ロード/駅伝シーズンの序盤戦、10月の締めくくりとして、『第34回全日本大学女子駅伝対校選手権』=通称「杜の都駅伝」が行われました。

オーダー表を一瞥した瞬間、「立命館、いよいよ危うし!」の思いを禁じ得ませんでした。
9月の日本インカレにおいて松山大学の圧倒的な走力と選手層を見せつけられていながら、万全のオーダーを組めていません。
本来なら1区をスペシャリストの大森菜月に任せ、僅かでもリードを奪って主導権を握り、最長5区の太田琴菜で決着をつけて盤石の信頼を得る菅野キャプテンにアンカーを託す、というのが理想的なV6のパターンだったのでしょうが、その3年生エース・太田の名前がありません。ならば終盤の接戦に備えて大森のラストスパートをアンカー勝負の切り札に、というのがすでに、「絶対女王」らしからぬ受け身に回った戦略発想に映りました。

いっぽうの松山大は、インカレ入賞者の松田杏奈(4年)、古谷奏(2年)、岡田佳子(1年)、三島美咲(4年)といった面々が入りきらないほどの恐るべき選手層。中でも、インカレ5000mチャンピオンの中原海鈴(4年)の充実ぶりは著しく、タカミサワから受けるタスキをタカミザワにトップで託すのは濃厚と思われ、立命館のこの区間がインカレ20位の関紅葉(2年)では、少し荷が重いと言わざるを得ません。

昨年まで無敵の5連覇を築いてきた立命館。それ以前からも、2003年に初優勝して以来、2位より下になったことが一度もないという強さは、まさに「絶対女王」の名に恥じるところがありません。
しかしながら、「盛者必衰」は世の理…とはいえ、連覇の終焉が「最強世代」と言われた菅野、大森らの最終学年の時にやって来たのは、皮肉なものです。

思えばこの学年の快進撃は、2011年の都道府県対抗全国女子駅伝の時に、すでにその予兆を見せていました。アンカー福士加代子の快走などで優勝した京都チームの5区・6区・7区を畳みかけるような3連続区間賞でつないだのが、当時立命館宇治高校1年生だった牧恵里奈、菅野七虹、池内綾乃の3人。立命館宇治は彼女らが3年生となった2012年の全国高校駅伝で念願の優勝を果たし、その主力メンバーだった菅野、池内、青木奈波、廣田麻衣らが、大阪薫英女学院の大森などとともに、そのまま即戦力として立命館大3連覇(2013年)の中核となっていったのです。

菅野らを擁して立命館宇治高が優勝した2012年の高校駅伝の1区を改めて見てみると、こんなメンバーが出ていたことが分かります。
 区間1位 由水沙季(筑紫女学園)→ユニバーサル
2位 大森菜月(大阪薫英女学院)→立命館大
3位 川内理江(興譲館)→大塚製薬
4位 西澤果穂(青森山田)→第一生命(引退?)
5位 岩出玲亜(豊川)→ノーリツ
6位 谷萩史歩(八王子)→大東文化大3年
7位 菅野七虹(立命館宇治)→立命館大
8位 中原海鈴(神村学園)→松山大
9位 伊坂菜生(茨城キリスト)→日立
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14位 出水田眞紀(白鳳女)→立教大
15位 湯沢ほのか(長野東)→名城大
22位 木村芙有加(山形城北)→大東文化大
1区以外では、2区37位と沈んだ高見澤安珠(津商→松山大3年)、3区19位の上原明悠美(白鳳女→松山大)、無念の途中棄権をしてしまった盛山鈴奈(鳥取中央育英→鹿屋体育大)、藤田理恵(同)の名前も見え、今大会でキーになった選手たちの大部分が、すでに都大路で鎬を削っていたことが伺えます。
女子選手の消長ぶりはなかなか予測がしにくくて、たとえばこの世代の「最強」の一人だった小林美香(須磨学園・4区区間賞)などは、確か立命館に入ったはずですがどこ行っちゃったんだか?…な一方で、結構な人数がそのまま大学各校のキャプテン、エースとして生き残ってきているんですね。
ただその中でも、大学1年時にはおそらく世代のトップを走っていた大森や菅野が期待ほどに成長できず、中原や湯沢、新井沙紀枝(大阪学院大)らに追いつかれ、1学年下の高見澤や関根花観(豊川→日本郵政グループ)、上原美幸(鹿児島女→第一生命)にオリンピック出場を先んじられてしまっている状況があるのも現実です。

