◆連載再開!?
リオ五輪のことをいろいろ書かせていただいている間、<連載>がストップしてしまいました。本当のところはリオ五輪の100mレースをウォッチするに際して、少しでも多くの方に予備知識を吹き込んでおきたいなというつもりで書き始めた<連載>なので、いったんその目的が(一部間に合わずに)終わってしまった、という残念な気持ちもあります。
ですが、100m競走について語りたいことは、まだまだ尽きません。
今後は、何かテーマがまとまるごとに、不定期に継続していこうかと思っています。
リオ五輪ではウサイン・ボルトのトラック種目史上初の3連覇達成という大きなトピックがありました。
この大会は、3連覇に挑む選手が非常に多くいて、トラックだけでもボルトの2種目の他に、女子100mのシェリー-アン・フレイザー-プライス(3位)、同10000mのティルネッシュ・ディババ(3位)、またフィールドでは男女砲丸投のトマス・マイエフスキー(6位)とヴァレリー・アダムズ(2位)、女子やり投のバルボラ・シュポタコヴァ(3位)と、5人も挑んでいながら誰も達成できなかったことで、その困難さがよく分かるというものです。(むしろ、この6人全員が無事3連覇の舞台に駒を進め、全員入賞、1人を除く5人がメダルを獲得していることのほうが、驚くべきことかもしれません)
もう一つの話題は、100mという種目からは外れますが、400mリレーでの日本チームの大偉業でしたね。
本道の100mでも、予選を余裕で突破した山縣・ケンブリッジ両選手の走りは、陸上チームの明るい話題の一つでした。
その中であまり触れられませんでしたが、山縣選手が2つのレースで記録した0.111秒、0.109秒という驚異的なリアクションタイムは、知られざるところで大問題を投げかけたのではないか、という気がしています。
このことについては私自身、この<連載>⑧の「余談」で問題提起しているのですが、国際陸連が科学的知見に基づき「人間に可能なRTはせいぜい0.12秒程度」と判断し、若干の余裕をとって「0.1秒」という不正スタートの基準を決めているところへ、常人離れした反応時間を持つ人間もいるのだということを山縣が示してしまったことになります。私の見るところ、ドーピングによって研ぎ澄まされたベン・ジョンソン以来、「0.1秒の壁を破る」可能性を持ったスプリンターが現実に現れてしまったのです。
このことには、山縣自身いくらか懸念を持ったのかもしれず、万が一にもフライングをとられてはならないリレーの2レースではともに0.144秒という「控えめ」なスタートに徹しています。実は山縣は、6月の日本選手権でも予選から順に0.140秒、0.139秒、0.139秒と実に安定した好スタートを決めており、これだけをとっても「スタートの名手」と言って間違いない技量を確立している選手で、加えて極度の集中力を発揮した時に0.11秒前後のスタートを切る能力を示したことになります。
この事実が、IAAFのルールを司る部門にどんな衝撃を与え、どんな議論が戦わされていくのか、とても興味があります。
とはいえ、日本スプリント界の悲願である「10秒の壁突破」は、またもや見果てぬ夢に終わってしまいました。
いつ出てもおかしくないと言われて数年、それはたとえばこの秋の国体あたりかもしれず、引き続きお楽しみは続きますが、早く複数の選手が雪崩を打って9秒台に突入してもらいたいものです。
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◆「初の9秒台」いろいろ
*手動公式計時初 1964/10/15 9秒9 ボブ・ヘイズ(USA) ※W+5.28mで非公認
*手動公認初 1968/6/20 9秒9 ジム・ハインズ(USA)ほか
※電動計時(参考記録)では10秒03。この大会では他に2人の選手が9秒9を記録(誰が一番先だったのかは、手元の資料では不明)し後年「手動計時による世界記録」として公認されたが、3選手がともに全天候型トラック用に規定よりもピンの多いスパイクシューズを使用していたことが問題とされた。
*電子計時初 1968/10/14 9秒95(A) ジム・ハインズ(USA)
※高地(メキシコシティ)記録
*平地で初 1983/5/24 9秒97 カール・ルイス(USA)
*ヨーロッパ初 1988/9/24 9秒97 リンフォード・クリスティ(GBR)
*1980年代までに突破したのはリロイ・バレルまでの8名(ベン・ジョンソンは除外)
*初の9秒8台 1991/8/25 9秒86 カール・ルイス(USA) ※東京世界選手権
*アフリカ初 1991/8/25 9秒95 フランキー・フレデリクス(NAM)
*幻の日本人初 1998/12/13 10秒00 伊東浩司(富士通) ※速報で「9.99」と表示
*初の9秒7台 1999/6/16 9秒79 モーリス・グリーン(USA)
*20世紀中の突破者はフランシス・オビクウェルまでの33名
*非黒人選手初 2003/5/5 9秒93 パトリック・ジョンソン(AUS)
※白人/アボリジニの混血。同時にオセアニア初。
*アジア初 2007/7/26 9秒99 サミュエル・フランシス(QAT)
*初の9秒6台 2008/8/16 9秒69 ウサイン・ボルト(JAM)
*初の9秒5台 2009/8/16 9秒58 ウサイン・ボルト(JAM)
*白人選手初 2010/7/9 9秒98 クリストフ・ルメートル(FRA)
*黄色人種初 2015/5/30 9秒99 スー・ビンチャン(CHN)
*100人目の9秒台 2015/6/7 9秒97 アダム・ジェミリ(GBR)
*初の「トリプル・サブ」 2016/3/12 9秒98(A)ウェイド・ヴァンニーケルク(RSA)
※100m9秒台・200m19秒台・400m43秒台
*初の「ダブル・サブ」 2016/4/23 9秒99 オマー・マクレオド(JAM)
※100m9秒台・110mH12秒台
*40代初 2016/5/29 9秒93 キム・コリンズ(SKN) ※40歳+54日
*現在突破者=総計116名
*日本人初 201X/?/? 9秒XX ???