またまた長~い投稿サボリ期間を経過するうちに、『IAAFダイヤモンドリーグ・ファイナル』さらに『IAAFコンティネンタル・カップ』をもって、海外ではおおむねトラック&フィールド・シーズンが終了してしまいました。
開設以来、これらビッグゲームの結果速報やTV観戦記に注力してきた本ブログといたしましては、更新ままならぬ昨今の事情は無念の一言…せめて今シーズンの「総括」くらいはしっかりと記録しておきたいところです。
今年はオリンピックも世界選手権もないということで、陸上界の注目イベントはDLとコンティネンタル杯、そしてアジア大会やコモンウェルズ・ゲームズなどの地域大会に分散しました。
特にDLの場合、選手個々のさまざまな事情があって、世界大会のように有力選手が全員一堂に会するというところまではいかないものの、シーズンを通しての「世界」の勢力図を評定するには最も拠り所となる大会と言ってよいでしょう。
ということで、ここでは『DLファイナル』(8月30日チューリヒ大会・31日ブリュッセル大会)の結果をもとに、男女各種目の2018シーズンを振り返ってみたいと思います。
<男子・短距離> ※(Z)はチューリッヒ大会、(B)はブリュッセル大会での実施
◇100m(B) -0.3
① 9"79 クリスチャン・コールマン(USA)
② 9"93 ロニー・ベイカー(USA)
③ 9"94 ヨハン・ブレイク(JAM)
◇200m(Z) -0.2
① 19"67 ノア・ライルズ(USA)
② 19"98 ラミル・グリエフ(TUR)
③ 20"04 ジェリーム・リチャーズ(TTO)
◇400m(Z)
① 44"80 フレッド・カーリー(USA)
② 44"93 ネイサン・ストローザー(USA)
③ 44"95 マシュー・ハドソン‐スミス(GBR)
3種目とも、アメリカ勢の完全勝利という結果になりました。
「ネクスト・ボルト」争いが注目された100mでは、シーズン中盤までのWLを9秒88で分け合っていたライルズとベイカー、2人の新進気鋭が中心でしたが、それまで鳴りを潜めていた昨年の世界選手権銀メダリスト・コールマンがDL第13戦のバーミンガム大会で突如復活。ライルズを破り、ファイナルでは歴代7位タイとなる9秒79を叩き出してベイカー以下に大差をつけ圧勝してみせました。
結果的に、100mで今季9秒7~8台で走ったのは、コールマン、ベイカー、ライルズ、マイケル・ロジャーズのアメリカ勢4人だけ。ボルトをはじめとしたジャマイカ勢に対し劣勢が続いていた状況を、完全に覆した感があります。
一方の雄・ライルズは100mでの“決戦”を見送り、「こちらが専門」と主張するかのように200m一本でのファイナル出場、今季4度目となる19秒6台での圧勝となりました。7月のモナコ大会で記録した19秒65(+0.9)は非常にハイレベル。しかしこの種目では3月に19秒69(-0.5)をマークしたクラレンス・ムニャイ(RSA)が一度もDLに出場しなかったために勝負付けが済んでおらず、早くも来季世界選手権での対決が待たれます。
昨年の世界王者・グリエフは、ライルズにこそぶっちぎられましたが、各大会で実力者ぶりを如何なく発揮していたのが印象的でした。
400mはランキングのトップ6がファイナル不出場またはDNF(スティーヴン・ガーディナー=BAH)となり、7番手のカーリーにツアー・チャンピオンの座が転がり込んだというところです。
