更新をサボってる間にすっかり夏になりました。(今日は台風の影響で肌寒い一日ですけど)
そうこうするうちに日本選手権も、同時期に全米ほか世界各国で開催されていた国内選手権も終わり、いつもなら詳細なレポートを書いているのにと忸怩たる思いです。第1戦・網走大会が行われた『ホクレン・ディスタンスチャレンジ2018』の模様なども書きたいところですが…。
『IAAFダイヤモンドリーグ』も、折り返しを過ぎて第8戦のローザンヌ大会までが終ったところです。今回は、そのDLの話題を中心に、今年の陸上界・国際情勢について簡単にまとめてお茶を濁したいと思います。

◇驚異のニューカマー:男子400mH・A.サンバ
まず、今季最も陸上界を席巻している存在として、男子400mHのアブデルラーマン・サンバ(QAT)を挙げておきましょう。
DL第1戦のドーハ大会を47秒57のPBで勝った時には「地元の利か」程度に受け止めていたのですが、その後の快進撃についてはご承知のとおりです。6月30日のパリ大会では、とうとう世界で2人目となる46秒台の世界へと突入してしまいました。
今年はDLの前半戦にこの種目が連続して組み込まれており、昨日のローザンヌ大会までに6戦を消化してあとはファイナルを残すのみとなっています。全戦に出場したサンバは、全勝で48ポイントを獲得。
※今季のDLは昨年と同様、各種目4~6戦の合計ポイント上位8名または12名がチューリッヒまたはブリュッセルで行われる「ファイナル」に進出し、そこでの優勝者が年間ツアー・チャンピオンとなります。

サンバの強烈な台頭の影響をモロに被ったのが、昨年躍進して世界王者にまで上り詰めたK.ワルホルム(NOR)。全6戦中、5回まで直接対決してそのたびに直線でサンバに水を空けられるという屈辱の連続で、自身もPBを47秒41にまで上げながら、今のところまったく歯が立ちません。
この他ではY.コペリョ(TUR)が3位の常連ながら記録は48秒台と、サンバ・ワルホルムにはちょっと差を付けられています。パリ大会でワルホルムに先着したK.マクマスター(IVB)は次のローザンヌで故障発生でした。K.クレメント、B.ジャクソン(ともにUSA)といった過去のスターたちは、外側のレーンに追いやられる存在となってしまっています。

さて、サンバ一色に塗り潰されているかのように見える男子ヨンパーですが、実は今季の世界ランク2位にいるのがライ・ベンジャミン(ANT)という選手。6月8日にマークしたタイムは何と47秒02!サンバとは0.04秒の差しかありません。
南カリフォルニア大学の学生ベンジャミンは、パリ大会で初めてDLに参戦しましたがこの時の種目は200m、しかもポイント対象外レース。ここで19秒99といきなりPBを大幅に破り、続くローザンヌでも4位に食い込んで初ポイントをゲット、只者ではない存在感を示しました。
いまだ400mHでのDL出場はなく、したがってファイナルの出場権もありませんので、サンバとの直接対決は来年まで見られそうにありません。今年は世界大会がないのが、何とも残念!せいぜい、来月のアジア大会でサンバの雄姿を堪能しようと思います。
来年の世界選手権では、この22歳と20歳(現在)の超新星どうしの、“世紀の対決”が見られることを楽しみにしましょう。もちろん、サンバと同じ22歳のワルホルムの巻き返しにも期待です。

◇“ネクスト・ボルト”は誰だ??
昨年引退したウサイン・ボルト(JAM)に代わる男子スプリント界のニュー・ヒーローとして、その候補者が続々と名乗りを挙げています。
その筆頭は、2年前のU-20世界選手権100m優勝のノア・ライルズ(USA)。200mで2度にわたり19秒69、100mでも全米選手権で9秒88と、いずれもWLタイ記録です。
対抗するのが、100mではDL2戦2勝のロニー・ベイカー(USA)。パリ大会ではライルズに並ぶWLの9秒88で走り、対象外レースのユージーン大会では追風参考(+2.4)で9秒78。
200mでは先に紹介したベンジャミンの同僚、マイケル・ノーマン(USA)、こちらは2016年U-20の200m優勝者ですが、パリ大会(対象外)に19秒84(-0.6)のPBで鮮烈なDLデビューを果たしました。
ただ、ベイカーは全米で、ノーマンはDLローザンヌでライルズの後塵を拝しており、今のところ“ネクスト・ボルト争い”はライルズが一歩リードの感ありです。

スプリント界で特筆すべきは、日本短距離界最大のライバル、中国勢の大躍進です。
スー・ビンチャンが2度にわたって9秒91のアジア・タイ記録を叩き出しただけでなく、シェ・チェンイェも9秒97、200mではGG大阪で20秒16を出して日本勢を圧倒しました。
スーはもはや、「9秒台」に浮かれる日本スプリント界を差し置いて一段上のステージに上がってしまった感じですし、シェの200mでの強さはリレーを考えた場合の脅威です。アジア大会の両種目では大きな壁となって立ちはだかるだけでなく、もう2枚、駒が揃ってくると400mリレーも安泰とは言えなくなってくるかもしれません。


◇女子短距離は戦国時代か?

