にも12秒5台が続き、正確無比だったハードリングにもどことなく小さなブレが感じられます。今月上旬、ハンガリーの大会で12秒28(+0.1)を出し、その5日後には世界新記録から1年を経たDLロンドンで12秒39(+0.2)をマークして、ようやく調子が上がってきたかと思われたものの、21日のDLモナコでは12秒51(-0.1)でシャリカ・ネルヴィス(USA)に0.01秒差まで追い上げられる薄氷の勝利。今一つ、調子がはっきりしません。

ハードル王国アメリカは今季、リオの金メダリスト、ブライアナ・ローリンズが所在地報告義務(抜き打ちドーピング検査のためにトップアスリートが課されている義務)違反というチョンボを犯して出場停止中ながら、選手層の厚さはこれまで同様。久々にジャスミン・ストワーズが好調でしたが安定感のなさは相変わらずで、全米6着と敗退。ロンドンの代表はハリソンのほか、オリンピック2位のニア・アリとベテランのドーン・ハーパー‐ネルソン、クリスティナ・マニングです。
ハリソンにとっては警戒すべき同国のライバルが3人だけというのは精神的に楽でしょうが、どうしても昨年の全米で敗れたという、ここ一番でのメンタルが気に掛かります。

アメリカ勢以外では、かつての女王サリー・ピアソン(AUS)が、DLロンドンで12秒48と久々に調子を取り戻してきましたが、ハリソンに肉薄するまでは至っていません。
前回北京優勝のダニエレ・ウィリアムズ(JAM)もその後故障に苦しみ、ジャマイカ選手権で12秒56(+0.4)と復活してPBをマークしてきましが、2年間のうちに100mHのレベルは大きく上がってしまっています。
リオで姉妹揃って決勝に進出したティファニー・ポーター、シンディ・オフィリは地元の期待と人気を集めるでしょうが、今季これといった成績をまだ残していません。

もし実力どおり、ハリソンが12秒2~3あたりの記録で駆け抜けるレースをすれば、ロンドンの栄冠は容易に彼女のものとなるでしょう。それが12秒5前後のところへいってしまうと、一転して大混戦ということになりかねません。もちろん、ハードルにはつきもののちょっとしたリズムの狂いで、すべてが変わってしまうこともあり得ます。
スリリングな勝負を制して、ハリソンが真の世界一を証明するレースを期待しています。

◆限りなく「鉄板」に近いクラウザー
Ryan Crouser
(https://www.iaaf.org/news/report/crouser-meeting-record-rabat-diamond-league1)

昨年の全米五輪予選(ユージーン)で突如トップに躍り出て以来、無敵の快進撃を続けているのが、男子砲丸投リオ五輪チャンピオンのライアン・クラウザーです。
「22mクラブに仲間入り」という記事の見出しがまだ記憶に鮮やかなのに、もはや彼にとって22mプットは日常のものとなり、今季は8戦全勝、21m台に終わったのは1回だけです。今年の全米(サクラメント)で投げた22m65は歴代7位にまで上昇。今月に入ってからも、ローザンヌで22m39、ラバトで22m47と、揺るぎはありません。
こうしてみると、まったく死角のない「鉄板」と言ってもよさそうなものですが、見た目の割に波乱が起こりやすいのが砲丸投という種目、という一点が唯一気に掛かっているところです。

解説者の小山裕三さんが再三指摘するように、「一発当たれば大きいがダメな時は全然ダメ」なのが、砲丸投の回転投法。その意味では、クラウザーはおそらく史上最も安定した回転投法のプッターだと思われますが、常にその不安はつきまといます。
その証拠(?)に、今季ランキング2位につけている前回覇者のジョー・コヴァックス(USA)は22m57で、クラウザーとは8センチしか差がありません。トータルな実力比較では明らかにクラウザーが先輩を追い越していると思われる一方で、コヴァックスが一発逆転のビッグショットを放つ可能性も十分にあるのです。
「逆転候補」をもう一人挙げるならば、リオ銅メダルのトム・ウォルシュ(NZL)。昨年はリオ五輪後のDLでクラウザーを連破、DL年間王座を実力でもぎ取った実績があります。