この種目のWLは、43秒61のマイケル・ノーマン(USA)で、19秒84(-0.6)でパリ大会を制した200mともども、「ロング・スプリントは俺に任せろ」といった勢いが感じられます。今季音沙汰のなかったウェイド・ヴァンニーケルク(RSA)への第一挑戦者と言っていいでしょう。ガーディナーはファイナルで途中リタイアしてしまいましたが、画面から伺える限りでは軽症の様子で、こちらも来季の活躍が期待されます。
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<男子・中長距離>
◇800m(B)
① 1'44"72 エマニュエル・コリル(KEN)
② 1'45"21 マルシン・レヴァンドウスキ(POL)
③ 1'45"28 ファーガソン・ロティッチ(KEN)
◇1500m(Z)
① 3'30"27 ティモシー・チェルイヨト(KEN)
② 3'31"16 エライジャ・マナンゴイ(KEN)
③ 3'31"24 アヤンレー・ソレイマン(DJI)
◇5000m(B)
① 12'43"02 セレモン・バレガ(ETH)
② 12'45"82 ハゴス・ゲブリウェト(ETH)
③ 12'46"79 ヨミフ・ケジェルチャ(ETH)
◇3000mSC(Z)
① 8'10"15 コンセスラス・キプルト(KEN)
② 8'10"19 ソフィアン・エルバカリ(MAR)
③ 8'13"22 エヴァン・ジャガー(USA)
全般的に、中距離はケニア、長距離はエチオピアと、勢力図がくっきりとしてきたのが2018シーズンの様相です。
王者デヴィッド・ルディシャ(KEN)がセミ・リタイア状態となっている現在、800mでは今季DLで負けなしのWL=コリルが一歩抜け出したようです。DLはケニア勢が大挙して出場するためなかなか他国の付け入る隙がありませんが、記録的にはナイジェル・アモス(BOT)、クレイトン・マーフィー(USA)などがランキング上位に頑張り、またこの種目を得意とするポーランド勢などの活躍もあって、まだまだ混戦状態のカテゴリと言えそうです。
1500mもDL5戦全勝となったチェルイヨトが、記録的にも3分28秒41となかなかのタイムでトップにあって、昨年の世界選手権ではマナンゴイに僅かに及ばなかった位置関係を完全に逆転しました。
アフリカ勢以外では、フィリップとヤコブのインゲブリクトセン兄弟(NOR=次男・三男)の健闘が光っています。
ともに1995年生まれのコリルとチェルイヨトが、中距離界の新たなリーダーに躍り出た1年となりました。
5000mでは絶対王者のモハメド・ファラー(GBR)が去って、そのファラーに最後の世界大会で土をつけたムクタル・エドリス(ETH)の天下になるかと思われましたが、今季のエドリスは終盤のペースアップについて行けないというレースが多く、代わって頂上に上り詰めたのが弱冠18歳のバレガでした。ファイナルで記録したタイムは歴代4位で、ケネニサ・ベケレの世界記録まで僅か5秒少々。早くも“新皇帝”の誕生を予想する声が高まっています。
バレガの台頭にあおりを食ったのが、ポスト・ファラーの座を秘かに狙っていたケジェルチャです。ローザンヌ大会では傍らを追い抜こうとするバレガと接触し、思わず相手のパンツを掴んで引き留めようとする(?)醜態をさらし(妨害行為でDQ)、雪辱を期したファイナルでも完全に力負け。長距離界随一のノッポ選手に、今後巻き返しの余地はあるでしょうか?
