
毎年、箱根駅伝・復路のレースが横浜駅前あたりに差し掛かってくると、
「ああ、正月ももう終わっちゃうなあ…」
という何とも言えない脱力感に襲われます。日本人にとって年末年始はそれほどに非日常的な特別な数日間であり、そこにこれだけ駅伝なるものが浸み込んでいるというのは、根っからの陸上ファンとしては感慨深いものがあります。
私にとって至福の駅伝漬けの日々は、今年もあっという間に終わってしまいました。まだまだロード&マラソン・シーズンは続きますから「何とかロス症候群」てなことにはなりませんが、こうして一つ一つ記憶の積み重ねと引き換えに齢をとっていくのだな、という寂しさみたいなものはありますね。
◆青学の天下は続くのか?
誰がどう予想しても、青学の優勝。その通りの結果になりました。
ゲームチェンジャー的存在が2枚や3枚抜けても、少々体調不安なランナーがいても、圧倒的な戦力はどうしようもなく、大物高校生をこぞって入部させているわけでもないのにどうして青学だけがこんなに強いのか、原晋監督の手腕についての議論や研究が、今後も至る所で巻き起こりそうです。
たとえば、TVで解説を務めた住友電工・渡辺康幸監督は原監督について、
「経営者目線での気配り」
という鋭い(たぶん)指摘をしました。
どういうことか、を深く考えるのはまた後々のことにしたいと思いますが、独自のトレーニング理論や技術論に留まらない、原監督の奥深いところを衝いている言葉のような気がして、そこに気が付くんだったら渡辺さんももうちょっと頑張ってよ、という気もしつつ、フムフムと感じ入っておりました。
来季以降も、青学の快進撃は続くんでしょうか?
『箱根』に関して言えば、「三冠&3連覇」という千載一遇の機会をしっかりとモノにしたことで、次回以降はぐっとプレッシャーから解き放たれる、ということが考えられます。つまり、連覇はいつか途切れるんだから、それが来年であっても構わない、という意識にチームがなれると思うのです。そうすると、今回のように復路にカードを余らせるような守りの(言ってみれば臆病な)戦略をとる必要はなくなり、先行逃げ切り型の“攻め”のオーダー、あるいは将来を見据えて実力未知数な下級生を躊躇なく投入するアグレッシブな作戦、というように、戦略の幅が大きく広がることになる…それが原監督流の考え方だと思います。
実戦面では、今回のメンバーからは4年生4人が抜けるものの、それは各校とも事情は同じ。インカレなどの個人戦でも活躍が期待される田村和希・下田裕太をはじめ、多くの有力選手が残ります。
各校の補強がどのように整うのかはまだ情報が十分に集まってきていませんが、総体的に青学の“一強”体制を崩す要素はなかなか出てこないように思われます。
◆先手必勝を成功させた唯一のチーム
ところで、今回の『箱根』では、青学の進撃を少しでも食い止めようと、「先手必勝」「往路重視」のオーダーを組むチームが目立ちました。序盤で出鼻をくじくことができれば、あとは区間ごとの細かい戦術次第で互角に持ち込めるかもしれない、という考え方です。
これは打倒青学を目指す上位候補だけでなく、シード権争いを優位に戦うために少しでも先行したい、という予選会上がりのチームなどにも等しく見られた傾向でした。
そうした中で、序盤にエース2枚を投入することで見事に波に乗り、「先手必勝」を成功させたのが神奈川大学でした。
神大の1区・山藤篤司(2年)は、10000mのタイムが28分29秒43とチーム1位。愛知高3年だった2年前、『都道府県対抗駅伝』の1区中継所手前でフラフラになって倒れ込み、最後はリレーゾーンにタスキを放り投げたために愛知県チームが失格になってしまったという、あの選手です。大きな失敗にくさることなく、大学で実力をさらに伸ばしてきたのは大したものです。
2区の鈴木健吾(3年)は今年の予選会で、全体3位・日本人1位。58分43秒のタイムは予選会日本人歴代3位という立派なもので、一躍2区の区間賞候補としてクローズアップされました。そうは言っても彼が一色恭志や服部弾馬ほどに注目されていなかったのは、「弱小」と見られたチームゆえの情報の偏りに起因しているのかもしれません。
