「速い人を決めるコンテスト」を厳密に、公平に実施しようとすればするほど、次から次へと細かい取り決めが必要になってきます。やがて「ルール」としてまとめられたそれらの取り決めは結構膨大なものになって、一般の人々には思いもつかないような約束事までが網羅されてきたりします。特に「記録(タイム)」が重大な関心事になる短距離走では、その記録をどのように正確に公平に取り扱うかが大きな問題点となってくるのです。
100m競走が世界共通のルールのもとで完璧に公平に競われる種目である以上、100メートルという距離の決め方に僅かでも認識の違いがあってはなりません。
では、どこからどこまでを測って、100mレースの舞台と決めているのでしょうか?

少し、100mよりも大きな舞台について語ることをお許しください。
日本国内で記録が公認される(=さまざまな資格記録が認められる、ランキング入りする)ための条件の一つとして、その記録が「公認陸上競技場」で出されたものである必要があります。公認競技場はその規格や設備等によって第1種から第4種までに分類され、日本陸連が主催する大会(日本選手権、国体、インターハイなど)は最高クラスの「第1種公認陸上競技場」で開催することが求められています。この第1種競技場は、2014年現在で全国各都道府県に、69場あります。

第1種の公認を受けるには、さまざまな条件を満たしている必要がありますが、その一つに「第3種以上の補助競技場を備えていること」という項目があります。つまり、ウォーミングアップ用の専用練習場の確保、ということですね。
つい最近まで、この条件を満たしていない巨大スタジアムが存在していました。2020年のオリンピック開催決定でクローズアップされた、国立霞ヶ丘競技場です。すったもんだの末にようやく改築の方向性が決まったのはいいとして、結局肝心の補助競技場は、「オリンピック期間中の仮設」ということになったようです。つまり、2020年以降は再び、国立競技場は第1種の認定を受けられない、主にサッカーやラグビーのための球技場として存続することになるわけです。(素人考えながら、私はスタジアムの地下にサブトラックを作れないものかというアイデアを持っていたんですが、やっぱり無理でしょうかね?)

陸上スパイク シューズ メンズ レディース/アシックス asics オールウェザー/土トラック兼用 トラック種目 /TTP521
陸上スパイク シューズ メンズ レディース/アシックス asics オールウェザー/土トラック兼用 トラック種目 /TTP521


track-462121_960_720

動画・音声・画像の保存など、初心者でも気軽に使えるPC動画キャプチャーソフト!

話を戻します。第1種から第3種までの競技場は、走路の全面を全天候型に舗装していることが求められます。
昔の陸上競技は、国立競技場であっても土のトラックに石灰で白線を引いて行ったものですが、今ではとうぜん、必要なラインやマークはすべて、全天候型(合成ゴムやポリウレjタン樹脂製)のサーフェス(表面)に、あらかじめプリントされています。
最も基本的なマークは、8つまたは9つのレーンを区切る白いライン、そしてホームストレートの終点(=第1コーナーの入り口)に引かれた白いゴールライン(フィニッシュライン)です。すべての競走種目はこのゴールラインを終点とし、ここから逆向きに計測して各種目のスタート位置が決められていくのです。
なお、陸上競技場の競走を規定するライン(上の写真にあるような数字や補助的な目印は別として)は、すべて「幅5センチメートル」と決まっています。

さて、ようやく100mの舞台の話になってきます。
日本の陸上競技場は、おおむねホームとバックの直線部分が80メートル、第1・第2コーナーおよび第3・第4コーナーの円弧部分がそれぞれ120メートル(縁石から30センチ外側の位置で計測)、という設計になっています。したがって、100m競走および女子100mHのスタート位置は、ホームの直線部分をゴールと逆側に、第4コーナーの曲走路を突っ切るようにして20メートル延長した地点に、やはり白いラインで示されています。そのさらに10メートル延長した先に、男子110mHのスタートラインがあります。
レーン(走路)の幅は、1つが122センチメートルです。中途半端な数字と思われるかもしれませんが、これはイギリスで発祥した陸上競技がヤード・ポンド法のもとで行われていたその名残で、「4フィート=121.92センチ」が元になっているのです。ラインの幅の5センチというのも、「2インチ=5.08センチ」なんですね。他にも、ハードルの高さや投擲器具の重さなど、ヤード・ポンド法の名残はあちこちに見られます。

いよいよ、「どこからどこまで」の結論です。
とりあえずの正解は、「スタートラインの手前側の縁の直線から、ゴールラインの手前側の縁の直線まで」です。「とりあえず」と言う意味は、また後ほど説明します。

ここからは、少し数学的なお話になります。「げっ、数学!?」と思う人は逃げて結構です。
数学で言う「直線」とは、いわば空想上の概念みたいなものでして、長さや幅というものがないので、目に見える実体がありません。
「そんなことないよ、現にスタートラインやレーンの直線が見えてるじゃないか」……それは、まっすぐなラインや走路を「直線」という観念で表現しているだけで、実際のラインや走路は「線」ではなく「平面上にある縦横比の極端な長方形」です。
100mのスタートとゴールを規定する「走路と垂直に交わる、正確に100メートル離れた直線」は、直線ですから目に見えません。これを目に見えると感じられるようにしたものが、幅5センチの白いマークです。便宜上(数学上の「線」と区別する意味で)、このマークを「ライン」と呼ぶことにします。
技術的に正確にまっすぐ記されたライン自体は幅を持っている以上、「直線」ではなく「長方形」ですが、その「縁」は、観念上のものである「直線」を目で認識できる部分です。
そして、陸上競技のルールでは、あらゆる競走の「起点」と「終点」を、「ラインの(走者にとって)手前側の縁」と定めているのです。
このことは、陸上競技のレースを厳正に実施するにあたって、とても重要な、しかし明解な決まり事となっています。
少し長くなりましたので、次回はこの続きから、ご説明しましょう。