豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

ジャスティン・ガトリン

ロンドン世界選手権観戦記 ② ~それからの100m


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素直に感動した…というのが真っ当な感想なのだと思います。
ですが早朝の男子100m決勝を観終わった私は、複雑な思いが渦巻いて気持ちを整理することがなかなかできません。

偉大なるボルトは、個人レースの最後に、2008年以降メジャーな大会で獲ったことのない銅色のメダルを手にすることになりました。
これもある意味、有終の美であったと言えるかもしれません。
そして、勝ったのが他の誰でもないジャスティン・ガトリンであったことが、本当に本当に嬉しかった。
一種の風評被害とさえ言える激しいブーイングを浴びながら、王座を失った12年間を耐え続けた苦悩を払拭した、“心優しい猛獣”。
空前絶後のスプリンターに挑み続け、敗れ続け、最後に引導を渡す役目を果たしたのが、その1代前のオリンピック・チャンピオンであったということが、ここ数年間の男子100m戦線をこの上なく重厚で色鮮やかな史実に仕立て上げてきたのだという気がしています。

このあと、男子100mはどうなっていくのでしょうか?
オリンピックや世界選手権の決勝が9秒9台で決着したのは、2011年テグ大会、あのボルトがフォールス・スタートで失格しヨハン・ブレイクが優勝した時の9秒92以来です。ただし、この時は向い風1.4mでした。
その前となると、2003年パリ大会の10秒07(w0.0)で、勝ったのはあのキム・コリンズ(SKN)。つまり、ボルトもガトリンもいない状況だった時代以来、と強引に位置づけられなくもありません。
もちろん、現在でも9秒8台のタイムを出す選手はいますし、来年になればまた、新たな顔ぶれが次々と名乗りを挙げるでしょう。
しかしながら、ボルト、ガトリン、あるいはタイソン・ゲイやアサファ・パウエル、ヨハン・ブレイクらの実力の衰え、そして引退(ガトリンはもちろんそう表明はしていませんしDL等々には出てくることが考えらえますが、事実上の花道と言っていいでしょう)とともに、100m競走全体のレベルは大きく後退した、という印象は拭えません。
そのことが逆に、ボルトにとっては有終の金メダルを獲得する絶好のチャンスではあったのですが…。
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そして、空前の盛り上がりを見せる日本スプリント界にとっても、千載一遇のチャンスがぶら下がっていたのが、今大会でした。
「9秒台を出さなくては」と言われ続けてきた100m決勝進出ラインが、なんと10秒10(スー・ビンチャン)。現在の日本代表クラスであれば誰でも十分に到達可能なレベルであり、日本選手権の予選から4レース続けて10秒05~06で走っていたサニブラウン・ハキームにとってはまさに指呼の間に捉えていたタイムだったのです。
2大会続けて決勝に進出(前回は決勝進出者が9名いてその最下位だったため、今回が初入賞)したスー・ビンチャンには大いに敬意を表するとして、なぜ日本選手がそこに届かなかったのか、これは個々の選手にとっての重大な研究課題です。
9秒台と決勝進出、2つの夢はまた持ち越しとなりました。陸上の神様は、「夢は夢として、長く持ち続ける方が幸せだよ」とでも仰るのでしょうか?

それにしても、予選でブレイクを翻弄したサニブラウンの速さ、中盤までボルトの前を走った多田修平のスタートダッシュと、数年前までは考えも及ばなかった「異次元との勝負」を実現しつつあるのが、今の日本スプリント界ではあります。
「いつか」は必ずやって来る。そう信じて、次のレース、次の世界選手権を待つことにしましょう。

