豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

2018年01月

「薫女OG」に見る女子長距離界の展望


遅ればせながら…ですが。
『第37回大阪国際女子マラソン』、松田瑞生(ダイハツ)の見事な初陣でした。
私がそれ以上に驚いたのは、『北海道マラソン』優勝がホンモノであったことを証明した前田穂南(天満屋)の走りっぷり。さすが天満屋・武富監督は、マラソンに特化した逸材をきちんと見極め、作ってきますよねえ。
昨年『名古屋ウィメンズ』で衝撃のデビューを飾った安藤友香(スズキ浜松AC)に続いて、ワールドクラスの若手有望選手が今後も次々と現れてくる、そんな楽しい期待を感じてしまう、「大阪薫英女学院OG」二人の活躍だったと思います。

松田選手が全国レベルで名を挙げた最初のレースは、おそらく2015年の『都道府県対抗全国女子駅伝』だったでしょう。
アンカー区間の10㎞のうち5㎞以上を、京都の奥野有紀子とビッシリ肩を並べてトップ争いを繰り広げ、トラック勝負最後の直線で鮮やかに抜け出して大阪を初優勝に導いたレースです。
この大会は、大阪と京都が鍔迫り合いをする間に後方から兵庫(林田みさき)と愛知(鈴木亜由子)がヒタヒタと追い上げ、結果的には4チームが1秒おきにゴールするという史上最高の大激戦でした。


そんな中で優勝をさらった大阪府は、9区間のうち8区間が薫英女学院(中学・高校)の現役またはそのOGという、まさに“オール薫女”チーム。大森菜月(立命館大2→ダイハツ)・嵯峨山佳菜未(高1→第一生命G.)・高松智美ムセンビ(中3→高校3在学中)・高松望ムセンビ(高2→東京陸協)・加賀山実里(高3→立命館大3)・前田梨乃(高2→豊田自動織機)・加賀山恵奈(高3→立命館大3)そして前年に卒業して唯一の実業団ランナーとなっていた松田…当時大学2年の大森が最年長という顔ぶれです。高校生だった5人は、全員が前月の『全国高校駅伝』で初優勝した時のメンバーでした。
ちなみに、松田は1年時から3年連続で『高校駅伝』に出場しており、2年時には2区で区間賞を獲得、トップで次走者(加賀山実里)にタスキを渡しています。
松田の1年後輩になる前田穂南は、『高校駅伝』初優勝時は3年生で補欠。それどころか実に高校3年間、すべて補欠登録されていた日陰の実力者でした。

松田は実業団3年目の2016年に、『全日本実業団選手権』10000mで優勝と初の32分切りを達成してトップランカーへと成長し、昨年の日本選手権優勝、世界選手権出場という大活躍を経て、今回の華々しいマラソン・デビューへと繋げました。まさしく順風満帆な躍進ぶりと言えます。
高校時代に表舞台に立つことのなかった前田(穂)は、天満屋で駅伝レギュラーの地位は確保していますが、北海道で脚光を浴びるまでの2年半は、高校時代同様にこれといった実績はありませんでした。


薫英女学院が高校駅伝界の「強豪」にのし上がってきたのはここ数年のことで、『全国』には2006年以来連続出場、2012年以降は6年連続入賞、そして2014年と16年に優勝を飾っています。初入賞の2012年は大森菜月(当時3年)と松田(2年)が1・2区を2位~1位で快走し最終5位、2014年は前述の5選手で立命館宇治とのマッチレースを制した年でした。
薫英躍進の旗頭であり、卒業後は学生長距離界のヒロインとまで言われた大森菜月は、大学1・2年時の活躍ぶりからするとその後ややスローダウン、実業団ルーキーイヤーの今年度も故障がちで、パッとした成績は残せていません。
2度の優勝の中心メンバーだった嵯峨山佳菜未は、実業団ルーキーの今季は『実業団駅伝』の1区でまずまずの走りを見せたものの、期待ほどの成長ぶりは見られていません。
中学時代からその類まれな素質を嘱望されていた高松ムセンビ姉妹も、ここへ来てやや伸び悩みの気配を伺わせています。


消長が激しい女子の勢力図は、今後どのように変化していくのでしょうか?…これを「薫女」の面々だけにスポットを当てて見ていっても、なかなか面白い相関図を描いていけそうです。

現時点でトップを独走するのは言うまでもなく松田です。ただ、大阪のレースは彼女のポテンシャルを十二分に引き出させる条件に恵まれていたことは、注意しておく必要があります。
何と言っても、『大阪』の陰の功労者は、ハーフまでペースメーカーを務めたイロイズ・ウェリングス(AUS)でした。大阪や名古屋ではお馴染みとなっている、ペースメイクの職人です。
ほぼすべての1㎞ラップを3分25秒の安定したペースで先頭を引っ張り続けたこと、さらにはその直後を任されたケニアのペースメーカーがバテてしまいペースダウンしかかったところで前田がスピードアップしたことが、特に初マラソンの松田にとっては絶妙の展開となった事実は見逃せません。

