◇「ボンバイエって何ですか?」
ううむ、増田さん、たぶん知ってて聞いたと思うんだけど、新夕アナは
「みんなで頑張ろうとか、そーゆーことです」
なんて、的確に説明できてなかったですね。
唐突に「ボンバイエ駅伝」なる珍妙なネーミングが紹介されたのはレース終盤、パナソニックが2連覇をほぼ確定させた状況でのことでした。命名者の安養寺監督は、「原晋監督の路線じゃないか?」との記者のツッコミに「真似をしているわけではない」とはぐらかしたようですが、多分に意識してないとこんな表現は出てこないですよね?
「ボンバイエ=Bom-ba-ye」とは、アフリカの言語(リンガラ語)で「やっちまえ!」「ぶっ殺せ!」くらいの意味。つまり、昔懐かしい近鉄バファローズ・「いてまえ打線」を「ボンバイエ打線」と言い換えるならまだしも、駅伝に応用するには少々不穏なニュアンスのフレーズですね。(別に語学に詳しいわけではないので、正確かどうか分かりません)
「20世紀最高のアスリート」と評されるプロボクサー:モハメド・アリが1974年に時の世界ヘビー級王者ジョージ・フォアマンをKOして「キンシャサの奇跡」と言われた王座復帰を果たした時、会場となったザイール(現コンゴ民主共和国)のキンシャサ屋外特設リングに響き渡ったのが、「Ali,bomba-ye!」のシュプレヒコール。これをそのまま音源にして自伝的映画の挿入曲に仕立てたものを、アリが後に異種格闘技戦(1976年6月)で対戦したアントニオ猪木にプレゼント、冒頭のシュプレヒコール部分が「猪木、ボンバイエ!」とアレンジされて、あまりにも有名な猪木のテーマミュージック『炎のファイター』となりました。(初めの頃は「ボンバイエ」という言葉が分からず、「猪木、ガンバレ!」と聞こえていた人が大部分でした。関係ないけど、レコードのB面は倍賞美津子とのデュエット曲)
…という、オールド・プロレス&ボクシング・ファンにしか伝わらない意味を持つ言葉を、女子駅伝チームのキャッチフレースにするというのは…センスがいいんだかダサいんだか、微妙なところですな。
それにしても、“細か情報”を何気にスルーし続ける新夕アナに、ささやかな仕返しを試みたのか増田さん、この二人のコンビネーションは何ともチグハグです。

◇上位チーム寸評
と、そんなことがいちばん印象に残ってしまった今回の『全日本実業団対抗女子駅伝』。
昨年1位となったユニバーサルエンターテインメントのドーピング失格事件、予選会でのリタイア寸前の選手を巡る運営騒動と、芳しくない話題が先行する中、戦前に「3強」と位置付けられたパナソニック、ダイハツ、日本郵政G.を中心に熱戦が繰り広げられました。
上位3チームは、まずまず順当なところ。
パナソニックは「3本柱」がいずれも2年連続区間賞と、しっかり実力を発揮して盤石の優勝。
昨年に比べると区間によってややバラつきが目立ち、「層の厚さはピカイチ」とか「どこをとっても隙のない強力チーム」といった評価は下し切れないところがありますが、キャプテン内藤を含めた主力選手が(森田詩織を除き)いずれも順調にシーズンを推移したことが、今回の安定感につながりました。
若いチームだけにしばらくは優勝候補の一角を占め続けそうですが、逆に、それなら補強は要らないね、ということになりそうな気もします。大所帯の維持が許されるチーム事情ではなさそうなので、そのあたりが痛し痒しというところでしょうか。
天満屋には日刊スポーツの展望記事でかなりの高評価がつけられていたので、注目していました。なるほどエース2人が確実に仕事を果たすし3番手以下の選手もよく成長してるし、結果的には穴となる区間のない、最も堅実な成績となりました。特に、前田穂南の成長ぶりは著しく、もはや全盛期の重友梨佐に取って代わる大黒柱と言っていいでしょう。
