本ブログでもかなり詳細に論評をしておりました「2020年東京オリンピック・男女マラソン代表選考方式」が、一昨日、日本陸連より正式に発表されました。

とりあえず、公式リリースをそのまま貼っておきます。新聞などによっては読者に解りやすく砕いた記述にした結果、内容が正確に読み取れなくなっている記事も見受けられますので、興味のある方は原文でしっかりと確認されることをお薦めします。

選考方針1
選考方針2
選考方針3
選考方針4

http://www.jaaf.or.jp/files/article/document/10127-0.pdf
日本陸連HPより


◆補足説明
さて、ややこしい。

まず、「MGC(マラソングランドチャンピオン)レース」と「MGCシリーズ」、さらに「MGCファイナルチャレンジ」という3つの単語を混同しないように注意しながら読まないといけません。

「MGCレース」とは、2019年9月以降(おそらく9月中旬から遅くとも10月上旬が想定されているでしょう)に開催される、東京オリンピックの「メイン選考会」です。

「MGCシリーズ」というのは、この「MGCレース」に出場するための資格を付与する対象となる、2か年間のいわゆる「3大レース」を中心とした男子10レース、女子8レースのことを指します。第1弾は今年8月に行われる『北海道マラソン2017』(男女)、最終は例年どおりならば2019年3月の『第74回びわ湖毎日マラソン』(男子)、『名古屋ウィメンズマラソン2019』(女子)、ということになります。

これら一連の「MGCシリーズ」で、「7.MGCレースの出場資格」の一覧にあるような順位およびタイム(どちらか一方ではダメ)をクリアするか、「ワイルドカード」として、IAAF公認競技会で標準記録(2段階設定)を突破する、今年のロンドン世界選手権8位以内、2018年ジャカルタ・アジア大会3位以内、また「MGCシリーズ」対象レースで資格者が一人も出なかった場合の陸連推薦、いずれかの実績によって、「MGCレース」への出場権を得られることになる、というわけです。

そして、「MGCレース」の結果、優勝者は即時代表決定。
2位または3位の場合、対象者のいずれかが「MGCレース派遣設定記録」(男子2:05:30/女子2:21:00)を指定期間内(2017年8月~2019年4月)に到達していればその選手、両者とも到達していた場合・両者とも到達していない場合は、2位の選手を即時代表決定とする。(MGCレースそのもので到達した場合は含まれないようです)
つまり、いずれにせよ「MGCレース」終了時点で、「代表枠2つが決定する」ということになります。

残り1枠はどうなるか?
「MGCレース」の後に行われるいわゆる「3大レース」(実施順に『さいたま』『福岡』『大阪』『東京※男子のみ』『びわ湖』『名古屋』)を「MGCファイナルチャレンジ」と称し、そこでのタイムだけ(具体的には未発表の「MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録」を突破する最上位者のみ)を基準として男女各1枠を獲得するチャンスを残す、とのことです。
「ファイナルチャレンジ」の資格を見ると、「MGCレース」出場資格を有しながら故障などの理由で出場できなかった選手や、「MGCシリーズ」に出場したが参加資格を得られなかった選手も対象になることが分かります。逆に言えば、今年の安藤友香選手のように初マラソンで派遣設定記録を破っても、代表選出の対象にはならない、ということになります。
一人も派遣設定記録到達者が現れなかった場合は、「MGCレース」で選に漏れた2位または3位の選手がそのまま代表に決定します。

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◆「大人の事情」はどうなるか?

日刊スポーツには、こんな記述があります。

<複数選考会は露出を増やす一方で選考を混乱させた。ある強化担当経験者は「最初から複数選考会ありき、だった。その中でどんな選考をするか、が我々のミッションだった」。複数選考会の存続は現場が手を出せない“聖域”だった。
新方針で、これまでの選考会は「予選会」に格下げ。五輪前年の19年世界選手権ドーハ大会は五輪内定の特典が消滅した。これで有力選手は一切出場しない。
一方でGCレースの2枠決定後、19年冬からの3大レースに1枠をあてて選考会の「看板」を残した。「大人の理由」(瀬古リーダー)で放送局などの顔を立てた形。実質は複数選考と一発選考の「折衷案」といえるが、08年北京以降の惨敗を東京で繰り返せない危機感が“聖域”を切り崩す追い風になった。>(19日紙面より)


「聖域」「大人の理由」とは何なのか、本ブログを読んでくださっている方には、今さら説明の必要はないと思います。
選考会の一本化を阻んできたのは、男女「3大レース」に絡む商業利益を守るためであり、「強化と普及のため」という建前のもとに、複数の大会を共存させる絶対的な事情があったのです。
私は本業がイベント屋(企画・制作業者)ですから、こうした事情は痛いほど身に染みて理解できます。