ガトリンまた惨敗~DLユージーンは波乱続出


IAAFダイヤモンドリーグ第3戦のユージーン大会『プレフォンテイン・クラシック』が27日(日本時間28日早朝)に行われました。

大会名となっているプレフォンテインとは、1970年代に地元オレゴン大学のヒーローとして一世を風靡したスティーヴ・プレフォンテインから採られています。彼は1972年のミュンヘン・オリンピック5000mで4位と健闘したもののメダリストではなく、10000との2種目で優勝したラッセ・ヴィレン(FIN)やマラソン金メダルのフランク・ショーター(USA)に比べれば世界的にはさほど名のある選手ではありませんでしたが、常にフロントランナーとしてぐいぐいレースを引っ張るスタイルで、国内では大変な人気を博しました。ミュンヘンの3年後に交通事故のため24歳で夭折し、その名はこの大会の冠となって、世界最高峰のワールドツアーの一つに残されているのです。

この大会の名物種目となっている「バウアーマン・マイル・レース」(ロナルド・ケモイが優勝)に名を残しているビル・バウアーマンは、プレフォンテインを育てた陸上競技のヘッドコーチであり、ナイキの創業者の一人として知られる人物です。
さらに、バウアーマンの恩師であるビル・ヘイワードは、この大会の会場であるオレゴン大学グラウンドに「ヘイワード・フィールド」という名を残しています。
いわば、3代にわたる師弟関係の物語が、この大会を由緒あるものに仕立て上げているわけですね。
2021年には、この場所で世界選手権が開催される予定です。現在最大で20000人程度を収容できるに過ぎない、日本の大学のグラウンドと同じような空の開けたスタジアムが、どのように変貌していくのかが興味深いところです。

また、この大会で特徴的なものが、選手が装着しているビブスです。
通常ビブス(ナンバーカード)は、固めの化繊布や防水コーティングした紙製のもので、安全ピンもしくはボタンクリップでランニングウェアに装着します。ところがこの大会に限っては、少し小さめのカード(番号はなくPREの3文字とナイキのシンボルロゴ、個人名のみ)が、まるであらかじめ選手のユニフォームにプリントされているかのように、ピタッと貼り付いているのです。
トラックの出場者でも、走高跳の選手のように前面だけの装着。したがって、この大会では選手のIDナンバーはありません。(腰ナンバーのみ)
考えてみれば、ナイキのお膝元ですから、そうした「大会ロゴと個人名をあらかじめプリントしたウエア」を契約選手全員に配布するくらいのことは簡単にできるでしょうが、少数派とはいえ他社契約選手やナショナル・ユニフォームでの参加選手には、そういうわけにもいきません。
テレビの画面越しによくよく見れば、どうやらウエアと同調する程度に柔軟な素材の布製で、ぴったりと貼り付けられているらしいことが伺えます。というか、そう解釈するほかありません。
それにしても、今どきの材質のウエアにあれほど密着して貼り付くとはどんな接着剤を使っているのか、またどの選手も綺麗に身体の真ん中に曲がることなく装着しているのはいかなるわけか、とても不思議です。

まあ。そうした大会にまつわる付加的なあれこれに思いを巡らせながらTV中継を視ているうちに、ふと気付くと随分な割合で大番狂わせが起こっていました。


オープニング・レースの女子400mHでは、昨年全米予選からリオ・オリンピックまで見事なシンデレラ・ストーリーを築いたダリラ・ムハマドが中盤からガタッとペースダウンし、5着に敗退。優勝は五輪3位のアシュリー・スペンサー(USA)。2着には前半飛ばしたシャミーア・リトルが粘りました。リトルはトレードマークのオヤジ眼鏡とおバカ・リボンをマイナーチェンジして、少し雰囲気が落ち着きましたね。ムハマドもロングヘアを束ねて、大人の雰囲気にイメチェンです。


ケニ・ハリソン、ブライアナ・ローリンズの2大女王が不在の女子100mHは、昨年鳴かず飛ばずだったジャスミン・ストワーズ(USA)が12秒59(+0.8)で快勝。キャスリン、アリの両メダリストは6着・7着に沈みました。

主役を200mの方に持って行かれながらもキャンベル‐ブラウン、アウレ、アイー、フェイシー、バートレッタといいメンバーの揃った女子100m(ポイント対象外)は、モロレイク・オカイノサン(USA)が大穴の優勝。記録は+2.1で10秒94。

