さて、オリンピック始まっちゃいましたね。
当初は前回ロンドン大会の分まで、この【連載】を書き切るつもりでいたんですが、陸上競技以外も寝る暇を惜しんでTV観戦する私としては、そっちに時間を割かねばならないということで、まあちょうど10回目、2000年と区切りのいいところで、今回を「最終回」にさせていただきたく。
それ以降の大会については、比較的最近のこととてご覧になっている方も多いことでしょうし。

2000年の初秋(現地では早春)に行われたシドニー・オリンピックは、我がニッポン陸上界にとって悲願だった戦後初の金メダリストが誕生した、記念すべき大会となりました。
しかもそれは、「死ぬまでに一度は見たい」と思っていたマラソンでの日本人優勝。すでに世界選手権では、男子の谷口浩美、女子の浅利純子と鈴木博美という金メダルの瞬間を見てきて、「心の準備」は整っていたつもりでしたが、オリンピックで、「優勝候補筆頭」という万人の期待を受けた中で達成されたこの快挙の瞬間ほど、感慨深かったことはありません。
高橋尚子さん、万歳!(あんまりパチンコにのめり込まないようにしてください…)

◆各種目の金メダリストと日本選手の成績
<男子>
 100m モーリス・グリーン(USA) 9"87 ※伊東浩司:準決勝 川畑伸吾:2次予選 小島茂之:1次予選
 200m  コンスタンティノス・ケンデリス(GRE) 20"09 ※伊東浩司・末續慎吾:準決勝
 400m マイケル・ジョンソン(USA) 43"84 ※小坂田淳:2次予選 山村貴彦・田端健児:1次予選
 800m ニルス・シューマン(GER) 1'45"08
 1500m ノア・ヌゲニ(KEN) 3'32"07(OR)
 5000m ミリオン・ウォルデ(ETH) 13'35"49 ※高岡寿成:15位 花田勝彦:予選
  10000m ハイレ・ゲブルセラシエ(ETH) 27'18"20
※高岡寿成:7位 花田勝彦:15位
 110mH アニエル・ガルシア(CUB) 13"00 ※谷川聡:2次予選
 400mH アンジェロ・テイラー(USA) 47"50 ※山崎一彦・河村英昭・為末大:予選
 3000mSC ルーベン・コスゲイ(KEN) 8'21"43
 4×100mR アメリカ 37"61 ※日本(小島・伊東・末續・朝原宣治):6位
 4×400mR ナイジェリア 2'58"68 ※日本:準決勝
 マラソン ゲザハン・アベラ(ETH) 2:10'11" 
川嶋伸次:21位 佐藤信之:41位 犬伏孝行:DNF
 20kmW
ロベルト・コルゼニオウスキー(POL) 1:18'59"(OR) ※栁澤哲:22位 池島大介:27位
 50kmW
ロベルト・コルゼニオウスキー(POL) 3:42'22" ※今村文男:36位 小池昭彦:DQ
 HJ セルゲイ・クリュギン(RUS) 2m35 ※吉田孝久:予選
 PV ニック・ハイソング(USA) 5m90 ※横山学:予選
 LJ イヴァン・ペドロソ(CUB) 8m55 ※森長正樹・渡辺大輔:予選
 TJ ジョナサン・エドワーズ(GBR) 17m71 ※杉林孝法:予選
 SP アルシ・ハリュ(FIN) 21m29
 DT ウィルギリウス・アレクナ(LTU) 69m30
 HT シモン・ジオウコウスキー(POL) 80m02 ※室伏広治:9位
 JT ヤン・ゼレズニー(CZE) 90m17(OR)
 DEC エルキ・ノール(EST) 8642p.
 

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<女子>

 100m なし(1位・2位選手のドーピング失格および疑惑により)
 200m  ポーリン・デーヴィス-トンプソン(BAH) 22"27
 400m キャシー・フリーマン(AUS) 49"11
 800m マリア・ムトラ(MOZ)  1'56"15
 1500m ヌリア・メラー-ベニダ(ALG)  4'05"10
 5000m ガブリエラ・サボー(ROU) 14'40"79(OR)※志水見千子・田中めぐみ・市川良子:予選
  10000m デラルツ・ツル(ETH) 30'17"49(OR) ※川上優子:10位 高橋千恵美:15位 弘山晴美:20位

 100mH オルガ・シシギナ(KAZ) 12"65 ※金沢イボンヌ:準決勝
 400mH イリーナ・プリヴァロワ(RUS) 53"02
 4×100mR バハマ 41"95
 4×400mR アメリカ 3'22"62
 マラソン 高橋尚子(JPN)  2:23'14"(OR) ※山口衛里:7位 市橋有里:15位
 20kmW ワン・リーピン(CHN)  1:29'05"(10kmWから変更)

