豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

論評

<2018豊大先生特別講演採録>その③ 映画『炎のランナー』のミカタ(後篇)


『炎のランナー』には、陸上競技モンとして語るべきことがいっぱい詰まっているとは前々から思っていましたが、いざやってみてこんなに時間を要するものだとは、想像以上でした。そして、陸上競技というスポーツあるいはエンターテインメントにも深い歴史があり、歴史を知ることが未来につながるという、そんなことを教えてくれる作品です。

では、後半を見ていきましょう。

シーン⑧<開会式>

2018-11-18 23.34.21
1924年パリ・オリンピック開幕!しかし、これだけレトロで立派なスタンドを備え、なおかつトラックが土という競技場が、映画製作当時(1980年ごろ)にまだあったんでしょうか?それともスタンドはこの部分だけ、映画用に仮設で作ったんですかね?
「選手入場」に先駆けて、オリンピック旗が入場。しかも、選手団の先頭はお馴染みのギリシャではなくアメリカです。(フランス語では、アメリカはEで始まる国名になります)

☆オリンピック旗が『オリンピック讃歌』の演奏・合唱とともに入場するようになったのは、1960年のスクォーバレー冬季大会からのことです。これは日本が東京オリンピック(1964年)に向けての準備の過程で、第1回アテネ大会で歌われて以降埋もれてしまっていたこの曲を“発掘”し、あの大作曲家・古閑裕而氏の手でアレンジを施されて、NHK交響楽団の演奏により「復活」したことからです。
なお、ギリシャが選手団の先頭に立つようになったのはいつの大会からのことか、まだ正確なところを調べ切れていません。


シーン⑨<重要会議>
2018-11-18 23.35.59
エイブラハムズとリデルが出場するはずの100m予選は、日曜日に行われる…イギリスからの出航間際にそれを聞かされたリデルは、競技と信仰の板挟みに懊悩しますが、結論はただ一つ「安息日には走らない」…この緊急事態を打開しようと、イギリス陸連会長や理事、さらには皇太子(後の国王エドワード7世)まで加わって、リデルに翻意を促します。
そこへ颯爽と現れたリンゼイが、「僕はもう400mHでメダルを獲ったから、400mの出場をリデルに譲る」と八方丸く収まるナイスな提案、リデルも快く了承します。

☆何度も言うようですが、リンゼイは架空の登場人物、したがってこのエピソードもまた作り話です。逆に言えば、この展開を盛り込みたかったが故に、リンゼイという「若き高級貴族にして快速ロング・スプリンター」のキャラクターを創り出したのかもしれません。
いくら100年近く前の物語だからといって、オリンピックの、自分が出る種目の日程を船に乗るまで知らなかった、などということがあるはずないでしょう。確かにパリ五輪の100m1次・2次予選は7月6日の日曜日にスケジュールされていて、そのことは何カ月も前から分かっていたはずです。リデルがそれゆえに100mの出場を断念したのは本当かもしれませんが、少なくとも現地でこんな騒動が起こるはずはないのです。

☆実際のパリ五輪のスケジュールでは、7月6・7日に100m、8・9日に200m、10・11日に400mが行われています。しかもリデルは400mで金メダルを獲る前に、既に200mで銅メダルを獲得しています。
また映画のエイブラハムズは200mで一敗地にまみれた後にマサビーニに叱咤され、100mで雪辱を果たすということになっていますが、これもまた虚構であることが分かります。


シーン⑩<そして100m決勝!
2018-11-18 23.39.38
いよいよ大会の華、男子(当時はまだ女子はありません)100m決勝を迎えます。決勝のスタートに並ぶのはパドック、ショルツらアメリカ勢4人にイギリスのエイブラハムズとニュージーランド(当時は「国」ではなくイギリス支配下の「地域」)という「米英決戦」。

史実では、エイブラハムズが10秒6のオリンピック・レコードでショルツを破り優勝、連覇を狙ったパドックは最下位の6位に沈み、ニュージーランドのアーサー・ポリットが3位に食い込んでいます。

☆英国皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)がレース直前に出場選手を激励するシーンでは、ニュージーランドの選手は「トム・ワトソン」と紹介されますが、実際には上記のポリットという選手。
エイブラハムズとポリットはこの翌年から実に40年以上にわたって、決勝レースが行われた7月7日午後7時に夕食を共にするという「男同士の七夕」みたいなことを続けました。エイブラハムズの親友はオーブリーではなく、ポリットだったのです。(オーブリーとも仲良かったのかもしれませんがね)


☆スタート地点に就いた各選手。めいめいが銀色に輝く何かを手にしています。左官屋さんが使うコテみたいに見えるこの道具、地面にスパイクを入れるための穴を掘るスコップであることがやがて分かります。ちなみに、スターティング・ブロックが世に現れるのは1948年のことです。
※関連記事 →連載「100m競走を語ろう」④

08

☆エイブラハムズ、歓喜の金メダル!…100mという僅か10秒のレースを映画のクライマックスとして表現するのは本当に難しいと思いますが、スローモーションを幾重にも重ねることでちょうどいい量感を創り出していると思います。
また、プロのコーチゆえにスタジアムに入場することすら許されなかったマサビーニが、ホテルの窓からイギリスの国旗が上がるのを見、『God Save The King』が流れてくるのを聞いてエイブラハムズの勝利を知る場面、私は大好きです。