そこへ行くと、松田や、本来ならもっと速いペースが望むところながら今回は調整不十分でちょうどいいペースにハマっていた安藤友香らを相手に、「このままでは勝てない」と自らレースを動かしに行った前田穂南の状況判断は見事でした。惜しむらくは、その戦術を支える地力がまだ今一つ足りなかったということでしょう。
在学時代は日陰者だった前田穂南のさらなるジャンプアップには、私は大いに期待します。トラックレースの実績も5000m15分51秒83、10000m32分43秒42とまだまだですが、北海道・大阪ともに、マラソンの距離をトータルに捉えて戦術につなげるクレバーさを発揮していたように思えます。(インタビューを聞いてると、とてもクレバーには見えませんがね…福島千里以上の話下手)
今後、スピードに磨きをかけていくことにより、変幻自在のレース巧者へと成長していく可能性を持っていますね。
従来、トラックの実績はなくともマラソンでトップランナーの地位を築いた山口衛里や松尾和美、坂本直子、森本友、重友梨佐などのランナーを育て上げた天満屋の選手だという点が、この期待をさらに膨らませます。


次に待ち望むのは、「薫女OG」のリーダー格・大森の巻き返しです。リーダーと言ったって、まだ今年で24歳。ここ3シーズンばかりの不振が故障に起因するのだとすれば、潜在能力と「駅伝1区のスペシャリスト」の名にふさわしい勝負師ぶりはピカイチですから、何とか早く立て直して欲しいものだと思います。“ダイハツ再生工場”に期待ですね。(久馬姉妹のようになかなか再生しない選手もいますけど)
そして高松ムセンビ姉妹。妹・智美はゴールデンアスリートの名に賭けても、名城大への進学が噂される今季は大きな勝負の年としなければなりません。NIKEオレゴンプロジェクトへのテスト参加に挫折した姉・望は、実業団チームに加入しての巻き返しが、あるのでしょうか?
実業団2年目となる嵯峨山にも、立命館大の新たな主軸となる加賀山姉妹にも、また「強い方の前田」と言われた前田梨乃にも、奮起を願ってやみません。

もちろん、女子長距離界は「薫女」だけの世界ではありません。今回は不発に終わった安藤友香の「豊川OG」という最大勢力がありますし、有森裕子さんや高橋尚子さんのように無名校の無名ランナーから立身出世を遂げるケースも少なくなく、そのバックグラウンドは多種多様。
しかし今回のように、同じ学校の先輩・後輩が揃って活躍するようなことがあると、ついつい在学当時の、まだ顔の区別もついていない頃の記録や映像を引っ張り出してきて「ふむふむ」と独り得心する…陸上競技ヲタクには、こんな楽しみ方もあるのですよ。

次の日曜日は『全国男子駅伝』


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このシーン、覚えていますか?
3年前の『第20回都道府県対抗全国男子駅伝』第1中継所での衝撃的なシーンです。過日『全国駅伝』のPR番組(NHK)でも取り上げていたので、思い出す人もいるでしょう。

愛知県の第1走者・山藤篤司(当時愛知高3年)が脱水症状を起こして中継所前でフラフラになり、タスキリレー・ゾーンまで約1mのところで倒れ込んだまま、一歩も動けない状態になりました。「早くタスキを渡さなければならない」という意識はあるものの、どうしても脚を動かすことができません。見かねた審判員が近寄り励ましの言葉をかけるのに応えるかのように、山藤はゾーン内で待ち構える中学生ランナーの足元に向かって、タスキを放り投げたのです。
ゾーン内にフワリと落ちたタスキを拾って、中学生が一目散に駆け出します。一瞬「あっ!」という表情を浮かべた審判員はしかし、すぐに山藤の方に向き直り、そのままレースは進行しました。
とうぜん、ほどなくして愛知県チームの「失格」が裁定されました。