3000mSCの王者・キプルトは、今季なかなか調子が上がらない様子で、惨敗するレースもしばしば見られたものの、さすがにファイナルへ向けて仕上げてきました。
ところがこのレースでは、序盤でシューズが片方脱げるという大アクシデント発生!ハードルを跳び越え水濠に着水するレースを片足ハダシで走り切るというのはそれだけでも想像を絶する苦境ですが、大本命のピンチを察した他の選手が優勝を意識して牽制状態になったせいか、さほどペースが上がらなかったことがキプルトに幸いしました。今季好調のエルバカリが「もらった!」とばかりに放ったスパートを、鬼の形相で追い込みフィニッシュ寸前でうっちゃってみせたキプルトの勝負根性は、見事でした。さすがにレース後は、裸足の片足を痛そうに引きずっていましたが。
今季この種目で8分を切ったのはエルバカリ一人のみ(DLモナコ大会・7分58秒15)で、キプルトの、またファイナル3位となったジャガーの悲願である7分台突入は、またもや「おあずけ」となったようです。
<男子・ハードル>
◇110mH(B)-0.1
① 12"97 セルゲイ・シュベンコフ(ANA)
② 13"10 オーランド・オルテガ(ESP)
③ 13"35 ハンスル・パーチメント(JAM)
◇400mH(Z)
① 48"08 カイロン・マクマスター(IVB)
② 48"10 カルステン・ワルホルム(NOR)
③ 48"73 ヤスマニ・コペリョ(TUR)
リオ五輪、ロンドン世界選手権と世界をリードしてきたオマー・マクレオド(JAM)が今季も序盤は好調を続けてきましたが、ローザンヌで5着と大敗してから歯車が狂ったのか、ファイナルには姿を見せませんでした。
代わってツアー・チャンピオンに輝いたのは、ロシアのシュベンコフ。ファイナルでのタイムと圧勝ぶりも見事でしたし、ランキングでも12秒92(+0.6)で2位のオルテガに0.16秒もの大差をつけています。マクレオドが健在でも、このレースには勝てなかったように思われます。
ただ、ここ数年華やかな話題に少々欠けるのがこの種目。上位の顔ぶれに変化がないことや、3年続けて12秒台が一人だけという状況が、それを物語っています。若手の台頭や少なくとも数人が12秒台で競うシーンを見たいと願う一方、今なら進境著しい日本勢にもチャンスの芽があると言えそうです。
400mHは、何と言ってもアブデルラーマン・サンバ(QAT)。男子全種目を通じて、今季最も輝いたアスリートと言ってよいでしょう。
400mHを始めたのはいつからか不明、公式記録は昨年からのものしかありません。それでいきなりロンドン世界選手権で7位というのも今思えば見事、しかも終盤まで優勝争いを繰り広げながら、最終ハードルにつまづいて転倒しかかっての順位です。それでも、この時点では無名に近い存在だったのは確かなこと。今季の大飛躍を誰が予測し得たでしょうか。
4月に南アフリカの大会で47秒90をマークしたのを皮切りに、以後DL6戦全勝、アジア大会、コンティネンタル杯と制して今季は通算9戦負け知らず。しかも史上2人目となる46秒台突入(46秒98=DLパリ大会)、一番悪い記録が緒戦の47秒90というのですから、この種目ではエドウィン・モーゼス以来の絶対王者ぶりだったと思います。
そのサンバ、アジア大会のスケジュールを優先して何とDLファイナルは不出場。同日にジャカルタで4×400mリレーに出場し、金メダル獲得の立役者となりました。その後サンバは9日後のコンティネンタル杯でも47秒36の大会新で2位に1秒以上の大差をつけ、連戦にもビクともしないタフネスさを見せつけて鮮烈なシーズンをまとめました。
サンバのいないファイナルにいきり立ったのが、ワルホルム。何せ今季は常に前にサンバがいて、しかもゴール前に引き離されるという屈辱の連続で、2017年世界チャンピオンのプライドをズタズタにされてきています。鬼の居ぬ間に、ではないでしょうが、とうぜんここはツアー・チャンピオンのことしか念頭になかったはず。
しかし、ファイナルのワルホルムは見た感じ、どうやら調子が下降気味だったか、終盤の競り合いに勝つことができませんでした。結果的にはマクマスターがV2達成、下馬評に上らなかった前年チャンピオンが最後の最後に意地を見せました。ワルホルムはコンティネンタル杯でも3着に敗れ、屈辱のままシーズンを終えることとなりましたが、彼自身、今季PBを大きく伸ばしているのは、サンバという目標が出現したからこそでしょう。
2年前のオリンピック・チャンピオン、カーロン・クレメント(USA)はファイナルに現れず、かつてのハードル王国・アメリカが両種目ともに精彩を欠いているのは一抹の寂しさを覚えます。
(つづく)