☆1964年東京オリンピック当時のIOC会長エイヴリー・ブランデージ(通称“ミスター・アマチュアリズム”)の事績を知る世代としては、こうした徹底的なプロ排斥の気分は何となく理解できるのですが、今の人たちにとってはちょっとピンと来ないかもしれませんね。
マイナーリーグの試合にアルバイトで1、2度出たことがあるというだけの理由で、2種目制覇の金メダルを没収された陸上選手もいたんですぞ。(ジム・ソープ事件)


シーン⑪<リデル金メダルで大団円!>
2018-11-18 23.49.12
すでに金メダリストとなったエイブラハムズもスタンドから見つめる中、400m決勝に進出したリデルは下馬評こそ低かったものの、圧倒的なロング・スプリントの強さを見せつけ快勝します。そのタイムは47秒6。今でこそ日本の高校生レベルのタイムながら、堂々たる世界新記録でした。


☆作中、リデルがトラック1周のレースをする場面はこのクライマックスを含めて3回ありますが、いずれのレースでも彼はゴール間近になると極端に顎が上がって苦しそうに口を開き、そしてまるで水を掻くように両手をグルグルと回しながら走ります。そういう、走法上の著しい特徴を印象付けるキャラクターに設定されているのです。(実際のリデルがどうだったのかは、残念ながら判りません)

で!ここでマクラとも言うべき講演の前半部分でお話しした「空気抵抗」のお話にちょっと戻って…。


競走スポーツにおける空気の存在が、水泳における水と同じようなものだとするならば、手で水を掻いて水中を速く進もうとする技術が確立されているのですから、これを陸上競技に応用し得るのでは?…もしかして、そういう突飛な発想をするスプリンターが現れてもいいんじゃないか、と私は思うわけです。
苦し紛れの本能的な動きに見えるとはいえ、リデルの腕振りはまさにそれを求めているように映ります。

大昔、古代オリンピックを戦っていた陸上選手は、手にアイロンみたいな形のオモリを持って、ジャンプなどをしていた様子が絵に残っています。(オモリの反動でより遠くへ跳べると考えたのでしょう)
短距離を走る際にちょうどいい力加減で拳を丸めるために、ワインボトルのコルクを握って走ることを考えついた日本人選手がいて、それを実践していたら、海外のスポーツ雑誌にすでに商品化されている広告を見つけて驚いた、なんていう話もあります。(映画のリデルはレース直前にショルツから渡された激励のメッセージを手に走るのですが、これもマクナブならではの「コルクの代わり」だったのかもしれません)
そして、先述した100mの「フライング・フィニッシュ」というおバカな必殺技。

陸上競技という一見単純なスポーツで、単純であるがゆえに思いもかけない発想の転換が新技術を生み出すということは、これだけ情報や科学的知見が発達した現代にあっても、十分起こり得るのではないか…それがたとえフライング・フィニッシュのように結果的に間違っていたとしても、走高跳のフォスベリー・フロップ(背面跳び)のように歴史を変えてしまうほどのものだったとしても、人より100分の1秒でも、1㎝でも先んじるために考えたり試してみたりすることは、まだまだたくさんあるんじゃないかな…それが、陸上競技の持つ無限のロマンだと思います。

果たしてマクナブ先生がそこまで問題提起していたのかどうかは知る由もありませんが、私はリデルの走法に、そんなスプリンターの未来を感じてしまったのでした。

いやー、うまくつながったでしょう?
「平昌五輪」も「炎のランナー」も、本当はただ喋りたい話題だったというだけなんですけどね。
お後がよろしいようで。

(このシリーズおしまい)

<2018豊大先生特別講演採録>その② 映画『炎のランナー』のミカタ(前篇)


さて、講演の後半、というか“本編”は、1981年イギリス映画『炎のランナー』を鑑賞しながらのお話です。
過去の当ブログでも再三断片的にご紹介してきたトピックと一部重複しますが、それらを含めて総合的に、陸上競技映画の最高峰である本作について、映画としての素晴らしさとはまた別の角度から、陸上好きならではの楽しみ方をご案内しようという趣旨です。

シーン①<オープニング>
2018-11-18 22.58.27
映画史上に燦然と輝く、かどうかは知りませんが、印象深いテーマミュージックと登場人物たちのランニング風景であまりにも有名なオープニング(エンディングも同じ映像)・シーンです。(本当のオープニングは、功成り名を遂げ天寿を全うした主人公の葬儀の場面ですが、すぐに切り替わっての「若き日々の姿」こそがオープニングと呼ぶにふさわしいでしょう)

☆音楽は『ブレードランナー』のテーマでも名高いヴァンゲリスによる『タイトルズ』という曲。2012年のロンドン・オリンピックでは、開会式でこのシーンが場内ビジョンに映し出されたのをはじめ、音楽は表彰式などの式典BGMとして何回も流されました。

☆1924年パリ・オリンピックの陸上競技イギリス代表選手団が合宿練習中、という設定です。ランナーたちが走っている砂浜は、ゴルフの『全英オープン』でお馴染みのセント・アンドリュースの海岸。