解説者の宗茂氏は、「厳しすぎる」というようなコメントをしていましたが、裁定に議論の余地はありません。「タスキリレー・ゾーン(20m)の内側でタスキを手渡しする」というのが、駅伝競走の基本的なルールですから。
駅伝チームが途中棄権以外の事情で失格の対象になるのは珍しく、過去には『全日本実業団女子駅伝』の中部日本予選会で、スズキ自動車(現・スズキ浜松AC…当時は実業団に加盟)の前走者がゾーンの手前に落としてしまったタスキを次走者が拾い上げて走り去ったケース、また最近では一昨年の『全日本実業団女子駅伝』(本戦)で、豊田自動織機がいわゆる「オーバーゾーン」で失格になったケースが思い出される程度です。(中継違反以外では、『東日本女子駅伝』で折り返し点を間違えてショートカットしてしまったケースがありました)
この時の場合は、身体が動かず意識ももうろうとした状態の山藤選手は、タスキを渡す唯一の手段として思わず放り投げてしまったものと考えられますし、正確なルールを知らなかったということも考えられます。第2走者の中学生にしても、ルールを認識していなかった可能性が高いと思われます。
近くで見守っていた審判員は、明らかに「違反」を認識したはず(そのためにいる審判ですから)ですが、脱兎のごとく駆け去った中学生を呼び戻すよりは、山藤の救護を優先した、というところでしょう。
誰が悪いわけでもなく、いわんや「ゴールまであと僅かであっても、山藤選手の健康のために速やかに棄権を促すべきだった」などという意見も、現実離れしています。いわば、不可抗力の「失格」だったのです。
チーム全員にとって無念以外の何物でもなかったでしょうが、私は「当事者」となってしまった山藤選手のその後が心配でした。あるところで、こんなことを書いています。

錚々たる顔ぶれのアンカー区間で(中略)ニューヒーロー神野大地(青山学院大)が、失格に意気消沈する愛知のメンバーを勇気づけたはずだ。同じ7区を、あの馬場翔太(駒澤大)も立派に岡山県のアンカーを務めあげていた。どのチームだって、誰かのせいで負けるのだ。それが自分だったというだけの話なんだから、気持ちを大らかに、次のレースを頑張ろう!>


周知のように、山藤選手はこの駅伝の2カ月半後に神奈川大に進学。2年生だった昨季には、全日本の予選で大ブレーキとなってチームが本戦出場を逃すという苦難をも経験しました。
チーム戦での度重なる失敗にも挫けることなく、同じシーズンの箱根では鈴木健吾とのダブルエースを形成。神奈川大・躍進の中核としてみごとな成長ぶりを見せました。
13位に終った今年の『箱根』の後、主将の座を鈴木から引き継ぎ、来季の全日本連覇、箱根のシード復帰への旗頭となる山藤選手は、21日(日)の『全国男子駅伝』にも、この「失格」以来出場の予定です。強豪チームの一角である愛知県で、高校卒業後に山藤選手が走る機会はもうないのではないか、と思っていたのですが、彼の成長と立ち直りは、私の想像を超えていました。
走るのを辞めないで、本当によかったと思います。今年の神奈川大も、注目しています!

箱根駅伝のミカタ ⑤~豪快なダウンヒルがカギ握る


いやっははは、2018年は初っ端から赤っ恥続きです。
展望の片隅にも触れなかった東洋大が往路優勝、そーっとイチオシの順天堂大は主砲コンビがズッコケて8位折り返し。
いやね、1~3区の顔ぶれを見たら、東洋は挙げておくべきでしたね。昨年も往路が終った段階で「復路はシード権争いに汲々としそう」だなんて書いたのに総合2位。今回の往路1位もそうですが、どこか地味~で華のなさを感じさせる、それでいてスキを作らない全員駅伝がいちばん強いってことなんですよね。それを実践した4・5区の1年生が想定以上でした。
まあ、駅伝の予想と結果なんて、こんなもんでしょう。(と開き直る)
神奈川が15位、東海が9位だなんて、誰が予想できますか?

まあ、青山学院大に関して言えば、往路の結果はいろいろな想定のちょうど真ん中あたりに来たなという感じがします。4連覇は、見通しが立ったんじゃないでしょうか?
何と言っても、復路の口火となる山下りに、最高のスペシャリスト・小野田勇次がいますからね。

◇新春のスペクタクル・6区の面白さ
標高差800m以上を一気に駆け下る…陸上ロードレースで、こんなダウンヒル・ゲームは他に類を見ません。山登りレースというのは稀にありますから、その意味では5区以上に特殊なコースが6区の山下りということになります。
下りの走りというのは一見ラクそうですが、普通の人が普通に走ると重心を後ろにして踏み出す脚を突っ張るような姿勢になり、知らず知らずのうちにブレーキをかけながら走ることになります。これを長い距離続けると、脚の筋肉といい、膝などの関節といい、さらに足裏の皮膚といい、ことごとく重大なダメージを被ってしまいます。
私のような素人ランナーの場合、「坂をボールが転がり落ちるように、力を使わずに走る」という意識を持つことくらいしかできませんが、プロの走り屋たちはさらに細かいフォームや適切なストライドとピッチに気を配り、「転がり落ちる」走りを具現化していきます。
それでも、上手な人とそうでない人とではスピードも下りの持久力も大きな差が生じやすく、上りの5区ほどではないにしろ、意外なほどのタイム差になりがちです。区間上位でゴールした選手であっても、ひとたび控えテントに入ってみると足裏の皮がベロリと剝けている、なんていう様子が時折後日談的に紹介されたりします。

