豊大先生流・陸上競技のミカタ

陸上競技を見続けて半世紀。「かけっこ」をこよなく愛するオヤジの長文日記です。 (2016年6月9日開設)

田中希実ノースパイクで歴代2位!~ホクレンディスタンス第1戦


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全国の陸上競技ファンが待ちに待った、今季長距離トラック開幕戦とも言える『ホクレン・ディスタンスチャレンジ2020』第1戦の士別大会が、4日行われました。
まずは、無観客大会とはいえ、厳重なCOVID-19対策のもと開催に漕ぎつけていただいた主催者および関係者の皆様に、心から感謝を申し上げたいと思います。
また逆境にあっても日々のトレーニングを積み重ね、見事にこの場でその成果を発揮してくれた選手の皆様、敬意を捧げずにはいられません。
LIVE配信をご覧になった方も多かったと思いますが、従来の映像垂れ流し的な配信から一歩進んで、画面でのタイマー表示、タイムスケジュールの表示、そして河野匡・大塚製薬監督による的確な実況と、大変分かりやすいものになっており、有難かったです。実況マイクは周辺の雑談を拾い放題、というのがご愛敬ではありましたけれども、それもまた関係者の生の声が聴ける楽しみで、結構でした。時折機材の不具合か回線の問題か、映像がフリーズしたり乱れたりという点を修正していただくとともに、今後さらに、素人配信ならではの工夫で、いい映像を届けていただけることを期待します。

さて、本ブログでは「女子中長距離」がメインの話題ということで、今回男子では目ぼしい記録的話題もなかったということもあり、女子2種目に限ってレース結果を振り返ってまいります。

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スタートからイーブンのハイペースで飛び出した田中希実とヘレン・エカラレの一騎討ち。
ラップ表を見ると800以降はエカラレが取っていますが、むしろレースの過半は田中が主導権をとっており、国内外国人ランナーの中でも最強の部類に入るエカラレが意地にかけても前に出ようとするところ、終始そのイニシアティヴを渡さなかった田中が、ラスト1周の激烈な抜きつ抜かれつを制し切る、という見事な内容でした。
小林祐梨子が14年前に作った日本記録まで、あと僅か0.81秒。
「田中さんはスパイクを履いていませんでした。マラソンシューズで走っております」
という河野監督のコメントが衝撃的でした。

もう一人、期待された廣中璃梨佳は、陣内綾子・菊地梨紅とともに3位グループでの追走となり、終盤の伸びなく、さらに後方から軽快な走りで追い上げた石澤ゆかりにも差されて5位に留まりました。1月の『全国女子駅伝』では、田中を含む名だたる1区スペシャリストの面々を相手に圧倒的な力の違いを見せつけ、歴史的な区間新記録を出した廣中は、現時点ではまだ調子が上がっていない様子です。



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スタート時の気温は19℃、強めだった風も収まりつつあり、コンディションは良好です。ジェロティッチ・ウィニーが当初は15分45秒(3分09秒/km)を想定したペースメーカーを務めました。
スタートしてすぐに好位置につけた前田穂南の走りが軽やかで、自然とPMの背中をつつくような流れになり、想定よりも速いペース。早くもソーシャルディスタンスの縦長に、選手の間隔が切れていきます。
PMウィニーの背後は同僚九電工勢の中でも“最下級生”、20歳になったばかりの宮田梨奈、その後ろに前田という隊列はそのままずっと続き、しばらく追走していた3人の九電工先輩や平井、棚池といったあたりは3000mまでには振り落とされてしまいます。
3番手を耽々と、ジョギングを楽しむかのように走る前田は、もう惚れ惚れしてしまう美しい走りです。これは優勝間違いなしと見ていましたが、残り2周でPMが外れるとともにスパートするも、意外や宮田が離れず、勝負はラストの直線まで持ち越されました。スパートしたとは言ってもこの1周で75秒を要した前田は必死に相手を振り切ろうというものではなく、マラソン女王にふさわしい余裕のまとめ方だったと言えるでしょう。
“大金星”を挙げた宮田のタイムは15分52秒23のPBを約18秒も上回り、前田も約3秒、PBを更新する実りあるレースとなりました。意外ではありましたが、また新たな力の台頭が見られてよかったと思います。