アシックス(asics) 世界陸上 2017 日本代表 ウインドジャケット (M)

◆無敵の女王にも一抹の不安

女子円盤投はここ数年、サンドラ・ペルコヴィッチ(CRO)の独り舞台と言える状況が続いてきました。
そんな無敵の女王も冷や汗をかいたのが、昨年のリオ五輪。どう考えても金メダルは固いという「鉄板」の存在と思われていながら、予選、決勝ともに2投目までファウルという窮地から、3投目の一発のみで切り抜けてきました。
そのペルコヴィッチがDLストックホルム大会でヤイミ・ペレス(CUB)に逃げ切られ、前回世界選手権でデニア・カバレリョ(CUB)に金メダルを攫われて以来の敗北を喫しました。どうやらキューバ勢は彼女にとって天敵のようです。

すでにオリンピックを2連覇しているペルコヴィッチは27歳になったばかりで、投擲選手としてはまだまだこれから脂が乗ってくるところでしょう。それでも常に敗戦の可能性はあるということですね。
だったら、どの選手に対しても軽々しく「鉄板!」などと言うべきではなかろう、ということになるんですけどね。

◆文句なしの大本命だが…
男子棒高跳といえば、現在の中心選手はルノー・ラヴィレニ(FRA)です。
あのブブカの伝説的な世界記録を凌駕した男であり、IAAFダイヤモンドリーグが創設されて以来、唯一7年間すべて年間王座に輝いているPVの帝王。
そのラヴィレニが、今季はなんとDL5戦で未勝利と苦悩の渦中に沈んでいます。故障もありますが、深刻なのは完全に自分の跳躍を忘れてしまっている精神的なスランプで、地元のDLパリ大会では助走の途中でポールを放り出したり、頭からタオルを被って懊悩したり、終始こわ張った表情でファンサービスに応じたり、と王者らしからぬシーンが次々と映し出されたのが印象的でした。

一方で、DL4戦全勝と圧倒しているのがサム・ケンドリクス(USA)です。
もともとラヴィレニを「最大のアイドル」として尊敬し、ゲーム中も小猫が纏わりつくように彼の傍らを付いて回っていたケンドリクスが、今年は完全に立場を逆転させてしまった格好です。しかも、その跳躍はこの種目の宿命とも言える不安定要素がほとんど見られず、全米で遂に6mヴォールターの仲間入りをしたのをはじめ、常に5m80以上で安定しています。

昨年のリオで地元の熱狂的声援の中みごとに6mオーバーを果たして優勝したティアゴ・ブラズ(BRA)は今季5m60で、未確認ながらロンドンの参加標準記録を有効期間内に跳んでいないと思われます。
また前回王者のショーン・バーバー(CAN)は、つい3日前に5m72をクリアしてぎりぎり参加資格獲得に間に合ったとはいえ、こちらも不振は明らか。
つまりケンドリクスにとってはライバル不在の状況で、パヴェル・ヴォイチェコフスキー(POL)がDLローザンヌで5m93を跳び、試技数差で辛勝したのが今季唯一の接戦でした。ケンドリクスにとっては現状唯一警戒すべき相手ということになりそうです。

とはいえ、他のどの種目と比べても何が起きるか分からないのが棒高跳。言うまでもなく、ラヴィレニの起死回生の復活劇、ということも十分にあり得ます。ただ、現時点で無類の安定した強さを誇るケンドリクスが、間違いなく今回の主役候補筆頭ではあるのです。

◆王者キプルトに異変か?
昨季オリンピックを快勝し、DLも6戦全勝で男子3000mSC不動の王座に就いたコンセスラス・キプルト(KEN)。今季もDLローマで余裕の勝利を挙げ、22歳の若きスティープルチェイサーの次のターゲットはまだ達成していない7分台と世界選手権のタイトルだけ、それも時間の問題だろうと思われました。