男子の短距離は新旧交代真っ最中の混沌状態ですが、一方の女子はというと、去年までの“女王”に精彩がなく、下剋上の戦乱模様といった様相です。
本来「2強」的存在だったエレイン・トンプソン(JAM)、ダフネ・スキッパーズ(NDL)ともに元気なく、代わってシーズン序盤の主導権を握ったのがマリー・ジョゼ・タルーとミュリエル・アウレのコートジボアール・コンビでした。特に昨年まで4、5番手の位置にいたタルーは100、200ともに安定したパフォーマンスで勝利を重ね、今季の“女王”と呼べる存在に近づきつつあります。
ただ、ここへ来てディナ・アッシャー-スミス(GBR)が調子を上げてストックホルムではDL初勝利を挙げ、タイムも10秒92でランキング5位と、トップを伺う勢い。またDL未参戦ながら全米を制したアライア・ホッブス(USA)が10秒90を筆頭に10秒台を7回もマーク、これも不調のトリ・ボウイに代わるアメリカのエースとして台頭してきています。

全般的に、今季の女子短距離は主役不在の戦国時代に入っているようです。

ロング・スプリントの方では、これまた主役を演じるはずのショーナ・ミラー-ウィボ(BAH)が200、400ともに1回ずつしかDL出場がなく(いずれも優勝)、400mではそのミラーがゴール前に急失速して波乱となったロンドン世界選手権で2位に飛び込んできたサルワ・エイド・ナセル(BRN)がDLで連戦連勝。ロンドンで金メダルに輝いたフィリス・フランシス(USA)をまったく寄せ付けない強さを発揮しています。
男子400mHのサンバとともに、アジア勢としては今季最も注目されている新星ということになります。

◇男子LJにも超新星現る!
昨年の世界選手権で男子走幅跳チャンピオンに躍り出たルヴォ・マニョンガ(RSA)。今季も8m56、8m58とハイレベルな記録でDLを連勝し、いよいよマニョンガ時代の到来かと思わせていた矢先、ローマ大会でそのマニョンガに5㎝差に迫ったファン・ミゲル・エチェヴァリア(CUB)が、ストックホルム大会で+2.1mの追風参考ながら8m83の大記録でマニョンガを破って優勝、一気に主役の座を奪ってしまいました。
さらにエチェバリアは、ストックホルムの3日後にはチェコで8m60(+1.0)、30日にはドイツで8m68(+1.7)と相次いでPBを更新。1か月後にようやく20歳となる若者が、かつて1990年代に世界記録を脅かし続けたイヴァン・ペドロソ(CUB)の再来と言われるまでの存在になりました。
遂に、積年の夢であった「9m」への扉が開かれる時が近いのか…久しく低レベルな優勝争いが続いてきた男子走幅跳ですが、今やまったく目が離せない大注目種目です。

(つづく)



ーー2018IAAFダイヤモンドリーグ日程ーー

 5/4 ドーハ大会「ドーハ・ダイヤモンドリーグ」 (QAT)
 5/12 上海大会 (CHN)
 5/25-26 ユージーン大会「プレフォンテイン・クラシック」 (USA)
 5/31 ローマ大会「ゴールデン・ガラ ピエトロ・メンネア記念」(ITA)
 6/7 オスロ大会「ビスレット・ゲームズ」 (NOR)
 6/10 ストックホルム大会「バウハウス・ガラン」 (SWE)
 6/30 パリ大会「ミーティング・ド・パリ」 (FRA)
 7/5 ローザンヌ大会「アスレティシマ」 (SUI)
 7/13 ラバト大会「モハメド4世記念陸上」 (MAR)
 7/19 モナコ大会「ヘラクレス」 (MON)
 7/21-22 ロンドン大会「ミュラー・アニバーサリー」 (GBR)
 8/18 バーミンガム大会「ミュラー・グランプリ」 (GBR)
 8/29 チューリッヒ大会「ヴェルトクラッセ・チューリッヒ」 (SUI)
 8/30 ブリュッセル大会「AGヴァン-ダム記念」 (BEL)