そして男子100mでは、アメリカの23歳ロニー・ベイカーが9秒86(+2.4)で優勝。川崎で日本勢の後塵を拝したスー・ビンチャン(CHN)が9秒92で続き、公認の風速ならばPBを更新していたでしょう。
アンドレ・デグラス(CAN)は4着、第1戦ドーハで惨敗していたジャスティン・ガトリンはまたもや5着といいところなし。例年、DLでは絶対的な強さを見せつけながら本番の世界選手権やオリンピックでボルトの壁に敗れ続けてきたガトリンが、今季はスロー調整で8月のロンドンに合わせている過程なのか、それとも年齢的な衰えか、一過性の不調か、まだ判断はつきません。

さらに、この日のメインイベントと言ってもよい豪華メンバーによる女子200m。昨年のユージーンでもトンプソン、スキッパーズの2強をまとめてぶっ倒したトリ・ボウイが、今度は21秒77(+1.5)のPBで文句なしの快勝。400mチャンピオンの“ダイビング・フィニッシュ”ショーナ・ミラー‐ウイボが大外から2着に突っ込んで、「2強」は3着・4着と形無しでした。

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 女子200mの1・2着はAdidas勢。

フィールドでも、女子走高跳はオリンピック・チャンピオンのルース・ベイティア(ESP)が4位に敗れ、2m03というハイレベルなレコードで勝ったのはマリア・ラジツケネ(旧姓クチナ。現在IAAFに承認されていないロシアのため国名はANAと表記。何の略号なのかは分かりません)。北京世界選手権の優勝者ですから番狂わせでもないんですが、今年のロンドンには出場可能なんでしょうか?

とどめは最終種目のバウアーマン・マイル(DL1500mカテゴリ)でアスベル・キプロプ(KEN)がなんと完走選手中最下位に撃沈。リオでの惨敗から、立ち直りの兆候は見えません。

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中継はありませんでしたがユージーン大会は前日26日も一部種目が行われており、女子3000mSC(対象外)では世界記録保持者のルース・ジェベト(BRN)が3着と沈み、セリフィン・チェプティーク・チェスポル(KEN)が歴代2位の8分58秒78で優勝。ジェベトは昨年19歳でオリンピックと世界記録の頂点に立ちましたが、こちらはなんとまだ18歳。ジェベトも9分03秒で走っていますから決して不調だったわけでもなく、この種目が新たな局面に突入しっつあることを伺わせます。

また同じく26日に行われた女子5000mでは、ゲンゼベ・ディババが14分25秒22で圧勝。どうやら、今季は彼女の元気な走り、世界記録へのチャレンジが見られそうな予感です。

アプセット続きのトラックで無敵王者ぶりを発揮したのは、男子5000mのモー・ファラーと女子800mのキャスター・セメンヤ。ともに寸分の隙なし。
男子三段跳ではクリスチャン・テイラーが自己記録に迫る18m11(+0.8)のビッグジャンプで圧倒したかに見えながら、同門のウィル・クレイも18m05(+2.4)で追いすがり、リオに続く冷や汗ものの勝利となりました。

次回DLは6月9日のローマ大会。
桐生祥秀の次戦を「日本学生個人選手権か?」なんて書いてましたが、このDL第4戦にエントリーしているようです。楽しみですね。


サニブラウンもDL上海参戦!