第2戦の深川大会は8日(水)開催。男女5000m、10000mのほか、女子は3000m、3000mSCも行われます。前田穂南は一山麻緒・安藤友香・福士加代子のワコールトリオらとともに10000mにエントリー。田中、廣中、宮田は3000mに、士別の3000mを制した佐藤早也伽(積水化学)は5000mに登場する予定です。

連載「懐かしVHS時代の陸上競技」#6 ~1989東京国際陸上


今回“発掘”されたのは、平成元年5月14日に東京・国立霞ヶ丘競技場で行われた、『三菱電機 ’89東京国際陸上競技大会』です。
これは、どういう趣旨で開催されたものかイマイチよく覚えていません。現在なら『ゴールデングランプリ陸上』が、昔であれば『スポニチ国際陸上』という大会が行われていたのと同じ時期の国際大会ということで、おそらくその替わり目にイレギュラーで特設された大会ではなかったでしょうか?
いずれにしろ、国内のトラック&フィールド大会中継番組としては非常に珍しく、日本テレビによる製作・放映です。タイトルバックCGにも表現されているように、2年後の東京世界選手権の独占放送へ向けての予行演習、という意味合いだと思われます。
前年に開催されたソウル五輪やその直後に行われた『東芝スーパー陸上』の興奮も冷めやらず、フローレンス・グリフィス=ジョイナーがわざわざこの大会で「ラスト・ラン」をするために来日したのをはじめ、カール・ルイスを筆頭に外国人出場者はなかなか豪華です。
解説は高木直正、澤木啓祐、石田義久の各氏、実況は後年アナウンス部長も務めた舛方勝宏アナをメインに、松永、多昌、船越というこれまた後にエース級となる若手を並べています。
約1時間の収録ですが、採録された全種目の概要をお伝えしましょう。
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◇男子100m
2組に分けて行われ、1組はソウル五輪200m金メダルのジョー・デ・ローチ(USA)が10秒43で、2組は同100m王者のカール・ルイスがゴール寸前の逆転で、10秒39(-1.7)で制しました。
両組とも向かい風が強く、記録的には平凡でしたが、日本人選手は1組の鈴木久嗣、2組の松原薫、青戸慎司、不破弘樹、栗原浩司、高野進と当時の一線級がほぼ勢ぞろいする好メンバーでした。
写真はレース後、ルイスのインタビュー。聞き手は2000年シドニー五輪のサッカー中継、「ゴール!!」31連呼で顰蹙を買った船越アナ。オリンピックの実況担当に選ばれるだけでも名誉なことですけどね。
通訳は本連載第1回でご紹介した冠陽子さん。そうそう、この時の通訳で「アゲてる」だの「フォロってる」だのと奇怪なゴルフ用語を連発し、「なんだ、この知ったかぶりオバさんは?」と思ったのでした。この後ジョイナーへのインタビューではとある有望選手の名前を聞き違え(というか、自分でメモに書いたカタカナの字を読み違え)、ジョイナーの目を点にさせています。その後よほどお勉強をしたのでしょう、97年アテネ世界選手権の中継(TBS)時には、すっかり名通訳の貫禄を漂わせています。
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◇男子やり投
ソウル銀メダルで世界記録(87m66)保持者のヤン・ゼレズニー(CZS=次のバルセロナから五輪3連覇)、銅メダルのセポ・ラテュ(FIN)が出場する中、溝口和洋(ゴールドウィン)が6投目に83m52を投げてゼレズニーに逆転勝利。
溝口はこの年シーズンインとともに85m22の日本新記録を投げ、さらにこの大会の13日後には87m60の、今も日本記録リストに残る大記録を投擲しています。(最初の計測で世界記録を上回っていながら、どういうわけかメジャーをスチール製からビニール製に変えて再計測した結果、この記録になったという本人の談話があります)
当時の日本陸上界が誇った大エースは、1日12時間ものハードトレーニングでヘラクレスのような肉体を造り上げ、ワールドクラスの実力を示しました。投げた瞬間「あっ、逃げた!(力が左方向に流れた)」と口走りながらのこの記録。まさに、絶頂期と言えた時期の貴重な映像です。
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◇女子100m
ジョイナー去りしトラックに残されたのは、1984ロス五輪の金メダリスト、エヴェリン・アシュフォード(USA)。この日は室内60mで世界記録を出したネリー・クーマン(NED)の先行を、ラスト10mで差し切って貫禄の勝利です。やはり強い向かい風で記録は11秒34。3位はグレース・ジャクソン(JAM)でした。