とまあ、今回の4年生世代には、私的にはかなりな思い入れがあって、今日の「杜の都」でじっくりと、政権交代の場面を感慨深く見守っていたというわけです。


レースは、「3強」と思われた立命館・松山・大東文化が1区で揃って大コケする波乱のスタート。とはいえ自信満々に先頭を引っ張った菅野の調子はさほど悪かったようには見えず、次々と首位を伺って出てくる他校の選手たちの頭を叩き続けているうちに、自身が疲れてしまった、といった印象です。
大穴の1区区間賞をさらった京産大・橋本奈津に引き離されてからはガス欠となって6位にまで後退したのは計算外とはいえ、それ以上に松山の上原明悠美と大東・瀬川帆夏の大ブレーキは、立命館にとってラッキーな展開と見えました。

2区では、1年生の「富士山駅伝」以来の出場となった池内が菅野と同じような失敗のレース運びで終盤失速し、11人抜きの区間賞で上がって来た松山・緒方美咲に逆転を許してしまった…結果的にはこれが重要な勝負の分かれ目でした。
後半の和田優香里、関、大森がそれなりに好走して2位の座は渡さなかったものの、そこで2つの区間新を含む3連続区間賞を積み上げた松山大の完勝ぶりに、遂に立命館黄金時代は幕引きの時を迎えたわけです。

今回の松山大・躍進の理由に、日本選手権のレース一発でオリンピック代表を射止めた高見澤安珠の存在を挙げる声が大きいようです。しかし、松山の萌芽は3年前に、上原・三島・松田・中原といった当時の1年生を並べたオーダーで3位に食い込んだ時にすでに芽生えており、彼女らの実力と結束力が大森・菅野・池内らの立命館同世代を追い越した結果、と見るのが順当でしょう。むろん、高見澤の存在が上級生の意識に火をつけた効果は、測り知れないものがあったとは思いますが。
いずれにしろ、松山大の強さは「ホンモノ」であり、今回は極めて順当な初優勝という結果だったと言えるでしょう。

敗れた立命館には、「使い捨てのリッツ」という有り難くない異名があります。大物ルーキーを次々と入学させる割には4年間でさほど成長しない、4年生まで活躍したとしてもその先伸び悩む。現在も実業団で故障やスランプに苦しむ小島一恵、藪下明音、津田真衣、池田睦美といったかつてのスター選手の存在が、同時代にしのぎを削った森唯我、西原加純、竹地志帆、前田彩里、桑原彩といった佛教大OGとは対照的で、その悪名を裏書きしています。
もちろん敢えて使い捨てるようなトレーニング方法をとっているとは思いませんが、そろそろそう言われてしまうことの原因を究明し、先の先を見据えた育成法に真剣に取り組んでいかないと、この悪名を雪ぐことはなかなか難しいのではないか、という気がします。
私的には、結果はイマイチながらも4年間ほとんど鳴りを潜めていた池内が今回出場枠に入ってきたことが、一つの光明に感じられました。皆が「大器」と期待する大森や菅野の来年以降の活躍、そして太田や和田、関などのいっそうの飛躍を心から願い、「強いリッツ」がまた戻ってきてくれることを祈っています。

ひとまずは、年末の「全日本大学女子選抜駅伝=富士山女子駅伝」での好レース再演を期待しつつ、今日のところはこのへんで。