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◇濃霧を突き破った仲村明(前順大監督)
「山下り名人」についてまとめてみようか…と考えていたら、年末の日テレG+でちょうど同じような企画で過去の大会ダイジェストを再放送してまして、「山の神」と称された3人のクライマーとともに、「下りの名人」として仲村明(第64回大会・順天堂大)、川島伸次(第65回・日本体育大)、金子宣隆(第77回・大東文化大)といったダウンヒラーが区間賞を獲得した大会が放映されていました。

私が当時強烈な印象で記憶していたのが、1988年第64回大会の仲村明(一昨年までの順大監督)です。
この時の箱根は、すっぽりと厚い雲の中に閉ざされたような天候で、スタートから恵明学園付近あたりまで、選手は視界のほとんど利かない濃霧の中を次々と駆け降りていきます。霧の中に監督が乗るジープのヘッドライトが黄色くぼうっと浮かび上がり、その光に照らされた選手の姿が辛うじて見えるという状態がしばらく続きました。中でも2位に6分以上の大差をつけてスタートした小柄な仲村が、ただ一人で、まさにコロコロと転がり落ちるように、脚をもの凄いスピードで回転させながら走る姿が非常に印象的でした。
当時は往路・復路とも、芦ノ湖と元箱根を結ぶ経路が現在とは異なるものの距離は大差なく、仲村は第62回大会で若干のコース変更があってから初めての60分切りとなる59分26秒の区間新記録で駆け抜け、2位との差をさらに1分42秒も拡げました。
途中、箱根登山鉄道の踏切では、仲村の通過時にちょうど遮断機が降りるというアクシデントが発生し、仲村だけが素早くこれをかいくぐったものの中継車、先導の白バイなどが立ち往生するということが起こりました。このため、テレビの映像には先行する仲村を白バイが猛スピードで追いかけ、これをさらに追走する中継車が前向きに走者を捉えるという珍しい光景が映し出されました。

私がテレビを通じて見た中では最も印象深い山下り名人が、この時の仲村でした。同時に、この時以来6区という区間が大好きになりました。
ただ、6区で「史上最強のダウンヒラー」と言えば、第57回から3年連続で区間賞を獲得し、59回には57分47秒という驚異的なレコードで駆け降りた谷口浩美(日本体育大)ということになります。
(詳細は不明ですが、6区のスタート地点または小田原中継点、もしくは道路の形状に微細な変更があったようで、62回大会から新たな区間記録が認定されました)
後年、男子マラソンでは日本人選手唯一の世界チャンピオン(91年・東京大会)となる谷口のダウンヒラーぶりは、日テレによるTV中継がない時代のことで、何かのダイジェスト映像でちらりと見た記憶があるだけですが、回転するというよりは「地を這う」ような、猛烈なピッチ走法が印象に残っています。


◇死闘制した高野寛基のガッツ
仲村と同じくG+で取り上げられた金子宣隆が、コース変更のあった第75回以降の区間記録を塗り替えたのが第77回(2001年)。この時の58分21秒は千葉健太(駒澤大)が破るまで、10年という時間を要しました。
その2011年・第87回大会の熾烈なダウンヒル・バトルもまた、強烈な印象を残しています。それは、区間賞の千葉の遥か前方で、総合3連覇を狙う東洋大・市川孝徳(現・日立物流)と千載一遇の3冠のチャンスをものにしようとする早稲田・高野寛基の間で繰り広げられました。

3回目となった「山の神・柏原劇場」で往路優勝を遂げた東洋はしかし、早稲田の5区・猪俣英希の踏ん張りによって、アドバンテージは僅かに27秒。復路がスタートすると猛然と差を詰めた高野が追い付き、小涌園前から抜きつ抜かれつの激しいバトルが始まりました。
4年生ながら駅伝でも個人レースでも全くと言ってよいほど実績のなかった高野。しかし、4年連続6区を務めることになるスペシャリスト・市川の度重なるスパートをそのつど凌いでは逆襲に転じる、闘志をむき出しに走るその姿は、見る者の心を震わせるに十分なものでした。寒さに凍結した路面に足を滑らせ激しく横倒しに転倒した時も、素早く立ち上がるとすぐに先行する市川の前に出るという、鬼気迫るようなガッツに魅了されたものです。
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結局高野は箱根湯本を過ぎた平坦部分で渾身のスパートを放って市川をねじ伏せ、逆に36秒のリードを奪って早稲田を再びトップに押し上げました。
最終的に21秒差で早稲田が東洋を振り切ったこのレース、直接的には1区・大迫傑の果敢なロケットスタートで築いた貯金が大きくモノを言った一方、勝敗を決めたMVPは山で奮闘した猪俣・高野の、ともにこれが引退レースとなった4年生コンビだったと言えるでしょう。
特に高野は、記録には残らない、しかし私の記憶の中では稀代の名ダウンヒラーとして残り続けます。

