このシリーズを書くにあたり、定期購読している陸上雑誌なども参考にしているのですが、専門誌は毎月14日発売のため情報がせいぜい7月初旬止まりで、少し現状からずれている展望があるようです。その分、IAAFのHPなどからできるだけ最新の情報を取り込んでお送りしようと思っています。
さて今回は、2強あるいは3強と呼ばれるライバルによるハイレベルな優勝争いが期待される、勝負・記録ともに楽しみな種目についてご紹介しましょう。

◆ショーナvsアリソン/リオの再戦は執念の戦い
RIO022

「ダイビング・フォア・ゴールド」による決着が記憶に新しい、リオ五輪の女子400m。1着ショーナ・ミラー(現姓ミラー‐ウィボ=BAH)49秒44、2着アリソン・フェリックス(USA)49秒51。
この種目の第一人者としての地位を着々と築きつつあった新鋭ミラーが唯一人、前年の北京世界選手権決勝、リオの準決勝と先着を許していたのが、フェリックスでした。戦前の予想では日の出の勢いのミラーに分があるという見方が優勢だったにも関わらず、当人とすれば女子スプリント界に長く君臨するレジェンドの存在は、底知れぬ脅威となっていたに違いありません。現実に途中までは圧勝かと思われたレースの最後に忍び寄ってきたレジェンドの影に、追い詰められた末の乾坤一擲が、あのダイビング・フィニッシュでした。

私は、年齢(1985年11月生まれ)的なことや繰り返される故障との闘いなどから、アリソンはリオのあの400m、そして波乱と歓喜に彩られたリレー2種目を花道にするのではないか、と勝手に想像していました。けれども、そうはなっていません。
全米選手権では100m決勝最下位、200m決勝DNSといいところがありませんでしたが、北京大会の優勝によって出場権を持つ、今や「本業」となった400mでは、今季2レース目となったDLロンドンで49秒67と、あっさり今季ランク1位に躍り出ました。

一方のミラー‐ウィボは、5月から7月にかけて3戦して49秒77、86、80とまったく波のない順調なプロセス。またDLユージーンでは200mに出場して21秒91(+1.5)。このレースはトリ・ボウイ(USA)が21秒77のWLで優勝し、女王エレイン・トンプソン(JAM)が3着(21秒98)と敗れたもので、今季ベスト3を独占する好レースの一角を占めたわけです。
この一戦で200mでも優勝候補の一人に挙がってきたミラー‐ウィボはしかし、日程の問題(男子同様400mシリーズの途中に200m予選が組まれている)から400一本に賭けてくる公算大です。

アリソンよりも8歳半年下(1994年4月生まれ)のミラー‐ウィボには勢いと十分な伸びしろがあり、アリソンにはレジェンドと形容するにふさわしい、測り知れない底力がある。
いつかはミラー‐ウィボが凌駕することになるとはいえ、リオでの0.07秒差、というかダイビングで稼ぎ出したトルソー半分の差は、まだまだ決定的な二人の実力差とは考えられません。
今度こそ、目の上のタンコブたるアリソンを明確に破りたいショーナ・ミラー‐ウィボ。対して史上最多9個の金メダルに飽き足らず「まだまだやるわよ」の闘志漲るアリソン・フェリックス。今回、勝利への執念はどちらが優るのか?…
割って入るとすれば、全米を49秒72で制したクォネラ・ヘイズでしょうが、ショーナとアリソンにはサーニャ・リチャーズ・ロス(USA)が2009年に記録して以来絶えて久しい48秒台でのスーパー・バトルを期待しています。

◆ステファニディvsモリス/精密機械と一発屋の争い
女子棒高跳は、昨シーズンから勢力図が一変してしまいました。
長く続いたエレーナ・イシンバエワ(RUS)の支配が事実上終焉し、その好敵手を務め続けたジェニファー・サー(USA)にもかつての力強さはありません。
昨シーズン、前年年間女王となった同国のニコレッタ・キリアポウロウに代わってDL戦線を独走したのが、エカテリニ・ステファニディ(GRE)でした。シーズン序盤から試合ごとに僅かずつの自己新記録を積み重ね、リオ五輪前にそれは4m86にまで到達。驚くべきは、ほぼすべての試合で4m70以上、シーズン中盤からは4m80は外さないという、無類の安定感でした。