テレビや新聞などのマスメディアで、「大人の理由」が明確に語られることは、まずありません。なぜなら、それらマスメディアの生殺与奪権を握っているのもまた、マラソン大会開催に寄与するところの大きい資本グループ(広告主および広告代理店)であり、それを直接非難したり批判したりはもとより、世間に好ましくないイメージを与えるようなコメントは絶対的なタブーだからです。
(横道に逸れますが、放送業界では「携帯電話関連のバッドイメージにつながる話題は最大のタブー」とされていて、したがって昨今かなり深刻な社会問題となっている「歩きスマホ」「ながらスマホ」が大々的にクローズアップされることはまずなく、社会的良識啓蒙の発信が行われていないという困った事例があります。自動車を運転しながらのスマホなど一発免停でもいいくらいだと思うのですが、推測ながら経済界との癒着が根深いのが政治の世界ですから、きちんとした法整備もなかなか難しいのではないでしょうか)
こんにちの日本でのマラソン隆盛は、そうしたコマーシャリズムがあってこそのもの。そして、それが代表選考の混乱の元凶ともなっている、だからこそ陸連は永年にわたるジレンマに悩まされ続けてきたのです。

「資本グループ」と「選考会に対する関係者・世間の声」との板挟みに立った陸連が、もしも一本化を強行するのであれば、それら形骸化しかねないビッグレースの立ち行きを考慮してやらねばならない、というのは必須です。
その方策を模索した結果が、今シーズンからの「MGCシリーズ」であり、オリンピック直前シーズンでの「ファイナルチャレンジ・レース」というわけです。
その結果、2019年のドーハ世界選手権は放棄された形となって、おそらく直前の3大レースには「世界選手権代表選考会」という謳い文句はつけられず、2019年春にMGCレースの参加資格者が出揃ったところで、それ以外の“予備軍”から代表が決まるのではないでしょうか。これはこれで、少々ガッカリな気がします。せめて、MGCレース出場までもう一歩の実績を残した有望な若い選手が選ばれることを願います。

「MGCレース」終了後に行われる「3大レース」も、こうしてビッグイベント「ファイナルチャレンジ・レース」としての肩書を与えられることになるわけですが、私が前の投稿で懸念したことがどうしても現実になってしまいそうです。
それは、「MGCレース」から最も短い期間の日程で開催される『さいたま国際』(女子)と『福岡国際』(男子)には、「MGC」から続けて出場しようという選手がほとんどいなくなるだろう、ということです。特に、コースが変化に乏しい上に細かいアップダウンが多い『さいたま』は開催2回にして既に「記録が出ない」というイメージが出来上がっているため、たとえ「MGC」を欠場した選手であっても回避することになるでしょう。まさに有名無実の指定レースです。

そうならないようにするには、この「GC方式」を翌年以降もレギュラー化し、2021年世界選手権(ユージーン)のための「MGCシリーズ」を兼ねる、というオマケ付きにする必要があります。そうすれば、むしろ「強豪選手の参加が少ないから順位が獲りやすいレース」として、穴場的な魅力をアピールすることができるかもしれません。
これは「大人の事情」を上手に処理するためにも、陸連には真剣に検討してもらいたいところです。もし「無理だよ、しょうがない」と言うのであれば、早々に『さいたま』は指定レースの看板を外し、首都圏有数の大規模市民レースへと方向転換するべきだと思います。(まあ、参加料が高過ぎる、コースが面白くないと市民ランナーからも悪評ふんぷんですから、いずれ消滅しちゃいますかね…)


◆「その先」を大切に…
私が本ブログで提案してきた「改革案」とは少し違いましたが、陸連が知恵を絞ってマラソン代表選考を完全にシステム化したことは、大きく評価されるべきだろうと思います。
これで「選考過程が不透明」と当事者がクレームをつけることも、無関係な第三者にやいのやいのと言われることもなくなるということになり、また一連の「MGCシリーズ」「MGCレース」には、これまで私たちが感じたことのない緊迫感・高揚感が生まれて、新鮮な興味をもってマラソンレースを眺めることができるでしょう。陸連とすれば、「選考会の実績ではA選手だが、本当は実力のあるB選手のほうを選びたい」という思惑がいっさい排除されることになるということはありますが、当事者も納得できることとして割り切れば済むことです。
余計な気苦労の少なくなった分、陸連には本来の仕事である選手の強化という点において、本腰を入れて取り組んでもらいたいものです。

「MGC方式」を前回のリオ五輪に当てはめると、「MGCレース」の有資格者は10数名、という出場人数になるそうです。少数精鋭とはいえ、これでは国民が注視する大舞台にしては、いかにも寂しい…選手側の意識の変化に期待するのと同時に、陸連としても手を打っていただきたい。せめて、50人程度の有資格者が出揃うレースになって欲しいものです。
たとえば「MGCレース出場資格を獲得した選手は、その時点からナショナルチームとして強化費支給と練習環境確保」というようなことにでもすれば、選手の目の色は変わってくるでしょうし、レース日程の早い『さいたま』や『福岡』への追風にもなります。
「2020東京」以降も、こうした路線の継続が必要なことは言うまでもありません。もうちょっと一般ファンにとってシステムも名称も分かりやすく、ということであれば、私の「マラソン日本選手権」「グレード制・ポイント制」などの提案も、ぜひ検討してみていただきたいものです。