豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

マレ・ディババ

リオ五輪陸上競技TV観戦記・Day3



日本では日曜・夜のまあまあ早い時間からの女子マラソン観戦、皆さんお楽しみいただけましたか?
「日本人がいなくなったから、チャンネル変えちゃったよ」
という方はこの記事の読者にはいらっしゃらないかと思いますが、終盤の接戦にあの曲がりくねった狭い道、なかなかスリリングなレースだったと思いません?
ああいうコース設計だと、競り合っている場合は主導権を握っている方が断然有利な感じがします。付いて行ったり追いかけて行く場合、コーナーを曲がるたびにダメージが重なっていく様子が見えますものね。

私の「展望」どおり、終盤はマレ・ディババとユニス・ジェプキルイ・キルワの一騎討ちか?…と思いきや、いったん遅れかけたケニアのエース、ジェミマ・スムゴングがラスト勝負を嫌ってロング・スパート。「スプリントに自信がない場合は早めに仕掛けなければいけない」とよく言われますが、それが実際にできる、というあたりが実力です。みごとな勝利でした。
エチオピアは、ディババ以外の2人の代表を入れ替えてたんですね。(元の代表はアセレフェチ・メルギアと東京にも来たアベル・ケベデ)チームとして、どこか順調ではなかったのかもしれません。

ところで、朝方のオリンピック番組でNHKの素人っぽいお姉ちゃんキャスター(なんでこの子を抜擢したんだろう?と不思議なくらい地味で下手くそな女性)が
「3位のディババ選手は、ロンドン・オリンピックの10000m金メダリストです」
だって…もちろん出された原稿をそのまま読んだだけですが、書いた奴、蹴飛ばしてやりたくなりました。

日本勢は、いずれも本調子ではなかったとしか思えません。多くのランナーの夢を踏み台にして代表に選ばれた選手が「本調子でない」というのは許されないことだと思うのですが、少なくとも1桁順位に2人は入る、そんなメンバーとレース展開だったと思うのです。
そのような調子にしか仕上げられなかったことも実力のうちということで、強化体制と選考方法がもう一度練り直されることを期待します。懸命に走り切った3選手は、お疲れ様でした。

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さあ、月曜朝の極上ブレックファストは、男子100m準決勝と決勝。
日本の両選手、実力は発揮しましたが今一つブレイクするところまでは行きませんでした。
「9秒台でなければ決勝へ行けない」という観測の中、決勝ラインが10秒01だったことはある意味大きなチャンスを感じさせる準決勝だったわけですが、「23人中19人が9秒台ランナー」という状況では、仕方のない結果だったでしょう。トータルで11位タイの記録だった山縣選手などは、もし1組に入っていたら案外順位もタイムもいいところへ行っていたように見える奮戦ぶりでした。

いよいよ決勝!…の前に、男子400m決勝で出ましたワールドレコード!
南アフリカの旗手を務めた、昨年世界選手権チャンピオンのウェイド・ヴァンニーケルク。
誰の動きも気にしない8レーンをスイスイ走って、昨年前半までずっと「400mの2強」と言われてきたキラニ・ジェームズとラショーン・メリットを置き去りに、あのマイケル・ジョンソンの偉大な記録を一気に0.15秒も上書きしてしまいました。(私はゴール直前、一瞬「42秒台??」と思いましたよ)
そして、オリンピックの金メダルにも驚異の世界新記録にも、ニコリともしない仏頂面。ジェームズらの祝福にはしっかり応えていたり「神に感謝」のポーズはしていましたから、すごく嬉しかったのは間違いないんですが、あのポーカーフェイスは何としたことでしょう!
陸上競技での南アフリカの金メダルは、ちょっと意外な気もしますが、1996年アトランタ大会のジョサイア・チュグワネ以来のことだそうです。
Wayde van Niekerk02

