すっかりご無沙汰こいてしまいました。
前々週、前週と、ハーフマラソンのビッグイベントが2週続いたのですが、注目選手がIAAFシルバーレーベルの『香川丸亀国際』に集中したこともあり、『全日本実業団』のほうはいまいちパッとしませんでしたね。このあたり、以前にも日本マラソン界・長距離界の行く末を考える中で言及しましたが、日本陸連を筆頭とする組織のリーダーシップによって、もう少し競技スケジュールなどの整備に力を入れてもらいたいものだという気がします。マラソン、駅伝、ハーフマラソンのそれぞれの大会に、もっとしっかりとした権威付けやランク付けをすることによって、選手の目標意識を切り拓く努力をすべきではないでしょうか。
ま、このあたりは私なりにもう少し整理をした上で、そのうちにある種の提案をしてみたい、とは考えておりますです。

さて、今週はメジャーなロードレース大会がない…わけでもなくて、注目の『第100回日本選手権20km競歩』が、神戸市の六甲アイランド甲南大学周辺コースで開催されます。
他にも、市民レースの草分けとも言える『第51回青梅マラソン』があり、男子は神野大地(コニカミノルタ)、女子は鷲見梓沙(ユニバーサルエンターテインメント)などの走りが大いに注目されるところ。実は私も大昔に出場したことのある思い出深い大会ですので、これについては稿を改めてお話ししたいと思います。

競歩01

『日本選手権20kmW』には、故障中の世界記録保持者・鈴木雄介(富士通)、リオ7位入賞・松永大介(東洋大) の出場こそありませんが、昨年世界ランク1位の高橋英輝(富士通)、2位の藤澤勇(ALSOK)、2013年世界選手権6位の西塔拓己(愛知製鋼)、さらには50kmの両メダリスト・荒井広宙と谷井孝行(ともに自衛隊体育学校)や森岡紘一郎(富士通)、ロンドン世界選手権代表に内定している小林快(ビックカメラ)、日本記録保持者・山崎勇喜(自衛隊体育学校)など、女子ではリオ代表の岡田久美子(ビックカメラ)などが日本タイトルに挑みます。
今や陸上界では日本勢のレベルが最も世界に近い、しかし相変わらずマイナーのイメージを免れないカテゴリー。今回も残念ながらTV中継はありません。レース時間が4時間にも及ぶ50kmはともかく、女子でも1時間半で収まる20kmはTVの素材としてはなかなか面白いと思うのですが、大会協賛もアシックス1社とあっては、TV放送などは夢のまた夢でしょうね。 

競歩のマイナー性というのは、競技人口の少なさやランニング・レースに比べての地味な印象などにも起因するのでしょうけど、私はもっと根深いところに大きな理由があるのではないかと、常々考えています。
それは、現行の競歩がルールと紙一重の極めてグレーなゾーンで実施されていることへの、何とも言えない“違和感”に根差しているのではないか、と思うのです。

滅多にTVで取り上げられることのない競歩がオリンピックや世界選手権で放送され、初めてこのカテゴリーのレースを目にすることになった人がまず吹き込まれるのが、
「両足が同時に地面から離れることがあってはいけない」(ロス・オブ・コンタクト)
「接地した脚が地面に対し垂直の状態になるまで膝を曲げてはいけない」(ベント・ニー)
という「競歩の2大忌諱」と、それについての審判・罰則方式についての説明です。
ところが、そうして得た知識をもとに競歩を見始めた人の多くが、すぐに大きな「???」を抱えてレースを見ることになってしまいます。
なぜなら、レースを競う選手のほとんどが、素人の目で見ても瞬間的に両足を宙に浮かせ、また膝を伸ばし切っているんだかどうだか判らない姿勢で歩いていることに、気付いてしまうからです。