ダイハツは“大砲”前田彩里の欠場という大きなハンディがありながら、その分を大森菜月の復調がカバーして昨年に続くベスト3。ここも全員が区間ひとケタ順位と粒を揃えての好成績です。松田・𠮷本・大森が計算できる存在に並んでいますから、ここに前田や久馬姉妹あたりが戻って来ると、来年はいよいよ大本命になるかもしれません。
ひと頃に比べて戦力ダウンの感を免れなかったヤマダ電機は、そこから更に西原加純が抜けて苦戦は必至かと思われましたが、サブリーダー格の筒井・石井が踏ん張り、アンカー市川珠李が殊勲の区間賞で、4位は予想外の上出来でしょう。(もっとも西原はこの駅伝で好走したためしがありませんけどね)
予選会トップのワコールも、天満屋とよく似たタイプのチームにまとまってきました。福士おばさんはまだまだ一級品の力を残していますし、充実著しい若手の中から、激しい5位争いを制した立役者に長谷川詩乃が名乗り出たのは、今後に向けて大きい。
私が過去数年間“優勝候補”に推していた豊田自動織機は、エースの福田有以が使えず、藪下・菅野の立命館コンビも調子が上がらない中、2区・山本菜緒が区間賞、6区・前田梨乃が区間3位と、“補欠組”が気を吐いて好位を死守しました。エカラレという超級のジョーカーを手に入れたこともあり、今後も目が離せない存在です。
パナ以上に「優勝候補」の呼び声が高かった日本郵政は、鈴木と鍋島を除いては計算外の凡走区間が続いて撃沈。創部3年目で全日本を制したチームだけに、いっそう駅伝の難しさ、摩訶不思議さを痛感していることでしょう。
私は秘かに、「3強+デンソーだ!」と注目しており、序盤はその通りの好ダッシュを見せたものの、森林・矢田の強力ルーキーが今一つ本領を発揮できずにシード圏ギリギリの8位でした。かつてのV3メンバーとは総入れ替えの陣容となり、荘司・池内あたりがリーダー格のフレッシュな顔ぶれは、今後が楽しみです。(私、池内綾乃選手のファンです)
惜しいところで3年連続のシードを逃してしまったのが資生堂。今季初めの記事では「一気に優勝候補」とまで期待していたのですが、高見澤・今村がトラック・シーズンから全く音沙汰なしでは、戦力アップになりませんでした。
“ビジュアル組”の総大将・須永千尋が今回でラストランということで、駅伝では遂にいいところを見せられなかったとはいえ、長年「こんな美人が」走るところを見られるだけでありがたい存在でした。
「来る来る」と思わせながら、なかなか来ないのが積水化学。ここも随分と顔ぶれが変わりましたけど、今回は予選会で佐藤早也伽がブレイクしたりして、毎年ちょっとずつ上昇気配を見せているところが、そう思わせてしまう所以なのでしょう。
大会史に残る不祥事を起こしてしまったユニバーサルは、いつの間にか大エース・木村友香の名前が消えていてまずビックリ。“当事者”の中村萌乃と併せて飛車角が一挙に抜けてしまった戦力では、失地挽回どころかシード権も危ういだろうと言われていた通りになってしまいました。救いは、1区の鷲見が終盤に意地を見せてくれたこと。鷲見がせめて高校時代の爆発力を取り戻し、ここに伊澤や和久、ワンジュグが本来の調子に戻って来れば、まだまだ強豪の一角には復帰できます。
シードの常連だった第一生命G.が、まさかの12位に沈没。1区・嵯峨山が(私、ファンです)途中まで好走しながら終盤大失速したつまづきが尾を引いて、頼みの上原が7ランク・ダウンの不調とあっては前半戦で“タオル投入”の状態でしたね。
山ノ内みなみの加入でシード圏入りが有望視されていた京セラ。1区・盛山が悪くない位置に食い下がって「あるいは?」と思わせたのですが、肝心の山ノ内が上原と同じく7人抜かれの絶不調で万事休す。実力未知数の“中途採用”から突然日本代表にまで躍り出た今年一番の出世頭が、この大事なレースに合わせられなかったのは残念でした。