☆画面に主要スタッフの名前がクレジットされていきますが、その中に「Athletic Consultant : TOM McNAB(陸上競技監修:トム・マクナブ)の表示が!
トム・マクナブは、陸上競技小説の傑作『遥かなるセントラルパーク』の著者として知られますが、本業は指導者。この映画から後の1990年代にはイギリス・ナショナル・チームのヘッドコーチを務め、あのジョナサン・エドワーズ(95年世界選手権で三段跳に18m29の世界記録を樹立。
余談ですが、ある時期まで「日曜日には競技をしない」というクリスチャンの信条を貫いており、本作の主人公の一人と重なる部分があります。)らの師匠筋にあたる名伯楽です。
つまり、この映画にはマクナブの持つ豊富な陸上関連の知識やノウハウ、歴史考証などが随所に散りばめられている、ということになります。

☆砂浜を走り終えた選手団が目指すのは、「CARLTON HOTEL」と表示がある大きな建物。ここで、早くもマクナブ先生の“ウンチク”が炸裂する演出が見られます。
選手たちは、敷地の白い柵を次々に跳び越えてホテルへと向かって走ります。これは、3000m障害物(3000SC=Steeplechase)競走の起源とされる風景をモチーフにした映像演出なのです。

イギリスでの原始的な長距離ロードレースでは、教会をスタートし、別の街の教会をゴールとして、当時は随一のランドマークであった教会の尖塔(steeple)を目標に、道など関係なく途中の柵や濠などを跳び越えて一目散にゴールを目指して走った、と言われます。それをトラック上で再現しようということで始まったのが、3000mSCという種目。映画のシーンでは教会ではありませんが、やはり尖塔のあるホテルを目指して選手たちが柵を跳び越え走っていっているわけです。
ちなみに、カールトン・ホテルとして描かれているこの建物は、実際はセント・アンドリュース大学の学生寮、その左にある建物はゴルフ場のクラブハウスだそうです。
2018-11-19 01.41.01

☆このシーンに続いて、オリジナル版では選手たちがクリケットに興じる場面が描かれます。主人公の一人ハロルド・エイブラハムズの性格の一端を表現する、短いながらも重要なシーンなのですが、アメリカ公開版では「クリケットというスポーツが解りにくい」という理由で、エイブラハムズが親友となるオーブリー・モンタギューと出会うシーンに差し替えられています。私がTVから録画したものはアメリカ版、購入したBDは英国オリジナル版でした。


シーン②<カレッジ・ダッシュ>

2018-11-18 23.05.38
ケンブリッジ大学キーズ校に入学した主人公エイブラハムズ(パリ五輪100mの優勝者)は、大学の伝統行事であり過去700年間に誰も成功者がいないという「カレッジ・ダッシュ」に挑戦します。中庭の外周を、正午の鐘が鳴っている間に走り切るというものです。伴走に名乗り出たアンドリュー・リンゼイとともに走り出したエイブラハムズは、みごと史上初の成功者となります。

☆実際にケンブリッジの伝統行事となっているのは「The Great Court Run」と呼ばれ、キーズではなくトリニティ・カレッジの中庭で、入学祝いのディナーが催される日に行われます。外周の距離は401ヤード(約367m)で、正午の鐘が鳴り始めてから最後の一打までの時間は約44秒(ただし機械調整からの経過日数や気候によって前後する)とされます。映画では「距離は約200メートル」と説明しています。

☆エイブラハムズがこれに成功したという記録はなく、史上最初の達成は1927年、6世エクセター侯爵デヴィッド・ジョージ・ブラウンロウ・セシル=通称デヴィッド・バーリーという学生によるものです。バーリーは翌1928年のアムステルダム・オリンピックで400mHの金メダルを獲得します。映画の主要登場人物であるリンゼイ(こちらも貴族)は、このバーリーをモデルとした架空の人物で、後にパリ五輪400mHで銀メダリストになるという設定ですが、そういう歴史的事実はありません。

☆またまた余談ながら、1988年に現在のIAAF会長であるセバスチャン・コーが、当時のイギリス中距離界第一人者だったスティーヴ・クラムとともに「The Great Court Run」にチャレンジしています。コーはこの時点ですでに現役引退した後ながら、中庭一周を46秒0で走り、最後の鐘の残響の中でゴールしました。これを「成功」とするか「最後の鐘が鳴る前にゴールしていないから失敗」とするかで、議論になったそうです。
【RIZAP】

シーン③<ハイランド・ゲームズ>

2018-11-18 23.22.50
もう1人の主人公、エリック・リデルが登場。スコッツ(スコットランド人)であることを誇りに、カトリックの布教活動に従事する彼は、国内有数のラグビー選手として、大会にゲスト参加しています。

☆ハイランド・ゲームズは、スコットランド地方で独特に発展した大規模な運動会。陸上競技を中心に、フットボールなどのゲーム・スポーツありダンスあり、会場ではバグパイプが賑やかに演奏されます。起源は11世紀とされ、1820年頃から映画の時期(20世紀初頭)にかけて隆盛を究め、海外にも普及しました。マクナブ先生の著書(やはり1920年代を舞台にした『遥かなるセントラルパーク』『速い男に賭けろ』)にも、しばしばこの競技会の様子が描かれています。

☆後日のシーンですが、日曜日にラグビーボールで遊んでいる子に「(カトリックだから)安息日にはスポーツをしてはいけない」と諭す場面があります。これが、オリンピックの際のちょっとした騒動の伏線となります。
【ファイテンオフィシャルストア】公式通販サイト

