20210606

いやー、凄いですね、陸上界。日本国内も、世界も。
このご時世下、「オリンピックやるの?やらないの?」といたたまれない不安に揺れるスポーツの 世界にあって、客観的に見ても陸上界のムーヴメントは際立っているように見えます。
こんなに不安定で、練習環境も試合も満足に提供されない時間が1年以上も続いているというのに、当事者たちのこの頑張り、闘争心はいったいどこから来るんでしょうか?…。
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先だっての日曜日。諸事情もあって、日本GPシリーズの2大会が新潟と鳥取で同日開催、さらに平塚では個人インカレの最終日までが重なって、陸上ファンは情報の洪水にもうパニック状態でしたね。
朝から私のパソコンとスマホは各大会の生配信とともに、TwitterやYahoo!ニュース・サイトをフル稼働させて、次々入るニュースを消化するのに大わらわでした。

「寺田、またまた予選から12秒台!」
「福島、日本選手権申込記録を突破!」
「山縣、標準突破の10秒01!」
「桐生も追参ながら10秒01!」
と、午前中から「布施」の予選レースでの快報が続々と入ってきます。この時点で、「布施」のライブ配信(Hulu)を視聴することができなかった私は、おまけに「布施」のHPにある「リザルト速報」のページがいつまで経っても(いま現在もなお)「只今準備中」のため、頼みとするのはTwitterからの情報だけです。

昼にさしかかってくると、
「大阪体育大の武本紗栄が、やり投日本歴代4位の62m39!」(平塚)
「堤、今季初の60mオーバー!」
「橋岡、2回目に公認8m23!」(以上デンカ)
と、フィールド競技も負けじと好記録ラッシュの盛況。
本来ならフィールドがメインながらデンカのライブ配信をじっくり見ていたいところですが、Twitterチェックが忙し過ぎて、こちらは文字通りの「速報」を載せてくれるデンカのHPと平塚のライブ配信を併走中。あとついでに、競泳JAPAN OPENの予選の動向も。

「源裕貴(環太平洋大)1分46秒50!」(デンカ)
「青木益未が12秒87日本タイ!」(布施)
え、なんと寺田負けた?

そうこうするうち、いよいよ布施の男子100m決勝の時刻が迫ります。
「今日の山縣はきっとやる。背に腹は代えられない」
とばかりに急遽Huluに1か月無料登録を敢行。(と書くといかにも大仰ですけど、私、少々有料動画サイト登録過多なもんで、Hulu加入はこれまで控えていたのです)
生視聴態勢を整えると、PCをフル画面にして「その時」を待ちます。
この配信は、関東では視聴できない北日本放送による中継とリンクしていたんでしょうか、A決勝にはちゃんとした実況と朝原さんの解説までついて、さすがYouTubeの垂れ流し中継とは一線を画した立派なものでした。
願わくば画面にタイマーを表示してほしかったところですが、山縣選手フィニッシュとともに
「おおーっ、9秒97!!」(速報)
とアナ氏が絶叫してくれたために、十分リアルタイムの興奮を味わうことができました。いやあ、ヨカッタヨカッタ!(ちなみに私の手動計時は、ちょっと失敗して10秒00でした)

それにしても…
オリンピックまで7週間と、いよいよ秒読みに入ったこの時点で、陸上界の盛り上がりぶりは何とした事でしょう。
やはり先週末に開催されていた競泳の「JAPAN OPEN 50m」が、代表選手に強化練習中の疲労が溜まる中だったとはいえ記録的に低調に終わったのと比べると、「陸上、どうしちゃったの?」と嬉しい疑問符を投げかけざるを得ません。(長年世界のトップクラスにいる競泳と比べるのは、あんまり意味ないんですけどね)
これは世界的に見ても同様で、競泳界ではさして驚くような記録の話題が聞こえてこないのに対して、陸上では
「34歳のシェリー・アンが100mで歴代2位!」
とか、女子10000mでは立て続けに、新谷仁美が周回遅れにされてしまうような世界新記録のニュースとか、威勢のいい話題が次々と飛び込んできます。

今年に入ってから樹立された日本記録を並べてみると、
 2/28 男子マラソン 鈴木 健吾 2:04’56"
 4/29 女子100mH 寺田 明日香 12"96
 4/29 男子110mH 金井 大旺 13”16
 5/1 混合4×400mR 日 本 3’18”76
 5/9 男子3000mSC 三浦 龍司 8’17”46
 5/23 女子七種競技 山﨑 有紀 5975pt.
 5/30 男子1500m 荒井 七海 3’37”05
 6/1 女子100mH 寺田 明日香 12”87
 6/1 混合4×400mR 日本選抜 3’16”67
 6/6 女子100mH 青木 益未 12”87
 6/6 男子100m 山縣 亮太 9”95


これに、昨年1年間の分を付け加えますと、
 3/1 男子マラソン 大迫 傑 2:05'29"
 3/8 女子マラソン 一山 真緒 2:20'29"
※女子単独レース

 3/27 男子円盤投 堤 雄司 62m59
 8/23 女子1500m 田中 希実 4’05”27
12/4 女子10000m 新谷 仁美 30’20”44
12/4 男子10000m 相澤 晃 27'18"75

と、トータルで実に13種目・17回に及びます。あくまでもオリンピック実施種目に限ってのことで、男女のハーフマラソンや田中希実選手の3000mなどは含めていません。

ちなみに2016年のリオデジャネイロ五輪の前はどうだったかといいますと…
男子5000m、10000m、20㎞W(世界記録)、砲丸投、女子4×400mRでそれぞれ前年の2015年に記録され、オリンピック・イヤーでの日本記録更新は、女子200mの福島千里、そして大会本番中の男子4×100mRのみでした。
また本来であれば東京五輪前年となるはずだった2019年には、男子100m、110mH、4×100mR、50㎞W、走高跳、走幅跳、女子20kmW、円盤投、やり投と9種目で日本新記録が生まれています。リオ前年の2015年を軽く上回っている上に、内容的にも多くは10年ぶり以上となる歴史的な更新であり、また多くが世界トップリストに名を連ねるハイレベルなものばかりでした。
総括すれば、この3年間で全48種目中実に20種目で日本記録が更新されているという、日本の陸上競技史上類を見ない躍進が、しかもこの困難な情勢下で達成されている、ということになります。

もはや、どう落ち着くにせよ東京オリンピックが健全な形で開催されることにはなりません。たとえ当初の予定通りのスケジュールで競技が実施されるとしても、自ら大会を回避する選手や記録を作る機会に恵まれず断念する選手などが、かなりの人数に及ぶことになるでしょう。大観衆・大声援のもとで、オリンピックならではの名勝負が演出され祝福されることも叶いません。
けれども、己のなすべきことだけを念じて競技に打ち込み、苦難を克服して結果を出してゆくアスリートたちの強い信念には、ただただ敬服するばかりです。それらを見つめるだけでも、五輪は私にとって素晴らしいスポーツの祭典となるはずです。
楽しみだ、などと言うには申し訳ない。心して、この先の日本選手権、オリンピックを見守っていきたいと思っています。