世界陸上 2017 限定モデル アシックス(asics) 日本代表オーセンティックTシャツ A17B00 (M)

素直に感動した…というのが真っ当な感想なのだと思います。
ですが早朝の男子100m決勝を観終わった私は、複雑な思いが渦巻いて気持ちを整理することがなかなかできません。

偉大なるボルトは、個人レースの最後に、2008年以降メジャーな大会で獲ったことのない銅色のメダルを手にすることになりました。
これもある意味、有終の美であったと言えるかもしれません。
そして、勝ったのが他の誰でもないジャスティン・ガトリンであったことが、本当に本当に嬉しかった。
一種の風評被害とさえ言える激しいブーイングを浴びながら、王座を失った12年間を耐え続けた苦悩を払拭した、“心優しい猛獣”。
空前絶後のスプリンターに挑み続け、敗れ続け、最後に引導を渡す役目を果たしたのが、その1代前のオリンピック・チャンピオンであったということが、ここ数年間の男子100m戦線をこの上なく重厚で色鮮やかな史実に仕立て上げてきたのだという気がしています。

このあと、男子100mはどうなっていくのでしょうか?
オリンピックや世界選手権の決勝が9秒9台で決着したのは、2011年テグ大会、あのボルトがフォールス・スタートで失格しヨハン・ブレイクが優勝した時の9秒92以来です。ただし、この時は向い風1.4mでした。
その前となると、2003年パリ大会の10秒07(w0.0)で、勝ったのはあのキム・コリンズ(SKN)。つまり、ボルトもガトリンもいない状況だった時代以来、と強引に位置づけられなくもありません。
もちろん、現在でも9秒8台のタイムを出す選手はいますし、来年になればまた、新たな顔ぶれが次々と名乗りを挙げるでしょう。
しかしながら、ボルト、ガトリン、あるいはタイソン・ゲイやアサファ・パウエル、ヨハン・ブレイクらの実力の衰え、そして引退(ガトリンはもちろんそう表明はしていませんしDL等々には出てくることが考えらえますが、事実上の花道と言っていいでしょう)とともに、100m競走全体のレベルは大きく後退した、という印象は拭えません。
そのことが逆に、ボルトにとっては有終の金メダルを獲得する絶好のチャンスではあったのですが…。
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そして、空前の盛り上がりを見せる日本スプリント界にとっても、千載一遇のチャンスがぶら下がっていたのが、今大会でした。
「9秒台を出さなくては」と言われ続けてきた100m決勝進出ラインが、なんと10秒10(スー・ビンチャン)。現在の日本代表クラスであれば誰でも十分に到達可能なレベルであり、日本選手権の予選から4レース続けて10秒05~06で走っていたサニブラウン・ハキームにとってはまさに指呼の間に捉えていたタイムだったのです。
2大会続けて決勝に進出(前回は決勝進出者が9名いてその最下位だったため、今回が初入賞)したスー・ビンチャンには大いに敬意を表するとして、なぜ日本選手がそこに届かなかったのか、これは個々の選手にとっての重大な研究課題です。
9秒台と決勝進出、2つの夢はまた持ち越しとなりました。陸上の神様は、「夢は夢として、長く持ち続ける方が幸せだよ」とでも仰るのでしょうか?

それにしても、予選でブレイクを翻弄したサニブラウンの速さ、中盤までボルトの前を走った多田修平のスタートダッシュと、数年前までは考えも及ばなかった「異次元との勝負」を実現しつつあるのが、今の日本スプリント界ではあります。
「いつか」は必ずやって来る。そう信じて、次のレース、次の世界選手権を待つことにしましょう。