シーン④<パリ・オリンピック・プレビュー>
2018-11-18 23.24.57
エイブラハムズを筆頭とするケンブリッジの陸上競技仲間はめきめきと頭角を顕し、新聞の一面を華やかに飾る活躍を見せます。写真は「ケンブリッジ四天王」と呼ばれ、やがて揃ってオリンピック代表となる盟友たち。
左から順に、ヘンリー・スタラード(1500m銅メダル)、アンドルー・リンゼイ(400mH銀メダル…ただし実際にはこの種目の銀メダリストはフィンランド選手)、ハロルド・エイブラハムズ(100m金メダル、200m6位)、オーブリー・モンタギュー(3000mSC6位)。

☆前述のように、リンゼイは架空の登場人物。

☆エイブラハムズの無二の親友として描かれるモンタギューは、実際にはオックスフォード大学出身。とうぜんナショナル・チームでは交流があったでしょうが、種目も異なりさほどの親交があったとは思われません。つまり、冒頭とラストでエイブラハムズの葬儀に2人の旧友が参列しているのは、ともに架空の設定ということになりそうです。


シーン⑤<パドックとショルツ>

18
エイブラハムズの個人コーチに就任したサム・マサビーニが、ライバルたちの画像を見せながらエイブラハムズのイメージと闘志を喚起するシーン。(なんでわざわざ壁にスライドで大写しするのかって?もちろんこの映画を観てる人たちのためでしょう)
前回アントワープ・オリンピックでワンツーを独占したアメリカのチャールズ・パドック、ジャクソン・ショルツ、そしてリデルの名と写真を強調します。

☆映画で使われていたのは実際のアントワープ五輪100m決勝のゴールシーンを捉えた写真。大接戦の末に右端のショルツが思わずパドックを見たために負けた、と言われました。
優勝したパドック、そして左前方の選手は、手を拡げてジャンプをしながらゴールインしているのが分かりますか?
これは、1920年当時に一世を風靡した「フライング・フィニッシュ」もしくは「リープ・フィニッシュ」と呼ばれた“新”技術です。「最後の一歩は大きく跳んだほうが早くゴールに到達する」というトンデモナイ誤解から、世界のトップ・スプリンターが競って走幅跳のように5メートル以上もジャンプをしてフィニッシュしていたのです。
まあ当時は映像解析などの技術もありませんから科学的な比較実証は難しかったのでしょうが、さすがに「やっぱ駆け抜けた方が速い」ことに気付くまでそう時間はかからず、この映画の時期(1924年)にはすっかり廃れてしまっています。(ただし、後のオリンピックのシーンで、200mに優勝したショルツはついつい(?)ゴール前の一歩を軽く跳んでいます)


シーン⑥<エイブラハムズとリデルのトレーニング風景>
2018-11-18 23.30.03
マサビーニの厳しい指導に黙々と従うエイブラハムズ、荒野や海岸を疾走するリデル。イギリス期待の2人のスプリント・エースは、それぞれの流儀でオリンピックでの“頂点”を目指します。

☆「焼けたレンガの上を歩くつもりで足を動かせ!」と腿上げ・ピッチアップの指令に余念のないマサビーニ。一方、スプリンターなのにクロスカントリー(しかも普段着)に勤しむリデル。今では考えられないようなトレーニング法が延々と続きますが、まあ当時はそんなもんだったろうな、と何となく納得させられます。

☆そして、最後にはフライング・フィニッシュへのアンチテーゼとして、きちんと「正統派フィニッシュ」を教え込むコーチ。わざわざこのシーンを入れるなんざ、マクナブ先生、さすがです…ちょっと身体反らせすぎだろ、とは思いますが。

シーン⑦<アメリカ・チームのトレーニング風景>
2018-11-18 23.32.11
時は移っていよいよパリ・オリンピック開幕目前。現地入りしたアメリカ・チームがサブトラックで猛練習中です。とても代表選手と思えない水濠障害のこなし方をするランナーがいたり、見るからに力が強そうな投擲選手がいたり、パドックはまるで美容体操みたいなことをやってるし、これはこれで、見ていて楽しい光景です。
アメリカ選手団のトレーニング・ウェアは、現代ならお父さんの寝間着姿にしか見えませんが、当時としてはお洒落で画期的なグレーのスウェット・スーツ!

というわけで、舞台はいよいよ決戦の地・パリへ。
クライマックスは、この後すぐ!


(つづく)

<2018豊大先生特別講演採録>その① 平昌五輪を振り返って



先週土曜日の10日、私は人生2度目の<講演>なるものを1年ぶりにぶちかましてまいりました。

ま、講演といったって、出身校の陸上部OB会という、ごくごく内輪の集まりでのものなんですけど、とにもかくにも陸上競技をやってた方々、それも過半数は大先輩方を相手に陸上競技のお話をするのですから、そりゃもう緊張もんです。
今回の記事は、その講演内容について、その場では話しそびれたことも含めて、忘れないうちに文章でまとめておこうというのが趣旨です。

今年の講演は2部構成。というか、落語で言うところの「マクラ」があって「本編」があるという感じ。参照資料としてはパワーポイント文書を作るのが面倒だったので、映像1本のみで押し通しました。