IAAFダイヤモンドリーグ第2戦の上海大会は今週末13日に上海体育場で開催されます。
今季開幕から好調の桐生祥秀(東洋大)、ケンブリッジ飛鳥(NIKE)のエントリーで俄然注目度が高まっていた男子100mに、さらにサニブラウン・ハキーム(東京陸協)の追加参戦が決まりました。
当初出場を予定していたジャスティン・ガトリン(USA)がキャンセルしたための“空き枠”に、幸運にも滑り込んだものです。
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日本人選手以外は全員PB9秒台という状況は変わりありませんが、SBでは桐生の10秒04がトップ、アメリカでの3戦がすべて追風参考ながら10秒0台以下を連発しているケンブリッジも好調で、底知れぬ伸びしろを思わせるサニブラウンはPBを更新済み。まだエンジンが暖まりきっていない感のある各選手の中、好勝負が期待されます。何と言っても、地元の期待を一身に集めるスー・ビンチャンが最大のライバルとなるでしょう。

なお、このレースはDLポイント対象外レースとなります。
初戦のドーハで思わぬ惨敗を喫したガトリンは、次のDLレース(27日・ユージーン大会)へ向けて立て直しを図っての回避と見られ、21日の『GG川崎』にも出てくるかどうか、微妙なところだと思われます。

リオ五輪陸上競技TV観戦記・Day3



日本では日曜・夜のまあまあ早い時間からの女子マラソン観戦、皆さんお楽しみいただけましたか?
「日本人がいなくなったから、チャンネル変えちゃったよ」
という方はこの記事の読者にはいらっしゃらないかと思いますが、終盤の接戦にあの曲がりくねった狭い道、なかなかスリリングなレースだったと思いません?
ああいうコース設計だと、競り合っている場合は主導権を握っている方が断然有利な感じがします。付いて行ったり追いかけて行く場合、コーナーを曲がるたびにダメージが重なっていく様子が見えますものね。

私の「展望」どおり、終盤はマレ・ディババとユニス・ジェプキルイ・キルワの一騎討ちか?…と思いきや、いったん遅れかけたケニアのエース、ジェミマ・スムゴングがラスト勝負を嫌ってロング・スパート。「スプリントに自信がない場合は早めに仕掛けなければいけない」とよく言われますが、それが実際にできる、というあたりが実力です。みごとな勝利でした。
エチオピアは、ディババ以外の2人の代表を入れ替えてたんですね。(元の代表はアセレフェチ・メルギアと東京にも来たアベル・ケベデ)チームとして、どこか順調ではなかったのかもしれません。

ところで、朝方のオリンピック番組でNHKの素人っぽいお姉ちゃんキャスター(なんでこの子を抜擢したんだろう?と不思議なくらい地味で下手くそな女性)が
「3位のディババ選手は、ロンドン・オリンピックの10000m金メダリストです」
だって…もちろん出された原稿をそのまま読んだだけですが、書いた奴、蹴飛ばしてやりたくなりました。

日本勢は、いずれも本調子ではなかったとしか思えません。多くのランナーの夢を踏み台にして代表に選ばれた選手が「本調子でない」というのは許されないことだと思うのですが、少なくとも1桁順位に2人は入る、そんなメンバーとレース展開だったと思うのです。
そのような調子にしか仕上げられなかったことも実力のうちということで、強化体制と選考方法がもう一度練り直されることを期待します。懸命に走り切った3選手は、お疲れ様でした。

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さあ、月曜朝の極上ブレックファストは、男子100m準決勝と決勝。
日本の両選手、実力は発揮しましたが今一つブレイクするところまでは行きませんでした。
「9秒台でなければ決勝へ行けない」という観測の中、決勝ラインが10秒01だったことはある意味大きなチャンスを感じさせる準決勝だったわけですが、「23人中19人が9秒台ランナー」という状況では、仕方のない結果だったでしょう。トータルで11位タイの記録だった山縣選手などは、もし1組に入っていたら案外順位もタイムもいいところへ行っていたように見える奮戦ぶりでした。

いよいよ決勝!…の前に、男子400m決勝で出ましたワールドレコード!
南アフリカの旗手を務めた、昨年世界選手権チャンピオンのウェイド・ヴァンニーケルク。
誰の動きも気にしない8レーンをスイスイ走って、昨年前半までずっと「400mの2強」と言われてきたキラニ・ジェームズとラショーン・メリットを置き去りに、あのマイケル・ジョンソンの偉大な記録を一気に0.15秒も上書きしてしまいました。(私はゴール直前、一瞬「42秒台??」と思いましたよ)
そして、オリンピックの金メダルにも驚異の世界新記録にも、ニコリともしない仏頂面。ジェームズらの祝福にはしっかり応えていたり「神に感謝」のポーズはしていましたから、すごく嬉しかったのは間違いないんですが、あのポーカーフェイスは何としたことでしょう!
陸上競技での南アフリカの金メダルは、ちょっと意外な気もしますが、1996年アトランタ大会のジョサイア・チュグワネ以来のことだそうです。
Wayde van Niekerk02