◇女子10000m
当時の日本記録保持者・松野明美(ニコニコドー)こそ出ていませんが、荒木久美(京セラ)、朝比奈三代子(旭化成)、真木泉(ワコール)といったトップクラスが登場。この3人をカロリン・シュワロー(AUS)が引っ張る形でレースが進み、この年の大阪国際女子マラソン優勝のロレーン・モラー(NZL)や名古屋国際女子マラソンで2連覇を飾ったばかりの趙友鳳(CHN/東海銀行)、2年後の世界選手権マラソンでメダルを獲得する山下佐知子(京セラ)らが、離れた5位グループを形成します。
終盤はソウル五輪マラソン代表だった荒木と高卒2年目の新鋭・朝比奈の2人に絞られて、残り650mでスパートした荒木が32分59秒28(速報)で優勝。以下朝比奈、趙、真木、シュワローと続きました。
今見ると、小柄ながらどっしりと安定した走りの荒木は、その表情とともに、「女瀬古」のイメージですね。この翌年には北京アジア大会マラソンで趙との一騎討ちになり、19秒差で銀メダルになっています。
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◇男子三段跳

ケニー・ハリソン(USA)が17m45のPBを跳んで優勝。後に東京世界選手権で優勝し、1996アトランタ五輪では史上2人目の18mジャンパーとなる18m09で金メダルを獲得することになるハリソンですが、この大会の時点では、それまでのPBを一気に30㎝も超えて躍り出た新鋭、という位置づけでした。
世界記録(17m97)保持者のウィリー・バンクスはこの時滞日中で、「中京大職員」という肩書での出場でしたが、既に全盛期を過ぎた感は否めず、16m台の記録に終わっています。

◇女子走高跳
直前の静岡国際で1m97のアジア記録(現在でも歴代2位タイ)を出したばかりの金玲(ジン・リン=CHN)が、1m92を余裕でクリアして優勝。日本記録(1m95)保持者・佐藤恵は86を超えたところで膝の故障が悪化して棄権。日本の女子HJが、次から次へと世界と戦える選手を輩出していた時代、懐かしいですね。

◇女子5000mW
増田房子(東京女子体育大)が23分10秒13の日本新記録で優勝。4位までが公認日本記録を上回りました。現在の日本記録は20分42秒25(岡田久美子)ですから、女子競歩創世記といった時代だったんですね。

◇女子やり投
徐徳妹(CHN)が6投目の59m32で逆転優勝。番組イチ推しのビジュアル系アスリート、スエリ・ペレイラ・ドス=サントス(BRA)が58m76で2位、3位は58m28で松井江美(中京大豊田C)。
目にも鮮やかなハイレグ・スーツで度肝を抜いたのがドス=サントス。どんだけイチ推しだったかというと、こーんな写真(PLAYBOY誌に登場!)まで見せてくれたくらいです。この頃の女子やり投には、美人スロワーが多かったですね。
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◇おまけ
大会の最後に、ゲスト参加したフローレンス・グリフィス=ジョイナーが、夫のアル(1984ロス五輪三段跳金メダル)と並んでラストランを披露。トレードマークのワンレガー・スタイルで国立競技場の直線を颯爽と駆け抜け、フィニッシュはソウル五輪のポーズを再現。華麗な現役生活を締め括りました。
この9年後、彼女が突然不帰の客となってしまうとは、思いもよりませんでした。
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男子2000m団体はリモートレース~DLオスロ大会・主な結果



昨日告知した、WAダイヤモンドリーグ2020第1戦、ノルウェー・オスロ大会の主な結果です。


◇男子300mH
 ①カルステン・ワルホルム(NOR) 33" 78(WB)

単独走のワルホルムが、特殊種目の世界最高記録を樹立。
従来の記録はクリス・ローリンソン(GBR)が2002年に出した34" 48。ケヴィン・ヤングの400mH世界記録時の300mスプリットタイムは34秒1。

◇女子300mH
 ①サラ・スロット・ペテルセン(DEN) 39" 42
 ②ユエル・アマリエ(NOR) 39" 44
 ③レア・シュプルンゲル(SUI) 39" 86

女子も実力者が出場し、リオ五輪銀メダルのペテルセンが接戦を制しました。ハードル間13歩にチャレンジすると公言したシュプルンゲルは1台目でリズムを崩し、僅差ながら最下位に終わりました。