そして、締めくくりは「21世紀のザ・グレーテスト伝説」、ウサイン・ボルトの独り舞台。
終わってみれば、今回は「ボルトvsガトリンvsブレイク」の構図ではなく、最初からボルトの独走だったという結果になりました。

ガトリンは、大会前の「舌戦」の影響で見事なまでに悪役に仕立て上げられ、紹介のたびに強烈なブーイングを浴びていたのは気の毒でした。
あの「舌戦報道」、どこか(古い話ですが)ソウル大会マラソン代表選考の際の「瀬古vs中山」の状況に酷似していたように思えます。選考会の福岡を欠場した瀬古利彦に対して中山竹通が「這ってでも出て来い!」と言い放ったというあのエピソードです。
後年、中山氏はこのことに触れられるたびに、「いや、ボクはそんなこと言ってないですよ」と語るそうです。「瀬古さんは立派な実績のあるランナーだから、陸連の救済措置が受けられる。仮にボクだったら、福岡には這ってでも出なきゃいけない、そういう意味のことを言った」のだと。それを、食いついたマスコミが意図的にニュアンスの異なる大見出しにしたのが世に広まった、というのが真相です。
私の印象では、ガトリンはボルトに対して敬意と相応のライヴァル意識は持っていても、悪意を込めたコメントを発するようなタイプの人には見えません。ただ「アメリカでは代表選考で救済措置はあり得ない」という意味の発言をしたところ、「ガトリンがボルトに喧嘩を売った!」とマスコミに捻じ曲げられて世界中に報道された、というのが本当のところではないでしょうか?
「売られた喧嘩」に応じたボルトのほうも、何か大人げない印象があるのは、意図された「舌戦」だったからでしょうか?…にしても、ガトリン一人がブーイングを浴びるというのは、どうもねえ。

そうした経緯が影響したのかどうか、今回のガトリンにはどこか覇気がなく、恒例の「檻をこじ開けるポーズ」も見せないままにスタートに就き、あっさりと敗れ去りました。9秒89というタイムは去年のガトリンであれば考えられないほどの「低記録」で、つまりは自滅の結果ボルトの「独走」を許した、というふうに見えました。
もう一人の強豪ヨハン・ブレイクは、予選から余裕たっぷりの動きが不気味さを感じさせましたが、4年前に比べると一回り「太った」印象で、決勝ではキレがなかった感じですね。

それにしても、トラック種目で史上初の同一種目3連覇は「偉業」の一言。今大会、すでにティルネッシュ・ディババとシェリー-アン・フレイザー-プライスが挑んでいずれも銅メダルに終わっていただけに、その偉大さが際立ちます。
競泳のマイケル・フェルプス同様、21世紀のオリンピックを牽引してきたボルトが、フェルプスと同じ「2種目3連覇」に挑む200mは、明日からのクランクイン。日本の3選手の動向と併せて、目が離せません。

大会3日目にして早くも世界新記録が2つ。アルマズ・アヤナは、よほど疲労の蓄積とかがない限り、5000mでも9割がた出してくると思います。
今日も期待が持てますよ。女子3000mSC決勝。ルース・ジェベトとハイヴィン・キエン・ジェプケモイの調子は、いいみたいです。

 

リオ五輪直前展望・Day3(8/14)



大会5日目が終了して、日本選手も素晴らしい活躍を続けています。
もちろん期待通りにはいかない競技や選手もありますが、体操団体での金メダル奪回や卓球の男女シングルス快進撃、15人制に続いて優勝候補を撃破した男子ラグビー7s、開幕2連勝の女子バスケットボール、カヌー史上初のメダル獲得、体操女子の躍進など、明るい話題は途切れません。ロンドンで銅メダル3連発を飾った3日目が不発に終わった競泳も、4日目は坂井聖人、渡辺一平、小堀勇氣という“2番手”の若手が大活躍してようやく波に乗ってきました。