五輪直前、すでに室内記録4m95を持っていたサンディ・モリス(USA)が屋外でも4m93を跳んで、俄かにサーに代わるアメリカのエースとしてリオに乗り込むと、ステファニディと激しくマッチアップ。4m85の同記録ながらやはり「安定感」のステファニディに一日の長があって、無効試技数の差で1位ステファニディ、2位モリスという結果になりました。
ところがDL最終戦のブリュッセル大会、すでに年間女王を決め有終の美を飾ろうとしていたステファニディの目の前で、モリスは女子・屋外ではイシンバエワしか到達していなかった5mヴォールターの高みを征服、さらにバーを“禁断”の5m07(成功なら世界新記録)にまで上げ、それが決して不可能なトライではないところを見せたのです。

今季もステファニディの安定感は抜群で、DLはランキングトップでこそありませんが3戦3勝。対するモリスは2位、6位、4位と低迷。ステファニディには室内を含め4連敗です。
正確無比な安定性を誇るステファニディは、「本番」でも確実に4m80から85、あるいは自己記録を僅かに更新して4m90あたりを跳んでくるかもしれません。ただし、ローマで5m07にトライした跳躍を見る限り、まだ5m以上を跳ぶ準備はまったく整っていないと思われます。
もちろん、翳りが見えるとはいっても、サーやDLトップのヤニスレイ・シルバ(CUB)らの旧世代も侮りがたい実力は残していますし、最近不調ながらリオ銅メダルの実績を持つエリザ・マッカートニー(NZL)などの新興勢力も控えていますが、ステファニディの牙城を崩すには4m90以上を跳ぶ必要があります。
その可能性を濃厚に持っているのが、モリスです。5mを跳ぶ力は証明済みながら、4m60、70あたりのバーを落とす可能性も大いにあり、金もあれば表彰台を逃す可能性も少なくない、そこが彼女の魅力とも言えます。ブリュッセルの時のように勢いに乗ってしまえば、誰にも止められないでしょう。
正確無比か、一発の魅力か、どちらを応援しますか?私はもちろんモリスです。なぜなら…美人だから!
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(https://www.iaaf.org/news/preview/iaaf-world-indoor-tour-dusseldorf-preview)

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◆リース・バートレッタ・スパノヴィッチ/女子LJは三つ巴
女子走幅跳でも、リオ五輪で繰り広げられた激闘の再現が見られそうです。
3度の世界王座とロンドン五輪を制したブリトニー・リース(USA)、前回北京でその座を奪いリオでも守り切ったティアナ・バートレッタ(USA)、そして世界大会の金メダルは持っていないものの常にハイレベルで安定した成績を残し続けるイヴァナ・スパノヴィッチ(SRB)。

昨季は世界記録に迫る7m31(+1.7)、今季も7m13(+2.0)と、強烈な爆発力を誇るのがリース。ただ大試合ではしばしば取りこぼしもあって、前回大会はなんと予選敗退の憂き目に遭っています。
これに対してここ2年、本番での勝負強さを発揮してきたのが、バートレッタ。100mとのダブル出場は叶いませんでしたが、今回も400mリレーのメンバーには入ってくるであろう、そのスピードが最大の武器です。
スパノヴィッチは棒高跳のステファニディ同様、正確無比な助走で測ったように6m80~90台の安定した記録を出してくる精密機械タイプ。とはいえリオでは前2者のせめぎ合い(7m17と7m15)には及ばなかったものの、自身初の7m超えとなる7m08(+0.6)を記録。五輪後にはさらに7m10(+0.3)と伸ばし、今年は室内で7m24と、ビッグジャンプの潜在能力も十分にあることを証明して見せました。

それぞれに個性の異なる3選手による、7mオーバーの空中戦が見られるのが楽しみ。ちょっと心配なのは、スパノヴィッチの屋外シーズンインが7月に入ってからと遅れ、2戦目のDLロンドン(6m88で2位)で少し脚を気にする仕草を見せていたことです。棒高跳とは違って、私はこの種目では“精密機械”を応援しています。