まず、「マクラ」としてお話ししたのが『ピョンチャン五輪における日本選手の活躍』
…??陸上の講演のはずなのに何じゃそりゃ?
実はこれには伏線がありまして、前年の講演のテーマであった「日本の400mリレー・強さのヒミツ」の結びで、私は「男子ヨンケイと同じように、チーム・レースとしてぜひ注目してもらいたいのがピョンチャン五輪での女子パシュート!」と大胆な予言をカマしていたのです。それを受けて、という形です。
なお、実際の講演ではこのパート、10分程度の時間でしたが、かなり端折ったところがありますので、ここでは「実はもっと言いたかった」を含めて記述いたします。

<平昌五輪・スピードスケートの映像を見せながら>
ピョンチャン14

今回の五輪ほど「風圧・空気抵抗・空力」といったことが注目されたことはかつてありませんでした。スピードスケートの女子チーム・パシュート然り、マススタート然り、ノルディック複合での渡部暁人包囲網然り、はたまたスキージャンプは言うに及ばず…。
特に従来基本的には単独走(2人1組ながら選手どうしが相前後して滑るというシーンがほとんどない)で行われてきたスピードスケートでは、チーム・パシュート(2010年大会から)、マススタートという2つの新種目において、「空気抵抗との戦い」なる新たな局面が発生。これにいち早く着目して戦略・戦術・技術を磨いてきた日本チームの活躍が期待され、その期待どおりの結果となったわけです。

<自転車チーム・パシュートの映像>
チームパシュート自転車

これらの新種目は本来、自転車競技で行われている種目を参考にしたものです。ご承知のように、自転車競技ではケイリンなどのスプリント種目から、チーム・パシュートなどの中距離種目、ロードレースなどの長距離種目に至るまで、ほとんどのレースでこの「空気抵抗」を前提とした戦略・戦術によりレースが進行します。(日本の競輪における「ライン」戦略やツール・ド・フランスに代表されるロードレースでのアシストの役割など、本気で説明するとたいへん長くなります)

その自転車競技でも同様に、日本チームは近年、というより昨年あたりから着々と実力を向上させています。そのきっかけとなったのは、ブノワ・ベトゥ(短距離担当=FRA)、イアン・メルヴィン(中長距離担当=NZL)という2人の外国人コーチの招聘で、彼らの先進的指導によって、フィジカル面とともに戦術面で日本のナショナルチームが大改造を施された結果だと言えます。

自転車やスピードスケートに比べて競技者の速度がかなり落ちるとはいえ、我らが陸上競技において、この「空気抵抗にどう対処するか」ということが、これまであまり論議されてこなかったのは、不思議なことです。



<ジャカルタ・アジア大会男子4×400m決勝の映像>

一つは戦術面。
陸上の場合、短距離種目はセパレート・レーンで行われますからそうしたことは関係ありませんが、オープン・レーンで競う種目、たとえば4×400mリレーのことを考えてみましょう。
ライバル・チームから少し遅れてバトンを受け取った選手が、そのライバル・チームの自分とほぼ同等の力関係にある選手を追ってスタートしたとします。闘志満々で猛然と追いかけ、バックストレートで一気に追い抜いたはいいが、抜いた相手にピタリと背後に食い下がられて、結局ホームで再逆転される…こんな光景をよく見ませんかね?
むろん、前半のオーバーペースが祟って失速、ということも考えられますが、そもそも戦術として相手の直前で風を切って走るということのデメリットを全く意識していない、としか思えないケースが多いようです。

より走行速度の遅い種目、たとえばマラソンなどでも、意外にこのことは意識されていません。
ロードレースを走ったことのある方なら、人の背後について走ることがどれだけ物理的にメリットがあるか、身体が実感しているはずなのですが、どうかするとこれは「人に引っ張ってもらうことの気楽さ」という精神面の問題にすり替えられて意識されがちです。
また1人でランニングをしている時でも、風の向きや強さによってどれだけ走りに影響があるか、誰でも感じているはずなのですが、では追風の時、向い風の時、横風の時、どういうふうに走りをそれらに即応して調整するのか、そういうことを深く追求する議論というのはほとんど行われていないように思われます。
マラソンのように長い距離を苦痛とともに走り切るレースをする場合、いかに気持ちよくレースを進めるかという精神的な戦術は非常に大切なこと、これは否定できません。前が開けた状態で走らないと気分がよくない、つまり率先してフロント・ランナーになるという志向の人も少なくないでしょう。それはそれで選手としての個性でよいですし、前回の記事で新谷仁美選手について取り上げたように、私はこういうレースをする選手が大好きです。
ですが、生き物のように様相を変化させるレースにおいて、「人の背後について走ることは物理的にメリットがある」ということは、常に念頭に置かなければなりません。フロント・ランナーは、背後のライバルにそのメリットを供給しているのだという事実を認識し続け、変化するレース展開の中で自身の戦術を組み立てるべきなのです。
かつて「世界最強のマラソンランナー」の名を欲しいままにした瀬古利彦は、このメリットを最大限に活かした選手であり、そのライバルの一人として42.1㎞にわたりフロントを走り続けた(1983年福岡国際マラソン)ジュマ・イカンガー(TAN)こそは、当時マラソンの走力という意味では世界一のランナーだったかもしれません。
Fukuoka Marathon 1983
 錚々たる強豪を従えてトップを走り続けるJ.イカンガー