予選会では山藤も10位(日本人5位)と健闘し、神大ではこの2人の傑出した成績がモノを言って総合5位となり、本戦に進出してきました。その他の選手はすべて50位以下で、予選会回避組では大塚倭(3年)がハーフマラソンで鈴木健と同等のタイム(63分12秒)を持っているのが目に付く程度。いかに2枚看板が頑張ったとしても、順当ならばシード権ギリギリのあたりを上下する展開がせいぜい予想されるところでした。
ところが、2区鈴木健が一色恭志を振り切る殊勲の区間賞で戸塚中継所のトップを奪うや、3区以降の選手が必死に貯金の目減りを食い止め、5位で往路を終えると復路は9区まで区間ひとケタ順位と波に乗って、上位を安泰のものにしてしまいました。
駅伝の展開の妙と言うべきか、それとも予選会以降2人のエースランナーに追従しようと他の選手も気合を入れ直した成果なのか、総合5位は目標以上の嬉しい誤算というべき結果だったことでしょう。
1区序盤の極端なスローペースに「先手必勝」の目論見を大きく崩されたチームが多かった中で、我慢のレースで上位(5秒差5位)を確保した山藤、それに応えて一色、塩尻、ワンブイ、デレセといった並み居るエースたちに勝った鈴木健と、ただ1チーム、見事にロケットスタートを成功させた頼もしいダブルエースは、来年もチームをより高い目標へと引っ張っていきます。
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◆今年の『箱根』は低レベル?
今季の大学駅伝シリーズは、出雲、全日本と、いずれも全体のレベルが低かったという苦言が、『月刊陸上競技』の別冊観戦ガイドで語られています。そして『箱根』を終えてみると、それは今シーズンの学生長距離界を通しての傾向であったことが見えてきます。
2012年から昨年までの最近5年間、『箱根』の10区間総合優勝タイムは、日体大が優勝した2013年以外はすべて、10時間50分前後で決着しています。一つ前の2011年でも、11時間を切っています。2013年は特に往路が強烈な向い風に苛まれながらのレースで致し方ないコンディションとも言えましたが、率直に言って日体大の優勝はまったくの予想外であり、それを許した有力校(東洋・駒澤・早稲田)の不甲斐なさが大きく関係していました。
今年の優勝タイムはその2013年以来11時間を超えました。天気が良すぎて気温が上昇するという要因はありましたが、それにしても遅過ぎるし、7分以上離された2位以下はかなり低いレベルで団子状態に固まっていた、と言わざるを得ません。中で復路の落ち込みが心配された東洋が2位に上がってきたのも、周囲の低レベルに救われた、とさえ見ることができます。
「駅伝はタイムじゃないよ」って?…確かにそれも然りですが、その内容に目を移せば、昨日指摘したように5区山登りの走りを見ても、ここ数年に比べてのレベルダウンは見た目で感じられます。
近年箱根路を賑わした設楽兄弟、村山兄弟、大迫傑、中村匠吾、山中秀仁、神野大地、久保田和真、服部勇馬、ダニエル・ムイバ・キトニーといったスター選手たちに比較して、今年の目玉だった一色恭志、服部弾馬あたりのレベルはなかなか「超」の字をつけにくいものではないでしょうか?厳しい言い方をすれば、一色は強い青学のエース、服部は強い勇馬の弟と、それぞれの肩書にイメージを押し上げられたところが多分にあるように思います。(あくまでも箱根での実績をもとに言えば、です。彼らが長距離界期待の星であることに異論はありません)
前述の鈴木健吾、6区区間新記録の秋山清仁(日体大)、8区区間賞の下田裕太が結果的に今回の「ベスト3パフォーマー」だったと思いますが、それ以外はこれと言って瞠目するほどのパフォーマンスがなかった、すなわち全体にレベルが低かった、ということが言えそうです。
今年の青山学院を打倒するには、217.1kmを11時間以下で走破するチームを組み立てればよかったのです。カンタンに言って申し訳ありませんが、要はそういうことです。それができなかったのは、どのチームもそういうレベルに達することができなかったから、ということなのです。
現実には、2位以下は7分以上青学に及びませんでした。その差を考えること以前に、チームの総合力を、もっとタイムを目標意識して底上げしていくことが、打倒青学に、ひいては学生長距離界全体のレベル向上に向けての指標となっていくのではないでしょうか?