順当なら「鉄板」の一人に数えてもいい現在のC.キプルトですが、ケニアの国内選手権で故障を発生した、という情報があります。そのことを裏書きするかのように、DLモナコ大会では中盤で謎の急失速。しばらく後方でレースを続けていましたが、結局DNFということになりました。
キプルトの状態が黄信号、ということにでもなれば、前回まで6連覇を続けているケニアのお家芸にも、大ピンチが訪れることになります。モナコを制したエヴァン・ジャガー(USA)が絶好調と見え、すんでのところで逃し続けている7分台も目前という走りを見せているからです。大ベテランのブリミン・キプルトや終盤の爆発力に乏しいジャイラス・ビレチでは、ジャガーがもし自分の速いペースに持ち込めば、勝てないかもしれません。
まずは、予選にC.キプルトが無事に出てくるのかどうか、そこから注目してみたいと思います。

リオ五輪陸上競技TV観戦記・Day7&展望



どこかでやるんじゃないか、とほとんど寝ないでTV放送を注視していましたが、やっぱりDay7のMorning Sessionはまとまった録画放送もしてくれませんでした。僅かに男子400mリレー予選の2レースを見せてくれたのみ。いまだに男子400mH決勝は、ネット以外では見ていません。
レスリングなんて、日本選手が出てくる場面以外を延々と放送してくれてますよね。それはそれで、レスリングも大好きな私としては嬉しいことなんですけど、どっかで陸上に切り替えてくれてもよさそうなもんなのに…なんでゴルフなんか長時間やってるのよ…ブツブツ。

それにしてもっ!…とここで400mリレー日本チームの快挙について語りたいところですが、その前に。
バドミントン女子ダブルスのタカマツペア、最後に16-19の劣勢から5連続ポイントでの素晴らしい大逆転優勝。
振り返れば今回の日本チーム、対戦競技でのメダルマッチの勝率が非常に高いです。「決勝に勝って金メダル」はこれで柔道3、レスリング4、そしてバドミントンで、通算8勝4敗。「勝って終わる銅メダル」は、奥原希望のバドミントンを含めると12勝3敗。で、日本人は大いに溜飲を下げてるわけですね。
すべての事例に当てはまるかどうかは分かりませんが、少なくともタカマツペアの、あるいは体操・内村航平のあの土壇場における集中力や修正能力、抽斗の豊富さ、あれこそが、世界で戦い続けることによって培ってきた「競技力」というものです。

陸上の日本選手たちに決定的に欠けているものは、これだと思います。たかだか2度や3度のオリンピック・世界選手権の出場経験で、どうにかなるものではない「何か」です。
国内競技会を優先しなければならない諸事情や、もちろん経済的・環境的な課題もあるのだとは察しますが、普段から国際試合で揉まれることを繰り返していかないと、いつまでも「日本選手は実力を発揮できず予選敗退」の光景が繰り返されていくに違いありません。陸連のエライさんたちは、根本を見つめ直して強化に反映させていってもらいたいものです。

◇男子400mリレー予選(2組3着+2)
レース模様はおおむね既報のとおりで、付け加えることは大してありません。
アメリカはマイク・ロジャーズ-クリスチャン・コールマン-タイソン・ゲイ-ジャリオン・ローソンのオーダーで37秒65。決勝ではもちろん、ガトリンとブロメルを入れてくるでしょう。
ジャマイカはジェヴォーン・ミンジー-アサファ・パウエル-ニッケル・アシュミード-ケマー・ベイリーコールで37秒94。こちらはボルトとブレイクが入って、1秒近く戦力アップしそうです。
中国はタン・シンクィアン-シエ・チェンイ-スー・ビンチャン-チャン・ペイメンで37秒82。日本との戦力差を単純比較すると、ともに100m準決勝に進んだ山縣とケンブリッジ、スーとシエは合わせてほぼ互角。3番手の比較では10秒00を持つチャンの調子が上がらず、桐生がやや上。アンカー同時スタートなら、ケンブリッジが競り負けることはないでしょう。スターターのタンという選手の情報がほとんどありませんが、100mのベストは10秒30で200mが強いわけでもなく、もしかしたら決勝では昨年の世界選手権と同じメンバーにしてくるかもしれません。