もう一つは、用具面。
たとえば空気抵抗以上に目に見える上に実感できる「水の抵抗」を軽減するため、競泳では2009年までいわゆる「高速水着」というものが一世を風靡しました。2010年から水着の材質・形状は厳格な規制のもとに統一されたのですが、現在でもなお、2009年に生まれた世界記録・日本記録が破られていない種目は少なくありません。(陸上競技よりも遥かに短いサイクルで記録が更新される競泳では、稀有なことと言えます)

とうぜん、陸上競技でもウェアの材質・形状は記録面に少なからず影響するはずだと思われます。
素材は昔と比べると随分進化したものだと思わされますが、フローレンス・グリフィス(後のフローレンス・ジョイナー)やキャシー・フリーマン(2000年シドニー五輪女子400m優勝&聖火最終点灯者)などが着用して一時期話題を呼んだ「全身スーツ型」のものは結局普及することなく、現在に至っています。(「全身スーツ型」は、競泳の高速水着化がピークに達した時にまさに行き着いた形状です)
ここでも、物理的なメリットよりも精神面での「着やすさ」「装着感」が重視されていることは疑いようがなく、最近スプリント種目での主流になっている半袖タイプのウェアでも、胸元のファスナーを開けてレースに臨んでいる選手を見るたびに「アホだなあ…」と思ってしまいます。
現在ではもちろん、競泳のような規格制限はないわけですから、このあたりは日本の技術力を傾注するチャンスではないか、と思うのですけど、さてどうでしょうか?
Cathy Freeman
 全身スーツ・スタイルでシドニー400mを快勝したC.フリーマン

さらに一つ、今後もしかしたら出て来るかもしれないテーマが技術面での空気抵抗対策。
これについては、講演本編の「オチ」としてご紹介した、私オリジナルの少々突飛な考えを一例としていますので、詳しくは次回に。

(つづく)

2018シーズン“世界”のまとめ ④~女子フィールド


ここまでダイヤモンドリーグ実施種目に限定して2018シーズンを振り返ってきましたが、触れることのできなかった種目についても少々言及しておきましょう。
DL非実施種目である10000mやハンマー投、マラソン・競歩のロード種目、混成種目、リレー種目については、それぞれ試合数が少なかったり、まだ試合を残していたりと、現時点でシーズン全体を総括することにあまり意味はありません。
もちろん、世界記録が塗り替えられた男子マラソン・十種競技をはじめ、これらの種目でも例年に増して話題に事欠くことなく、五輪中間年ながら陸上競技界の盛り上がりに大いに寄与していたのは間違いないところです。それらに関しては、また個々に述べる機会もあろうかと思います。

それでは、シリーズ最後のパートとなります「女子フィールド」カテゴリについて、DLファイナルの結果をもとにまとめておきます。
※(Z)はチューリッヒ大会、(B)はブリュッセル大会のリザルト

<女子跳躍>
◇走高跳(Z)
① 1m97 マリア・ラシツケネ(ANA)
② 1m94 ユリヤ・レフチェンコ(UKR)
③ 1m90 マリー-ローレンス・ユングフライシュ(GER)

7月のラバト大会で衝撃の連勝ストップがかかったラシツケネは、ヨーロッパ選手権でもミレラ・デミレヴァ(BUL)に薄氷の勝利と、今季は「絶対女王」の名が揺らぐ場面もありました。2度にわたり女王の座を脅かしたデミレヴァの姿がなかったファイナルでは、記録は低調ながらラシツケネの完勝に終っています。
今季、記録的には2m04を筆頭に9回2mをクリアしたラシツケネの独擅場で、まだまだその優位は来季以降も続きそうです。その他では、26歳にして突如それまでのPB1m91から大幅アップの2m02を跳んだエレナ・ヴァロルティガラ(ITA)、七種競技の種目別世界最高記録を2m01にまで高めたナフィサトゥ・ティアム(BEL)の名が2mリストにあるのみ。この2人は、ラシツケネにとってデミレヴァ以上に気になるところでしょう。

◇棒高跳(Z)
① 4m87 カテリナ・ステファニディ(GRE)
② 4m82 サンディ・モリス(USA)
③ 4m82 アンジェリカ・シドロワ(ANA)

シーズン序盤は「絶不調」の苦悩を見せていたステファニディが、中盤から安定した跳躍を取り戻し、終わってみれば定位置に収まった、という結果です。
上位3名は昨年来のスタンダードですが、今季はベテランのジェニファー・サー(USA)、ニコレッタ・キリアポウロウ(GRE)、ヤリスレイ・シルバ(CUB)、あるいはリオ銅メダルのアイドル・ボウルター、エリザ・マッカートニー(NZL)といった面々が随所で上位に食い込む活躍を見せ、ゲームに厚みと彩りが増した感じがします。華やかな女子空中戦が、もっともっと盛り上がってくれることを期待します。

◇走幅跳(B)
① 6m80(+0.3) カテリン・イバルゲン(COL)
② 6m70(-0.4) シェイラ・プロクター(GBR)
③ 6m68(-0.2) シャキーラー・ソーンダース(USA)

昨年の世界選手権でしのぎを削った「4強」・・・ブリトニー・リーズ(USA)、ダリア・クリシナ(ANA)、ティアナ・バートレッタ(USA)、イヴァナ・スパノヴィッチ(SRB)の名がどれもファイナルのスタート・リストになく、率直に言ってレベルの低い戦いの中で、「鬼(たち)の居ぬ間に」とばかりにイバルゲンが三段跳との2冠を達成しました。
シーズン唯一人の7mジャンパーとなっているロレイン・ユーゲン(GBR)や好調を続けてきたマライカ・ミハンボ(GER)は下位入賞にとどまり、今季この種目の低空飛行ぶりを象徴しています。