◇寝坊厳禁!6区の逆転劇を見逃すな
函嶺洞門バイパスができて距離が約40m長くなったのが3年前。一昨年、昨年と、2年続けて秋山清仁(日本体育大)によって区間記録は58分01秒にまで高められ、おそらく現行コースよりも距離が短かったであろう時代に唯一人、谷口だけが記録した57分台の世界も間近に見えてきました。
秋山が新時代のダウンヒラーとして名を馳せたここ2年で、いずれも区間2位の好走を見せているのが、青学復路の切り札・小野田勇次です。

小野田のダウンヒルは、高速回転のハイピッチ走法というよりは、脚の長さと柔軟さを活かしたソフトタッチのストライド走法です。1・2年時に見せたパフォーマンスからすれば、58分31秒という1年時のタイムをさらに大きく縮める可能性は、十分にありそうです。
受けて立つ東洋は2年生の今西駿介をエントリー。下りの実力は未知数ですが、東洋は市川の卒業以降、6区が一つの弱点となっているのが気がかりなところでしょう。
7年前の高野だけでなく、その前にいた加藤創太、現行コース最初の区間賞・三浦雅裕と、意外に6区に好選手を輩出しているのが近年の早稲田。ノウハウは持っています。
優勝候補から一転シード権獲りに奔走しなければならなくなった神奈川大は、前回6区4位の鈴木祐希を10区にエントリーしてしまったため、どういう人材を持ってくるか?
首位・東洋から2位・青学までは僅か36秒。3位・早稲田までは1分56秒。
スピード感あふれる逆転劇が見られそうな予感がします。
1区同様、復路の戦いもまた、寝坊は許されませんよ!

箱根駅伝のミカタ ④~混戦第94回は予測不能


◇その前に、『実業団』を振り返り…
『第62回全日本実業団対抗駅伝』は、大方の予想どおりに旭化成・Honda・トヨタ自動車のいわゆる「3強」による優勝争いとなり、充実したメンバーを揃えた旭化成が2年連続23回目の優勝を果たしました。

大物新人が大量加入した一昨年シーズン以来、戦力的には文句なしのナンバーワンと目されてきた旭化成が、今回は創部以来初の2区外国人選手の起用もプラス材料となり、その2区以降一度も首位を明け渡すことのない快勝ぶりとなりました。
逆に言えば、従来同様「純血主義」で臨んでいたとしたら、あるいは当のケニア人ランナー、アブラハム・キプヤティチが平凡な実力であったら2区での“急降下”は免れず、今回の連覇は危うかったかもしれません。近年の駅伝は各チームとも選手の力が拮抗しており、強力メンバーを揃えた旭化成といえども全員が100に近いパフォーマンスを示さなければ、また序盤の1区・2区で後手を踏まないようにしなければ、頂点に立つのは難しいということです。 これは、『箱根』にも通じることですね。

東日本では勝ててもなかなか本戦での栄冠に届かないHondaは、設楽悠太が期待どおりにゲームチェンジャーとしての仕事をやってのけましたが、勝負どころの6区に38歳の石川末廣を起用せざるを得なかった点に、「あと1枚」のコマ不足を印象付けました。

トヨタ自動車はメンバー構成としては万全と思われたにも関わらず、3区・田中、6区窪田の仕上がり具合が今一つだったのが響いたようです。

相変わらず予想よりは上位に来るのがトヨタ自動車九州。今井正人以外にビッグネームのいないチームが毎回この位置前後でゴールするのが、駅伝の不思議なところです。その今井、年齢的にもピークは過ぎていると思われるのに、闘将としての存在感は抜群。7区でコニカミノルタを入賞圏内に引き上げた神野大地にも言えることですが、これが「山の神」の真骨頂=ハートの強さではないかと思わされます。

日清食品グループの凋落ぶりは、村澤明伸をはじめとする中軸選手の区間成績が軒並みあの体たらくでは何とも言いようがありません。7区で区間3位と気を吐いた佐藤悠基には、ぜひとももう一花をと、期待してしまいます。

