その③ 解けた靴紐
注目中の注目は、第2日・最終レース、男子100m決勝。
実は不謹慎にもSNS友達と「3連単予想」をやってました。ちょうど都合よく、当日のN刊スポーツに「馬柱」を模した出走表が載ってたもんですから。
人気は④枠・山縣選手と⑥枠・多田選手に集中。続いて⑤枠・桐生選手の底力への期待が続きます。順当に来ていれば本命だったかもしれない③枠・サニブラウン選手はやや劣勢。
私の予想は、③と⑤は調整に難ありと見て、④-⑥-⑧(山縣-多田-小池)!
……結果、誰も当たらず⑥-⑤-④の特大万馬券あいや万人券となったのはご承知のとおりです。デーデー選手の2着は予測不能ながら、私の見立てはまあまあだったかなと、自画自賛。

この日の放送は、進行がやや押し気味だったらしく、100mがフィニッシュして代表内定者のインタビューが済むと、解説者(高平さん)とともにじっくりレースを振り返る時間がなくなってしまった感じで、番組終了となりました。
見ていた限り、多田選手は実に素晴らしいレースをしたとはいえ、2着確保は間違いないと見えていた山縣選手がデーデー選手に交わされ、さらに後続の塊に飲み込まれかけたのが、私にはどうにも腑に落ちませんでした。そのあたりの状況をもっと知りたいと思っていたところで、一度だけ再生された横からのスロー映像を見て、私は思わず「あっ!」と声を上げてしまいました。

ゴールまで残り10歩ほど(後でビデオ再生して確認)、ということは80メートル付近でしょうか、山縣選手が一瞬腰を落とし、手足の調和を完全に狂わせています。一瞬で立て直したのはさすがですが、これがあって、一時はサニ選手や桐生選手に1メートル以上つけていたリードが見る間に縮まり、ゴールラインでのあの大混戦となっていたのでした。
「つまずいた?…まさかね」と思いながら、続いて再生された正面からのスローを見て二度ビックリ。なんと、そのガクッときた瞬間から、スパイクから白く細長いモノが飛び出して、ヒラヒラと舞っています。
「靴紐が解けたんだ!むしろそれで、よく3着に粘ったもんだなあ…。」
100mで、これほどのビッグイベントの有力選手が、靴紐が解けた状態でラスト20mを走り切ったのは、前代未聞の珍事と言っていいのではないでしょうか。
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このことはTVの生放送中は全く指摘されず、現場のマスコミもほとんど気付いていなかったようで、ようやく翌日になってチラホラと記事になった程度。
何よりも当の山縣自身が一言もそのことに触れず、後に取材されても「影響はなかった」みたいなことをコメントしていたので軽く流されてしまった感がありますけど、いやいやいやいや…!
私みたいな末端の市民ランナーだって、ジョギング中に靴紐が解けたりしたら、走れなくなりますよ。ましてやスピードの限界に挑んでいる最中に、そんなあり得べからざることが起きて、影響がないはずはありません。現に、山縣選手はその瞬間に体勢を崩し、急激に減速してるじゃあありませんか。

当人がそれに触れず、聞かれてもさらりと受け流したのは、理解できます。
だってトップ・スプリンターとしては、実にお恥ずかしい失態ですもの。もしそれで五輪代表を逃していたとしたら、自身は一生後悔するし、「いや靴紐のせいで…」と言ったところで人からは「自業自得」と評価されるしかない、そんな大チョンボですから。

九死に一生を得た山縣選手、これでオリンピック本番では万に一つも、同じチョンボを犯す心配はないでしょう。そのことだけは、万々歳でしたね。



その④ センゴは楽しい
ここのところ、TWOLAPS横田真人氏の活動や情報発信を軸に、中距離界がたいへん賑やかに盛り上がっています。オリンピック選考会ということで言えば、男子の800mも1500mも代表選出は下馬評でもほぼ望み薄の状況ながら、なぜか仲間内で独自の盛り上がりを呈しつつ、白熱の好レースを見せていたのが、面白かったです。
『Track Town JPN』(文化放送Podcast)では、そうした盛り上がりにまつわる、中継映像には映らない裏話をいくつか披露してくれていましたので、ここに簡単にまとめておきましょう。

*なぜ男子1500m予選2組が、いわゆる「死の組」になったのか?…河野匡さん情報によれば、「直前になって“田”の字のつく奴が800一本に絞ることにしたもんで、当初の割り振りが1個ずつずれちゃったんだよ」とのこと。

*その予選、1組の序盤が超スローペースになった瞬間、控えでモニターを見ていた2組の選手全員が、「よっしゃ!」とガッツポーズした。

*1組のタイムが悪かったため、2組は7着まで予選通過の可能性が高まったとは言っても、その順位確保のためには先頭を引っ張りたくないと皆が思っていたところ、高校生の佐藤圭汰選手が果敢にペースを作ってくれた。1着通過の舘澤選手は「高校生に引っ張っていただいた」と敬語になるし、佐藤選手は今や「サンキュー・サトウ」と呼ばれている。決勝でも、サンキュー・サトウは活躍した。

*望み薄でも一応選考会とあって、招集所には予選から独特の張りつめた空気が漂っていた。が、ただ一人ヘラヘラとしてまるで緊張感のない男がいた。他ならぬ、優勝した河村一輝選手である。

*男子1500m決勝。スタート直前から突然の豪雨に見舞われ、客席大移動が始まったため、観客はほとんど誰もスタートを見ていなかった。報道陣も、「この後の男子100m決勝に支障があっては大変」と機材保守に走ったため、ほぼ全員がセンゴを捨てた。その大雨の中、優勝した河村選手がウィニングランを始めたのを、報道陣は呆れて見ていた。日本選手権出場者の中で一番ふざけていたのが河村選手。

その他、細かいヨタ話を含め、パーソナリティの西本武司さん(EKIDEN News主宰・OTT理事)の語り口で大いに脚色されているところもあるでしょうが、捧腹絶倒の一部始終が楽しめます。
 Track Town JPN → https://omny.fm/shows/podcastqr1/playlists/track-town-jpn


大盛り上がりの中距離ブロック、最終日は“田”の字の人こと田母神一喜(阿見AC)と卜部蘭(積水化学)と、800mをTWOLAPS勢がアベック制覇。横田コーチにとっては至福の一日となりました。