女子1500m決勝は、その顔ぶれといいスリリングなレース内容といい、大会前半を通じてのベスト・レースとも言える素晴らしいものでした。

世界記録保持者&ディフェンディング・チャンピオンのゲンゼベ・ディババ(ETH)。
オリンピック・チャンピオンのフェイス・キピエゴン(KEN)。
2016DLツアー・チャンピオンにして地元のヒロイン、ローラ・ミュアー(GBR)。
今季無敗のWL、シファン・ハッサン(TUR)。

女子1500mは、2015年からの2年間で、ここに挙げた順に主役の座が入れ替わってきている種目なんですね。
2015年7月、主戦場としていた5000mから突然矛先を向けたDLモナコ大会で、ゲンゼベは22年間難攻不落を誇ったチュ・ユンシャ(CHN)の世界記録を更新、その勢いのままに北京世界選手権も征服。
しかしオリンピック・シーズンになるとゲンゼベは故障で出遅れ、ほぼぶっつけに近い形で臨んだリオの決勝では残り2周でロングスパートの奇襲を試みるも、冷静に距離を測っていたキピエゴンの末脚に屈します。
2016年のDL戦線は、ゲンゼベのいない間に着々と勝利を重ねたキピエゴンが優位に立ち、最終戦でポイントを上げさえすればツアー優勝という状況にありながら、その最終戦は伸びてくるはずの直線でずるずると後退しノーポイント。代わって、このレースで2着に入ったミュアーが大逆転でツアー・チャンピオンを獲得しました。
室内シーズンもミュアーの好調は続いていたのですが、シーズンインしてみると無敵ぶりを発揮したのがハッサンです。ゲンゼベとミュアーはやや調整不足と見える中、パリでキピエゴンとの直接対決も制したハッサンが、今回の中心選手の位置に躍り出てきました。

加えて、
800mの絶対女王、キャスター・セメンヤ(RSA)。
全米チャンピオンで2011年テグ大会優勝、リオ銅メダリストのジェニー・シンプソン(USA)。
セメンヤの1500は未知数ながら、ペースメーカーのいない世界選手権のレースならば、終盤での猛スピードを存分に生かせる展開となることが予想され、脅威の存在です。
また、レース巧者としては随一の強みを持つシンプソンは、テグの再現を図るには相手が強くなっており、こちらもハイペースの展開には少々苦しいものの、4分前後の勝負ならば自在に動いてくる勝負強さは侮れません。

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レースは、この「6強」が鐘の音を聞くとともに猛烈なデッドヒートを展開…いや、一人セメンヤだけは直線勝負を決め込んでいるのか、後方を不気味に追いかけます。
実は有力どころの中には、ゲンゼベ、ミュアー、ハッサンと、いずれもロングスパートを武器とするタイプが多いんですね。それも、それぞれタイプの違うロングスパートです。
ミュアーとゲンゼベは、スタートから速いペースで押し切りたいタイプで、特にゴール前の切れ味がないミュアーとしては、主導権をとって早めに他を引き離しにかかりたいところ。
ゲンゼベは、好調ならばスタートから他を寄せ付けない、またどこからでもスパートできる絶対的脚力がありますが、自身のコメント(状態は70%)のとおり、準決勝で本来の出来でないことを示してしまいました。
ハッサンは、序盤は後方待機で脚を温存して、ラスト1周にかかるところで一気に先頭を奪うタイプ。
言うなれば、「逃げ」「先行」「まくり」という三者三様ぶりです。
他の3人は言うなれば「差し」「追込」というタイプ。
キピエゴンもロングスパートできる柔軟なスピードを持ってはいますが、昨年のDL最終戦でミュアーのロングスパートを抑え込みにかかって失速した苦い経験がありますから、今回は直線勝負に賭けるはず。
シンプソンは、競輪で言うところの「マーク屋」ですね。「こいつだ!」という選手の背後にピッタリ貼り付いて、直線で逆転を図ります。その標的の見極めが常に秀逸。
セメンヤは、後方から爆発的なラストスパートを炸裂させたい追い込み作戦でしょう。

…とまあ、そんなことはレースの前に書けよ、という声が聞こえてきそうですが、すんません。そんなふうに予想しましたよ、ということではなくて、レースを見て振り返ってみると、そういうことだったな、という意味で書いてます。
で、そういう展開になりまして、ミュアーが逃げ、ハッサンがまくり、キピエゴンが差し、シンプソンがなだれ込み、セメンヤが追い込んだ、と。絶不調のゲンゼベも、勝負どころで先団を射程距離に捉える見せ場は作ってくれました。

まさに「名勝負」!舞台が整い役者が揃うと、素晴らしいアンサンブルが堪能できるという見本のような好レースでした。
意外なことに、この種目でケニアが金メダルを獲得したのは、初めてのことなんですね。

 
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