書き終わらないうちにDay7の決勝種目の時間が迫ってきてしまったので、アップが遅くなってしまい申し訳ありません。
サニブラウン・ハキームの奮戦について語りたいところですが、まずはDay6の感想をば。

大会の中盤は、どうやら地元でも「異常気象」と言われるくらいの低温に見舞われ、6日目の昨日は追い打ちをかけるように雨の降りしきる日和となりました。いやー、棒高跳がこの日でなくてよかった!
しかしこの寒さに大雨。当然、ドラマは起こります。

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日本ではサニブラウン・ハキームの200m決勝進出に浮かれる1日となる一方で、2種目だけ行われたトラックの決勝は、いずれも最後まで目の離せない激闘となりました。

男子400mHのほうは、今季急速に頭角を顕したカルステン・ワルホルム(NOR)が快勝。クレメント推しの実況サイドは「意外な結果」という受け止め方だったようですね。
「ヨンパーはアメリカのお家芸」という意識が強いとついつい目に入りにくいかもしれませんが、21歳のこの選手、今季DLで2勝を挙げて、日テレの実況席では「世界選手権の最有力候補」というコメントさえ発しています。ですから別に驚きの結果ではなく、オリンピック・イヤーの昨年停滞し続けたこの種目に、ようやく次代を引っ張る若いリーダー候補が現れたということのようです。
前日の男子800mでは、決勝の顔ぶれがリオ五輪とはガラリと入れ替わって、ただ一人リオの決勝を経験したピエール・アンブローズ・ボス(FRA)が優勝するという結果でした。ヨンパーとともにこのあたりの種目は、まだまだ戦国模様が続いて、その中から少しずつ支配者の形が見えてくることになるでしょう。

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さてさて、今大会最も激しいライバル決戦として私が大注目していた女子400mこそ、超意外な結末が待ち受けていました。それも、ゴールの20m手前まで誰も思い描けなかったような結末です。

予選ラウンドを順調に勝ち上がってきたショーナ・ミラー‐ウィボ(BAH)とアリソン・フェリックス(USA)。ミラー・ウィボのほうは前日の200m予選も悠々と1着通過して、コンディションは誰の目にも上々と映ります。日の出の勢いのミラー・ウィボに世界選手権のレジェンド、アリソン。もしもリオの時点で両者の力がまったくの五分五分であったと仮定すれば、1年経った今回はミラー・ウィボのものだろう、というのがオーソドックスな見方です。もちろん勝負とはそれほど単純なものではないですから、果たしてどうなるか???というところに面白みがあるわけです。

ただ今回は、5レーンにアリソン、7レーンにミラー・ウィボ。リオの時(4と7)よりもレーン間隔が1つ詰まったことで、アリソンにはスタートから前でぶっ飛ばすミラー・ウィボの姿がはっきりと意識できてしまう位置関係になりました。追走に躍起にならざるを得ず、直線までに脚を使い切ってしまったアリソンが、全米2位のフィリス・フランシスと19歳のサルワ・ナゼル(BRN)という“格下”に交わされていく…これが衝撃のドラマその1。
そのシーンに目が行っている僅か0.何秒か後、もつれ合う「2位争い」の3人の傍らを、金メダルを誰もが確信していたミラー・ウィボがずるずると失速していく…これがその2!
一瞬、何が起きたのか分かりませんでした。

世界女王の栄光を目前にしていたミラー・ウィボに、まさに魔物が獲り憑いたとしか思えません。
実況席では「相手を意識し過ぎてバランスを崩した」みたいなことを言ってましたが、スローで見れば明らかに痙攣です。寒さと冷たい雨が、世紀の対決に思いもよらない演出を施したのです。
「気候云々はどの選手も同じ条件」と言うかもしれません。そうではないのです。直線まで目視することのできないアリソンという強敵を相手に、先行逃げ切りのレースプランを立て死力を振り絞ったミラー・ウィボと、内側のアリソンに並びかけられてギアを入れ替え踏ん張ったフランシスとでは、全然違うレースをしているのですから。その意味では、終始ミラー・ウィボを視界に捉えることで自分のレースを見失ってしまったアリソンも、同様です。

あまりにも崇高な「対決」を意識した2人のトップランナーが、どちらも「相手には勝ったけれどもレースには敗れた」というような、極めて劇的で皮肉な結末。
またまた競馬のたとえ(それも超古~い)で申し訳ありませんね。1977年秋の天皇賞、トウショウボーイとグリーングラスの壮絶な共倒れを思い出してしまいました。
3着アリソン50秒08。4着ミラー・ウィボ50秒49。
名勝負とは呼びにくいですが、強く印象に残る、味わいの深いレースだったと思います。