その② 男子5000m問題
さて、6月24日の初日・最大の話題は、男子5000mがスタート後の1000m少々からフィニッシュ直前まで、まるっきりレースの状況が中継されなかったという珍事への批判でした。
これについては『Track Town JPN』(文化放送Podcast QR)の中でも笑い話として、ただ本音のところでは「何とかならんかねえ…」といったニュアンスで取り上げられていました。

中継をご覧になっていない方のために簡単に説明しますと、男子5000mがスタートしてすぐ、中継がフィールドの方に切り替わりまして、これはまあいつもの、というかよくあるパターン。ところがちょうど、同時進行していた男子走高跳・女子走幅跳ともに大詰めの局面を迎えていたこともあって、両種目をテレコで切り替えていくばかりでなかなかトラックの実況に戻りません。
「5000はどうなったんだ!?」といいかげん視聴者のイライラが募るうちに、とうとうラスト1周を告げる鐘の音がBGMふうにカラカラカラン♪と聞こえてくる始末。ようやく画面が切り替わった時には、先頭のジャクソン・カベサ(Honda=オープン参加)がゴールする瞬間、ということになったわけです。3番手の遠藤日向選手以降に日本勢が雪崩れ込みますが、こう切り替えられてすぐでは誰が誰やら、咄嗟には判別できません。…

この日のシニア決勝種目は、この3つのほか男子円盤投の計4つだけ。プログラム的には男女100m準決勝がメインイベントの扱いでしたが、男子5000mは何といってもトラック・シニア唯一の決勝種目。しかも出場者全員が13分38秒以内の資格記録を持っているというレベルの高さで、標準記録の突破も十分に期待される注目のレースでした。
そして実際のレース内容も、結果的には実らなかったものの遠藤選手の記録への挑戦と、メイン集団でのスリリングな展開があり、見どころ満載の好レースの末に、松枝博輝(富士通)がWRでの五輪出場権をほぼ確実に射止めた結果となったのです。
NHKが“お詫び”のつもりかどうか、HPにフルサイズの動画をアップしていますので、いちおうリンクを貼っておきましょう。(そのうち削除されると思いますが)
https://sports.nhk.or.jp/olympic/video/e7d144eef2b64c8c953db3dcc1d291a5/



なぜこの“事件”が起こったのかについて、『Track Town JPN』では主にプログラムの組み方と中継技術の面から語っていました。特にU-20選手権を併催したことの皺寄せは大きく影響したでしょうし、また分割画面での中継や、NHKなんだからサブチャンネルを使って両方見せれば、などの意見もあると思いますが、技術面や費用面を考えると難しいかも。
放送開始に先立って行われていたライブ配信でも、「メインチャンネル」と「フィールドチャンネル」の2本立てにしておきながら、レース後の選手の表情などよりも記録画面を長々と映したり、頻繁に挟まれる表彰式の映像にイライラしたりと、それでも5年前のライブ中継に比べたら格段の進歩ではありますが、課題は山積といったところでした。
少し話は逸れますが、TV放送の開始とともにライブ配信が打ち切られるのが通例になっているのは、局側の要望ということなんでしょうが視聴者ファーストではありませんね。こういう時のために、またTVが視られない状況にある人のためにも、残しておくべきではないでしょうか。5年前の日本選手権でも、ちょうどTV開始と同時にスタートした女子10000mが、スタジオ・トークによる長い前フリのために全く画面に映らず、ライブ配信も打ち切り済み。ようやく映った時には先頭集団が3人になっていた、なんてことがありましたっけ。

さて、私が思うにこの「5000m問題」の根本にあるのは、「どうせ長距離種目は視聴者が途中で飽きるから、スタートとゴールだけ見せときゃいい」という、昔から陸上競技の中継放送制作者に根を張っている誤った考え方です。
ご存じのように、『世界陸上』(まず、この略し方がキライ)を独占放送する某民放が、長距離を放送する時には必ず2回以上のCMを平気で挿入します。3000mSCの場合8~9分のレースのうち、4分間がCMです。同局が最初に中継した1997年の世界選手権では、10000mのレース中に90秒CMをなんと5回もぶっこみました。今でも120秒×3回+フィールド挿入が普通です。
「長距離種目は視聴者が飽きる」という先入観を持っているのはNHKとて同じようで、必ずと言っていいほどにフィールド種目の状況が途中挿入されます。
こちらからしてみたら、まあフィールドも気にはなるけど必ずしもリアルタイムである必要はない。それより間を少しでもカットされたら、長距離走の魅力は半減してしまうよ、と言いたい。ここに陸上を愛する視聴者との大きな乖離が生じてしまうのです。
幸い今年は男女10000mのみ別開催となってノーカット版を堪能できましたが、誰か見てて飽きましたか?

スポーツ中継放送にも台本(もしくは簡略化した進行表)というものがあり、たとえばこのタイミングでこの告知をしなければならないとか、競技進行上ここでトラックとフィールドを切り替えてとかの放送予定を決めておかないと、映像と字幕の切り替え、アナウンサーの喋り、VTR挿入といった進行の流れを各スタッフが共有することができません。今回の“事件”は、当然のように5000m序盤を過ぎたらいったんフィールドへ、という台本があったはずです。そうしたら思いがけずも両種目が佳境に入ってしまったため、戻すに戻せなくなった、というところでしょう。
ここの匙加減はディレクター氏の判断によるもので、残念ながら当該ディレクターさんは陸上ファンの気持が分かってなかった、ということになります。

今回の“悲劇”を繰り返さないためには、放送スタッフ(特にディレクター職)が経験を積んで、視聴者の気持を理解した番組構成(台本作り)と現場判断をしていくことが必要です。
ただ、陸上競技の中継というのは非常に現場数が少ない(NHKの場合で織田記念、日本選手権、インターハイ、国体の4大会のみ。それも開催地により現地局の人材が投入されるのだとすれば、経験値はより分散される)ため、その場数がなかなかこなせない。特にディレクター職という立場は組織内の役職が昇進するとすぐにプロデューサー職や他の部署に代わってしまうので、熟練者が育ちにくいというジレンマがあります。(むしろ下請けの制作会社などが行っている場合はスポーツ競技ごとにベテラン・ディレクターが育つ環境となる)
放送スタッフの中では最も経験豊富で競技に精通しているのが、アナウンサー職のベテランですから、そうした方々の意見を十分に参考に、今後の改善を図っていただきたいと思います。
私たちは、熱い競技内容とともに、それを熱く伝えてくれる中継番組を視たい!…ただそれだけであります。

今回も長くなりましたので、「その③」は引き続きということで。