◇三段跳(Z)
① 14m56(-0.3) カテリン・イバルゲン(COL)
② 14m55(-0.8) シャニーカ・リケッツ(JAM)
③ 14m47(+0.3) キンバリー・ウィリアムズ(JAM)

こちらは強敵のユリマール・ロハス(VEN)が3月の室内を最後に三段跳の試合に出場せず、イバルゲンの独り舞台…かと思われましたが14m台中盤の記録では意外な苦戦もやむなし、というところでしょう。ここ2年間15mオーバーが見られず、34歳になったイバルゲン、進退のはっきりしないロハス、あるいはこちらもベテランのオルガ・リパコワ(KAZ)…このあたりと好勝負ができる選手が出てこないと、この種目はしばらく地味な存在に陥ってしまうかもしれません。
新品も中古も激安PC勢ぞろい!パソコン買うなら楽天市場

<女子投擲>
◇砲丸投
① 19m83 ゴン・リージャオ(CHN)
② 19m64 レイヴン・ソーンダース(USA)
③ 19m50 クリスティナ・シュワニツ(GER)

この種目も、今季は低調なまま推移し、ランキング(20m38)、DLともに制したのはゴン・リージャオでした。ヴァレリー・アダムズ(NZL)、クリスティナ・シュヴァニツ(GER)、ミシェル・カーター(USA)といった実力者が30代半ばにさしかかって下降線を辿っている現状では、来季のニューカマー到来を期待するしかありません。

◇円盤投
① 65m00 ヤイメ・ペレス(CUB)
② 64m65 アンドレサ・デ-モライス(BRA)
③ 64m31 サンドラ・ペルコヴィッチ(CRO)

女王ペルコヴィッチは今季開幕戦でいきなりセカンド・ベストの71m38を投擲し、その後も好調を維持して円熟期の充実ぶりを見せていましたが、ファイナルでまさかのチョンボを演じてしまい、年間チャンピオンの単独最多記録(8回)を達成するチャンスを棒に振ってしまいました。
毎試合ペルコヴィッチに続く2位の座を堅守してきたペレスが、タナボタの勝利にニンマリ、といったところです。

◇やり投(Z)
① 66m99 タチアナ・ハラドヴィッチ(BLR)
② 66m00 リウ・シイン(CHN)
③ 64m75 カーラ・ウィンガー(USA)

この種目も主役不在の低レベル混戦が続きました。その間隙を縫って、ルー・フイフイとリウ・シインの中国コンビが各大会で上位を賑わし、シーズン後半にアジア大会を制するなど調子を上げたリウがファイナルでも2位に食い込んでいます。優勝したハラドヴィッチは、やや成績にムラが大きいところがまだ「女王」の名に及ばない印象。今季ランキング首位のキャスリン・ミッチェル(AUS)がDL戦線に参加しなかったことも、今一つ盛り上がりを欠いた要因となりました。

(シリーズおわり)

2018シーズン“世界”のまとめ ③~男子フィールド


前回②のアップから少し時間が空きまして、その間に陸上月刊誌なども発売になりましたんで、DL最終戦の結果はそちらを見ていただいたほうが手っ取り早い…しかし当ブログには当ブログの意見や感想がありますんで、まあ気にせず「つづき」を書くことにいたします。
※(Z)はチューリッヒ大会、(B)はブリュッセル大会のリザルト

<男子跳躍>
◇走高跳(B)
① 2m33 ブランドン・スターク(AUS)
② 2m33 マテウス・プルジビルコ(GER)
③ 2m31 ジャンマルコ・タンベリ(ITA)
⑥ 2m26 戸邉 直人(JPN)

◇棒高跳(B)
① 5m93 ティムル・モルグノフ(ANA)
② 5m88 サム・ケンドリクス(USA)
③ 5m83 ショーナシー・バーバー(CAN)

◇走幅跳(Z)
① 8m36(+0.3) ルヴォ・マニョンガ(RSA)
② 8m32(-0.2) ラスウォル・サマーイ(RSA)
③ 8m16(+1.2) ヘンリー・フレイン(AUS)

◇三段跳(B)
① 17m49(+0.5) ペドロ・パブロ・ピチャルド(POR)
② 17m31(0.0) クリスチャン・テイラー(USA)
③ 17m25(-0.2) ドナルド・スコット(USA)

跳躍種目は、ことDLファイナルに関する限り、番狂わせの連続となりました。

男子HJは、開幕戦でいきなり2m40をクリアしたムタズ・エッサ・バルシム(QAT)がシーズン序盤は無敵の強さを誇ったものの、夏を前に足の手術のため戦線離脱。その後を承けローザンヌ、モナコと連勝して記録も2m40の大台に乗せたダニル・リセンコ(ANA)が、ドーピング検査のための所在場所報告義務違反で出場停止(昨年のブライアナ・マクニールと同じ処罰です)となり、アジア大会、DLファイナルはともに主役不在の一戦となりました。
ここがチャンスと意気込んだのが昨年の負傷から復帰してきた“半面ヒゲヅラ男”のタンベリでしたが、伏兵のスタークにあっさりと年間王者を持っていかれガックリ。
日本勢で唯一ファイナルに進出した戸邉は、2m26を一発クリアしたところで首位に立っている状況がTV画面に映されましたが、実況サイドはまったくそれに気づかず。結局一度も画面に映ることなく、6位で競技終了。「あわよくば」の大魚を逃しました。