陸上競技も明後日から開幕します。
なお、今月号の『月刊陸上競技』はリオ特別編集のため、通常14日発売のところ昨日すでに書店に並んでいます。お買い逃しのないように^^

◆Day3のプログラム

―Morning Session—
 (  9:30)女子マラソン

―Evening Session—
 (  8:30)男子走高跳予選/女子400m準決勝/女子三段跳決勝/
 (  9:00)男子100m準決勝/女子1500m準決勝/
 (10:00)男子400m決勝 (10:25)男子100m決勝

◇女子マラソン
 12OG ①2:23'07"T.ゲラナ(ETH) ②2:23'12"P.ジェプトゥー(KEN) ③2:23'29"T.アルヒポワ(RUS)
 13WC ①2:25'44"E.キプラガト(KEN) ②2:25'58"V.ストラネオ(ITA) ③2:27'45"福士加代子
 15WC ①2:27'35"M.ディババ(ETH) ②2:27'36"H.キプロプ(KEN) ③2:27'39"E.J.キルワ(BRN)
 15-16WL ①2:19'41"T.ツェガエ(ETH) ②2:19'52"M.ディババ ③2:21'27"キプロプ(KEN)
④2:22'17"福士 ⑤2:22'40"E.J.キルワ ⑥2:22'58"J.スムゴング(KEN)
 ※OG=オリンピック WC=世界選手権 WL=シーズン・ランキング(出場選手のみ対象)


他種目と異なり各選手の年間出場レース数が少なく、ダイヤモンドリーグにも関係ないため、ロンドン・オリンピックから2度の世界選手権(モスクワ・北京)、エントリー選手の昨年・今年を通してのランキング上位6傑を参考データとして掲載しました。ちなみに、ランキングに載っていないエチオピア・ケニア勢のそれぞれもう一人は、T.トゥファとV.ジェプケショーです。

こうして見ると、福士選手が堂々の上位候補の一角であることは事実で、6月の故障の影響がないことを祈るばかりです。

ランキング上位にはここに載っていないエチオピア・ケニア勢がうじゃうじゃとひしめいているわけですが、エチオピアなどはやはりその中でも実績・安定感ともに文句なしの選手が選ばれてきています。ケニアの選考事情は、正直言って毎度よく分かりません。(笑)
私は以前から、高速のシティレースを主戦場にする選手はオリンピックにはなかなか勝てないと考えており、なぜなら気候も異なりレース展開もまったく別の種目と言ってもよいくらいに違ってくるからです。これは男子も女子も共通の特徴だったのですが、近年はほとんどの有力選手がそうしたレースにばかり出場するようになり、「賞金レース向き」と「ビッグゲーム向き」の判別がつきにくくなってきています。
そうした中で、抜群の安定感を誇るところからマレ・ディババとユニス・ジェプキルイ・キルワの2人が優勝候補かな、と思っています。特にキルワのオールマイティぶりはご存知のとおりで、ただ優勝ということになるとエチオピアの誰かにやられるかな、といった観測を持っています。
世界との差を少し縮めてきた感のある田中智美、伊藤舞の両選手にも、粘りの力走を期待しましょう。

◇男子走高跳

 15WC ①2m34D.ドルーイン(CAN) ②2m33B.ボンダレンコ(UKR)、チャン・グウェイ(CHN)
 15DL ①20p/6M.E.バルシム(QAT) ②9p/4チャン ③6p/2ボンダレンコ
 16DL ①26p/3ボンダレンコ ②22p/3E.キナード(USA) ③17p/5R.グラバーツ(GBR)
 16WL ①2m40バルシム ②2m39G.タンベリ(ITA) ③2m38ドルーイン ⑰2m29衛藤昴
 ※DL=ダイヤモンドリーグ。「総計ポイント/試合数」で表記。2015年と16年とではポイント設定が異なる。