1区・遠藤日向の「殊勲賞」で波に乗り、目標を大きく上回る11位に来たのが渡辺康幸率いる住友電工。それにしても、インカレで外国人ランナーをも振り切った服部弾馬(トーエネック)のラストスパートに競り勝った遠藤の強さが見られたのは、今大会最大の収穫でした。

そして、私にとって新年最初の「大恥」は、日立物流の撃沈。日本人エース・浅岡満憲の故障欠場で前半の好位置を4区で失うことになり、田口・市川・設楽兄と並べた後半も音沙汰なしのままということになりました。

◇「予想」はしないけど、往路展望
そしていよいよ、『箱根』が間もなくスタートします。もう大手町では、観戦スペースの陣取り合戦が激しくなっている頃でしょう。
こちらの下馬評は、
「青学の4連覇なるか?阻むのは東海か神奈川か?…他にもいろいろいるぞ」
の「3強+6校」説。(6校は、東洋・早稲田・順天堂・中央学院・日体・駒澤)
その実態は、圧倒的な布陣で3連覇を飾った青学の戦力がやや低下し、各チームが拮抗した戦国模様です。

メンバー表だけ見れば、「黄金世代」が2年生となった東海大の層の厚さが群を抜いていますが、このチームは伝統的にスピード駅伝の出雲には強くても、箱根のタフさをクリアすることには疑問符が付きまといます。
もちろん、それぞれがハーフマラソンでも実績を残し、62~63分台をズラリと並べたオーダーは圧巻の趣があります。ですが、その走力が、前に指摘したような各区間の細かいタフさに通用するものなのかどうか、そこが問題なのです。独自のクロスカントリーコースを備え、また佐久長聖高での指導で実績のある両角監督に率いられるチームに、タフなコースへの対策は遺漏ないはずなのに、これまで何度も優勝候補に挙げられながら総合優勝の経験がないということが、どうしても引っ掛かります。
勝つとすれば11時間を切る圧勝、しかし…?というのが私の見立てです。

昨年大会で突如予想外のブレイクを果たした神奈川は、どうでしょう?昨年同様に1・2区の先手必勝作戦が決まれば、昨年以上に厚みを増した戦力でそのまま突っ走る可能性がありますが、どこか1区間でも想定が狂えばガラガラと崩壊する、そうしたギリギリの陣容だという気がします。
連覇を果たした1998年には、横浜高校が春秋の甲子園を連覇し、秋には横浜ベイスターズが日本一になった「横浜の年」。今回はといえば、横浜DeNAは野球で「準日本一」、ニューイヤー駅伝では激戦の入賞争いを制して6位、そして横浜F.マリノスも「準日本一」と、「今一歩」の成績が続いています。果たして『箱根』は…?

対抗格の2校にそれぞれ不安要素があるのに比べると、青学には選手層の厚さと田村・下田・小野田といった切り札の存在、加えてここ数年間で培った箱根を走る経験の強みがあります。往復総合で11時間前後の勝負になるとすれば、やはり「本命」はここではないでしょうか。
今や『箱根』の広報担当となった感のある原監督のコメントを総合すると、往路優勝はせずともよいと考えているような印象を受けます。3区の田村で傷を最小限に抑え、首位から1~2分差で折り返せば、6区・小野田で優勝戦線に復帰し、後半投入が予想される下田で一気に決着させる…やはり復路にコマを持っている強みが、こうした計算を可能にするわけです。


「打倒青学」の芽は、意外に「6校」の中から現れてくるかもしれません。比較的新興勢力と言える中央学院を除いては、いずれも『箱根』の戦い方・勝ち方を熟知する伝統校ばかりです。
中で、私が特別に「ヒイキ」するのは順天堂大。1区・栃木渡(当日エントリー変更で投入されると言われています)、2区・塩尻和也で目論むロケットスタートは、同じ作戦の神奈川の出鼻を挫く可能性を十分に感じさせ、それがハマったほうのチームが、一気に突っ走ることになるような気がします。5区に実績のある山田攻を擁しているのも強みで、ここまで青写真どおりに進めばあとは「復路の順大」の底力で押し切ることもあるのではないか、というのが私の初夢、というか初妄想。

まあとにかく、見ましょう!今年も箱根までのテレビでの旅を、存分に楽しみたいと思います。

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箱根駅伝のミカタ ③~駅伝中継の楽しミカタ


あけましておめでとうございます。
このブログも足掛け3年目を迎えることになりました。ここんとこは投稿の頻度が下がって覗きに来ていただいている方々にはご迷惑をおかけしますが、何とか時間を作って続けていきたいと思っていますので、本年も変わらずよろしくお願い申し上げます。