中国は、14年のアジア大会で突然37秒台に突入して以来、バトンワークの乱れというものがほとんどありません。これは相当にチーム練習を重ねてきていると見るべきでしょう。ただ、気にかかるのは100mの走力アップばかりにこだわって、200mに出場するほどのランナーを養成していない点です。話すと長くなりますので別の機会にと思いますが、過去の日本チームの例を見るまでもなく、ヨンケイではロングスプリンターの役割が非常に大きい比重を占めるのです。そのことにまだ中国が気付いていないとすれば、ここに弱点が見出せます。

逆に日本の4人は(決勝も同じオーダーだと思います)、バトンワークもさることながら、全員が200mを20秒5以内で走れることが大きな強みです。(ケンブリッジのPBは20秒62ですが、もともと200mランナーでもあり、現在の走力は優に20秒3前後と考えられます)その意味でも、今回のチームは「史上最強」と言えるのです。
そして天下無敵のアンダーハンドパス。予選を見る限りはほぼ完璧、ということは小さなミスが大きなマイナス材料になるということですから、やはりそこが、同じくバトンワークの安定している中国との勝負を分けるポイントになってくるはずです。
あとは、イギリス。とうぜん決勝ではメンバーを替えてくるでしょうし、もう少し上手くバトンをつなぐはずです。日本のメダル獲得は、この中国・イギリスの難敵2チームに勝つことが、まず重要です。
ナイキ NIKE メンズ 陸上/ランニング ランニングシューズ ナイキ エア ズーム ペガサス 33 OC 846327999 2975 sports_brand
ナイキ NIKE メンズ 陸上/ランニング ランニングシューズ ナイキ エア ズーム ペガサス 33 OC 846327999 2975 sports_brand

◇女子400mリレー

これもアメリカ・チームのお粗末ぶりは既報しましたが、その後インターフェアへの抗議が通って、昨日の夕方、アメリカ1チームだけでの再レースが認められました。ここで慎重にバトンをつなぎながらも41秒77のトップタイムをマークしたアメリカが決勝進出、暫定8位だった中国が予選通過を取り消されるという、前代未聞の成り行きとなりました。(9レーンの競技場でないことが中国には不運でした)
思えば、落としたバトンを改めてきちんとつなぎ直してフィニッシュまで走り切った(66秒71)のは、クレームを通すうえで非常に重要だったはずで、この時のアメリカチームのとっさの判断力は殊勲賞ものです。
相変わらず不安定極まりないアメリカのバトンワークは、前回ロンドンでは鮮やかすぎるほどに決まって40秒82の世界記録に結びつきましたが、いつ再び破綻するとも知れません。
男子も女子も、不思議と失敗しないジャマイカが、どうしても優勝候補筆頭ということになるでしょう。決勝ではアメリカにトリ・ボウイ、ジャマイカにエレイン・トンプソンという、それぞれの切り札が投入されてくると思われます。
RIO037
 最後は破れかぶれにバトンを投げたアリソン・フェリックス

◇男子400mH決勝
優勝候補の一角だったハビエル・クルソン(PUR)が、明らかなフライングで失格。泣きながらトラックを去った後にリスタートしたレースで、最初から攻めていったカーロン・クレメントが直線入り口では一人大きく抜け出し、またまた出てきました、という感じのケニア勢ボニフィス・トゥムティの猛追を振り切って47秒73で優勝。
クレメントは2005年ヘルシンキ世界選手権に19歳でデビューして以来、07年大阪、09年ベルリンと連覇する絶頂期を経て、最近はすっかり「決勝の常連」程度の地位に甘んじてきました。とうとう北京(銀)、ロンドン(8位)で果たせなかった悲願のオリンピック・チャンピオンの座に就いたわけで、その喜びようは傍目にも微笑ましいものに感じられました。
クレメントの大会直前からの勢いが、今季全体的に低調を極めたこの種目ではひときわ目立っていたように思います。終わってみれば4位までが47秒台を記録し、ようやく世界のヨンパーに活気が戻ってきました。