そして、締めくくりは「21世紀のザ・グレーテスト伝説」、ウサイン・ボルトの独り舞台。
終わってみれば、今回は「ボルトvsガトリンvsブレイク」の構図ではなく、最初からボルトの独走だったという結果になりました。

ガトリンは、大会前の「舌戦」の影響で見事なまでに悪役に仕立て上げられ、紹介のたびに強烈なブーイングを浴びていたのは気の毒でした。
あの「舌戦報道」、どこか(古い話ですが)ソウル大会マラソン代表選考の際の「瀬古vs中山」の状況に酷似していたように思えます。選考会の福岡を欠場した瀬古利彦に対して中山竹通が「這ってでも出て来い!」と言い放ったというあのエピソードです。
後年、中山氏はこのことに触れられるたびに、「いや、ボクはそんなこと言ってないですよ」と語るそうです。「瀬古さんは立派な実績のあるランナーだから、陸連の救済措置が受けられる。仮にボクだったら、福岡には這ってでも出なきゃいけない、そういう意味のことを言った」のだと。それを、食いついたマスコミが意図的にニュアンスの異なる大見出しにしたのが世に広まった、というのが真相です。
私の印象では、ガトリンはボルトに対して敬意と相応のライヴァル意識は持っていても、悪意を込めたコメントを発するようなタイプの人には見えません。ただ「アメリカでは代表選考で救済措置はあり得ない」という意味の発言をしたところ、「ガトリンがボルトに喧嘩を売った!」とマスコミに捻じ曲げられて世界中に報道された、というのが本当のところではないでしょうか?
「売られた喧嘩」に応じたボルトのほうも、何か大人げない印象があるのは、意図された「舌戦」だったからでしょうか?…にしても、ガトリン一人がブーイングを浴びるというのは、どうもねえ。

そうした経緯が影響したのかどうか、今回のガトリンにはどこか覇気がなく、恒例の「檻をこじ開けるポーズ」も見せないままにスタートに就き、あっさりと敗れ去りました。9秒89というタイムは去年のガトリンであれば考えられないほどの「低記録」で、つまりは自滅の結果ボルトの「独走」を許した、というふうに見えました。
もう一人の強豪ヨハン・ブレイクは、予選から余裕たっぷりの動きが不気味さを感じさせましたが、4年前に比べると一回り「太った」印象で、決勝ではキレがなかった感じですね。

それにしても、トラック種目で史上初の同一種目3連覇は「偉業」の一言。今大会、すでにティルネッシュ・ディババとシェリー-アン・フレイザー-プライスが挑んでいずれも銅メダルに終わっていただけに、その偉大さが際立ちます。
競泳のマイケル・フェルプス同様、21世紀のオリンピックを牽引してきたボルトが、フェルプスと同じ「2種目3連覇」に挑む200mは、明日からのクランクイン。日本の3選手の動向と併せて、目が離せません。

大会3日目にして早くも世界新記録が2つ。アルマズ・アヤナは、よほど疲労の蓄積とかがない限り、5000mでも9割がた出してくると思います。
今日も期待が持てますよ。女子3000mSC決勝。ルース・ジェベトとハイヴィン・キエン・ジェプケモイの調子は、いいみたいです。

 

リオ五輪陸上競技TV観戦記・Day2



Day2のハイライトは、日本選手応援団としては正午からの男子100m予選、そして「世界ウォッチング」としては夜の男子10000mと女子100m決勝、ということになるでしょう。