さて、「箱根のミカタ」の構想に時間かけてるうちに、2回書いたところで年が明けちゃいました。もう間もなく、『全日本実業団対抗駅伝』がスタートを迎えてしまいます。こっちの方も何かと展望記事を書きたかったところですが、ちょっと時間的にムリ。
チーム・オーダーを見る限り、昨年の1・2位、旭化成とトヨタ自動車が一歩抜けてるかな、という感じはします。特に旭化成は伝統の純血主義を遂に放棄し、2区に外国人ランナーを起用したことで、「弱点」がなくなりました。日本記録保持者の村山紘太やオリンピック・ランナーの佐々木悟が補欠に回らざるを得ないという贅沢なメンバーで、「補欠」の5人にキャプテン丸山文裕、出口和也、有村優樹あたりを加えれば、優勝候補チームがもう一つ組めそうです。
しかし、意外に駅伝で個々の実力が発揮できていないのがこのチームの本当の「弱点」。同じような豪華メンバーだった前々回やここ数年の九州地区大会(毎日駅伝)など、勝って当たり前のレースで敗れ続けています。やってみないと分かりませんね。

ナンバー10くらいまでのチームは、どこが勝ってもおかしくないと思われます。私が今回「ひょっとしたら3位くらいまで?」と特に注目するのは、前回10位・予選会4位の日立物流。設楽啓太が加入したというだけでなく、メンバーそれぞれが実力をアップさせてきています。1区の栁利幸が、早稲田時代のようにポカをやらかさないかどうかです。
その1区には、旭化成の茂木圭次郎、トヨタの藤本拓はもとより、DeNA上野裕一郎、Honda田口雅也あたりが虎視眈々と区間賞を狙います。下位チームにも、服部弾馬(トーエネック)や遠藤日向(住友電工)といった区間賞候補がいます。面白そうですね。

あ、結局『実業団』の展望に触れちゃいました。
『箱根』については、<すべてがエース区間><クライマー/ダウンヒラー烈伝><出でよスーパールーキー>といったテーマの文章を構想してたんですけど、今回はちょっと角度を変えて、「駅伝TV観戦の楽しみ方」について、私なりの考えを披露させていただくことにします。

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◇駅伝TV中継のありがたみ

駅伝に限らずロードレース全般を、「テレビで存分に楽しむ」という文化が根付いているのは、おそらく日本だけではないか、と察します。
50年以上も前にヘリコプターを移動中継局とすることで「マラソン完全生中継」を実践している日本では、当初から「選手に先行する移動中継車から後ろ向きにカメラを据え、選手グループの正面映像をつぶさに撮影する」という独自の手法を編み出しており、これがレース全体の流れを把握するのに大いに寄与しているのです。
オリンピックのマラソン中継でさえ、1964年の東京でこの手法で中継されてから後、続くメキシコシティやミュンヘンでは要所に設置された固定カメラからの中継のみ、(次のモントリオールは記憶にない)84年のロサンゼルスは完全中継でしたが、バイクをメインとしたカメラのアングルは斜め前方や横から、あるいはヘリコプターによる上空からというものが主体でした。
また海外の中継では、レースの全容を伝える「引き」よりも選手の表情を中心とした「寄り」の映像が多く、それはそれで近年のカメラの精度をアピールするには結構なんですが、いかんせん競技の趨勢がなかなか伝わってこないのでもどかしい。また、スプリットタイムやラップタイムなどのデータ紹介も、遥かに雑です。
2台から3台の中継車を駆使し、加えてバイクからの寄り映像を交えて送り届けられる群馬や箱根路からの中継は、ロードレースが大好きな日本ならではの、創意と技術の粋が尽くされた素晴らしいTV番組だと言えます。

2時間なり5時間なりのレースの中には、じっと見ていれば素人でもそれと気づくような「変化」が次々と、予期せぬタイミングで現れます。それはアクシデントのような顕著な形をとらなくとも、ランナーの動作や表情だったり、途中のタイムに見出せる微細な合図だったり、天候の急変や沿道の観客のざわめきだったり、さまざまです。
中継車が映し出す複数の選手の動きの中から、そうしたちょっとした変化を見つけては、次の展開を想像し、結末を思い描く…駅伝の面白さの一つは、そうした楽しみが区間の数だけ繰り返されることでしょう。退屈などするはずがありません。
それを余すことなく伝えてくれる、テレビ業界の技術というものを、まずは堪能していただきたいものです。