◇男子200m決勝
ウサイン・ボルトの完勝…ながら、19秒78(-0.5)というタイムには失望というよりは自身への怒りを覚えたらしく、今までにないくらいに渋い、ゴール直後の表情でしたね。2種目3連覇の締めくくりにしては、「画竜点睛を欠く」といった気分になったのでしょう。
それにしても、ミックスゾーンで待ち受ける何十というメディアからのインタヴューに、小一時間かけて一つ一つ丁寧な受け答えをしていく真摯な姿には、毎度感服してしまいます。大迫傑や甲斐好美に、少し説教してやってほしいもんです。

◇その他
ワンデイ・トーナメントで行われた男子砲丸投は、全米で史上23人目の「22mクラブ」に仲間入りしたばかりのライアン・クラウザーが、その時の記録を41センチ上回る22m52をプット、王者ジョー・コヴァックス(USA)を再度破るとともに、オリンピック記録を28年ぶりに書き替えました。

女子400mHは予想どおり、ダリラ・ムハマド(USA)の圧勝。世界女王ヘイノヴァは復調今一歩で、メダルに届きませんでした。

女子800m準決勝では今季無敵のキャスター・セメンヤ(RSA)の強さが際立ち、金メダルは堅そうな気配です。対抗格と目されていたユニス・ジェプコエチ・サム(KEN)、フランシス・ニヨンサバ(BDI)が消えたことで、これを脅かす存在は見つけにくくなりました。中長距離好調のアメリカはこの種目でもケイト・グレースが上位で決勝進出、リンジー・シャープ(GBR)やメリッサ・ビショップ(CAN)などメダル争いは白人女性の戦いとなりそうです。

男子1500m準決勝では、アズベル・キプロプ(KEN)がこちらも盤石の態勢。2番手筆頭の位置にあったエリジャ・マナンゴイ(KEN)がDNSで、ディフェンディング・チャンピオンのタウフィク・マクルフィー(ALG)とロナルド・ケモイ(KEN)、マシュー・セントロヴィッツ(USA)、アヤンレ・スレイマン(DJI)らの包囲網をキプルトがいかに凌ぐか、ロンドン五輪や今年のモナコDLの時のようなポカをやらかさないか、注目です。
Melissa Bishop
 女子800、やっぱりビショップに頑張ってもらいたい!

◇その他Day8展望
同じ日に男女の競歩が行われるというワケ分からないスケジュール。日本陸上チーム最大の期待、男子50km競歩は8時のスタートになります。
昨年世界選手権を独歩で制したマテイ・トト(SVK)の力が抜きんでているように思われます。今年は50kmレースから遠ざかっているらしいですが、本命は動かしがたいところ。
2位だったジャレド・タレント(AUS)は20kmを捨ててここ一本にかけてきており、中国勢も不気味。日本トリオにとって上位の壁はかなり高いようですが、ロシアのいない今回は大チャンス。ぜひとも、3人がほぼ同等の力を有するチームの利を活かして、メダルは運次第としても、全員入賞を果たしてもらいたいところです。

今日の注目種目の一つは、女子棒高跳決勝です。
今季インドアながら唯一5mを跳んでいるジェニファー・サー(USA)に、後輩のサンディ・モリスと今季無類の安定性を誇るDLリーダーのエカテリニ・ステファニディ(GRE)、さらには世界女王ヤリスレイ・シルバ(CUB)が絡んで、優勝争いはなかなか混沌。記録レヴェルも4m90から5mラインが勝負どころと思われ、仮にエレーナ・イシンバエワが出ていても予測しがたいほどの好勝負が見られそうです。
地元期待のファビアナ・ムーレルの予選落ちは残念でしたが、日本選手のいない種目ながら、TVでもぜひきちんと見せてもらいたいですね。

さらに、女子5000mのアルマズ・アヤナ(ETH)には、再び世界新記録を期待してよさそうです!

