いよいよ2年に1度のお祭り、『第17回IAAF世界陸上競技選手権』が開幕します。
前回ロンドン大会の展望記事を読み返してみますと、「全体的に混戦模様」としながらも6人の“絶対王者”、ほか数名の有力候補の名前を挙げていたことが思い出されました。
今年はどうでしょう?
混戦ぶりは、2年前の比ではありません。どの種目も、優勝者を予測することが極めて困難で、誰に本命印を打ってよいものやらサッパリ…。
私がある程度自信をもって◎印を付けられるのは、男子では200mのノア・ライルズ(USA)くらいのものでしょう。
女子では、走高跳のマリア・ラシツケネ(ANA)だけでしょうか。それも、前回ほどの圧倒的存在、単勝100円元返し、というほどではありません。
女子ではもう1人、200mのショーナ・ミラー-ウィボ(BAH)が大本命と思っていましたが、意外なことにミラーは本来の専門種目である400mに専念、200にはエントリーしませんでした。“本業”の方ではサルワ・イード・ナセル(BRN)の成長が目覚ましく、アミナトウ・セイニ(NIG)という新星も現れて、ミラーと言えども安泰ではないのですが…。
その他の種目に関しては、「2強」「3強」といった図式も一部あるものの、多くが混沌としています。それも、決して記録的に低調というわけではない混戦種目も多く、つまり今回の世界選手権は、まことにスリリングな好勝負が満載、という楽しみな大会となりそうなのです。
今回の記事では、大会序盤の注目種目を中心に、見どころをご紹介していきたいと思います。
◇男女100mは復活のベテランが「台風の目」
ボルトがいなくなってから初めての世界大会となる今回、男子100mでお騒がせの中心となったクリスチャン・コールマン(USA)が無事出場できることになり、本調子であれば頭一つ抜けた存在となることは間違いありません。
最大の強敵と目されたノア・ライルズ(USA)が200m1本に絞り、“分業体制”が確立したところで、ヨハン・ブレイク(JAM)、アンドレ・ドグラス(CAN)、ディヴァイン・オドゥドゥル(NGR)といったポスト・ボルト候補生たちも意外に上がって来ない。むしろ、スー・ビンチャン、シェ・チェンイエの中国勢や我がサニブラウン・ハキーム以下の日本勢に追い立てられる趨勢では、コールマン大本命は揺るぎそうもありません。
ただ不気味なのが、もはや“老境”に差し掛かったかと見えていたジャスティン・ガトリン(USA)のローザンヌおよびモナコでの復活劇。その後故障を発症したとの情報もありますが、軽度であれば前回大会同様、あっと言わせる逆転劇があるかもしれません。
コールマン自身が騒動の影響で調整を狂わせているという事態も十分考えられるだけに、果たしてネクスト・ボルトの座は誰が射止めるのか、予断を許さない状況ですね。
なお、アメリカはライルズが200mに専念するとともに、そのライルズに昨年来200mで唯一土を付けたマイケル・ノーマンは400mに集中。着実に短距離完全制覇を目論んでいます。
女子の方はというと、リオ以降「2強」を形成するかと思われたエレイン・トンプソン(JAM)とダフネ・スキッパーズ(NED)が揃ってスランプに陥り、ここしばらくは女王不在の様相が続いたところへ、ようやく一歩抜け出したかに見えていたのがディーナ・アッシャー-スミス(GBR)の台頭。
ところがそのアッシャー-スミスも、今季産休からの復活を遂げたシェリー-アン・フレイザー-プライス
(JAM)の前には手もなくヒネられ、改めてこの偉大な女王の実力を思い知らされました。
現状、本命を打つとするならこのフレイザー。対抗は今季WLの10秒73を記録するなどようやく復調途上に乗って来たトンプソン。新旧ジャマイカ女王対決です。昨年この種目をリードしたマリージョゼ・タルー(CIV)や、前回覇者のトリ・ボウイ(USA)らが今季の勢いでは少々足りないか、というところでしょう。