14位以下のチームについては申し訳ないですが、まあ順当なところに落ち着いたかな、と。
一つ言うなら…私にとって気になるのは、予選会でどうやら脚を傷めてしまったらしい様子がチラリと映っていた横江里沙(大塚製薬)が、やはり姿を見せなかったこと。エントリーはされていましたので、さほど深刻な状況ではなかろうと思いますが、着々と復調途上にあったように見えていましたので、心配です。
同様に、エース区間で鈴木亜由子らと競り合う元気な走りを見せていたのに、突然消えてしまった加藤岬(九電工)も心配。今大会は予選会の経緯から、「早めのレフェリー・ストップ」が発動されたのではないかと推察するのですが、故障の状況は不明です。
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◇駅伝日本一決定戦が見たい
今回は、私的ヒイキ筋の横江に加えて、前田彩里(ダイハツ)、西原加純(ヤマダ電機)、菅野七虹(豊田自動織機)、小泉直子(デンソー)、高見澤安珠(資生堂)、木村友香(元ユニバーサル)、宮﨑悠香(九電工)、清水美穂(ホクレン)等々といった有力選手の欠場が目立ちました。
また、これはもともと出場カテゴリにない選手たちなので仕方ないのですが、新谷仁美、田中希実、安藤友香、清田真央、岩出玲亜、高松望ムセンビといったスター選手を見ることが出来ないのも残念なところ。これらの選手の中には、駅伝チームの事情に縛られたくないという意向からあえてクラブチームや一匹狼路線を選択しているケースも多く、それは今後ますます増えていくことが予測されます。
男子をも含め、『実業団駅伝』が“オールスター”“百花繚乱”のイメージから少しずつ後退しつつあることは、否定できません。
選手の体調管理にいっそうの努力と研究を切望するとともに、駅伝が罪悪視されることなくいっそうの盛り上がりを見せるような方策を、考えてもらいたいものです。
TBSが連呼する「駅伝日本一決定戦!」というフレーズも気に入りません。実情はその通りかもしれませんが、やはりファンとしては高校・大学・実業団・クラブチームが一堂に会する真の「日本一決定戦」=『駅伝グランプリ日本選手権』(勝手に命名)というものを、見てみたい気がします。『北九州駅伝』や『十和田八幡平駅伝』、昨年限りで廃止されてしまった『FUKUIスーパーレディス駅伝』などはそういう趣もありますが、シニアと高校とで区間を変えていたり実業団が二軍メンバーで臨んだりと、およそ「駅伝日本一」の大会ではありません。
年末の『全国高校駅伝』、年始の『全日本実業団(男子)駅伝』までが終ったところで、各カテゴリの上位チーム(上位8チームとか)が「チーム日本一の称号」と「高額賞金」を賭けて対決する…そんな大会を、何とか設けられないものでしょうかね?そりゃあ過密な個人レースのスケジュールもありますから、実現が困難なのは百も承知ですけど、『さいたま国際マラソン』みたいな要らないレースをいくつか整理していけば、3月中旬~下旬くらいで十分イケると思うんですが。そうなると、クラブチームだって黙ってないで、チーム編成や個々の強化に本腰入れると思いますよ。あるいは、「既存のチームが1人だけ外部から補強可能」といった特別ルール(ただし社会人・大学生・高校生のカテゴリは侵さない。外国人ランナーは国内居住者のみ)を作るとか。
なんたって、基本的には「駅伝をみんなで走る」って楽しいものですからね。普段は一匹狼でも「それなら出たい」という選手もきっといるはず。
マラソンでオリンピックに出るばかりが長距離ランナーの目標じゃなくていい。「駅伝で日本一」を真剣に目指すチームがあっても、それは長距離界の裾野を拡げることにつながるのではないか、と思います。