 HJ エレーナ・エレシナ(RUS)  2m01 ※太田陽子:11位 今井美希:予選
 PV ステーシー・ドラギラ(USA) 4m60(新種目)
 LJ ハイケ・ドレクスラー(GER)  6m99
 TJ テレザ・マリノワ(BUL) 15m20
 SP ヤニナ・コロルチク(BLR) 20m56
 DT エリナ・ズヴェレワ(BLR) 68m40
 HT カミラ・スコリモウスカ(POL) 71m16(新種目)

 JT トリーネ・ハッテスタット(NOR) 68m91(規格変更)
 HEP デニス・ルイス(GBR)  6584p.(JT規格変更)


◆残念なドーピング事件

全般にアメリカ・ロシアの金メダル数争いという様相はすっかりなくなり、ギリシャ、リトアニア、エストニア、バハマ、モザンビーク、アルジェリア、カザフスタン、ベラルーシ、ノルウェー、中国そして日本といった、世界のさまざまな国々の選手が優勝者リストに名を連ねる大会となりました。

地元のヒロインとして聖火点灯者にもなったキャシー・フリーマンやマイケル・ジョンソンを除いては格別に熱狂的支持を受けた選手も少なかった中、花形選手の一人だったマリオン・ジョーンズが大会後7年を経過してから自らの薬物使用を告白し、2008年に至って現役時代のすべての記録が抹消、この大会の100mで2位以下に0.37秒もの大差をつけて勝ち得た金メダルも没収されてしまいました。
また、2位のエカテリニ・タヌー(GRE)も再検査に応じないまま時間が経過し、結局女子100mは「優勝者なし」という前代未聞の結果が公式記録として残ることになりました。(レースで2位のタヌーと3位のタイナ・ローレンス=JAMが銀メダル、4位のマリーン・オッティ=JAMが銅メダルの扱い)

1997年のアテネ世界選手権に颯爽とデビューしたマリオンは、この大会から日本での中継権を得たTBSの「目玉選手」の一人としてプッシュされ、グリフィス-ジョイナーの世界記録に迫る10秒65で走るなどしてメダルを量産し、大いにその期待に応える存在だったのですが、先に世界選手権での金メダルを剥奪された前夫のC.J.ハンター(砲丸投)とともに、ドーピングにどっぷりと浸かった虚飾のアスリートだったことが白日のもとに晒されたわけです。

なお、この大会では男子4×400mリレーでも1着のアメリカがメンバーのドーピングにより8年後に優勝を取り消され、マリオンがメンバーとなっていた女子の両リレーについても審議がなされました。(女子両リレーについては現況、成績の剥奪はされていません)
ベン・ジョンソンの失格から12年、スポーツの世界ではこの当時にツール・ド・フランスを7連覇(1999年~2005年)していたランス・アームストロング(USA)に代表されるように、収まることのないドーピング指向と検査・摘発機関とのいたちごっこが激しく再燃し始めた時期だったと言えるでしょう。


◆男子短距離陣奮闘及ばず
2年前のアジア大会で100m10秒00、200m20秒16というアジア・レコード保持者になっていた伊東浩司に決勝進出の期待がありましたが、このシーズンやや精彩を欠いていた伊東は両種目とも準決勝どまりに終わりました。
それでも、若手ホープの末續慎吾が200mでともに準決勝に進出し、100m個人種目に出場した川畑慎吾・小島茂之に“切り札”の朝原宣治を加えた400mリレーには大きな期待が集まりました。残念ながら2走・3走を務めた伊東・末續に連戦の疲労が甚だしく6位に終わった日本チームは、翌シーズンから「アンダーハンド・バトンパスの習得」という新たなテーマへの取り組みを開始し、悲願のメダルへ向けての道のりを歩んでいきます。

一方のマイルリレーでは、予選を1着通過しながら準決勝でバトンを落とす痛恨のミスで敗退。高野進の跡を継いで日本チームのリーダーを務めてきた苅部俊二は、次の世代へ夢を託すことになりました。

オリンピックの常連となった感のある男子400mHでは、世界選手権ではその後、為末大によって2つの銅メダルがもたらされることになるのですが、オリンピックではどうしても「準決勝の壁」が破れずにいます。今季ランク上位に位置する野澤啓佑の、リオでの活躍が期待されます。

トラック長距離では、男子の高岡寿成が10000mに7位入賞を果たし、5000mでも予選を突破する大殊勲を挙げました。10000m決勝の前日に30歳になっていた高岡は、これでトラックでやり残したことはないと以後はマラソンへの挑戦を試み、一時期3000mからマラソンまでの日本記録を独占することになります。アテネ大会の選考会で、2時間7分台で走りながら終盤の競り合いに敗れてマラソン代表の座を逃したのは、残念でした。
これ以後、男子トラック長距離はまったく成績が振るいません。こちらも、海外チーム在籍という新機軸に挑んだ大迫傑らの若い力に期待したいものです。