◇ツッコミどころ満載、それもお楽しみ
いっぽうで、野球やサッカーの中継と違って、現場が少ないゆえになかなかスタッフやアナウンサーの技量が向上しないのがロードレースの難しいところで、したがって制作クルーとしては経験を積んだベテランほど貴重な戦力となるのですが、そこは会社組織の悲しさでなかなか都合よくは機能しないということになります。
バラエティ番組の感覚で妙な演出を施したり、血気に逸った若手アナウンサーの絶叫によってぶち壊しになりがちなのが、この手の中継の陥りがちな、視る側をイラっとさせるところです。
『箱根』を中継する日テレの場合、アナウンサー自身による取材体制が徹底されている社風があるのでまだ救いがある一方、『ニューイヤー』のTBSは世界選手権のレギュラーBSでありながら、いつまでたっても進歩しないところが見受けられます。

ロードレース中継を実況したり、あるいは私たちが観戦する上で最も肝要なのは、「タイムと距離」の感覚が身についているかどうかです。
たとえば、「1kmを3分ちょうどのペースで走っている」…これは、ペースとして速いか、遅いか?…
この「3分/km」というのはちょうど「60分/20km」、つまり時速20kmというスピードになるため計算がしやすく、また男子マラソンを2時間6分台で走るための平均ペースということになるので、いろいろな状況を想定しやすいんですね。100mあたりでいえば18秒ちょうどです。
「速いか遅いか?」でいえば、「条件やランナーの走力によって異なる」のが正解。
マラソンで「3分/km」であれば、上記のように日本人選手全般にとってはまずまずの好ペースながら、世界のトップランナーにとっては「遅すぎる」と感じられるでしょう。
走破距離が20km程度であれば、大学生のトップクラスにとっても「遅い」となりますが、これが箱根の山中に挑む場面であれば「あり得ないほど速い」ということになります。むろん、気温や風向き・風力などによっても大きく変わります。
このように、距離とタイムと条件とランナーの関係は常に相対的なものであり、同じコースを走ったとしても、過去のコースレコードと比べて単純に「速い」「遅い」を論ずることはまことにナンセンスな話なのです。

また、仮にある選手がある区間をコースレコードよりも早いスプリットタイムで途中地点を通過したとしても、そこからゴールタイムを予測することは、これまたナンセンス。いくらハイペースを刻もうが、いやハイペースであればあるほど、終盤にバテてしまえば簡単にkmあたり3分30秒とか4分とかに失速してしまう可能性は大きくなるのです。
こんなことは、レース経験者ならずとも分かりそうな話なのですが、どうも畑違いの場所から陸上競技の中継現場へと駆り出されたばかりの若手アナなど、その辺の感覚がまったく理解できずに「区間新は間違いありません!」などと暴走してしまうケースが、ままあります。10年ちょっと前の箱根で、
「空前絶後の区間新記録が、いま達成されようとしております!」
とアオった直後にタスキリレーが完了して、
「区間タイムは、なんとっ!…歴代7位の好タイム!」
なーんて実況をやらかした当時の若手アナがいましたっけ。

大震災このかた、「真実を報道しないマスコミ」という話題が取りざたされることが多くなりましたが、一見事実を正確に報道することが使命であるかのようなスポーツ中継でも、実は多くのウソやデマがまかり通っていますし、それが政治的トピックのようには問題視されないために、結構野放しになっていたりします。
それは送り手側の未熟さに起因するものもあれば、小さいものを少しでも大きく見せようという卑俗な意図からのものもあり、またたとえば先の見えた勝負を「まだまだ分かりません!」と実況するような、「お願いだからチャンネル変えないで」の目的から発せられるウソも数多くあります。
まあ言ってみれば、ウソをこくのは必ずしも悪意や官邸の圧力によるだけではなく、未熟な若手に経験を踏ませなければならなかったり視聴率至上命題を抱えていたりする会社組織としてはごくごく自然な成り行きと割り切って、付き合ってあげることだろうと思います。

マラソン中継などでも途中の通過時間から「ゴール予測タイム」などというものが画面に表示されることがいまだに行われていますが、あくまで目安の計算で合って、それを既定の事実のごとくにコメントするのは、時にはコメンテーターの無知なるがゆえ、また時にはこうした意図的な「ウソ」である場合もあります。
まして、毎シーズン必ず一度や二度は聞かれるのですが、「〇時間△分…」と言うべきタイムを「〇分△秒…」と単位を間違えてしばらく気付かずにいるなどというのは、スポーツ競技における計測タイムというものが脳に浸み付いていない証拠でしょう。

などなど、何かとTVから発せられる「余計なメッセージ」にいちいちツッコミを入れながら長時間の観戦を楽しむというのも、また一興です。
ウソが嫌いな陸上ファンは、常にタイムを意識しつつ選手の状態を観察することをお勧めします。画面上のタイマーを利用して(あるいはストップウォッチを手にして)後続の選手とのタイム差を測りながら見ていくと、本当のレースの動きというものが自分なりに見えてくるものですよ。

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