

今年の日本選手権の男子100m、会期前のワクワク感からレースのゴールまで、本当に面白かったですね。
たった10秒間で終わってしまうスポーツ競技なのに、何がこんなに、見る人々を熱くさせるんでしょうか?
人間の持つ測り知れない可能性への憧れ、驚くべき身体能力やパフォーマンスへの素直な賛辞、研ぎ澄まされた精神を外から観察する興味、速報タイマーに刻まれる数字への期待…そういったことはもちろんなのですが、 私は、100m競走という種目が世界のどこでも、人々が最も身近に感じることのできるスポーツだからだ、と思っています。
ところで、世界中で最も競技人口の多いスポーツはサッカーだそうですね。2位はバスケットボールだという人もいれば、いやいや意外にもクリケットだよ、という人もいます。
日本では1にサッカー、2に野球…かと思いきや、ある統計によれば1位はウォーキングで2位はボウリングだとか、ランニング人口は1000万を超えているからこれこそNo.1と主張する向きもあるようです。
これは、「競技人口」という言葉の定義に問題がありまして、競技者として競技団体に登録されている人なのか、公式ではないけれど「試合に出た」経験がある人も含むのか、「学校の授業でやったことがある」程度まで含めるのか、またかつては競技者だったけれど辞めてからもう何年も経つような場合はどうなのか、そういったことでずいぶんと数字が変わってくるのではないでしょうか。ちなみに、「ランニング人口が1000万人」というのは、「1年間で1回以上ランニングをした人の数」だそうで、これだと他のスポーツをやっている人もウォーミングアップにはランニングするでしょうから、ほとんど含まれることになりますよね。
では少し切り口を変えて、「一度でも試合・競争の形でやったことのあるスポーツ」となると、どうでしょう?
やはりサッカー?…しかし、私くらいのロートル世代の日本人の場合、中学校にサッカー部がなかったなどというケースも多く、実は1回もサッカーをゲーム形式でやったことがない、という人が結構な割合でいます。(私自身は、短い期間でしたが部活でやっていたことがあります)
野球は?…これは女性には、少々縁の薄いスポーツということになりそうですね。
そこへいくと、徒競走、かけっこという競争は、男女どの世代でも、そしておそらく世界中ほとんどの(スポーツを楽しむ環境にないという不幸な国や地域は別ですよ)国々でも、ほとんどの人々が「一度はやったことがある」と言えるスポーツではないでしょうか。
100m競走が多くの人々を虜にするのは、そうした「実体験」を重ね合わせて、アスリートの走る姿に素直に感嘆したり、憧れを抱いたりという感情移入が容易にできるスポーツだから、と言えるのではないかと思っています。

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さて、そんな100m競走、たった100mをまっすぐ走るだけ、たった10秒前後ですべてが終わってしまう種目ですが、語り始めたら限りがないほどに、さまざまなエピソードが取り巻いています。
オリンピックでも世界選手権でも、100mはおおむね8日間から9日間ある会期のうちの最初のほうから予選のレースが始まり、2日目、3日目の夜には決勝を迎える、いわばビッグイベントのオープニング・アクトとして位置付けられている花形種目です。
テレビなどでは、スタートの号砲が鳴ればたった10秒で終わってしまうこの花形種目を、何倍にも何十倍にも見せようと、必死に工夫を凝らして盛り上げようと躍起になります。
ところが、テレビを見ていると、あるいは実際にスタジアムのスタンドで生観戦をしていても、
「あれ、ここはどうなってるんだろう?…」
と、ふと疑問に感じられることがたくさん出てきます。観る人によってその感じ方はさまざまでしょうが、とにかくいろいろなことが次々と脳裏を通り過ぎながら、気が付いたらレースが終わって勝者の歓喜の場面に関心は移っていた、という経験を多くの方がされていることと思います。
それらは、たとえばサッカーの「オフサイド」のように、あるいは野球の「フォースアウト」のルールのように、知らないでは正しく観戦に入り込めないというほどの疑問ではないのでしょうが、もし知っていれば、たった10秒のスポーツをもっともっと楽しくエキサイティングに見つめることができる要素なのではないかな、という気がします。そうした「100メートル競走の細々とした知識」を、テレビ放送などが紹介してくれることは、まずないと言っていいでしょう。せいぜい、ちょっとしたルールの変更点などを実況の中でアナウンサーがさらりと説明する程度でしょうか。
そんな話を酒のサカナに、友人の前で得々と話し始めたところ、
「そんなに話したいなら語ってみろよ。まんざら興味のない話でもないから、聞いてやるよ」
てなことになりました。
「いいの?一晩中、いや、もっとかかるかもよ」
と返すとさすがに友人の顔がサッと青ざめたような気がしましたが、さて何から語ろうかというと、うまく整理がついていません。
「ん~、ん~…」
と苦吟する当方に、冷ややかな笑みを浮かべた友人、
「ほれ見ろ、たかが100m、されど100m、でもやっぱり所詮はかけっこだろ?そうそう深い話はなさそうだな?」
「いや待て!あまりに語ることが多すぎて、どこからにしようかちょっと迷ってしまっただけだ。…そうだ、どこからと言えばだな、100mのレースはどこからどこまでだか、知ってるか?」
「そんなの決まってるだろ。スタートからゴールまで、ぴったり100メートルの直線コースだ」
「そのとおり!…なんだけど、じゃ、その“スタート”と“ゴール”をどう定義する?」
・・・
と、そんな調子で私の「100m談義」は始まってしまいました。
一晩で終わるものかどうか、ちょっと私自身にも分かりません。
この<連載>は、特筆すべき話題やニュースがない時、合間を縫って投稿してまいります。
あくまでも、外野席から競技を見続けた素人の「100m談義」であることをご承知おきの上、7週間後に始まるオリンピックの陸上競技をより堪能するための準備運動的な読み物として、お楽しみいただければ幸いです。