まずは男子100m。仕上がり度合いが注目されたウサイン・ボルト(JAM)は、伸びやかな走りで10秒07(-0.4)と「不安なし」をアピール、3強を形成するジャスティン・ガトリン(10秒01/+0.8)もヨハン・ブレイク(10秒11/-0.8)も、いずれも好調な立ち上がりです。
ボルトと一緒に走った桐生祥秀は、対照的に硬さが感じられて4着に終わり、タイム通過に0.03秒及ばず敗退。
いっぽう、ケンブリッジ飛鳥はジミー・ヴィコー、スー・ビンチャン、チュランディ・マルティナといった9秒台の猛者たちを後半次々と抜き去って4組2着、山縣亮太は鋭いスタート(RT 0.111秒)からのダッシュが冴えて8組2着と、ともに勝負に強いところを見せて準決勝へと進みました。

準決勝は明日の朝9時から。スタートリストは以下のとおりです。
<1組>
 2.ハッサン・タフィアン (IRI)   (PB)10"04   (Heat)10"17
 3.ジミー・ヴィコー  (FRA)  9"86 10”19
 4、ニッケル・アシュミード (JAM)  9"90 10"13
 5.アカニ・シンビネ (RSA)  9"89 10"14
 6.シェ・チェンイェ (CHN) 10"08 10"08
 7.ベン-ユセフ・メイテ (CIV)  9"99 10"03
 8.マーヴィン・ブレイシー (USA)  9"93 10"16
 9.ヤカリ・ハーヴェイ (TUR)  9"92 10"14

<2組>
 2.ケジャエ・グリーン (ANT) 10"01 10"20
 3.キム・コリンズ (SKN)  9"93 10"18
 4.アンドリュー・フィッシャー(BRN)  9"94 10"12
 5.アンドレ・デグラス (CAN)  9"92 10"04
 6.ウサイン・ボルト (JAM)  9"58 10"07
 7.チジンドゥ・ウジャ (GBR)  9"96 10"19
 8.山縣亮太 (JPN) 10"06 10"20
 9.トレイボン・ブロメル (USA)  9"84 10"13

<3組>
 2.ジェームズ・ダサオル (GBR)  9"91 10"18
 3.スー・ビンチャン (CHN)  9"99 10"17
 4.ヨハン・ブレイク (JAM)  9"69 10"11
 5.ケマーリー・ブラウン (BRN)  9"93 10"13
 6.ジャスティン・ガトリン (USA)  9"74 10"01
 7.ケンブリッジ飛鳥 (JPN) 10"10 10"13
 8.ダニエル・ベイリー (ANT)  9"91 10"20
 9.クリストフ・ルメートル (FRA)  9"92 10"16

あいやー、もはや周りはほぼ全員、9秒台の人ばかりですね。
つまり、ケンブリッジも山縣も、その力があるはずだということ…かな?
いかに自分の走りを貫徹できるか、でしょうね。
RIO015

100mに先立って行われた男子円盤投決勝は、クリストフ・ハルティング(GER)が最終6投目に王者ピヨトル・マラホフスキー(POL)を逆転、みごとロベルトに続く珍しい記録「兄弟連覇」を果たしました。
「展望」で「クリストフは一発屋」などと書いた私は赤っ恥もいいところです。こうなったらハルティング家の伝統芸(?かどうかは知りません)「勝利のシャツ破り」を見せてもらいたいもんだと思ったんですけど、やってくれませんでしたね。やっぱりお兄さんの専売特許なんでしょうか?(笑)

夜に入って、日本期待の棒高跳予選。
棒高跳のフルエントリーは、たぶん1964年の東京大会以来でしょうね。ほとんどの大会で代表を送ってきている種目ではありますが、これだけハイレヴェルな3人が揃うのは初めてでしょう。
しかしながら、山本聖途はあえなく最初の高さを失敗してただ一人のNM。荻田大樹も楽勝のはずの5m60で消えて、頼みは大御所・澤野大地ただ一人。その澤野も5m70を失敗しましたが、5m60の一発クリアが利いて決勝に滑り込みました。集大成の決勝、ぜひとも入賞を果たしてほしいものです。
ラヴィレニ、バーバー、ケンドリクスといった優勝候補は、順調に5m70をクリアしています。