PVでは、ルノー・ラヴィレニ(FRA)、ケンドリクス、アーマンド・デュプランティス(SWE)の「三世代対決」が盛んに叫ばれながら、ファイナルを制したのは躍進著しかったモルグノフでした。
ギリギリの12位でファイナル出場に滑り込んだモルグノフではありますが、8月のヨーロッパ選手権で6mボウルターの仲間入りを果たし、チューリッヒ大会で行われた番外戦(DL対象外のエキシビション)でも、デュプランティス以外はファイナル同様のメンバーが顔を揃えた中で優勝(5m91)しており、優勝候補の一角に急上昇していたのは確かです。優勝争いがこのレベルになってくると安定感抜群のケンドリクスといえども盤石ではないということで、男子PVは今後、ますますハイレベルでの戦国時代に突入しそうです。
年間を通しては、同じくヨーロッパ選手権でU-20世界記録を大幅に更新する6m05を征服したデュプランティスに、来シーズンのさらなる躍進が期待されます。

男子跳躍の中で唯一LJは、“本命”のマニョンガが制覇。ただし、この種目の「超新星」ファン・ミゲル・エチェヴァリア(CUB)の出場回避は残念でした。
マニョンガvs.エチェヴァリアの9mラインを見据えた戦いは、来年もフィールド最大の見どころの一つとなるでしょう。
またかつての“王者”グレッグ・ラザフォード(GBR)が引退し、男子LJは完全に新時代へと移行した感があります。

TJではDL6連覇を続けていたテイラーのホップに斬れがなく、ファイナルで意外な敗北。勝ったのが18mジャンパーのライバル・ピチャルドですから波乱とまでは言えませんが、今季のテイラーはしばしば400mにチャレンジするなどしてどこか本業は上の空、という印象があり、ファイナルの結果にもそれが反映されていたような気がします。
なお、ピチャルドはいつの間にやら、キューバからポルトガルに国籍変更しています。


<男子投擲>
◇砲丸投(Z)
① 22m60 トーマス・ウォルシュ(NZL)
② 22m40 ダレル・ヒル(USA)
③ 22m18 ライアン・クラウザー(USA)

◇円盤投(B)
① 68m67 フェドリク・ダクレス(JAM)
② 67m56 アンドリウス・グドジウス(LTU)
③ 66m74 ダニエル・ストール(SWE)

◇やり投(Z)
① 91m44 アンドレアス・ホフマン(GER)
② 87m57 マグヌス・キルト(EST)
③ 85m76 トマス・レーラー(GER)

男子SPを昨シーズン牛耳っていたのはクラウザーでしたが、世界選手権・DLファイナルともに制覇ならず、今季ファイナルに期するものはあったと思われます。しかし今回も、その世界選手権王者のウォルシュ、DL王者のヒルに屈する結果となりました。
ウォルシュは5月にPB22m67をマークして記録の面でもクラウザー(22m65)を上回り、今やこの種目の第一人者の座を完全に奪い取りました。また、昨年のファイナルで突然大幅PBの22m44をプットして番狂わせを起こしたヒルは、今年も初の22mオーバーがファイナルで出て2位に食い込み、ブリュッセル特設会場との相性は抜群です。
上位の3人はいずれも、ここ2年以内に頭角を顕した選手ばかり。この種目も新世代の競合時代となり、来季は世界記録更新の期待も高まります。

DTはレコード・ランキング(69m72)、DLスタンディングともに首位のダクレスが順当な勝利。“短距離王国”ジャマイカに新たな陸上のヒーローが誕生しました。唯一オスロで8位とチョンボを犯した以外はすべて優勝と、この種目でもかつてのピョートル・マラホフスキ(POL)やハルティング兄弟(GER)らの時代から、ページが一つめくられた感じがします。

レーラー・フェテル・ホフマンのドイツ勢3人による「90mスロー揃い踏み」で開幕(ドーハ大会)した今季、JTのツアー・チャンピオンシップを制したのは“第3の男”ホフマン、記録は「ジャスト100ヤード」でした。
ひところ記録水準が低迷していたこの種目、今や90mスローなくしては優勝は難しいという著しいレベルアップを遂げ、アジアでもチェン・チャオツン(TPE)の91m36(2017年、今季は84m60)やネーラジ・チョプラ(IND)の88m06(2018年アジア大会)と世界に伍するスローが出てきて、期待度の高かった日本勢にとっては厳しい状況となってきています。2年間不振に喘ぐ新井涼平(スズキ浜松AC )には、ぜひとも来季の巻き返しを期待しましょう。

(つづく)

ギャラリー
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#10~1996/第80回日本選手権
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#10~1996/第80回日本選手権
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#10~1996/第80回日本選手権
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#10~1996/第80回日本選手権
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#10~1996/第80回日本選手権
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#10~1996/第80回日本選手権
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#10~1996/第80回日本選手権
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#9~1991/第10回大阪国際女子マラソン
  • 連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#9~1991/第10回大阪国際女子マラソン
楽天市場
タグ絞り込み検索
  • ライブドアブログ