◇男子2000m/チーム・オスロ
 ①ヤコブ・インゲブリクトセン 4' 50" 01(AR)
 ②ヘンリク・インゲブリクトセン 4' 53" 72
 ③フィリップ・インゲブリクトセン 4' 56" 91
◇男子2000m/チーム・ナイロビ
 ①ティモシー・チェルイヨト 5' 03" 05
 ②エドウィン・メリ 5' 13" 12
 ③イライジャ・マナンゴイ 5' 18" 63

チーム対抗が注目されたこの種目は、どうやらチームごとに別々の場所で同時にレースを走り、3人の合計タイムを競うリモート・レースだったようです。両チームとも、2人のペースメーカーが同走して5人編成です。
ケニア・チームはナイロビ・スタジアムからの参戦。標高1800mの高地の上に雨・強風ということですから、いくら何でも不公平?
勝敗的には、インゲブリクトセン3兄弟の圧勝。コンディションの違いや展開上の機微ということもあるでしょうが、末弟ヤコブのタイムはヨーロッパ新記録ですから、文句なしですね。ちなみに大会記録は、あの懐かしいジョン・ウォーカー(NZL)が持っていた4分51秒52でした。

◇男子25000m
 ①ソンドレ・ノースタット・モーエン(NOR)
   1: 12' 46" 5(AR)

かつて瀬古利彦が世界記録を持っていた特殊種目でヨーロッパ新記録を叩き出したのは、2017年の福岡国際で「白人世界最高記録」をマークしたモーエンです。他に4人の同国選手が出ていましたがいずれもDNF。ペースメーカーだったとも考えられますが、ペース表を見るとモーエンは10000mから、ほぼ独走でこの記録に到達したようです。

◇女子10000m
 ①テレーセ・ヨハウグ(NOR) 31' 40" 67
T,ヨハウグ
 左がヨハウグ。中央はマリット・ビヨルゲン。

個人的に大注目したテレーセ・ヨハウグは、独走で自己ベスト(それまでは32分台)を達成。さすがにクロカン・スキーの世界女王ともなると、このくらいは軽い軽い、というところでしょうか。
考えてみれば、冬のスピードスケート選手が夏の自転車競技に出てくるというのは、橋本聖子大臣の例を見るまでもなく普通にあることなんですが、クロスカントリー・スキーと陸上長距離というのは、なかなかありそうで事例が少ないですね。思い出されるのは、スキーから転向して第一生命などで活躍した野尻あずさ選手くらい。クロカン・スキーでは30秒ごとのインターバル・スタートによるタイムトライアル方式で行うレースもありますから、独走はお手の物でしょう。
この記録ではまだまだ日本選手にも及びませんが、本腰を入れたらどこまで伸びるのか、トライアスロンからマラソンに転向したグエン・ジョーゲンセン(USA)などとともに、今後の動向が楽しみです。

◇男子棒高跳
 ①アルマンド・デュプランティス(SWE) 5m86
 ②ルノー・ラヴィレニ(FRA) 5m81

◇男子円盤投
 ①ダニエル・ストール(SWE) 65m92
 ②シモン・ペテルション(SWE) 64m54

フィールド注目の2種目は、ともにスウェーデン勢の勝利。この状況下で、なかなか仕上げてきていますねえ。

今大会をネット上の情報で見聞する限りでの感想ですが、「勝負と記録」の両面性を持つ陸上競技の新たな一面をプレゼンテーションしてくれたという気がします。
もちろん健全な形で競走種目が開催できればそれに越したことはありません。ですがそれが叶わない現在のような場合、単独走やごく少人数でのレースをタイムトライアル的に行うことで、新しい形の陸上レースが楽しめるのではないか、という興味です。スキーやスケートでは物理的な都合から、こうした形式のレースが主流となっていますが、それを陸上にも応用できるのではないかと。たとえばロードレースをタイムトライアルで行うことで、密集した状況を避けることができます。その形式のレースに独自の強さを発揮する選手というのも現れてくるでしょう。
リモート・レースというのは今回のように条件が違い過ぎるとあまり意味はないようですが、それでも勝敗にこだわる必要がないとなれば、それぞれのレースを満喫する姿を楽しむ、という見方もできます。
柔軟な発想で、選手の活躍の場を提示したオスロの関係者に、またそれに好記録で応えた選手たちに、拍手を送りたいと思います。 

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