男子10000mは、前半で仲間のゲーレン・ラップ(USA)と接触して転倒したモー・ファラー(GBR)が、何事もなかったように涼しい顔で連覇達成。「転んでも金メダル」は、1972年ミュンヘン大会のラッセ・ヴィレン(FIN)以来でしょうか?
できれば最後まで競り合ったポール・タヌイ(KEN/九電工)に勝ってもらって、日本語のインタヴューが聞きたかったところですが、余裕度が全然違いました。

大迫傑は、タフな展開に中盤までよく対応したものの、本人が言うように世界が相手だとまだまだ力不足。せめて第2集団で粘るくらいのところは見せてほしかったのですが…。

男子走幅跳では安定感ナンバーワンと推したグレッグ・ラザフォードが、予選で3回目にようやく10位に入る冷や汗通過で、ますます混戦模様。結局、フィールド種目3回連続での「6回目の大逆転」で、アメリカのジェフ・ヘンダーソンが優勝をさらい、全米での「LJ好景気」をそのまま発揮する結果となりました。ラザフォードも6回目に3位に上がるジャンプで、まずは面目躍如といったところ。

6回目はそれまでトップにいたルポ・マニョンガ(RSA)が、ラスト3人の大ジャンプ連発でヒヤヒヤの連続だったでしょうが、何とか銀メダルは確保。
最終跳躍者だったジャリオン・ローソン(USA)も金メダルラインの付近に着地して場内は騒然となりましたが、記録が出てみると7m78。これにはローソン憤然と抗議し、見ているほうとしても「計測器の間違いでは?」と思いましたが、スロー映像にはローソンの左手が砂場を掃いているところがはっきりと映し出されていて、一件落着。しかし当人にとっては、諦めきれない幻のメダルだったでしょう。



そして、本日のメインディッシュは女子100m。

トラック種目史上初の3連覇を狙ったシェリー-アン・フレイザー-プライスが好スタートを切ったのも束の間、中盤から軽やかに抜け出したエレイン・トンプソンが10秒71で圧勝、シェリーアンから女王の座を継承するレースとなりました。
その1時間半ほど前に行われた準決勝で、2組1着となったシェリーアンをスキッパーズら他の選手が嬉しそうに祝福し、それに彼女が感極まったような表情を浮かべたのが、とても印象的でした。それほど、今季前半の彼女の不調は深刻で、表舞台で笑顔を絶やさない人気者の陰での苦しみを、周りの選手も気遣っていたのだなと推察されました。
みごと本番に間に合わせて全盛時に近いスタートを取り戻したシェリーアンでしたが、若い力の前に屈し、それでもレース後の彼女の表情はとても晴れやかでした。
RIO016

七種競技は、前日走高跳での快記録の流れをそのままに、やり投で大本命のジェシカ・エニス-ヒル(GBR)に7m以上の大差をつけたナフィサトゥ・ティアム(BEL)が、最後の800mで先頭を走るエニスヒルには大きく離されたものの35点差で粘り切り、優勝しました。
記録は、100mH13"56-HJ1m98-SP14m91-200m25"10-LJ6m58-JT53m13-800m2'16"54 で総合6810p.のNR、
対するエニス-ヒルは、12"84-1m89-13m86-23"49-6m34-46m06-2'09"07の6775p.
3位は夫婦金メダルを目指していたブリアン・テイセン-イートン(CAN)でした。
混成競技の最終種目は、レースでありながらまったく自分自身との戦いとなります。最後に待ち受ける最も過酷な種目を終えて、7種目を“完走”した選手たちの笑顔には、いつも感動というよりは、羨望を感じてしまいます。
RIO017

さあ、間もなく女子マラソンがスタートですよ!

 
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