◇名勝負を期待、男子400mH
昨シーズン、圧倒的な強さでDLポイント・レースを全勝し、しかもアジア大会出場のためにファイナルを放棄したアブデルラーマン・サンバ(QAT)が、今季はどういうわけか控え目です。
代わって、そのサンバに世界王者のプライドをズタズタにされたカルステン・ワルホルム(NOR)が絶好調。その走りは「打倒サンバ」の一念に燃える激しいトレーニングの成果を感じさせる素晴らしいもので、DLファイナルではとうとう、記録の上ではサンバを追い越してみせました。
その時のワルホルムに食らいつき、同時に2人が46秒台を記録する史上初めてのレースを繰り広げたライ・ベンジャミン(USA)も、レース数は少ないながらも実力はホンモノ。
2人が追い求める存在のサンバは、今季はせっせと400のフラットレースに精を出し、決してどこか体調が悪いとかではないようなのですが、この種目に関しては様子見を続けています。何と言っても地元開催のこの大会では別格の英雄でしょうから、万全を期してのプランであることは確かでしょう。
サンバかワルホルムか、ベンジャミンか…今大会、最高のビッグ・レースに、日本勢が出場する予選からテンション全開で注目しましょう。
◇出るか夢の9メートル?
突然、「跳躍ニッポン」の話題が花盛りとなった今シーズン。世界ランキング1位に君臨する戸邉直人やDLファイナルを戦った山本聖途などに負けじと名乗りを上げた「走幅跳・花の日本新トリオ」城山正太郎、橋岡優輝、津波響樹。(津波は2センチ足りませんが、オマケで…本番で破ってください)
俄かにメダルも射程内に入ってきたと賑やかな話題の男子走幅跳ですが、本当の注目はこの人、ファン・ミゲル・エチェヴァリア(CUB)でしょう。
2年前から絶対王者の座を築くかに見えたルボ・マニョンガ(RSA)からあっさりと主役の座を奪い取った、異次元のスカイハイ・ロングジャンパー。技術も助走も粗削りで、絶対的な本命に推すことは躊躇われます。それだけにドンピシャに嵌った時の空中遊泳は、他の追随を許さないものがあります。
かつてメキシコシティでボブ・ビーモン(USA)が見せた衝撃を、またルイスとパウエルが9mラインで繰り広げた東京の死闘を、長い時を経てまた見てみたいものです。
◇日本男子3人目の金メダリスト誕生なるか?
過去16回の世界選手権で、金メダルに輝いた日本人選手はマラソンの谷口浩美(91年東京)とハンマー投の室伏広治(11年テグ)の2人だけ。「3人目」の期待が集まるのが、男子50㎞と20㎞の強力な競歩チームです。
大会2日目の深夜(日本時間5時30分)に男女同時スタートする50㎞は、今や日本にメダルをもたらすドル箱種目。今回最大のホープは、20㎞の世界記録保持者にして長い故障から復帰を遂げた鈴木雄介です。これまでのメダリストたちを抑えてともに代表の座を勝ちとった勝木隼人、野田明宏にも期待がかかります。
なにしろ50㎞。調子に乗れば圧倒的に速いヨハン・ディニ(FRA)や勝負に強いマティ・トス(SBK)、誰が誰やらよう分からん中国勢(向こうも日本勢をそう思ってるでしょうが)など、ひしめき合う強敵の中で、誰がトップ・コンディションでレースに臨むのか、誰が勝つレースに一番ハマるのかで、勝負の帰趨はまったく変わってくるでしょう。その中で、「どの選手が暑さに強いかは分からないから、あくまでも自分のペースで行くのみ」と不動の姿勢を吐露する鈴木の事前コメントが何とも頼もしく感じます。
今回はMGCの影響もあり、女子マラソンは何となく盛り上がりませんが、早朝の興奮は、ぜひとも競歩で味わいたいものだと思っています。