素人の目で見ても、と書きましたが、実際にはリアルタイムで見る競歩のフォームでは、「あれ?」と思ってはみても人間の目で「ロス・オブ・コンタクト」の瞬間を見極めることは困難です。ただ、現代では素人であってもビデオ映像で確かめるということができてしまうので、その瞬間を確認することは容易です。本当に、特に20km以下のスピードレースやスパートの局面では、ほとんどの選手がこの反則を犯しながら“歩いて”いることが分かります。
「ベント・ニー」のほうはと言いますと、そもそもいっぱいに脚を伸ばした状態でも外見上は膝が曲がっているように見える人はいくらでもいますから、これまた人の目視による判断は極めて難しい動作、と言えるでしょう。

ところが、TVでも陸上競技の専門誌などでも、その点に敢えて触れよう、問題提起しようといったことは、まずありません。おそらく犯されているであろう反則を容認しながら、審判員というプロの目視で判断して初めて「反則」が宣せられる…それがこんにちの競歩というレースの在りようなのです。
陸上界では「それでやるしかしょうがない」と常態化してしまっているこの事実が、ふだん競歩を見ることのない“素人”であればあるほど、強烈な違和感をもって目に飛び込んでくるわけですね。

また競歩のレースは、ロードであれば概ね1㎞から2kmの往復または周回コースを何度も行き来しながら行われます。これは、マラソンのような長いコースを設定すると「歩型審判員」を何十人も配置しなければならなくなってしまうためです。往復2kmとはいっても、その間に配置される審判員はロードの場合で僅か6名から9名、つまり審判一人一人の間には100m以上もの間隔が空くことになります。そして、たとえば100人が出場するような大きな大会であれば、1人の審判がのべ数千人分の判定をしなければならないことになります。
まさか、トップクラスの選手が審判の目の前に来るたびに歩型を修正するなどの小技を弄しているとは思いません(ま、多少は意識するんでしょうけど)が、審判の目が届かないゾーンが非常に多くあるというのも確かです。このこともまた、「人力による判断」の限界を悠に超えている、という印象を持ちます。
こうした、「限りなくブラックに近いグレー」な競技進行ぶりが、競歩を一般に馴染ませない大きな原因の一つになっている、と言えるのではないでしょうか?

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とはいえ、ではビデオ判定を導入してより厳格な競技運営をしよう、ということにでもなれば、今までの競歩はほぼ「全否定」される結果が目に見えていますから、なかなかそういうわけにもいきません。選手をはじめコーチなどの選手側関係者、審判員をはじめとする運営側関係者など、競歩に関わる全員が、
「本当は反則しながら歩いてるんだけど、この程度なら仕方あるめえ…やれやれ、つくづく因果な商売だぜ…」
と承知しながらも粛々と営まれているのが、現行の競歩レースなのです。

そうした理不尽さやジレンマをよぉ~く理解したうえで競歩のレースを見ることができるようになれば、その面白さが味わえると思います。ちょっと考えてみれば、人間社会の営みなんて、そんなことだらけなんですから。(たとえば日常的にクルマの運転をしてて、あるいは歩行者として歩いてて、本当に交通規則に全く違反せずに過ごしている人がいますか、って話ですよ)
特に長丁場の50kmレースなどは、オリンピックなどでもTV中継がされるようになったのは日本選手が上位を狙えるレベルになってきた、ごく最近の大会からです。陸上観戦歴半世紀以上の私なども、まだいくつかのレースしか見たことがありません。ようやく「初心者」の域を脱して競歩の面白さが分かりつつある、とうところです。
マラソンなどのランニングレースに比べても、戦略性や展開のアヤが複雑な、たいへん面白い競技だと思います。何とか、競歩を覆うマイナー・イメージが払拭されて、せめて日本選手権くらいはTV桟敷で見ることができたら、と思います。
そのためには、世界記録やオリンピック銅メダルくらいではまだまだ足りない、ということなんでしょうね。日本人選手のいっそうの奮起と活躍を、願っています。