Sandi Morris
 私はサンディ・モリスを応援!
 https://www.iaaf.org/news/report/sandi-morris-pole-vault-american-record-houst

 

注目の全米選手権・前半戦



IAAFのホームページより、ユージーンで開催中の全米選手権兼リオ五輪代表選考会のレポートです。
英語が得意なわけではないので、いくらか誤訳があるかもしれませんが、ご容赦ください。
http://www.iaaf.org/news/report/us-olympic-trials-2016-reese


リース大跳躍!全米オリンピック代表選考会前半のハイライト

由緒あるトラックタウンと呼ばれる地で、アメリカの陸上競技オリンピック・チームの選考が始まった。そこには、多くの新たなオリンピアンとの出会いと同じくらい、かつてのヒーローとの別れがある。

サーニャ・リチャーズ・ロス、ジェレミー・ウォリナー、アダム・ネルソン、リース・ホッファといった面々が、ユージーンでのゲームでの敗退とともに、競技からの引退を表明した。バーナード・ラガトは引退こそしないが、10000mを完走することができなかった。

一方で、長期政権をなお継続する者もいる。2004年以降の世界最高記録である7m31を跳んだ、女子走幅跳のブリトニー・リース。あるいは8回目の男子10000m栄光の王座に就いた、オリンピック銀メダリストのゲーレン・ラップ。

リースのビッグ・ジャンプは土曜日の決勝、4回目に飛び出したが、それまでの2回のファウルは、もしかしたらそれを上回る距離を跳んでいたかもしれない。その記録は、1988年に出された7m21のオリンピック・トライアル・レコードを破るもので、その記録の持ち主ジャッキー・ジョイナー・カーシーはちょうどユージーンに観戦に訪れており、リースを祝福した。

「ずっと、彼女を目標にしていたわ」リースは言う。「ジャッキーは私の先生よ。彼女が私のことを、まだまだ可能性をたくさん持っていると言ってくれたことが、彼女の記録を破る心の支えになってきたという意味でね。記録が破られたのは、私のトレーニングの成果に他ならないわ」

リースの国内タイトルは、この9年間で7回目となった。そのすべてが、3度の世界選手権優勝、3度の世界室内選手権優勝、そして2度のオリンピック代表に結びついているが、もし4年前のロンドンに続く連覇を成し遂げるならば、その時こそ彼女は歴史を作ることになる。女子走幅跳では誰一人としてオリンピック連覇を成し遂げた者はなく、わずかにハイケ・ドレクスラーが1992年と2000年の2度、制している例があるだけなのだ。

リースのジャンプは、2004年7月24日にロシアのタチアナ・レヴェデワが7m33を跳んで以来の記録だった。

ティアナ・バートレッタは走幅跳と100mの1次予選を行ったり来たりする中で、7m02(追風参考)でリースに次ぐ2位となった。

学生時代からの本拠地での走りとなったラップは、いつもとは違う戦法をとりながらも過去7回の全米選手権と同じく首位を占めた。レース中2度にわたる揺さぶりがあったものの、ラストの200mは鮮やかだった。そこでラップはシャドラク・キプチルチルを大きく引き離すと、27分55秒04でゴールを駆け抜けた。

「自分には何もかもが特別だよ。オリンピック選考会でできる走りというのは、通常の国内選手権のレベルとは全然違うものなんだ」と、30歳のラップは言う。「また母国の代表になれることはとても刺激的なことには違いないけど、それよりほら、ここにうちのチビがいるだろう?これが何よりも特別なことなのさ」

すでにリオのマラソン代表に決まっているラップは、今大会この後に行われる5000mへの出場も狙っている。オリンピックで10000に出場することは明言しており、もう1種目を5000にするかマラソンにするか、これから決断することになる。

2位のキプチルチルと3位のレナード・コリルは、 合衆国陸軍のワールドクラス・トレーニグ・プログラムに所属する軍人である。41歳のラガトは「欲張り過ぎた」と言って、得意の5000に向けて体力を温存するためレースを放棄した。

    

クラウザー、「22mクラブ」に入会

ライアン・クラウザーが、ジョー・コヴァックスの持つシーズン最高記録にあと2センチと迫る22m11で男子砲丸投に優勝、史上23人目となる屋外での22mプッターとなった。コヴァックスは6投目の21m95で2位に続いた。