2m40の大台乗せを5人が果たした2014年には「もう世界新記録は時間の問題」とまで言われましたが、その後はやや停滞気味のこの種目。停滞の最大の原因はバルシム、ボンダレンコ両巨頭の乱調ぶりと言ってよいでしょう。
今年は勝負の上ではボンダレンコがいちおう安定、記録ではバルシムが久々の40クリアを果たしていますが、決していい状態とは言えません。その間隙をついて、着々と頂上を狙っているのが「半面ヒゲ男」ジャンマルコ・タンベリ、「ダサダサ・パフォーマー」チャン・グウェイ、「一人バックドロップ」エリック・キナードの色物芸人勢に、SB2m31なのにDLポイントをコツコツ貯め続けるロバート・グラバーツ。(ゲツリク情報によれば、タンベリはDLモナコ大会での負傷のため欠場とのこと)
個性あふれる面々による優勝争いは非常に面白くなりそうですが、去年の世界選手権のような低空飛行でのジャンプ・オフなどはあんまり見たくないですね。
日本の衛藤には、PBの更新と予選通過を狙ってほしいところですが、どこまで期待できますか。




◇女子三段跳
 15WC ①14m90C.イバルグェン(COL) ②14m78H.クニャジェワ-ミネンコ(ISR)③14m77O.リパコワ(KAZ)
 15DL ①28p/6イバルグェン ②7p/3リパコワ ③6p/3E.コネワ(RUS)
 16DL ①46p/5イバルグェン ②21p/4リパコワ ③15p/3Y.ロハス(VEN)
 16WL ①15m04イバルグェン ②15m02ロハス ③14m73P.パパフリストウ(GRE)


女帝イバルグェンの独走状態が続き、数少ない絶対的な金メダル候補の一人と言われてきたこの種目。
ただ、今年に入って34まで伸ばしてきた連勝記録をリパコワにストップされ、シーズンベストでもロハスに迫られるなどいくらか隙を見せているのが気になりますが、まあ固いでしょう。
ロンドン金のリパコワは、前述のように4年ぶりにイバルグェンに土をつけた一方で、15mを跳ぶほどの迫力は感じられません。ロハスやパパフリストウの突き上げも厳しく、メダル争いは混戦模様です。


今回は陸上の実施期間が10日間と長く、複数種目に出る選手にとってはありがたい日程になる反面、1日あたりのプログラムが少し寂しい感じがします。つくづく、女子10000mなどいくつかの決勝を午前中に実施する意図が分かりません。
あと、前回(Day2)の展望の中で、予選実施の男子棒高跳の記事が抜けていましたので、追加しておきます。決勝はDay4の夜になります。

◇男子棒高跳

 15WC ①5m90S.バーバー(CAN) ②5m90R.ホルツデッペ(GER) ③5m80R.ラヴィレニ他2人
 15DL ①21p/5ラヴィレニ ②12p/4K.フィリピディス(GRE) ③4p/1バーバー
 16DL ①36p/4ラヴィレニ ②22p/4バーバー ③14p/2S.ケンドリクス(USA)
 16WL ①5m96ラヴィレニ ②5m92ケンドリクス ③5m91バーバー ⑦5m75澤野大地

Renaud Lavillenie

2連覇を狙うラヴィレニが、総合的には文句なしにナンバーワンの実力と実績を示しています。「対抗」格の世界選手権保持者バーバーもまずまず堅調です。それでも、何が起こるかわからないのが棒高跳。優勝予測は困難を極めます。5m70あたりで優勝候補がポロポロとバーを落とす光景もあるでしょう。
ノってしまえば、ラヴィレニが6mの大台に乗せて…となれば、他の選手はまず太刀打ちできません。そうさせない心理戦などもあるのでしょうが、そこまではTVの画面では窺い知れませんね。
日本選手も実力発揮しさえすれば、入賞どころかメダルのチャンスだってあります。まずはきっちりと予選ラインを突破すること…これがなかなか達成できないんですがね。

 
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