◆イバルゲンvsロハス/絶対女王の牙城崩壊か?
ここ数年、女子三段跳はカテリン・イバルゲン(COL)の独り舞台が続いてきました。30以上積み重ねた連勝記録はいったんベテランのオルガ・リパコワ(KAZ)にストップされたものの、リオでは前評判どおりの圧勝。1年前は間違いなく「鉄板」のジャンルに位置付けられる存在でした。
そのリオ直前に突然15mオーバーを果たし、本番でも銀メダルに食い込んできたのが20歳(当時)の新鋭ユリマール・ロハス(VEN)。今季も6月初旬に14m96(-0.3)でWLに躍り出ると、DLローマでは常勝イバルゲンに土をつけ、続くモナコでも2センチ差に食い下がる戦いを繰り広げました。

なんといってもロハスの強みは、192㎝という長身を躍らせる雄大なジャンプ。粗削りながら、イバルゲンにとっての見果てぬ夢である世界記録すら視野に入る、途轍もなく豊かな素質です。
片やイバルゲンは、モナコでの大逆転を見ても、歴戦の勝利で積み重ねてきた勝負強さに衰えはありません。ただ、今季はそのモナコの14m86(-0.5)がSBで、それまでは14m中盤の記録がほとんど。パフォーマンス・レベルが幾分下降気味なのは否めないところです。
典型的な「新旧対決」はまた、コロンビアとヴェネズエラという陸上界ではあまりお馴染みでない南米の小国を代表する戦いでもあります。興味深く見守りたいと思います。

◆レーラーvsフェテル/90超えのドイツ勢決戦
ここまで女子、特に跳躍種目に偏りがちだった「注目の対決」ですが、男子で一つ挙げるとするならば、やり投ということになります。
リオ五輪覇者のトーマス・レーラーが93m90の大投擲でいきなり度肝を抜いたのが、DL緒戦のドーハ大会。以後どの試合でも90mラインを見据えた高止まりの成績を続け、この紛れの多い種目も今年はレーラーで決まりかな、と思われてきた矢先、7月に入って同じドイツのヨハネス・フェテルが94m44を投げ、レーラーから歴代2位の座を奪取しました。
今季両者の対戦成績はレーラーの5勝3敗。ともに85mを下回ったゲームはありません。
フェテルの90mスローは7月11日ルツェルンの1回だけですが、この日フェテルはなんと4回も90mラインの向こう側にやりを届かせており、レーラーの89m45を圧倒しました。
とはいうものの、他の対戦と同様に、「一発」の威力はフェテルでも、安定したハイ・パフォーマンスはレーラーという図式。順当ならばレーラー、ひっくり返るとすればフェテルの出来次第、ということになるでしょうが、そこはこの種目ならではのどんでん返しがいつ起こるか、分かりません。

やり投のイメージといえば、フィンランドなど北欧諸国を中心に、侮れない力の東欧諸国、そして近年ではケニア、トリニダードトバコ、エジプト、インドといった「えっ?」という国からの猛者の出現、そこに日本勢も何とか食い込みたいというような勢力図でしたが、ここへ来てドイツ勢が完全に支配権を握った感じです。ドイツの3番手には誰が出るのか分かりませんが、ラルス・ハーマン、ユリアン・ヴェーバー、ベルナルド・ザイフェルトなど、まだまだ実力者が続きます。
食い込むとすれば、DL覇者のヤクブ・ヴァドレイヒ(CZE)、ランク3位と復調気配のテロ・ピトカマキ(FIN)、5年前のロンドンであっと言わせたケショーン・ウォルコット(TTO)まででしょうか。
日本勢不在が残念ですが、楽しみな空中戦です。


あっ!本記事をアップした直後に入った情報です。
新井涼平選手(スズキ浜松AC)の追加出場が決まりました。私が予想したとおり、女子の斉藤真理菜選手(国士舘大)ともども繰り上がりによるインヴィテーションです。
女子100mHの木村文子(エディオン)、柴村仁美(東邦銀行)両美人選手も!こちらは予想外。
しっかり頑張ってもらいましょう。