38歳のホッファは5位、40歳のネルソンは7位。「ここんとこは、短い時間で集中してやるようにしているけど、まあこんなもんだろうね」と、2007年の世界チャンピオンだったホッファ。またネルソンは試合後すぐに引退を表明し、1位の選手のドーピングによる失格で繰り上がった2004年のオリンピック金メダルの栄誉を称えるセレモニーで、表彰を受けた。

女子10000mでは、モリー・ハドルが終始先頭を譲らず、31分41秒62で優勝した。前年の世界選手権でハドルをゴール寸前に交わして銅メダルを勝ち取ったエミリー・インフェルドが、31分46秒09で2位に続いた。

全米記録保持者のジア・ルイス‐スモールウッドが故障欠場となった女子円盤投では、ホイットニー・アシュレイが62m25で1位となった。2008年のオリンピック・チャンピオン、ステファニー・ブラウン・トラフトンは5位に終わった。「ここ数年は、確率がよくないわね」と彼女は言う。「もし、どこか他の場所でやらなきゃならないとしたら、ユージーンはいい所ね」

陸上スパイク ナイキ ズームセラー5 NIKE ZOOM CELER5 882023-999 短距離

価格:9,720円
(2017/1/8 15:17時点)
感想(0件)


予選最速は誰だ?

土曜日に行われた男女100m・1次予選のハイライトは、アキレス腱の負傷から復帰した世界選手権銅メダリスト、トレイヴォン・ブロメルの9秒94(+1.2m)と、追風参考(+3.6m)ながらジェンナ・プランディーニの10秒81だった。ブロメルのタイムは、全米選考会の1次予選でマークされたものとしては2012年のジャスティン・ガトリンによる9秒90に次いで2番目に速い記録。また女子の1次予選での追風参考記録としては、イングリッシュ・ガードナーの10秒90がこれまでの最速だった。

世界選手権とオリンピックの十種競技王者、アシュトン・イートンは、十種での大会記録になる46秒30で400mをフィニッシュし、総合でも4560点で1日目をリードした。イートンは100mで10秒34、走幅跳で7m84を記録して最初からトップに立ち、走高跳で、ジェレミー・タイウォがやはり大会新の2m21をクリアした時だけ一瞬その座を明け渡した。
跳躍2種目の後に行われた400mで、過去2度の世界王者となっているトレイ・ハーディーがラスト100mにかかったところでジョギング状態となり、72秒49でゴールした。上位3名に食い込むことは、もはや絶望的となった。

予選での最も大きな波乱は、男子800mだった。2012年オリンピック4位のドゥエイン・ソロモンと、USジュニア記録保持者のドナヴァン・ブレイジャーが、ともに予選落ちしたのだ。

女子走高跳で40歳のエイミー・エイカフは、アメリカでは初となる6回目のオリンピック出場を目指したが、予選で姿を消した。

最も残念だったシーンは、女子400m予選のレース半ばを過ぎたあたりでストップしてしまった、サーニャ・リチャーズ・ロスの姿だった。オリンピック女王は、1か月前からハムストリングスを傷めていたのだ。その光景が何を物語るかに気付いた時、20,987人の観衆は、サーニャに惜しみない拍手を送った。

「素晴らしい陸上人生だったし、こんなにも多くのファンが私を愛してくれているのを見て、最高よ」と、サーニャは言った。「本当にありがたいわ」

400mという種目は、ジェレミー・ウォリナーにも、ディーディー・トロッターにも、十種競技のハーディーにも同じように厳しかった。いずれも、ゆっくりと、あるいは歩くようにしてゴール。2004年に20歳の若さでオリンピックを制したウォリナーは、進出叶わなかった準決勝に思いを馳せるように、カーブのところでステップを踏んでみせた。

ギャラリー
  • 『第42回全日本実業団対抗女子駅伝』大胆展望
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • <再掲載>連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#3 ~1987年/第22回福岡国際マラソン
  • 『第105回日本陸上競技選手権』観戦記+α その⑤⑥
楽天市場
タグ絞り込み検索
  • ライブドアブログ